・L・「お前にこの二次小説を紹介したのはこの俺さ」
・L・「だが安心しな。すぐにお気に入りさせてやるよ」
そんな大口叩いてみたいですね。
本当は底辺もいいところのカス小説ですので、肩肘張らずにゆったりと読んで頂ければ幸いです。
ちなみに、今回は色々ACネタをぶっこんでいます。
では、どうぞ。
例えば。
今にも死にそうな程に飢え、水を、食物を、栄養を摂取しなければならないような、切羽詰まった危険な状態の時。
目の前に銃があって、弾が装填されてあって、使い方を知っていて。
手脚を縛られて足下に転がっている、自分と同じヒトの生命を撃ち殺せば、生き永らえるとして。
果たして、「君」はその命を殺せるかい?
◇◇◇◇◇
夢を見ていた。
錆びついた断頭台の、悪夢だ。
ジョルジュ・H・ベルリオーズは、毎日午前の五時に起床する。この五時という起床時間は滅多に変わる事は無く、その例外も一年に三回もあれば多い方だ。それぐらい彼は決まった時刻に、決まった起き方で、測られたかのように精密かつ当然の如く意識を覚醒させる。
だが、今日と言うべきか昨夜と言うべきか。今醒めた夢は、彼のそんなルーチンワークを崩した。
ベルリオーズの神器の名は、『
一つしか無い希少な神器なのだが、まだどの勢力にも詳細を知られていない、新進気鋭の神器だ。
その能力は、「体を機械に変える」というモノだ。
とはいっても、どんな機械にでもなれるのかというと、そうでは無い。条件のようなものとして、「形を想像でき、詳細な知識を持ち、映像であれ絵画であれ自身の視覚に捉えたモノ」のみに、姿形を変える事が出来る。ベルリオーズ本人も思っている事だが、すごく面倒でまどろっこしい条件だ。
しかし、彼にとってはこれ以上無い最高の神器だ。彼は俗にいう転生者であり、今や摩耗して久しい前世の記憶の中、未だ色褪せぬ鮮明な記憶があるのだ。
アーマードコア。
ロボットに乗って戦う。そんな単純なゲームだが、その操作性は奥深く、同時に果てが無いと思う程に飽きがこない。ベルリオーズは、このゲームにどっぷりとハマっていたと認識している。どれくらいかというと、コントローラを操る指遣いが気持ち悪過ぎて好意を寄せていた幼馴染に引かれ一週間口を聞いてくれなくなった程だ。ちなみに三日間不貞寝した。
そして、その作品に登場する機体、《ネクスト》と《AC》に関する知識は半端では無いと自負している。代償として大学受験に三度失敗したが、まあ今世には関係の無い汚点だ。まだ若かったという事だろう。
ゲームだけでなく、様々な設定資料を読み漁り、二次創作サイトに投稿されているイラストや小説を眼を皿のようにして網膜に焼き付け、絵心なぞ皆無であるのに、毎日毎日飽きもせずに愛機をスケッチした。今や、装甲のライン、関節部のケーブルの配置、機関部の窪みやアイセンサーの光量さえも一瞬で思い起こせる。
つまり、これほどまでにアーマードコアを愛しているベルリオーズにとって、先の神器発動における条件など、あってないようなモノなのだ。
結果、彼は自身のもう一つの肉体ともいえるネクストと、通常兵器を遙かに凌ぐ性能を誇る武装を自由に生み出し、そして巧みに操る事が出来るようになった。ただーーーある一つの弊害を、その身に受けることで、だが。
その弊害とは、「汚染」だ。
ネクストは、先日彼が行った戦闘から察せられるように、単体でありながら戦略級の力を持つ人型兵器だ。多種多様な武装を換装し、状況に応じてそれらを使い分ける事で、汎用性も他の兵器とは一線を画する。
だが、その莫大な力には、代償がある。ネクストは、「コジマ粒子」という汚染物質を動力源としているのだ。
この粒子は、かつて無い凶悪な汚染力を有している。もしもコレを動力源とするネクストが戦闘機動を十分も行えば、周辺に根付く生命が死に絶える程に。そしてその不毛な大地となった場所は、酷ければ数世紀にも渡っていかなる生命体も生息出来ぬ地獄となる。
