一作目も完結してないのに何を調子乗った事やってんだゴルァ、という意見もあると思いますが、前作があまりにも酷い出来だった為、趣味全開かつガチに書いた作品を二作目とさせていただき、また皆様方に楽しんで読んでもらえるように努力しました。
一話目にしては長いかもしれませんが、最後まで読んでくだされば幸いです。
「明日、私は死ぬかもしれない」
開口一番、彼女はそう言った。
月がとても美しく映える、群雲が流れ去った後だった。いつも通りの戦闘服を着て、いつも通りに紅茶を啜っていて、口を開いたかと思えば、いきなりそれだった。
体にピッタリとくっつく黒い服に包まれた彼女は、不安そうな顔で月を見上げていた。
修道院の窓から覗く満月は、煌々と月光を降り注ぎ、地上を明るく照らす。その蒼白い光は彼女にも注がれ、月明かりの下にその端正な顔を晒す。
まるで、一枚絵のように美しいその風景を眺めながら、しかし「彼」は平常時と変わらぬ声音で返した。
「ふぅん。確かに明日の戦いはキツそうだな」
「……心配してくれないのか?」
素っ気ない返答に対し、彼女は縋るように声を発した。そこに普段の気丈さや冷静さは無く、まるでオバケを怖がる子供のようだった。
「心配して何になる?もしも死んだら実力不足。もしも生き残ったら強者。そういう世界だろう、ここは」
あえて嫌味ったらしく声を上げたが、横目で見る限り、別段彼女は気にしていないようだ。
ただただその場で月を見上げ、物憂げな表情を浮かべているのみだ。纏っている雰囲気はまるで研がれた刃のようでありながら、同時に簡単に壊されてしまうような儚さを備えていた。
「ーーーそれでも、留意にしてほしいな、私の事を」
「知った事か」
相変わらず手厳しいな君は。
そう言って、彼女はまた月見に戻った。が、その顔には、恐怖や忌避は存在せず、嫋やかな微笑があるのみだった。
ーーーそれでいい。お前はそれでいいんだ、ゼノヴィア………
◇◇◇◇◇
俺は転生者という人間らしい。
らしい、というのは、前世ともいえる人生の記憶が殆ど無いからだ。ごく一部の知識に関してはそこそこ鮮明に覚えているが………まあそこはいい。
どうやら、ライトノベルは『ハイスクールD×D』の世界に生を受けたようだ。ラノベはろくすっぽ読まなかったが、友人がえらくハマったような気がしないでもない。
その名前も忘れてしまった友人の言によれば、化け物がたくさん登場して、巫山戯た展開とバトル、色々無理のあるハーレム要素で構成された、ある意味ラノベとしての道の一つを突き詰めたような作品のようだ。ちなみに有名な話として、記念すべき第一巻執筆中に、作者の父親がお亡くなりなっている。遅まきながら御冥福を祈るとしよう。
さて、そんな世界に生まれた俺は、はてさて一体全体どんな人間なのかと言えば、まあ凄くマニアックなゲーマーといったトコロか。それも、ある作品限定の。
その作品の名は、【アーマードコア】。聞いた事ぐらいはあるかもしれないな。古くはPS時代に初代の名を置き、ハイスピードメカアクションのパイオニア的存在だと個人的に思っている。あと、製作陣の高過ぎる想像力とCG技術、漢のロマン度から『変態』の烙印を押されてもいる。無論、褒め言葉だ。
かなりのシリーズ作品数を誇るこのゲームは、前述の通りロボットに搭乗して戦う。特徴といえば、数多くのパーツを組換え、自分だけの機体を作り上げ、それを高速で動かせるという、コアな趣味の者には垂涎モノのスタイルだ。他にも、淡々としすぎるストーリーに、キャラが姿を見せなかったり、可愛らしい(※語弊アリ)生体兵器が大量に登場するなどなど……。
ところで、先も言ったように、このゲームはシリーズ物としては異例とも言えるほどの作品数を持つのだが、その中でも俺が特に好きなのが、『4系』と『V系』だ。
理由はーーーーーーまあ、あまり長く語ってもチンプンカンプンだろうから省略するが、簡潔にいってしまえば『速い』からだ。何が?機体速度が、だよ。時速1000kmとか当たり前だぜ?
