リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
「本当にまずいですね。翔ぼうと思えば翔べますけど、さすがに皆さん全員を一度に運ぶのは厳しいですし、あまり時間もありませんからね」
「……困ったな…」
とはやてとジルヴェスが話していると
「ねぇ、この音…」
なのはがある音に気が付いた。
「バイク…ですかね…」
ジルヴェスが呟いたとき、玉座の間の天井付近の壁が外側から壊された。そこにいたのはティアナたちだった。
「なのはさん、助けに来ました!」
スバルの助けを借りてジルヴェスたちが玉座の間を脱出したところで、再び船内にアナウンスが流れる。
『船員の移動は完了。ただ今より艦内、および艦船周囲の危険因子の排除を始めます』
するとそのアナウンスと同時に、ガジェットⅣ型がティアナたちが来たのとは逆、「ゆりかご」の内部から現れた。
「あれは……」
そしてなのははそれを見て動揺していた。
「ティアとスバル、ユナ、お前たちはなのはさんとはやてさん、ヴィヴィオを連れて早く行け。ここは俺が止める」
ジルヴェスが先を促す。
「あんた何言ってんのよ。そんなボロボロで魔法も思うように使えないのに一人でなんて」
「そうだよ、約束したじゃない」
しかし、ティアナの言葉になのはが同意して、ジルヴェスを止めようとする。
「それでもやらなくてはいけないことがあります。それは俺のやりたいことであって、そして何より、俺にしか出来ないことです。それに、あのガジェットは手強いです。それはなのはさんが一番よく知ってるでしょう。だったら全員がやられてしまうよりは俺一人の方がいいですよ?」
ジルヴェスは平然と自分が犠牲になるべきだと言い放つ。
「それは自己犠牲のつもりか?そんなこと思っとるんやったらそりゃ間違いやで。あんたのそれは自己満足や」
けれど、はやては厳しい言葉をかける。
「自己満足でも別に構いません。それでみんなが助かるのなら。それにこれは俺のただの贖罪でしかないですから」
「………」
しかし、ジルヴェスの言葉にはやては何も言えなくなってしまう。
「だったらユナも残る」
そんな中、ユナが口を開いた。
「だってユナはお前と約束したからな、お前の側にいるって。だから、ユナも残る」
「……分かった。好きにしてくれ。だけど、みんなは早く逃げてください。もう時間がありません」
ジルヴェスはティアナたちに声をかける。ジルヴェスたちが言い争っている間、ガジェットがおとなしくしていたわけではなく、段々とその距離は縮まっていた。だからこそジルヴェスは先を促す。
しかし、ジルヴェスはそこで嫌な予感を覚えた。
先ほど自身がやられたからこそ感じとれたわずかな違和感。だがそれははっきりとしていた。
「なのはさん危ない!」
その違和感は空間の微かな揺らぎとなってしっかりと認識出来た。
そして、認識した途端になのはを突き飛ばした。
「………っ!」
「うぐっ……」
突然、突き飛ばされたなのはは非難の眼差しをジルヴェスに向けた。
しかし、その眼差しが驚愕に変わるまでに時間はかからなかった。
「ジルヴェス!ねぇ、ジルヴェス!」
なのはを突き飛ばしたジルヴェスは、ガジェットⅣ型に腹部を貫かれていた。
「なのはさん、心配しないでください」
けれど、当のジルヴェスはなのはに落ち着くように言う。ただ、周りにいるはやてたちも心配そうに見詰めている。
「でもジルヴェス……」
「なのはさん、早く逃げてください。俺、最後になのはさんのこと助けられて良かったです。だからお願いします」
ジルヴェスは襲い来るガジェットをいなしながら、なのはに訴えかける。
「なのはさん、行きましょう。ジルヴェスが身を挺してなのはさんを助けたんです。だから、ここは逃げないといけません。じゃなきゃ、ジルヴェスが報われません」
なのはが尚も不服そうにしているのを見て、スバルがそう進言した。なのはもそう言われてしまったら何も言い返せなかった。
「それじゃあ、ティア、スバル、任せたぞ」
「ええ」
「ジルヴェス、ちゃんと帰ってきなよ」