ベルリオーズはこの汚染を良しとしなかった。十全たる戦闘機動を行うにはコジマ粒子が必要だ。しかし、それで戦場を一々無生物領域にしたのでは、遅かれ早かれ世界が終わってしまう。ならばどうするか。
彼は、一つの「お願い」をした。転生するにあたって、色々世話をしてくれた自称神という人物に。
数多の言葉を交わしたような気もするのだが、もはや容姿や声音、さらには性別すらも忘れてしまったそのヒトに、『コジマ粒子の汚染力を無くしてくれ』と頼んだのだ。
果たして、その願いは聞き届けられた。尋常ならざるエネルギーをネクストに与える汚染物質は、今や莫大な力を生み出す粒子となっている。
だが、別の汚染が問題だった。
AMSという、ネクストを操るにおいて最重視されるものがある。コレは、「ネクストと繋がれる才能があるか無いか」を示すモノだ。
ネクストは、ただの機械ではない。パイロットは人体改造により、ネクストという兵器と脊髄を介して接続するのだ。これにより、ネクストは他には無い圧倒的な機動力と精密機械のような細かな動きを行えるようになるのだ。
が、このAMSには適性が必要となる。これは先天性で、言ってしまえば才能の有る無しだ。このAMS適性が高ければ高い程、ネクストを自分自身のように容易く操れ、逆に低いと思うように動かす事が出来ない。それだけでは無く、ネクストと接続する際に、激しい痛みが生じるのだ。
更に、ネクストとの接続は、搭乗者にとっては良いか悪いかが分かれる、あるオカルト的なことがある。
自分の心を、覗いているような感覚に陥るのだ。
ネクストと脊髄を通して接続している時、高感度センサーから送られてくる視覚情報だけでなく、
ベルリオーズの場合、戦場の向こう側に、断頭台を見る事がある。
その断頭台は目も当てられない程に錆びついていて、一ミリも動かせないのでは無いかと思ってしまう。が、ベルリオーズが敵の命を屠る時、そのギロチンは目を覚ます。
ギチギチ、ギチギチと軋みをあげながら。耳障りで、頭が痛くなる不快な音を響かせながら。荒れ果てた砂地にポツンと孤独に立つ断頭台の刃が昇っていくのだ。
少しずつ、少しずつ昇っていく刃に比例して、その身にまとわりつく錆がパラパラと剥がれ落ちていき、鈍色に光沢を返す断罪の鋭利なギロチンが、その姿を現す。
やがて最高点まで昇り詰めたそれは、しばらくの間微動だにせずに静止し続けている。だが、ベルリオーズが目標を全て撃破した瞬間。
しゃらん、と。罪人の首を落とすのだ。
0.48秒。ギロチンが落ちるまでの時だ。この僅かな時間を、彼はひどく嫌っていた。
目に映っているのは断頭台だけであり、そこに頭を乗せられた哀れな罪人の姿格好や顔など、ベルリオーズは知る由もない。なのに、その刃が落ちるたびに、脳裏に言いようの無い絶望が吹き荒れるのだ。
短く青い髪に、緑のメッシュが走り、快活かつ怜悧な印象を持つ凛々しい顔立ち。男勝りな雰囲気を持ちながら、年相応の少女らしい微笑みを持つ『
「ーーーッ」
と、そこで。
悪夢の内容を思い出してしまったベルリオーズは、アジトとしている廃墟の地下に造った隠れ家のボロベッドから立ち上がる。四肢が硬直していて、まるで鉛のように重く、指先を動かすのさえ億劫だった。が、このまま何もしないでいると、また夢を思い出してしまいそうで、彼は体に鞭を打った。
朝食は保存食だ。ベッド脇に無造作に放置してあるポリ袋から乾パンを大量に取り出す。寝間着から私服に着替えながら口に放り、まるで石でも食べているかのように、ちっとも美味しくありませんよというようにバリボリと食す。
十メートル四方の狭い部屋に、乾パンを砕く音のみが響き渡る。その音以外は全くの無音で、ベルリオーズの辛気臭い顔もあいまって、とても息苦しい時間が流れる。が、とうの本人は気にした様子も無い。慣れ切っているようだ。
