ハイスクールD×D 〜錆びついた断頭台〜   作:まるきゅー

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興「よく来てくれた。感謝するぞ」

第三話です。これ原作まで長すぎやしませんかね?
今回はアノ反動家の方々が駄弁ってますよ。暇なんでしょうね。

では、どうぞ。


Chapter1-3 Fervidor 28

我思う、故に我あり。

 

どこかの哲学者の言葉だ。

 

例えばの話だが、今「君」の目の前に絵画があるとしよう。だが、果たしてそれは本当にそこにあるのか?そして、それを証明する事は出来るのか?ーーー否、出来るはずが無い。

 

もしも私が同じ絵画を見たとしても、君と全く同じ存在を眺めているとは言えないし、証明出来ない。見てきた色や経験した形に、物質の定義がそれぞれ違うからだ。

 

そう考えると、この世のモノは、本当に存在するのか?ひょっとしたら、この世は何も無い、空虚(・・)な静寂しか無いのではないか。

 

………そう、思い至ったかかい?

 

だが、ならば。今この思考を行っているのは君だ。君のみの思考だ。そしてそれは、この欺瞞と幻想でしか無い世界において、唯一確実な『存在証明』だ。

 

だからーーー我思う、故に我あり、というのさ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

ベルリオーズは、好意を抱いている女性がいる。

 

彼は自身のその想いを、「恋愛や愛情は仕事の邪魔にしかならない」として、決して外に出そうとしないが、それは即ちその女性への熱情が彼の心を焦がしている事を意味している。

 

ベルリオーズが恋をしているのは、まだ年端もいかぬ少女だ。

 

何故好きになったのかは本人にも分からない。ただ、ふと気がついたら、その少女を強く求めている自分を認識するのだ。

 

少女の名は、ゼノヴィアという。

 

初対面は、教会からの依頼でだった。デュリオ・ジュズアルド、グリゼルダ・クァルタ、ジークフリート、他数名の名だたるエクソシストとの協働任務で、二組の上級悪魔とその眷属をの殲滅を行う大規模なものだった。

 

当時まだ八歳だったゼノヴィアと、傭兵として既に完成されていたベルリオーズは、その作戦を機に親しくなった。

 

ベルリオーズの数少ない友人であるデュリオ・ジュズアルドに、幼い彼女の話し相手や戦闘中の世話を任されたのが始まりだ。

 

「もう、二年。いや三年か」

 

案外早く時が経ったな。そう呟きながら、彼は先ほど入った人間界の上空を飛翔している。

 

眼下には真っ白な厚雲が視界一杯に広がっており、世界が純白で塗り潰されたかのような錯覚すら覚える。

 

ふと、顔を上げてみた。

 

雲の上を飛んでいる為、遮るモノの無い真っさらな空は、冥界のそれとは違った趣きがある。

 

時刻は夕暮れから夜に変わる頃で、黄昏に染まった西の空と、それを追いかけている薄闇の東の空。二つの色に世界が覆われていて、見る者を魅了するような絶世の美しさを醸し出している。

 

それでいて、その二つの空は互いを喰らう事なく、横一線の境界によって均衡を保っており、綺麗に、妙理に、これ以上無いほどに分かれている。

 

別々の世界を割って、その中からカチリと嵌まるモノのみを、パズルのように合わして構成されているような、そんな清澄な空なのだと言われても、心から納得出来る程に美麗で端麗な、雲上の世界だ。

 

ーーー人間界にも、まだこんな場所があったか。

 

巡航モードでオーバード・ブーストを発動している為、本来のスピードよりも遥かに遅い状態での飛翔だったが、思いもよらぬ幻想風景を見られた事は運がいい。そんな、新たな秘密基地を作った子供のような笑みを浮かべるベルリオーズ。

 

「……おっと、そろそろか」

 

目的地の上空付近にまで来ている事を確認し、オーバード・ブーストを解除。機体に施しているステルスが正常に起動している事も認識する。

 

衛星対策の為の機構であるこのステルスは、本来ネクストには存在しないモノだが、ベルリオーズの手によって開発された隠蔽機能だ。

 

ブーストの推進力を失い、《アリーヤ》がゆっくりと高度を下げていき、やがて目の前が真っ白に染まる。雲の中に潜ったのだ。

 

と、そこで。下から上へと流れていく視界の中、ベルリオーズは高感度センサーに反応が現れたのを知覚した。

 

ーーー鳥………よりは大きいが、飛行機や戦闘機のようでも無いな。

 

それは、アリーヤの飛行速度に比べれば些か以上に劣るものの、並の鳥類などよりも遙かに速くこちらに接近していた。

 

ベルリオーズはセンサーに意識を傾け、段々と近づいてくるそれの情報を収集し、読み取っていく。

 

数は五。いずれも北側から接近。サイズはおよそ人間て同等。それともう一つーーーーーー異質なオーラを放つ物体の所持の可能性アリ。

 

ーーー奴ら(・・)か!