さて、そんな俺だが、転生モノの定番として『神器』を宿している。これについては説明は不要だろう。
とはいっても、まだ扱えきれてないんだがな。禁手なんて夢のまた夢だ。
ーーーま、くだらない前置きはここまでにしようか。そろそろ物語を始めよう。
これは、ヒトについてのお話だ。
◇◇◇◇◇
人間界の、日本時間において、夜の戸張が落ちる時間帯。魔界の最下層、コキュートスにて、機械と死神が空を駆けていた。
機械の名は《ネクスト》といった。コジマ粒子という汚染物質を動力源とする、規格外の戦闘力と汎用性を誇る人型機動兵器であり、個人が有する兵器としては世界最高のスペックといって遜色無い力を内包する。
それを追いかける形で、黒いフードを目深に被り、おどろおどろしい装飾を施された大鎌を携えた無数の死神がいる。その身にまとう雰囲気にさえも死を感じさせる、不気味な集団。
ネクストは、音を置き去りにするほどの速度で飛翔する。背のメインブースタから蒼白い炎が噴出し、そして生まれる莫大な推進力によって、その機体は留まる所を知らずに加速していく。
しかし、追従する死神達も距離を離されながらも、何とか追いすがっている。音速を越える速度についていくその実力からして、恐らくは中級以上の死神である事は確実だ。
と、その時。ネクストが仕掛けた。
その場で機体各所に備えられているブースタを噴かし、急速反転。刹那の間で180°回転するその動きは、クイックターンと呼ばれるモノだ。
慣性により、
高い瞬間火力を有するそれは、一発でビルを大きく抉る弾丸を霞の如くばら撒いた。
視認すら困難な速さで放たれたそれらに、死神達は対処できなかった。次々とその身を貫かれ、砕かれ、跡形も無く消し飛ばされる。
しかし、同胞がいくら殺されようとも、彼らは微塵も怯まずに突っ込んでくる。そのうちの何人、いや何十人かが、手に持つ大鎌を投擲した。
ネクストが放った弾丸に比べれば見劣りするが、それでも恐るべきスピードと力を秘めた攻撃であった。ネクストは両のライフルでそれらを瞬く間に撃ち落としていくが、わずかに手が及ばなかった。三つの鎌が、もはや迎撃不可と言えるほどに接近していた。
瞬間、ネクストが消えた。
否。その実は右に移動しただけだ。ただ、
クイックブースト。
サイドブースタによって、短距離を瞬時に移動する機構であり、前触れも無く発動できるこれは、他には無い圧倒的な回避力を生み出す。
超高速で飛来する弾丸すらも容易く躱すこの動きの前では、鎌の投擲など脅威ですら無い。左脇から背後へ流れていく大鎌にもライフルを叩き込み、刃を半ばからへし折る。
攻勢を完封させられた死神衆。しかし、依然としてその勢いは衰えず、むしろ更に増しているようにさえ思える。
「ーーーーーー面倒だな」
ネクストが、ぽつりと呟いた。
次の間には、その両手のアサルトライフルが虚空に消え、代わりに、見るからに重厚で長大な得物が握られていた。
HLR09-BECRUX《ベクラックス》。先のマーヴと違い瞬間火力に劣るが、その一撃は遙かに上回るデュアルハイレーザーライフルだ。続けて、背にも新たな武装が、何も無い空間から出現し、硬質な音を立てて接続される。SALINE05《サーライン》。目標に一定距離まで接近すると分裂する、高い誘導性を誇るミサイルだ。
ネクストは全く躊躇わずに、数多のミサイルを射出した。煙の尾を引いて死神達へ向かう誘導弾は、ある地点から八に分裂し、空を埋め尽くすほどに数を増やし、着弾。
宙に巨大な爆炎の花が咲き誇り、一瞬で死神達の命を文字通り消し飛ばした。
爆発から逃れた者達も、凄まじい爆風や衝撃で吹き飛ばされ、まともな飛行ができなくなる。もつれ合うように仲間同士でぶつかり合い、まるで塊のように様々な場所で密集地が出来上がる。
そこを、超高熱の閃光が貫いた。
放たれたデュアルハイレーザーライフル、ベクラックスの双撃は、狙い違わずに密集度の高い場所を射抜き、刹那で百を越える死神を塵に変えた。
ミサイルで隊列を乱され、狙い澄ました熱戦を喰らった彼らは、わずかにその勢いを弱める。ネクストは、それを見逃さなかった。