十袋目を開けた所で、彼は部屋の隅に備えてあるデスクトップに向かい、回転椅子にどかりと座る。待機状態のそれを起動させ、ガリガリ食事を続けながら完全起動を待つ。
チラリ。壁に掛けてある時計を見やると、朝の七時。普段の彼からは想像出来ないような遅い起床に、自分自身に舌打ちしながらも着替えを済ます。青と黒を中心とした、明るさと暗さを両立させたカジュアルな若者然とした服装だった。着ている者の人相と雰囲気が台無しにしているが。
さして高くない天井から、裸電球が五つ。四隅と中央にぶら下がっていて、落ち着く茶色の光が薄暗い部屋を明るく照らす。モダン的でありながら、どこかノスタルジーを感じる絶妙な光量とインテリアによって、この地下部屋はベルリオーズにとってもお気に入りのアジトだった。
と、そこで。デスクトップが漸く完全に起動した。低い駆動音と、ファンから風が通る音が耳に心地よく、先の悪夢を忘れさせてくれる。彼は、こういった機械的ないし無機的な音や雰囲気を好ましく思っており、建設中の喧しい作業音すらも子守唄にできるマニアックというか、異常な感性を持っていた。
二十袋目の乾パンを開封し、左手でそれを絶え間無く口に運び、右手は眼前のコンピュータを巧みに操作する。マウスの類は無かった。ベルリオーズ自身の『視線』がその役目を果たすよう改造してあるからだ。
相変わらずの不機嫌そうな表情のまま、硬質な咀嚼音を立てる。それと並行して、右の指が鍵盤を叩くようにキーボードをタイピングし、カタカタと小気味良くシステムを覚醒させていく。
このコンピュータは、傭兵として名を馳せる彼へ寄越された依頼メールが受信、保存、管理されている「仕事用」である。ジョルジュ・H・ベルリオーズの名は、様々な世界の戦場やそれに関わる者達にとっては、金で動いてくれる優秀な尖兵であり、また同時に、明日にも自分達に牙を剥く獰猛で明確な
ベルリオーズは、昨夜から現時点までに送られてきた依頼メールの内、報酬額の0の並びが六つ以下のモノを内容すら読まないで削除する。最低百万から依頼を受け付けるのが彼流だった。
そこからさらに、依頼者への各組織の信用度や見返り。依頼を達成した際のメリット、デメリット、情勢の変化を脳内で細かにシミュレートしながら、受諾価値が無い、或いは低いモノから次々と消していく。
よく間違われるのだが、彼はただ金を積めば雇われてくれる訳ではない。一つの組織から続けて依頼を受けない、というポリシーから分かるように、各陣営の力の拮抗を重視するのだ。
戦力が互角である複数の組織といえば、よく知られているのが悪魔勢、堕天使勢、天使勢だ。ベルリオーズは、かなり昔から傭兵稼業を営んできたが、特にこの三つの陣営に雇われる事が多かった。
三つ巴の戦争も、悪魔勢のクーデターのほとぼりも冷めて久しい。各勢力は、疲弊した戦力を減らさぬよう注意しながら、各地で小競り合いを繰り返していた。
しかし、ちょっとしたぶつかり合いでも、戦死者が出る事や、何かしらの施設や街が壊滅する時だってある。そういった『小競り合いの範疇を超えた』モノに対して、ベルリオーズは動くのだ。
さて、ある程度依頼を絞れた段階で。今度は依頼内容の確認を行う。絞り込めたのは五件。堕天使から一件、教会から一件、須弥山から一件。新興勢力から二件。
まず、滅多に依頼をしてこない須弥山から確認してみる事にした。『逃走者追撃』とタイトルにあり、その下の発信者の名前を見やる。何と、須弥山トップの帝釈天だった。
ーーーあの狸野郎が、わざわざてめぇで依頼を寄越すとはな。裏があると見るべきか………。
少しの間逡巡したが、やがて彼はその依頼メールを開いた。
すると、都会を遊び回ってそうな若い青年の、ふざけた軽い雰囲気の声が流れる。録音メールだ。
『ーーーーーーあ、あー、あーあー。よう