 

ベルリオーズは、瞬時にネクストとのリンク深度をコンバットレベルにまで上げる。それと比例して巡航状態とは比べ物にならない情報量が流れ込むが、彼はその中から戦闘機動に必要な情報と、そうでない情報に分ける。

 

ここで、《ネクスト》という兵器について説明しよう。

 

先も言ったように、この人型汎用兵器は、AMSーーーアレゴリー・マニピュレート・システムーーーと呼ばれる統合制御体と、パイロットの脳を繋げ(リンク)させる事で、他とは一線を画する能力を得る。

 

搭乗者が脳内でイメージした動きを機体レベルで再現し、従来のレバーやペダル、細かなボタンやコンソール操作とら比較にならない機動力を発揮出来るようになるのだ。

 

それと同時に、機体はAMSによっつ高度な姿勢制御を有する。クイック・ブーストという音速の壁を越える、瞬間移動に等しい激しい動きに人型兵器であるネクストが耐えられるのも、この力があるからである。

 

また、その姿勢制御や機体が受け取った情報ーーー先のベルリオーズのように、周囲の物質や風向き、熱量、音響、光量、電気量、さらには機体が負ったダメージなどーーーも全て、AMSを介してパイロットの脳に流れ込む。

 

本来はコンピュータが受け取るべき情報量と質であり、人間の脳が処理しきれるモノでは無いのだが、ごく稀に、その情報の荒波に耐えうる脳を持つ者が存在する。

 

それが、AMS適性だ。

 

この適性には高低差があり、これがより高ければ、情報のフィードバックにも易々と耐え、逆に低ければ甚大なストレスと悪影響を被る上に、時として廃人にさえなる。

 

これが、ネクストが通常兵器を大きく上回る単体戦闘力を有する所以だ。

 

圧倒的な破壊力、制圧力、殲滅力、瞬間火力を誇る武装を状況に応じて換装し、AMSによって神懸かり的な機動力を手に入れた、まさしく『戦場の支配者』。遥かに遠い次代から現れたかのような力の化身。

 

それが、《アーマード・コア・ネクスト》なのだ。

 

そして、ジョルジュ・H・ベルリオーズだがーーーーーー。

 

彼のAMS適性は、無い(・・)

 

だが、現実として確かに彼はネクストを操っており、そしてその動きはハイレベルな適性を持つ者でさえ軽々と上回る程に洗練されており、ネクストを文字通り意のままに操作している。

 

ネクストを操るには適性が必要であり、しかしベルリオーズにはその適性が無い。この矛盾を、彼はどのようにして崩したのか。それは、神器の能力にある。

 

彼の神器『繋がりの接続(リンク・コネクト)』は、自らを機械に変える能力だ。勘の良い者ならばもう察しがつくだろう。

 

ベルリオーズは、ネクストのパイロットではない(・・・・)。ネクストそのもの(・・・・)なのだ。

 

故に、彼は適性を持たずに、ネクストを操る事が出来るのだ。それも、まさしく『自分の体』として、『機械の体』として。

 

そしてそれによって、例え高い適性を持っている者でさえも耐えきれぬ情報と挙動を、全て、余すところ無く処理出来るのだ。

 

その戦闘力は、神魔霊獣が跋扈するこの世界においても、トップクラスと言える程に圧倒的だ。

 

「……来るか!」

 

雲中を抜けた瞬間に、それ(・・)はきた。

 

ベルリオーズが手繰るアリーヤのような薄暗い漆黒に染め抜かれたローブを羽織り、手には人の首を容易く断ち切れる巨大な鎌を持ち、全身から不気味なオーラを隠す事無く晒す神の者達。

 

死神(グリム・リッパー)ーーーわざわざ人間界まで追ってくるか、暇人共め」

 

接近してきたのは、五人の上級死神だった。赫赫とした鋭利な両眼をひたとベルリオーズに固定し、今にも襲いかからんと大鎌を構えている。

 

ベルリオーズは、その場でホバリングしながら、ゆっくりと思考を『戦闘』へと切り替える。

 

昨日、ベルリオーズはリアス・グレモリー救援の前に、悪魔勢からある依頼を受けていた。ーーー最上級死神ネルガルの殺害、という依頼を。

 

ネルガルは、最上級死神の中でも特に技術方面に優れ、数々の術式や発明を開発してきた異質な死神で、先日ある研究を完成させたらしい。

 

