リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
おみやげを配ろうと食堂を出ようとしたところでティアナが声をかけてきた。
「ジルヴェス、あんた今日どこ行ってたのよ」
そして、ティアナは自然にジルヴェスを横を歩きながら食堂へと戻らせる。
「ん?無限書庫に、ちょっとな」
「まったく……なんかズルいわ。ジルヴェスだけわがままが利くところなんて特に…………あら、その娘は……?」
ふと、ジルヴェスの横に少女が立っているのにティアナは気付いた。
「ああ、この娘はシャルル。なのはさんの秘蔵っ子ってところかな」
「ジルヴェスさん、止めてくださいよ」
そうは言っているがシャルルは嬉しそうに頬を緩めていた。
「じゃああんた、訓練サボって女の子と遊んでたわけ?」
信じらんないとティアナはジルヴェスを睨んでいる。
「そうじゃねぇよ。はい、これおみやげ」
「…あ、これってあの店のケーキじゃない。私これ好きなのよ」
ジルヴェスの手渡したものを見て、ティアナは一瞬で機嫌を直す。
「まぁ、ティアが好きなやつ買ってきたし」
「ジルヴェス、ティアの分だけ?」
ティアナにおみやげを渡したのを見てスバルが物欲しそうに言う。
「いや、スバルたちの分もあるぞ。はい」
ジルヴェスはそう言ってスバル、エリオ、キャロにも渡した。
「わぁ、ありがとう」
「ありがとうございます。ジルヴェスさん」
「ジルヴェスさん、これ行列のすごい、評判のケーキ屋さんのケーキですよね?わたし食べたかったんです!」
3人ともそれぞれ嬉しそうに受け取った。
特にキャロは目を輝かせ、声を弾ませていた。
「だって、この間ティアと話してただろ?だから食べたいのかなって」
「本当に頂いていいんですか?」
わぁ……、と宝物でも見詰めるかのようなキラキラしたキャロの目にジルヴェスは自然と笑みを浮かべていた。
「いいよ。そんなに喜んでくれたら頑張った甲斐があったってもんだよ」
「ありがとうございます!わぁ、美味しそう……」
「頑張ったって、並んだの私じゃないですか!」
シャルルは楽しそうにジルヴェスの言葉にツッコミを入れている。
「そう、なんですか……?えっと……シャルルさん、ありがとうございます」
そして、キャロはシャルルにお礼を言い、そして少しばかりの疑惑の眼差しをジルヴェスに向けていた。
「じゃあ、俺まだおみやげ配ってる途中だから」
そう言ってジルヴェスはそんなキャロの視線から逃げるように駆け出す。
「あ、ダメですよ、逃がしません!」
そして、そう言ってシャルルも追いかけようと駆け出した。
その後もおみやげを配り続け、30分かけてようやくはやてたち以外の全員分を配り終えた。
そして今は最後の部隊長室にいるところである。
「はやてさん、これおみやげです。リィンの分もあるぞ」
「やったですー」
ヒューとジルヴェスの目の前まで翔んできて両手を挙げリィンは喜びを表す。
「なかなか気が利くんやな。スタッフ全員分買って来たんやて?」
「ええ、まぁ」
「あんたがそんなことするなんて意外や」
「そうですか?こちらの都合で行動したわけですしこれくらいしないと」
ジルヴェスは、これくらい当然です、と胸を張っている。
「…そうか。………けどこりゃ、また評判が高まるやろな………」
「なんか言いました?」
そう言いながらおみやげを取り出す。
「なんも言うとらんよ。それに、シャルまで連れてきたんやな」
「お久しぶりです、はやてさん」
シャルルはそう言ってペコリと頭を下げた。
「久しぶりやな。て、おお!これはうちが前から食べたいと思うとったやつやんか。けど、あんたにそないな話、したか?」
「そうだったんですか?キャロが食べたがってたケーキを売ってる店だったんですけど、人気の店みたいで。そんな店に行ってキャロの分しか買わないのは勿体無い気、しません?で、はやてさんなら何でも美味しそうに食べてくれますから」