クイックターン。反転。瞬時にコマンド。
メインブースタに尋常ではないエネルギーが溜まり、それが一気に解放された。オーバード・ブーストと呼ばれる移動手段であり、ネクストを一瞬で最高速度領域にまで押し上げる力を持つ。
それが発動した瞬間、ネクストは音速の壁など容易く突破し、追手との間合いをあっという間に引き離した。死神達に、その彼我の距離を詰める術など、存在しなかった。
◇◇◇◇◇
死神達がネクストのブースト光すらも見失った時には、既に「彼」はコキュートスを脱していた。今はAMSーーー統合制御体という、ネクストを駆るにあたり、最も重要になる機構ーーーとのリンク深度を下げ、巡行モードに変えていた。
その機械の体は、眩いばかりの純白を基調にカラーリングされており、諸所に金と黒のサブカラーに装飾されている。見る者に息を呑ませる荘厳な高貴さ、あるいは中世の誇り高き騎士を思わせるその機体の名は、TYPE-HOGIRE《オーギル》。高い汎用性と、バランスの良い傑作ともいえる機体であるそれを、「彼」は好んで使用していた。
その時、ネクストに通信が入った。僅かにノイズが走っているのは、発信者は魔力を用いて術式を組み上げているのだろうが、此方は機械的にそれを処理してしまう為、肉声というよりは機械音声に聞こえるからだ。互換性があるだけマシか。
『お疲れ様です、
「グレイフィアか……何の用だ」
彼ーーージョルジュ・H・ベルリオーズは、発信者を声だけで判断した。機械音声じみたそれだけで相手を特定できるという事は、ある程度の交流があるということを意味する。が、しかし。返したその声音には、隠す気の無い苛立ちが多大に含まれていた。
『一人の友人として、労いの声をかけてはいけませんか?』
「どうせサーゼクスに言われてやってんだろうが。お前が俺を嫌っているのは知ってる。表面繕って話しかけてくんな、気色悪い」
『あらーーーーーーじゃあ、コチラの方で良かったかしら?ジョルジュ・H・ベルリオーズ』
先程とは別人のような口調と声音になる通信相手ーーーグレイフィア・ルキフグスに、それでも彼は嫌味ったらしく、ケッと貶した。
「で?本件は何だよ。言っとくが、さっきのミッションでミスやトラブルは冒してないぞ」
『いえ、追加の依頼を。と、思ったのですが……構いませ』
「断る」
グレイフィアが言い切る前に、拒絶の意を表した。
彼はあまりにも早い断りに絶句している彼女に、さらに言の葉を続けた。
「《一つの組織から続けて依頼を受けない》ーーーーーーコレが俺の流儀だ。やってやらん事もないが、その場合報酬金を三倍にしてもらうぜ?」
『承りました。三倍の報酬を用意しましょう。それで受けてくれるのね?』
即答だった。今度は逆に此方が絶句する番のようだ。
ちなみに、元々の報酬金は日本円にして0が八つは並ぶ大金だ。それの三倍というのだから、どこぞの宝くじも真っ青である。
一も二もなく返したグレイフィアに、ただならぬ決意を読み取ったベルリオーズは、静かに気を入れ直す。
「その感じだと………危険な感じか?」
『ええーーー政治的にだけれど、かなり危ない案件よ』
それから彼女は、丁寧に依頼の詳細の説明を始めた。
◇◇◇◇◇
「ーーーーーーリアス・グレモリーが攫われた?しかも堕天使の連中にか?」
『間違いないわ。共の下僕悪魔の塔城小猫が瀕死の重傷で発見され、何とか意識があるうちに当時の状況を説明してくれたわ』
「ああ?リアス・グレモリーって、確かまだ十五にも満たない子供だろう?配下なんているのかよ。ええと、『悪魔の駒』だっけ?アレ、そんなホイホイ渡していい代物か?アジュカの特製だったろう」
『彼女は既に上級悪魔としての実力はあるわよ。それに、正確には攫われたというより、誘導されたというべきね』
なんでも、リアス・グレモリーとその下僕悪魔一行は、堕天使領付近の森にしか生息しないモンスターを使い魔にしようと、大人達に黙ってまで入ったらしい。
一応は悪魔領らしいが、堕天使と悪魔の両者の仲が険悪である以上、それぞれの領土付近に近寄るのは、少なくとも賢い行いではない。挑発行為とも見受けられるからだ。