「…………ああ」
そうやり取りをして、ティアナたちは出口に向けて進んだ。
「ユナ、それじゃあやるか」
「ああ」
2人はガジェットと対峙した。
「ユナ、ありがとうな」
「何がだ?」
それぞれがガジェットを破壊する中、ジルヴェスがユナへと話しかけた。
「何って、こんな俺なんかのためにここに残ってくれたことだよ」
「当たり前だろう?それにさっきも言ったが、約束、したからな。ユナはお前のせいで巻き込まれても文句は言わないし、お前がこれまでに何をして来たのかなんて関係ない。ユナにとってお前はユナを救ってくれた人間以外の何者でもない。ユナはお前のおかげであんなにも温かな場所を知ることが出来た」
ユナはジルヴェスに対して心の裡を吐露した。
「……そうか。ありがとう」
ジルヴェスはユナに礼を言う。
それと同時に最後のガジェットを破壊した。
「これで終わり、だな。早く戻ろう。高町や八神が待ってる」
ガジェットを全て排除し、後はもう外に行くだけだとユナは言う。
「……俺はもうみんなのところへは帰れないから。だから、ユナともここでお別れだ」
しかし、ジルヴェスはそんなことを言って歩き出そうとはしない。
「どういう意味だ?」
「この状態のまま、船が軌道上に上がったらミッドは壊滅する。おそらく航空隊が間に合わない」
「それがどう関係するんだ?」
ユナはジルヴェスの言いたいことがまるで分からないという顔をしていた。
「だから、航空隊より先にこの船を軌道上に上げるわけにはいかないんだ」
「……まさか」
そこまで聞いてユナは悟った。
けれど、それはあまりにも無茶なことのように思われた。
「俺はこの船の速度を落として航空隊が間に合うようにしないといけない。これは俺にしか出来ないことだから。ベルカの王である俺にしか。それに、なのはさんたちが守りたかったこの世界を守るためなら俺の命なんて安いもんだろ」
「……そんなことしても誰も喜ばないぞ。それくらい分かるだろ?みんな、お前の帰りを待ってる。なのにそれを裏切るのか?」
ジルヴェスを責めるような口調でユナは問い詰め、彼を思い止まらせようとした。
「仕方ないだろ?それにこの前言ったけど、このときのために俺は生きてきたようなもんだ。だから後悔は……しない。約束を破るのは心残りではあるけど。だからごめんな。あと、なのはさんたちに俺のことを聞かれたら全て話してくれて構わないから」
「それは強が──」
そして、ジルヴェスはユナに謝りながら、ユナを「ゆりかご」の外に転送した。
「さて、最後の仕事だ」
そう呟いて、ジルヴェスは再び玉座の間へと戻る。
そして、部屋の隅に転がる赤い宝石、レリックを拾い上げ、自らに溶け込ませる。「聖王の証」たるそのレリックを。
そこまでしてジルヴェスはヴィヴィオが座らされていた玉座に座り、「ゆりかご」を制御することを強く念じた。
すると、それまで魔力リンクを遮断していた「ゆりかご」が再び、そのリンクを復活させる。
さらには、船速もジルヴェスの念じたものへと変わった。
「良かった……俺は武帝ベースで作られてるけど、聖王も素材に使われてるからな……でも、こんな俺みたいな紛い物でも聖王として反応してくれて良かった」
ジルヴェスはすごく安堵していた。
「思えばあっという間だったな。ヴェルさんに助けられて、なのはさんたちと出会って、そして六課に配属された。気付けばこんなに大きな事件に関わって、ヴィヴィオと出会って。ユナとだって出会ったばかりだ。まだまだ一緒に居たいに決まってるさ。でも、そんなことはただの俺のわがままでしかなくて、俺はそれを望んだらいけないんだ……」
ジルヴェスは自分の人生を思い返していた。まるで最期だと言うように。それは正しく走馬灯のよう。
「…………だって、何人もの命の上に、俺が居るんだから……俺一人の命で何人もの命を救うことが出来るなら、安いものじゃないか」
ジルヴェスは哀しい決意を胸に秘めて、玉座に座って呟いた。
「これが俺の--贖罪だ--」
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m