「なんや、その言い方。うちが食い意地張りまくっとるみたいやないか」
ちょっと気になるわぁ、と睨み付ける。
「でも、結果オーライでしょう」
「せやけどなんか腑に落ちんのや」
「別に、文句があるなら食べなくてもいいですよ」
そう言って、ジルヴェスははやての前に置いたケーキを取り上げようと手を伸ばす。
「いや、喜んでいただくわ」
はやては慌ててケーキを持ち上げ、それを死守する。ジルヴェスはそんなはやてを見て笑みが零れた。
「ところで、シャルはどうしたんや?」
「あのですね、この前シャルに会ったとき、俺が六課配属ってのをシャルが知りまして、六課に行きたいと言い出したんですよ。それで、ちょっと本人を連れてきて話をさせてもらおうかと思いまして」
「そうなんか……」
はやては少し難しい顔をして、考え込んでいるようだった。
「じゃあ、俺はこれで。シャルは少しはやてさんと話でもしてなよ」
そして、ジルヴェスは答えを待たずにそう言った。
「もう戻るんか?ここでゆっくりしてっていいんやで」
「いえ、ヴィヴィオも待ってるでしょうし」
「そうか。じゃ、明日からも頑張りや」
ケーキもありがたくもらっとく、と言って手を振った。
「ありがとうございます。じゃあ、失礼しました」
ジルヴェスはそそくさと部隊長室を出ていった。
「さて、ユーノさんに最後挨拶して部屋に戻るか」
そう思いながらジルヴェスが食堂に戻るとそこには何故かヴィヴィオがいた。
「あ、おにいちゃんやっとみつけた!」
「おお、ヴィヴィオか。どうしたんだ?」
「あんた、その言い方は可哀想じゃない?」
そう言うティアナの声には非難の色が混ざっている。
「ん?ティアか」
「ヴィヴィオ、あんたのこと捜してて、さっきまで泣きそうだったのよ?」
「あ、ティアナおねぇちゃんそれはないしょっていったのにぃ!」
「ご、ごめん」
うっかり洩らしてしまったティアナにヴィヴィオは頬を膨らませてダメ出しをした。
「へぇ、お前ら仲良くなったんだな」
ジルヴェスは感慨深げに唸っている。
「そ、そんなことどうだっていいのよ」
「そんなことって──」
「おにいちゃん、おみやげちょうだい!」
まさにジルヴェスがティアナを追及してイジってやろうというときに、元気よくヴィヴィオがねだった。
「お。待ってろ。今出してやるから」
「うん!」
「じゃーん!はいこれ」
そう言って取り出したのは何匹かのぬいぐるみといくつかのケーキ。
「なんか私たちと違ってすごい豪華…」
ちょっと不満そうな様子でスバルが呟く。
それを見たティアナは小声で、子供じゃないんだから我慢しなさい、と言って小突いた。
「ヴィヴィオと一緒に食べようと思ってな。スバルも一緒に食うか?」
「え?いいの?」
「ヴィヴィオ、いいよな?」
「うん!おねぇちゃんたちおもしろいからすき。それにみんなでたべたらおいしいもん」
「ほんとに?んーもう、ヴィヴィオは可愛いなぁ」
スバルはヴィヴィオに抱き着いて頭を撫でる。ヴィヴィオも嫌な気はしないようで嬉しそうに目を細めていた。
そして、その後みんなでわいわいして楽しんだ。
ヴィヴィオはスバルたちと騒いで疲れたのかもうぐっすり寝てしまった。ジルヴェスはヴィヴィオが寝るまで一緒にいたが今日は午後訓練していないため落ち着かないのかランニングをして汗を流した。その後、隊舎の外で涼んでいるとなのはがやって来た。
「ジルヴェス、やっほ」
「なんだ、なのはさんですか。びっくりさせないでくださいよ、まったく…」
「なんだ、ってどういうこと?」
にこやかにちょっとしたイジワルという感じに問い詰めるなのは。
「特に深い意味はありませんよ」
「ふーん。まぁいいや。そう言えば、シャルも来てたんだね」
「ええ」
なのはの言葉にジルヴェスは頷く。
「ありがとね。久しぶりに会って楽しかったよ。それに。はやてちゃんが便宜を図って、こっちに出向できるらしいし」
「そうなんですか?それは良かったですね」