ベルリオーズは、少しばかり訝しんだ。まだ若輩者とはいえ、一端の上級悪魔であるリアス・グレモリーがそんな愚行を冒すのか?ーーーと。
もしもこの話が本当ならば、悪魔という組織全体への評価を下げざるを得ない。下手をすれば、二度目の大戦にさえ発展しかねないという愚か極まりない行為を上級悪魔が冒し、さらにその愚者は現魔王を兄に持つ『名門』の次期当主なのだ。こんな巫山戯た話もそうそうあるまい。どうやら、若手悪魔は平和ボケしているようだ。ベルリオーズは内心で次代を背負う者達を蔑み、それを良しとする上層部を嘲った。
いつしか彼は、件の森の上空にまで来ていた。眼下に広がる森林を睥睨しながら、彼はグレイフィアの言に耳を傾けている。
ーーー俺を罠に嵌めて、殺そうって魂胆かも知れない。リスクが大きすぎるが、怪しい奴は早めに処理してしかるべきだしな………。
内心で裏を読みながら、ベルリオーズは一度森に降り立ってみる。周辺は、彼が知る限りの他の地域には無い珍妙な動植物たちの気配に満ち満ちており、なるほど確かにココにしか生息しないモンスターとやらも信憑性がある。
しばし、その場でメリット、デメリット。策謀や今後の影響を鑑み、あるいは天秤にかける。予定外の事態とはいえ、ただでさえ高額な報酬金が三倍になって懐に入るというのは有難い。だが、下手を打てば命を落としかねない。
ベルリオーズは、所属を持たず、特定の陣営や組織に加担せず、金と引き換えに一時的な尖兵として動く【傭兵】として生計を立てている。数え切れない程の恨みを買っている自覚はあるし、いつ殺されてもおかしくない職業である以上、「騙して悪いがーーー」なんて、依頼者が裏切る事なんてザラにある。
十秒。しかし、体感的には一時間以上の深い思考の後、彼は決心し、上空へと飛び上がる。
「いいだろう。受けるぞ、その依頼。ーーー道標を示せよクライアント」
固き意思を感じさせる、戦場に身を置く者の声を聞き、グレイフィアは自らの、ひいては魔王ルシファーからの依頼が受諾されたと分かった。
『了解。貴方の位置は把握しているわ。まず、その地点から東へーーーーーー』
グレイフィアの案内に従い、ベルリオーズはその愛機、オーギルを手繰り、高速でその場から飛び去った。
◇◇◇◇◇
迂闊だった。
リアス・グレモリーは、己の浅慮の実力不足を呪った。
一ヶ月前に、新しい下僕悪魔である木場祐斗と塔城小猫を立て続けに配下とし、上級悪魔となったばかりでありながらも順調な巡り合わせに舞い上がっていた。
姫島朱乃、木場祐斗、塔城小猫の三人を仲間にした時頃には、自らが若輩者であるという事さえ忘失し、驕り高ぶり、普段は絶対に行わないような愚行に及んでしまった。ちょっと力が手に入るとコレだ、と自身の浅はかさと歪んだ性根を恨めしく思う。
新しい下僕悪魔に使い魔を与えようと、見栄を張って近づいた事さえない堕天使領付近まで赴いた。もしも騒ぎが起こり、多少なりとも被害や損害が発生すれば、先の三つ巴の大戦の再来という避けなくてはならない未来が訪れる可能性があると知りながら、だ。何せ、リアスの兄は四大魔王が一角、サーゼクス・ルシファーなのだ。否が応でも、その名が及ぼす力は大きい。
しかし、何も考えなしに動いた訳ではない。悪魔領と堕天使領が隣接する地域での争いなど珍しくも無いし、そんじょそこらの下っ端堕天使に負けるつもりも出し抜かれるつもりも無かった。信頼する「女王」である朱乃と共同で組み上げた隠密術式を何重にも合わせて全員に纏わせたし、常に警戒を怠らなかった。
が、結果として。恐らくは隠密術式を見破った堕天使の集団に奇襲され、小猫が瀕死の怪我を負ってしまった。咄嗟に発動した幻惑術式によって注意を引きつける事でそれ以上の追撃は封じたが、その場に留まる訳にもいかず、今現在、堕天使領にまで侵入しながら全力で逃走している。
背後の上空には、十人もの堕天使が追跡している。どれも中級以上の力はあるようで、上級悪魔たるリアスとその下僕悪魔の疾走にも容易くついてくる。
彼らは、攻撃の機を窺っているのか、手に光の槍を持ったまま、じっとりとした狩人のような眼で狙いを定めている。一瞬でも気を抜けば、紙縒の如き鋭い必殺打を放ってくると肌で感じる。