ベルリオーズが生業としている傭兵に対して、最大の皮肉を込めて言われる蔑称だ。何の目的も無く、ただ金の為だけに戦う狂者ーーーという意味らしいが、実際の所そんな「金の亡者」は傭兵の中でもそうそういない。無論、ベルリオーズはそんな拝金主義のようなふざけた感性は持ち合わせていない。
つまりどういう事かと言うと、単なる帝釈天の嫌がらせや冷やかしの類として、そう呼称しているだけだ。言われている本人は大して気にしていないが、『金狂い』などという不名誉な異名をつけられていい気はしないだろう。
意趣返しとして、彼は帝釈天を『モンキー』と呼んでいたのだが、闘戦勝仏と被る為、今現在は『
『依頼内容はたーんじゅーんめーいかーい。
ーーー最初から手早く始末すれば良かっただろうが。
帝釈天の軽薄な行動と判断に呆れるベルリオーズ。几帳面や合理主義者に近い思考を持つ彼は、こんな奴がトップでいいのか須弥山、とぼやきながら、三十袋目となる乾パンを開封する。
『とまぁ、そんなワケだ。よろしく頼むZE☆認めたかねぇがてめぇの実力は確かだっつーのは俺らの総意だ。金は五千万でいいだろ?じゃ、いい返事を待ってるからYO!HAHAH、』
最後まで聞かずに通信を切る。帝釈天の耳に残るあの高笑いが苦手なのだ。
彼はデスクトップを操作し、二通目を閲覧する。堕天使からだ。
『こちら
皮肉と共に始まったそれの差出人は、堕天使最大勢力『神の子を見張る者』の第二位。副総督の座につき、親玉であるアザゼルから最も信頼され、数々の策謀と知略を張り巡らす参謀、シェムハザだった。
先日、というのは言うまでもなく、昨日のリアス・グレモリー救援の際に射殺した十人の事だろう。『お前のせいで人員減ったんだから働け』と、言外に告げている。
『今回貴方に受けて頂きたいのはら
その言葉と同時に画面に幾つかの画像とデータ、及び映像が映しだされる。
やや色素の薄い長髪を後ろで縛り、背が高く、活発そうな顔立ちの青年の全体像。袖口が広い変わった白いローブを着ている。
データは過去の戦績と詳しい内容を。映像は、どうやら戦闘記録のようだ。
中々古参の天使らしく、だいぶ昔の話のようだが、数十体ものドラゴンを一度に相手取り、その全てを封印したり、過去に何度か魔王を屠っているとデータにはあった。本当だとしたら、かなりの実力者だ。下手をすれば、戦闘力だけなら四大熾天使にさえ匹敵しうるかもしれない。
映像は、ドラゴンとの戦闘時を収めたモノのようだ。ベルリオーズは、アポリュオンのその動きをつぶさに観察する。たとえ依頼を拒否したとしても、どこかの戦場で相対する可能性もあるのだ。またと無い有益かつ貴重な情報であるに間違いない。
アポリュオンは、鎖を武器とする武闘派のようだ。眩く白光を放つそれを自身の手足のように精妙に手繰り、鎖のどこからでも放出できる光弾でもって遠距離の敵にも対応する。オールラウンダーとしての戦法の一つ、それを完成させたその動きは、なるほど魔王を倒したというのも頷ける。
ドラゴンの最後の一体、その頭部を鎖の殴打で跡形も無く吹き飛ばし、そこで映像は終了した。
『ーーーーーーご覧の通り、生半な戦力ではまともな戦いすらできぬ強者です。そしてその強者である彼が、ここ最近天界の尖兵として人間界の我々の同胞を次々と屠っており、その被害は拡大の一途を辿っており、これ以上は看過できません。が、先も言ったように、半端な部隊を派遣したのではイタズラに数を減らすばかりとなってしまいます』
淡々と述べるシェムハザだが、ベルリオーズはその声音にやや疲れとやつれがあるのを感じ取った。どうやらアポリュオンの攻勢に本当に困っているようだ。
ーーーアザゼルも大変だな、ロクに研究も出来ないで。
内心で旧知の仲である堕天使総督に同情を抱きながら、四十袋目の乾パンを開ける。食い過ぎだとは思わないのだろうか。
