リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
ユナを保護して1週間ほどが過ぎたある日、訓練が終わってから、ジルヴェスはユナを連れて隊舎近くの林の中まで散歩に来ていた。
「どうだ、この生活にもそろそろ慣れたんじゃないか?」
「まぁな」
肯定の言葉で答えるユナだが、その表情は
「それにここの人はみんな優しいだろ」
「それはユナが人造魔導師だと、博士に使われてたことを知らないからだ」
「俺は違うと思うぞ。みんな、ユナの過去は気にせず今と変わらずにいてくれると俺は思う」
ジルヴェスはそう言ってユナを励ます。
「そんなこと分からないじゃないか」
「そうかな。………なぁ、ティア。ティアはどう思う?」
「っ!」
ジルヴェスが背後の木陰に声をかけると声にならない声が聞こえた。
「……何?」
ユナはそこに人がいたことが分かり驚いていた。
「隠れてないで出てこいよ」
ジルヴェスはそんな二人の様子など意に介さずティアナに声をかける。
「どうして分かったのよ。ちゃんと隠れてたのに」
ティアナは大人しく姿を現す。
「隠れるのが下手っていうかなんていうか。まぁ、気にすんな」
「ちょ───」
「それで、ティアはどう思う?」
「もう………で、どう思うって何に」
「ユナ、言ってみたらどうだ?」
ティアナの問いには答えず、そのままユナにふる。
「ちょっと、あたしの質問はスルー?」
そうすれば当然、ティアナはジルヴェスに文句を言う。
「ティア、落ち着け」
「むっかー、何なのよ、さっきから」
ティアナを落ち着けようとしてさらに火に油を注ぐジルヴェス。そこにユナが声をかける。
「…ああ。話してみる。……なあ、ランスター、話があるんだが」
「え?ちょっと待って。今こいつを絞るんで忙しいから」
ティアナはジルヴェスを追い回しながらユナの方を向きそう言った。
「そんな冷たいこと言わずに話を聞いてやれよ……」
ジルヴェスはため息混じりに顔をニヤつかせながら言う。
「あ・ん・た・ねー、誰のせいよ、誰の!?」
「まぁ、俺なわけだがそんな小さいこと気にすんなよ」
「はぁ……なんだかバカらしくなったわ。あたしは帰るけど、そうね、ユナはユナのままでいいんじゃないかしら。少なくともあたしは気にしないわよ」
しばらく追い回していたが本当にバカバカしくなったのか、ふと足を止め、ユナの目の前までやって来てそう言った。
そして、それだけ言うと隊舎へと戻っていった。
それを見届けた後、ジルヴェスはユナに言った。
「な、言っただろ?」
「いや、話がみえてなかっただけだ。そうだ、そうに違いない」
ユナは信じられない、信じたくないと都合のいいように思考を進めるが、ジルヴェスは、それは違うと逃げるのを許さない。
「ちなみに言うとティアは始めの方から話を盗み聞きしてたぞ。だからユナが人造魔導師だと知ってる………はずだ。あいつは頭がいいからな」
「そうなのか?」
「そうだ。でも、ティアの反応全然変わってなかっただろ?」
「でも、話は聞かずに帰ったじゃないか」
それでもなお、ユナは反論を続ける。
「それは、あくまで俺の想像だけど、ユナにあまり言わせたくないんじゃないか?」
「何を?」
「ユナ自身を否定することを」
「何で?」
ユナは思考力が低くなってしまっているのか、何で?何を?と単純な言葉しか言っていない。
「何で、って聞かれると難しいな。まぁ、簡単に言えばそれがティアなりの優しさだから、かな。あいつは不器用なんだよ」
「…………」
「けど、もし居心地が悪いならここから出るってのも一つの手ではある」
「…え?」
ジルヴェスの言葉を聞き、悲しげな顔をするユナ。
「いや、別にユナのことを要らないとか、そういう意味じゃないぞ」
「……あ、あぁ…」