「リアス、このままでは体力を失うばかり……此方から仕掛けましょう!」
「僕も賛成です。小猫ちゃんが倒れた際に、無理をして注意を引いた時に大分力を削がれました。ーーー僕が囮になります。その隙に安全な場所へ」
「貴方たちを見捨てろというの!?そんな事、できるわけ無いでしょう!絶対、絶対誰も殺させないわ!!」
リアスは朱乃と木場に囮の案を出されるが、即座に却下した。普通ならば、下僕悪魔を犠牲にして、主たる者が生き残るのが定石であり、また確実かつ最適解といえる。
しかし、リアス・グレモリーという悪魔は、グレモリーという血筋は、悪魔とは思えない程に情愛が強く、仲間意識が高い。それに加え、朱乃たちを家族同然に想っているリアスの優しすぎる人格もあり、サクリファイスという冷酷ながら最も賢い一手を打てなかった。
先のにより、光の槍の直撃を受けた小猫の身を案じながら、リアスはどうにかしてこの状況を打破する奇策を練ろうとするが、いくら考えても答えが出ない。否、出たとしても、必ず誰かが死に絶えてしまう危険な策ばかりだ。脳裏を埋め尽くす悪手の群に諦めかけるが、「王」が聞いて呆れる、と自分を叱咤し奮い立たせる。
ーーーそもそも、国境なんて殆ど意味を成さないとはいえ、何故悪魔領の森に彼らが居たのかしら?
チラリ、と後ろを飛ぶ堕天使達を見やる。彼らは既に臨戦態勢のまま奇襲をかけてきた。偶然出会ったリアス達を攻撃したにしては、あまりにも連携が巧み過ぎた。
ーーーもしかしたら、これは私が思っている以上に大きな事態に……ッ!?
一瞬。
分かりもしない事態の裏を読もうとしたリアスは、一秒にも満たない時ではあったが、現状の危険度を忘れ、緊張の糸を切ってしまった。
「リアスッッ!!」
「なっ……!?マスター!!」
戦場において度し難い隙であり、それを見逃す堕天使では無かった。リーダー格の男が待っていたとばかりに、全力で槍を投げつける。その穂先は吸い込まれるようにリアスの頭部、その眉間を穿つ軌道で風を切る。
隣から、愛する下僕たちの声が聞こえた。が、どうした事かそれがひどく遠く聞こえる。
やけに世界が遅い。スローモーションの映像を観ているようだ。周りの木々の動き。風に揺れる若葉の流れ、土に残る自らの足跡さえもハッキリと見える。
ーーーあぁ、死んでしまうのね。
そう思った時、頭に浮かぶのは大好きな家族たちの笑顔で、仲間たちの姿で、友人たちの言葉で。
走馬灯とはこういうものなのかもしれない。死が間近にあるというのに、妙にクリアな思考の片隅で、そんな事を思った。
不健康そうな青白く光る槍が迫ってくる。もはや回避も防御も間に合わない。無防備な急所に、直に光の一撃を喰らえば、いかに上級悪魔といえど即死だろう。
避けられぬ未来を感じ取り、リアスは静かに両目を閉じーーーーーー
『ーーーーーー諦めるには早いぞグレモリー』
瞬間、眼前に迫っていた槍が弾け飛んだ。
イラついたような声と共に飛来した弾丸が、光の一撃を砕いたのだ。リアスがそこまで理解した時、必中の致命打を防がれた堕天使達は、音速を上回る速度で放たれた弾道から、発砲者のおおよその位置を予測していた。
西。
その方角へ顔を向けたリーダー格は、次撃に備え右手に光槍を生み出そうと、
『
刹那の時も無かった。右手に光を収束していた彼の頭が、パンッと小気味良い音と共に四散し、残された首から下の体がぼとりと地に落ちる。
堕天使達は驚愕した。まだ自分達は今の狙撃手の姿すら捉えられていないとはいえ、微塵も気を抜いていなかったというのに、此方に気取られもせずに射抜いてくるのか、と。
その事実に対し、彼らの下した判断は正しかった。瞬時に反転し、その場から一目散に撤退しようとしたのだ。「間合い」の違いが歴然である状況で、まず姿を隠そうとしたその動きは、否定しようもない正当な行動だ。
だが、「彼」の眼にとって、それはあまりにも遅過ぎた。
『ーーー悪いな、射程距離だ』
五キロは軽く離れている地点から、
頭部と心臓を撃ち抜くスナイパーライフルの狙撃。計十八発。