『そこで我々は、下手に部隊を編成ないし幹部を派遣するよりも、貴方にこの件を解決して頂いた方が手っ取り早く、そして確実だと判断しました。アポリュオンの現在位置は突き止めています。後は、討滅するのみであります。ーーー充分な見返りもあり、堕天使総督アザゼルとの繋がりを強める好機です。そちらにとっても、悪い話では無いと思いますが?』
最後の方はやや鼻で笑ったような口調で、メールは終了した。報酬金額は、九千五百万と表示されている。
ーーーま、確かに充分な額だな。
しかし何かムカつく言い方だったな、俺だけにか?と首を捻りながら、ベルリオーズは三通目の依頼を開く。今度は人間からだった。
「………カトリック、か」
依頼者はグリゼルダ・クァルタ。各勢力に名を知られる実力派エクソシストで、彼自身も何度か交流がある女性だ。
彼はいつの間にか開いていた六十袋目の乾パンを以下略。久方ぶりに聞く知人の声に耳を傾ける。
『ご機嫌よう、ベルリオーズ。お久しぶりですね』
丁寧な口調で、物腰柔らかなその態度は清楚で瀟洒な印象を抱かせるが、ベルリオーズは彼女の戦闘力をよく知っている為、それを丸々と受け入れる事は出来なかった。
『早速ですが、貴方に受けて頂きたい仕事があります。報酬金額は八千万と、聖剣アルマッスを提供します。では、概要を説明しましょう』
アルマッス。シャルルマーニュ十二勇士の一人が所持していた聖剣で、刀身が氷の如く滑らかで、斬られたモノは水のように抵抗なくするりと両断されると噂される、そこそこ名の知れた剣だ。
正直なところ、ベルリオーズにとって欲しくは無い代物だが、持っていて損はない。悪い話ではないようだ。
『目的は、イタリアの辺境にある修道院を襲撃した
そう言った嫋やかな彼女の声には、ありありと怒りがあった。もしかしたら知り合いがいたのかもしれないな、と。ベルリオーズはその程度にしか思わなかったが。
『また、今回の任務にはこちらから同行者を随伴させます。少々世間知らずな子ですが、実力は申し分ありません。座標を送りますので、現地にて合流してください。ーーー我々カトリックは、貴方を高く評価しています。良き返事を期待していますね』
それで、メールは終わりだった。
随伴者というのは気になったが、わざわざ同行させるぐらいなのだから、素人では無いだろうと推測する。ベルリオーズはカトリックに知り合いを多く持つので、もしかしたら再会する者もいるかもしれない、と思いながら、四通目を開いた。
◇◇◇◇◇
四通目と五通目は、魔法使いと錬金術師からだったが、それらは拒否した。内容と報酬も悪くなかったのだが、先の三件と比べると、どうしても見劣りしてしまうからだ。
「さて、と………」
そう息を吐きながら、ベルリオーズは椅子から立ち上がる。須弥山か、堕天使か、カトリックか。
実のところ、彼の中では答えは出ていたりする。しかし、傭兵としての矜恃から、その考えをつい抑え込んでしまう。
どれくらいの時だろうか。しばらくの間立ち上がった姿勢のまま悩んでいた彼だったが、決心したように「よし」と呟く。
ーーーたまにはイイかな。
「今日の受諾依頼はーーーーーー」
地下の隠れ家から、地上の廃墟まで転移し、目一杯伸びと深呼吸をし、新鮮な空気を体内に取り込む。
冥界の空は今日も紫や蒼、錆色に光り輝いていて、極彩色の曇天はある種の幻想的な美しさすらある。この空を、ベルリオーズは嫌っていなかった。
彼は、耳にイヤホンを差し込み、お気に入りの思想歌を流す。とある臆病者を謳ったこの歌は、あまり趣味や嗜好を持たないベルリオーズの耳にもすんなりと浸透し、鼻歌さえ唄う程であった。
『「ーーーーーー
ーーー
ーーー
ーーー
ーーー
ーーー
イヤホン越しに聴こえるその歌を口ずさみながら、彼は神器を発動する。
ーーー