「要は、この間にも言ったけどさ、ここに残るのもここから離れるのも、何をするのもユナの自由なんだよ。もし、それをユナが望むならそれを最大限叶えたい。それがユナの決めたことならね」
さらに、それぐらいしか俺には出来ないから、とジルヴェスは小声で言った。
「どうしてそこまでユナに構うんだ!」
「だから言っただろ、放っておけないって。昔の俺を見てるみたいで嫌なんだよ」
「放っておいてよ……これ以上ユナに優しくしないで……」
それまでの強い語調ではなく、年相応な口調でユナは嘆願するように呟いた。
「いや、優しくする」
「なっ!」
そう言ってジルヴェスはユナを抱き寄せる。
いつかジルヴェス自身がしてもらったように。
あの優しくて不器用な、そして何より真っ直ぐなあの人のように。
「俺はこれまでに会った色んな人に優しくしてもらった。初めは、俺に対する同情なんだと思って悔しかった。けど、分かったんだ。その優しさは決して同情からくるものなんかじゃないってことが。だから、同時に俺は怖くなった。俺の秘密を知ったとき、みんな俺から離れていくんじゃないかって。手に入れたこの幸せは脆く崩れてしまうんじゃないかって。本当なら俺はここにいていい人間じゃないから……」
「お前は、優しくされて苦しくないのか?お前の話を聞くと苦しそうだ!」
「あぁ、苦しい。今もいつバレるかって不安だよ。けどな、優しくしてもらえたから今の俺がいる。もし、そうじゃなかったら、絶対に死んだ方がマシだって思ってた」
だから、俺はユナにはそんな思いさせたくない、彼はそう言った。
「お前が優しくしてもらったことがなんなんだよ!お前にユナの気持ちなんか、分かるか!」
「確かに、ユナの気持ちなんて分からない。けどな、ユナはただ、自分を否定するだけじゃないか。そんなに俺たちのことが信用できないか?」
「違う……お前たちの優しさが本物だって分かるから……だから、余計に分からないんだよ。なんでユナなんかに優しくしてくれるか。同情で優しくされた方がもっといい。割りきれるから。それに、みんな優しいんだろ?だったら心配ないはずだろ!」
違うか?と逆に問いかけてくる。
「違うんだよ。ユナは何も悪いことをしていない。だからみんなも気にせずにいられる。けど、俺は違う………だから、みんなが今のままでいてくれるとは思えない……」
「だったら───」
だったら何なのか、その先をユナが口にする前にジルヴェスが語り出した。
「だけど、優しくされるだけは嫌だから。いつか、そのお礼が出来るように今を一生懸命に生きてる。俺はもし、みんなのことを守るために命を賭ける必要があるなら、命を賭けてもいいと思ってる。それが俺に出来る唯一のお返しだから」
「…………お前に何があったんだ?」
ここまで苦しむのはどうしてなのか、ユナは気になって訊いていた。
「……聞くか?俺の過去のこと」
「ああ」
「絶対に誰にも言うんじゃないぞ」
ジルヴェスはこの言葉を反故にすることなど決して許さないと、雰囲気で語っていた。
「ユナは
「ああ、博士から名前は聞いたことがある。数年前に突如として姿を消したとも聞いている」
「そうか。それは俺のことだ----」
そう言って、ジルヴェスはユナに自分の秘密を話した。
それを聞いたユナは愕然としていた。
「まさか……そんなこと……でも……」
「な?それを知ってなお俺のそばにいようとは普通、思わないだろ?」
そう語るジルヴェスの目には諦めにも似た感情が揺らいでいた。
「……ユナには分からない。だけど、ユナは今決めた!ユナに一番優しいのは誰が何て言おうとお前だ。だから、ユナは何があってもお前のそばにいる。無理をするならユナが体を張って止める。それに、そうすることがランスターはじめみんなのためでもあるしな。お前は分かってないみたいだが。だから、ユナはここに残る。そして、高町の教導を受けてみたい。お前といるためにはユナも強くないといけないからな」
