リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~   作:台風一過

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第85話 訓練は大変

 

 

 

次の日の夕方、ユナの顔は絶望の色に染まっていた。

 

「ジルヴェス、ユナ大変そうだね……」

 

スバルは心配そうにユナを見ている。

 

「そうだな、スバル。まぁ、あれだけなのはさんにみっちり教導されれば大概ああなるけどな…」

「そうよ。あれだけのメニューを楽にこなせるのはあんただけよ」

 

ティアナはここぞとばかりにジルヴェスへの嫌味を言っている。その表情はにこやかなもので本気で言っているのではなく、むしろティアナなりのじゃれ合いのようなものであるというのは、そう長くない付き合いのエリオたちにも何とはなしに理解出来た。

 

「まぁ、シャルルも楽そうよね」

「そんなことないですよ。今ではまぁ、ほどほどですけど、初めの頃は本当に死ぬかと思いましたもん」

「じゃあ、なのはさんとは付き合い長いのね」

「ええ。かれこれもう5年くらいになりますかね」

 

少し、思い出に浸っているようでシャルルは遠い目をする。

 

「なんだかすごいわね、あなたたち」

 

ティアナはジルヴェスとシャルルを指してそう言った。

 

「でも、ユナさんだってすごいですよ」

「はい、私だったら途中で倒れてると思います」

 

一方で、エリオとキャロは心から「すごい」と思い、それを口にする。

ユナはエリオたちとティアナたちとのちょうど真ん中あたりの歳であり、双方からどこか親しみを持たれていた。

 

「なぁ、こんなのがこれからも続くのか…?」

 

やっとのことで、といった風にユナはジルヴェスに訊いた。

 

「いや、明日からはもう少し優しくなるんじゃないか?今ごろなのはさんはユナのこと気にして反省している頃だからな…」

 

頭を抱えて猛省しているだろうことが容易に想像出来て、ジルヴェスは笑ってしまいそうになった。

 

「…そうか……とりあえずもう少し頑張ってみる」

「ああ。けど、無理はするなよ」

「分かっている。とりあえず今は少し一人にしてくれないか?」

「ああ、分かった」

 

ジルヴェスたちはユナを一人にして、それぞれ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、ユナはスゴいわね」

「どうしたんだ、ティアが素直に誉めるなんて…」

 

明日は雪が降るぞ、とジルヴェスは真顔を作って冗談を言う。

 

「何よ。それじゃあ、まるで私が常に相手を貶めているみたいじゃない」

「いや、そこまでは言ってないけど……なぁスバルもそう思わないか?」

「うん…ちょっと珍しい…かなって……」

 

ジルヴェスに振られてティアナの顔色を窺いながらそう口にするスバルだったが、案の定、ティアナには怒られてしまう。

 

「ちょっと?」

 

そう言ってティアナは半眼でスバルを睨み付ける。

 

「や、べ、別に深い意味はなくて…」

「まぁ、いいけどね。でも、なんでユナは大変なのにあの訓練内容についてきたのかしら。ジルヴェス何か知ってる?」

 

ティアナはスバルに気にしてないと言い、今度はジルヴェスに話を振った。

 

「なんで俺が知ってると思うんだ?」

「なんで、ってあんたが一番ユナと一緒にいるからよ」

 

少しだけ言葉に棘を持たせてジルヴェスの問いにティアナは答える。

 

「そうかもしれないけど、俺はよく知らないな」

 

またしても、軽く嘘を吐くジルヴェス。

 

「そう?まぁ、何にせよ、何か目標を持って、そのために努力することはいいことだと思うのよ。だから、その努力を始めたユナはスゴいと思うわ」

「へぇ、ティアはそんな風に考えてるんだな」

「な、何よ……悪い?」

 

なぜかジルヴェスにそう言われて、居心地が悪く感じた。

 

「別に悪くなんてないさ。けど意外だと思っただけだよ」

「ああっ、もう忘れなさいよ!恥ずかしいじゃない!」

「別に恥ずかしいことなんてないだろうよ。まぁ、ユナがスゴいってのには同感だけどな。何か心境の変化でもあったんじゃないか?」

「そ、そうね。なんだか迷いも吹っ切れたって感じもするし」

 

ティアナはユナを評価する自分の気持ちを見透かされているようで恥ずかしくなった。

 

「それは私も思った。前のユナは何かもうちょっとごちゃごちゃしてたんだけど今はスッキリしてるっていうか、何て言うか……」

「まぁ、言いたいことは分かるよ」

「さて、いつまでもユナのことを話してても仕方ないからシャワーでも浴びてこようかしら」

「じゃあ、俺も行こうかな」

「なんであんたが着いてくるのよ!」

 

ティアナに大声で謂れのないことで拒絶され、ジルヴェスは少し戸惑う。

 

「え?別に浴場が違うんだから問題ないだろ」

「あ………」

 