「うん。今はティアたちとお話してるよ」
また、賑やかになるな、となのはは嬉しそうに呟いた。
「それにしてもこうやって夜にジルヴェスと会うの、よくあるな」
「そう言えばそうですね。嬉しいですか?」
「え、え……?」
ジルヴェスはおふざけのつもりで言ったのだが、なのはは想像以上に焦っていた。
「あれ……?」
だからジルヴェスは首を傾げざるを得なかった。
「あ、いや、何でもないの。あははは」
そして、なのはは笑って誤魔化すしかなかった。
「でもホント、ヴィヴィオ馴染みましたよね」
ジルヴェスは気を遣って話題を変えた。
「うん。本当にね。初めはあんなに怯えてたし、ジルヴェスから離れたがらなかったのにね」
「それを言うならなのはさんからも離れたがらなかったじゃないですか」
そう言えばそうだね、となのはは笑う。
「でも、今ではすっかりみんなに心を開いて楽しそうにしてる」
「そうですね。……羨ましいな……」
「今、何か言った?」
「いえ、何も」
ボソッと言った呟きがなのはに聞こえていたのだろうか、反応があった。けれど、ジルヴェスは誤魔化すことを選んだ。
「でもさ、ヴィヴィオみたいな子ってなかなか新しい親が見つからないんだ」
なのはは哀しそうな表情を浮かべながら言った。
「だったら、なのはさんがヴィヴィオのお母さんになったらどうですか?」
「…………」
「俺なんかがどうこう言うことじゃないとは思いますけど、なのはさんにはヴィヴィオが必要で、ヴィヴィオにはなのはさんが必要なんだと、なんとなくですけど思うんです」
なのははジルヴェスの言葉を全部聞くと急に笑い出した。
「なんだ、ジルヴェスにはバレバレだったか……」
そして、そう呟くなのはは複雑な表情をしていた。
「どうかしました?」
「ううん。ジルヴェスのおかげで迷いが吹っ切れたよ。きっと私はただジルヴェスに背中を押してもらいたかっただけだったんだ…………だから、ありがとう」
けれど、ジルヴェスを見ているとなのはのその思いも幾分和らいだようだった。
そして、彼女はジルヴェスに「ありがとう」と呟いた。
ただ、彼女の中で、彼女だけで完結したなのはの呟きをジルヴェスはよく理解出来ないでいた。
「でもさ、ヴィヴィオは私よりもジルヴェスの方が嬉しいんじゃないかな。今も私よりジルヴェスと居ることの方が多いし」
そんな中、なのははそう切り出した。
「俺は、ヴィヴィオには笑っていてほしいし、幸せになってほしいです。でも、俺はそれを与えることは出来ないし、そんな資格もありませんから」
それに対するジルヴェスの答えは寂しいもので、そして、そう語るジルヴェスの表情も哀しいものであるように、なのはの瞳には映った。
「そんな哀しいこと言わないで」
だからなのははそう言いながらジルヴェスを背中から抱き締めた。
「なのはさん、何するんですかっ?」
突然のことにジルヴェスは動揺しきっている。
「私はジルヴェスのこと大好きだから、ジルヴェスにも笑顔でいてほしいし幸せになってほしいって思ってる。それにいつか言わなかったかな、笑顔でいる、幸せになる、そんな当たり前のことに資格なんて必要ないんだって」
ジルヴェスからなのはの表情なんて見ることは出来ないが、でもなんとなくどんな表情をしているかは分かった。
「…………知らないってことは幸せですよね……」
ジルヴェスは含みのある言葉を呟いて、するりとなのはの腕を解いた。
「今日はもう寝ます。何度も言いますけどなのはさんなら良いお母さんになれますから、だから自信を持ってください」
ジルヴェスはそう言って笑顔を見せ、立ち去った。
「ジルヴェスのこともっと知りたい。知ればきっと何かが変わるだろうから」
なのははジルヴェスの後ろ姿を見送りながら呟いた。
----彼女らしい、そんな決意を胸に抱いて。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m