「……ありがとな……」
ジルヴェスはポツリ感謝を述べた。
「え?」
「いや、何でもないさ。じゃあ、今からなのはさんのところに行って話をしないとな」
努めて明るい声でジルヴェスは言った。
「ああ。けど、自分で言っていてなんだが、そんな簡単に教導を受けることは出来るのか?ユナはここの部隊員、まして管理局員ですらないんだぞ」
「大丈夫、大丈夫。なのはさんはそういうの気にする人じゃないから。ただ、辛いから覚悟は必要だな」
そして手をヒラヒラと振って問題ないことをアピールしたいる。
「……それは何となく分かる…」
「それじゃあ、行くか」
微妙に足取りの重いユナを引き連れ、ジルヴェスは隊舎へと歩いていく。
「なのはさん、今いいですか?」
なのはが仕事をしている(であろう)部屋を訪れて、そう声をかけた。
「ジルヴェスか。うんいいよ。って、ユナも一緒なんだね」
「そうなんですよ」
「改めてよろしく、ユナ。私は高町なのは。なのはさん、で全然いいよ」
なのははユナに向かって笑いかける。
「今日は、頼みがあって来たんだ」
「なになに?」
そして、ニコニコしながら、ユナの言葉を待っている。
「高町の教導を受けたいと思───」
「本当に!?」
なのははユナの言葉が終わる前に、手を取り、目の前まで迫っていた。
「え、あ、ああ…」
なのはの、予想していなかった食いつきにユナは気後れしてしまった。
「やった。やっと来たよ。私としては全然構わないよ!」
けれど、当のなのははそれには気付かずにとても活き活きとした様子でガッツポーズまでしている。
「じゃあ、なのはさんそういうことでよろしくお願いしますね」
「うん、分かった」
ジルヴェスはそう言って部屋を出た。
「なぁ、なんで高町はあんなに喜んでいるんだ?」
なのはのもとを離れ、食堂で一息ついているとユナが話しかけてきた。
「それは……この前、ユナはなかなかいい素質をしてるみたいな話をなのはさんとしたんだよ。そしたらすごく楽しみにしちゃって………」
ジルヴェスはユナを保護した日に話したことを伝えた。
「それは過大評価にも程があるだろ」
「そんなことはないぞ。けど、とりあえず今は大人しくして体力を温存した方がいい」
「そこまでか………まぁ、分かった。先にユナは戻ってる」
「ああ、じゃあな」
ジルヴェスはユナを部屋に帰した。
ユナを見送ってしばらく食堂にいるとなのはがやって来た。
「あれ、ジルヴェスここで何してるの?」
「いや、やることがなかったんで」
「そうなんだ。じゃあさ、ちょっと私とお話しない?」
そう言いながらすでになのははジルヴェスの対面の椅子を引いて座っていた。
「まぁいいですよ」
答えは聞いていないんですね、というのは思ったが口にしてからかう気にはならなかった。
「お話っていうか、ずっと気になってたこと訊くね。ジルヴェス、私たちに隠してることない?」
先ほどまでのにこやかな雰囲気はそこにはなく、どこかピリピリとした空気が張りつめていた。
「どうでしょうか。別にないと思いますけど」
ジルヴェスはサラッと嘘を吐く。
「本当に?まぁ、いいけどさ。じゃあ、ジルヴェスが『ファーシャンベルグ』の関係者っていうのは本当のこと?」
「ええ。なのはさんに話してませんでしたっけ?」
「聞いたことなかったよ。フェイトちゃんに聞いて知ったんだもん」
「そうだったんですか。けど、何か問題がありますか?」
白々しい顔をしてとぼけ続ける。
「特にはないんだけどね、最近のジルヴェスは隠し事してるみたいで怪しいから」
「……そ、そうですか」
「まぁ、いいや」
なのはは何か勘ぐるようにしながらも、違う話題に変え、いつも通りにしばらく話をしただけだった。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m