けれど、ジルヴェスがそう指摘すると、ティアナは一気に顔を赤らめた。

 

「まさか───」

「う、うるさい!何でもないわよ!」

 

ジルヴェスが何か言う前にティアナはそれを否定して走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジルヴェスたちが戻っていくのを見てユナは立ち上がる。

 

「こんな、情けないままじゃ、あいつを助けることなんて出来るわけない。だから一人のときにも鍛えないと……」

 

ユナが一人そんな決意をしていると、そこへはやてがやってきた。

 

「ユナ、訓練1日目はどうやった?」

「八神か。どうって正直死ぬかと思った」

 

タイミングを計ったかのように現れたはやてに驚くことなく、ユナは答えた。

 

「まぁ、なのはちゃんが気にするくらいやからな…相当大変やったんやろな……」

 

ユナを見る視線には同情の色が見えた。同情とは言っても張り切ったなのはによってしごかれたことに対して、であり他意はない。

 

「でも、ちゃんと色々と教えてもらって強くなる。だって、あいつと約束したから…」

「あいつって、ジルヴェスのことやろ?何を約束したんや?」

 

はやてはユナのこともそうだし、ジルヴェスのことも気にしていたから、2人に関することは色々と情報として持っておきたいと思っていた。

 

「え?」

「え、って今ユナが今言うたんやないか。約束したんだって」

「……いや、何でもない。ただ、今よりも強くなって、いつかお礼をするって約束をしただけだ」

 

自分でも、そんなことを口走ったことに気付いていなかったのか、はやてに指摘されてユナは驚いているようであった。

 

「そうなんか。なのはちゃんのメニューは厳しいと思うけど、頑張りや」

「あ、ああ」

 

はやてはそれだけ言ってその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジルヴェスさん、ティアさんたちと仲良いですよね」

 

ティアナとスバルが去ったあと、ジルヴェスは残ったシャルルに少しだけ責めるような口調でそう言われてしまった。

 

「あれ、シャルちょっと機嫌悪い?」

「別に悪くなんかないですよ」

 

明らかに何かに対して機嫌を損ねているのだが、それが何なのかジルヴェスには分からなかった。

 

「………………まったく、ジルヴェスさんは自覚ないし、鈍感だよ…………」

 

シャルルはジルヴェスには聞こえない声量でポツリ呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジルヴェスの秘密は分かったけど、本人と話した方がいいのかな……でも、私なんかに話してくれないだろうし……」

 

なのははまだ悩んでいた。昨日の夜、人知れず決意したはずだったが、いざ切り出そうとすると躊躇(ためら)ってしまうのだった。

 

「しかも、何かまだ秘密がある気がするんだ……ただ人造魔導師ってだけならジルヴェスは話をしてくれるはずだから……話せないのはそれを話したら今のままじゃいられなくなるから。意外とジルヴェスはそういうこと気にするからなぁ。どれだけ自分が辛くても、周りのみんなのためだって言って絶対に耐えるんだもん。でも、もっと私は頼ってほしい……そのために私は何が出来るんだろう……」

 

そう呟くなのはのもとにジルヴェスがやって来た。

 

「なのはさん、こんなところで何をしているんですか?」

「ジルヴェス…」

「もしかしてユナのこと気にしてるんですか?大丈夫ですよ、ユナなら」

「ちょっと張り切り過ぎたって反省してるけど、もう大丈夫」

 

なのははそう言って笑顔を見せる。

 

「そうですか?なんか悩んでいるみたいですけど」

 

悩みの種の張本人が悩みを訊いてきた。

 

「悩みはあるけど、ジルヴェスには関係無いっていうか、言っても仕方がないっていうか……」

 

なのはとしても答えにくいことであるから、言葉を濁す。

 

「なんかすごく気になる言い回しですね。恋の悩みですか?」

 

ジルヴェスはしつこく、そして冗談めかして訊く。

 

「……そうなのかな…」

「え?」

 

まさかの肯定にさすがのジルヴェスも驚いた。

 

「私にもよく分からないんだ…」

「とりあえず行動してみたらどうですか?」

「え?」

 

けれど今度はなのはが驚く番だった。

 

「いつもみたいにストレートに思いをぶつければいいと思います。悩んでるなのはさんは、それはそれで見ていて嫌な感じはしないですけど、やっぱりいつもの真っ直ぐななのはさんの方が俺は好きです。それに、いつもしっかりしているなのはさんが悩んでると調子が狂うっていうか、心配っていうか………」

 

段々と小さくなっていくジルヴェスの声。それでもなのはには聴こえた。

 

「ジルヴェス、心配してくれるんだ?」

「え?ま、まぁ…」

 

ジルヴェスの答え自体はパッとしないがそれを聞いたなのはの顔は幾分軽やかなものになっていた。

 

 

 

 

 

 








ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m
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