深海に沈んでいくような、唯々膨大な力に呑まれていくような感覚と、ネクストと脊髄と電流とAMSを介して接続する高揚と、痺れる程に狂おしい不可思議な快感と愉悦の荒波。それら全てを気にもかけずに流しながら、彼は脳内でイメージを膨らます。
夜を切り取ったかの如き漆黒のカラーリングに、地を高速で動き回り、敵をひたすら一方的に翻弄し撃滅させていく、あの細身の洗練された機体を。
「ーーー《アリーヤ》」
その名を呼ぶと同時に、彼の体が不健康そうな緑色の光に包まれ、次の瞬間には
冥府にいるものとは趣を大きく異なるそれは、闇よりもなお黒いカラダと、劔や槍の穂先のように鋭く、尖った先鋭的なフォルムと、細いながらも研ぎ澄まされた刃のような四肢を持つ体躯は、しかし尋常ならざる力を秘めている。
右手に051ANNR《アンナ》。ベーシックな標準型ライフルであり、角張ったデザインと外付けのスコープが特徴的で、最高クラスの弾速と命中精度を誇る、傑作の部類にあるベルリオーズ愛用の一品である。
左手には昨日の冥府にて使用した04-MARVE《マーヴ》。銃身下部に剣のように備えられている鋭いパーツが目を引き、そしてそれは突撃型ライフルとしてのこのマーヴの空気抵抗を減少させ、近接射撃における重要な速射性を高めている。
右肩にはカノン砲、OGOTO《雄琴》。弾速も射撃精度も低いが、広い範囲をその圧倒的な火力で吹き飛ばす絶大な破壊力を有する、この機体の主砲ともいえるグレネードだ。
それらの武装を身につけ、戦場を駆けるその機体は、03-AALIYAH《アリーヤ》。《オーギル》と並んで、ベルリオーズが最も使用する頻度の高いネクストで、そのコンセプトは超高速近接戦闘であり、高出力のジェネレータによってそれを可能にしている。軽量型、中量型、重量型と区別されているカテゴリーの内、アリーヤは中量型に属する。
しかしその速度は軽量型と同等といって遜色なく、そして代償としてエネルギー消費が激しい。その為、必然的に瞬発力を生かした地上戦をメインに戦闘する事になる。
本来ネクストは、十メートルを越す巨大な兵器なのだが、神器としてのコレは、ベルリオーズ本来の身長よりも三十センチ程高い2メートルと少し程度にサイズが収まっている。恐らくは、
電光掲示板のような、無機的かつ奇抜な複眼状のセンサーに光が灯り、低く駆動音を立ててアリーヤが起動する。
周囲を、かつては汚染物質であったコジマ粒子が乱れ飛び、その中心にて空を見上げるネクストは、何故か翼を藻がれた鴉のようにも見えた。
ゆるやかにその漆黒が飛翔する。橙色のアイセンサーの光が尾を引き、両脚が地から離れ、鋼鉄の巨人が極彩色の曇天に浮かび上がる。
「ーーー機体状況良好。システム、オールグリーン………」
コマンドを送り、オーバード・ブーストを起動。目標は、上空の灰雲。その先ーーー人間界だ。
「………ミッション開始!」
瞬間、《アリーヤ》は音速の壁をやすやすと突破し、遙かに遠いその場所へ向かって飛翔した。
後には吹き荒れた風と、それによって舞い上がった瓦礫と砂埃のみがあった。
◇◇◇◇◇Sound Only◇◇◇◇◇
「よおシェムハザ。奴は受けたか?」
「アザゼルですか………どうやら、嫌われたようです」
「あーマジか。じゃあアポリュオンは鬱憤が溜まってるコカビエルにでもやらせるか?」
「いい考えですね。一応他の者にも聞いてみますか」
「ああ、頼むぜ。……ところで、聞いたか?」
「うん?どうしました?」
「何でも、『最近妙な動きがある集団が
「どういう事ですか?」
「ああ、名前だけは調べられたんだが、どうも嫌な予感がする。気をつけてくれよ、シェムハザ」
「分かりました、留意しましょう。して、その集団の名は?」
「……そいつらの名前、どうやらーーーーーー」
ーーーーーーORCA旅団、つーらしいぜ。
いかがでしたか?御感想、御意見、その他、お待ちしております。