音を切り裂き飛来するそれらは、狙い違わず堕天使達の命を貫いた。
二箇所の急所に風穴を穿たれ、地面に九つの肉塊が落下し、辺りに静寂が訪れる。
リアス達は、長時間疾走していた疲れも忘れ、今の数瞬で起こった閃光のような出来事に惚けていた。
特に、三人の中で最も呆然としていたのはリアスだった。当然だろう。眼と鼻の先にまで襲いかかって来た『死』に絶望し、諦めたと同時に、コレだ。自失するなという方が無理がある。
それ故に、突如として目の前に現れた方陣に「きゃっ!?」と本気で驚いた。
『音声のみで失礼する。此方、ジョルジュ・H・ベルリオーズ。依頼を受け、リアス・グレモリー及びその眷属の救援を行った。……無事か?』
その声は何故か若干機械音声のようにノイズ混じりだったが、それでもまだ年若い男の声だと分かった。
リアスはしばし呆気に取られていたが、すぐに意識を取り戻し返答する。
「ええ、お陰様でね。それで、ベルリオーズ、といったかしら?もう一人、私の眷属悪魔がいて、はぐれてしまったのだけれど………」
『トウジョウコネコだな?グレモリー家の者が身柄の安全を確保している。まあ、とりあえず無事のようだな』
それを聞いて、リアスは心底からホッとした。後ろを見やれば、朱乃も木場も安堵の表情を浮かべている。
ーーーああ、良かった………。
『では、依頼は達成だな。精々戦場で会わない事を祈るとしよう』
「あ、え、ええ。協力感謝するわ」
リアスが言い切るかどうかの時に、方陣は消えた。どうもイラついているような声音だったし、短気なのかもしれない。と、リアスは遙かに離れた場所から正確に射撃を行った彼、ベルリオーズの名を記憶に刻み込む。
ーーーどうやら、純粋な悪魔側ではなかったようだけど……何者なのかしら。
しばし思案するが、答えが出るはずも無く、また現在地が堕天使領だと思い出し、彼女は朱乃達を連れて慌てて駆け出した。
その後、リアスの母、ヴェネラナ・グレモリーと家の者にこっぴどく叱咤されたのは言うまでもない。特に、グレイフィアに関しては、文字通りに「言わずもがな」、である。
◇◇◇◇◇
ベルリオーズはリアス・グレモリーの救援を終えた後、魔界における自身のアジトに使っている廃墟に降り立った。
ここはかつて、悪魔の大都市の一つであったようだが、先の三つ巴の大戦によって更地同然にまで破壊と蹂躙の限りを尽くされており、今や誰の記憶にも残ってはいないような、所謂「死んだ都市」だ。
彼はめくれ上がったアスファルトの路面に気をつけながら、しかと地に両足をつける。ネクストが有する高感度センサーで周囲一帯に生物反応やそれに準ずる存在がいない事を確認し、『神器』の使用をやめる。
眼を覆う不健康そうな緑色の光がその身を包み、一秒とかからずに彼は鉄の体から本体へと姿を変える。そこにいたのは、二十にも満たぬ程に若々しく、しかし数百年以上も生きてきたかのような重厚な貫禄を持つ青年だった。
短い黒髪は所々白髪が混じっており、病的なまでに白い肌とあいまって、雪を頭から被っているようなイメージを抱かせる。
一目で鍛えられていると分かる長身かつ細身な肉体と、まだあどけなさが残る顔立ちはどこかアンバランスで、同時にひどく合致していた。
「さて、明日は約束の金をキッチリ頂いて、アザゼルかミカエル辺りから仕事を貰うとするか」
誰となしに呟いたその声は、平坦でありながら何故かイラついているように聞こえ、油が差されていない錆びついた金属を思わせた。
彼の名は、ジョルジュ・エクトロ・ベルリオーズ。
三大勢力の三つ巴、二天龍の大喧嘩、魔王交代の内紛、各神話戦争。数多くの大戦にて名を轟かせ、様々な陣営からの依頼を、莫大な報酬金と引き換えに完遂する「傭兵」にして、転生者である。
ーーーーーーこれは、ヒトについてのお話だ。
どうだったでしょうか?かつて無い程努力した結果がこの一話です。
御感想、御意見、誤字脱字報告、いつでも受け付けています。まだまだ若輩者ではありますが、どうかよろしくお願いします。
また、私生活が忙しく、またクオリティと文字数を落としたく無いので、更新は遅くなってしまいます。大変申し訳ありませんが、御理解の程………。