『冥府に送られてくる魂を、死神として転生させる』というその研究は、ただでさえ強大なハーデス勢力のさらなる拡大に繋がると危惧され、悪魔勢は開発者たるネルガルの抹殺を依頼し、そしてベルリオーズはそれを完遂したのだ。

 

彼が冥府で死神の群れに追い回されていたのも、それが原因である。

 

「ジョルジュ・H・ベルリオーズ……だな?」

 

と、上級死神の一人が声を発した。

 

ベルリオーズは、応答の代わりに両のライフル、《アンナ》と《マーヴ》をゆるやかに構える事で、肯定の意を伝える。

 

「ネルガル様を滅した罪、清算してもらうぞ」

 

その意を受け取った五人は、ベルリオーズを取り囲むように円陣の形を取る。

 

ーーーグリゼルダから指定された合流時間まであと五分………急ぐか。

 

「予定外だが、仕方ない。傭兵をやっているんだ、恨まれている自覚もあるーーーーーー」

 

前後左右にばらけた死神達の位置を確認しながら、彼は嘯くようにそう言った。

 

頭部の複眼状のアイセンサーが、低い重厚な駆動音を立てながら、山吹色の光を灯す。

 

「ーーーだが、復讐に付き合うつもりは無い」

 

全身にコマンドを送り、ありとあらゆるシステムを戦闘機動に最適化するように起動、調整を刹那の時に行い、完了させる。

 

火器官制制御、良好。

 

アクチュエータ、反動抑制、姿勢制御、正常。

 

コジマ粒子、安定。

 

システム、オールグリーン。

 

「………さあ、獲物がどちらか教えてやろうか」

 

瞬間、五人と一機が躍動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クイック・ブースト。

 

ベルリオーズは、会敵直後に前方の目標に向かって、音速の域に軽々と到達する電撃的な速さで接近していた。

 

瞬間移動とさえ揶揄される程のその瞬発に、たかが(・・・)上級死神程度では、視認さえ不可能だった。

 

「まず、一人目」

 

ベルリオーズは、左手に握る突撃型ライフル《マーヴ》の、その銃身下部に備えられている剣の如きそれを、まさしく一本の銃剣のようにして、眼前の死神の頭部に突き立てた。

 

骨を砕き、ひしゃげ、風穴を開けたその刺突は、死神の鼻っ柱から後頭部までを一直線に穿ち切っていた。

 

次手。

 

ベルリオーズは《マーヴ》を引き抜き、背後に振り返る。その頃になって漸く、他の四人は仲間が一人散った事を把握した。

 

クイック・ブーストのあまりの瞬発力に、戸惑いを隠せていない彼らは、ベルリオーズにとっては単なる『的』以外の何物でも無かった。

 

右肩のグレネードキャノン、《雄琴》を展開し、その長大なロングバレルを外気に晒す。折り畳まれていた状態からは想像もつかないほどに堂々としたそれの銃口は、真っ直ぐに()を狙い定めていた。

 

ベルリオーズは、躊躇う事無く撃ち放った。

 

軍事要塞の特殊装甲さえ易々と抉る徹甲榴弾が、死神の胴体に着弾。その全身を木端微塵に打ち砕き、さらに近くにいた二人の死神さえも、爆風のみで半身を消し飛ばした。

 

「なん、だ、と……!? ば、馬鹿なッ! 一人の、たった一人の傭兵如きに、我々が!」

 

瞬く間に五対一から、一対一にまで数を減らされた最後の一人は、信じられないというように震えた声を上げる。

 

しかし、それに一々反応するベルリオーズではない。彼は右の標準型ライフル《アンナ》の銃口を残った一人に向けた。

 

「クソ………クソクソクソクソォォオォオオオ!!」

 

自棄になったような叫び声と共に、死神が抗いを見せた。

 

その異常な程に巨大な大鎌を上段に大きく振り上げ、渾身の一擲を放った。

 

空間を裂いて放たれた斬撃は、空を文字通り切り裂きながら突き進み、ベルリオーズの首を落とす軌道を高速で滑り往く。

 

だが、攻撃の対象たるベルリオーズは全く動じず、そのままその斬撃を真っ正面から見据える。斬撃は真っ直ぐに彼の首へと吸い込まれていき………、

 

 

 

当たる事無く霧散した。

 

 

 

「なっ……!?」

 

プライマル・アーマーという機構がある。

 

これはネクストに備えられた常軌を逸する防御機構で、その絶大な防御力は単騎兵器としての常識を上回る。

 

その原理は、コジマ粒子を安定還流させ、機体周囲に球場のバリアとして形成する事で、並大抵の攻撃では崩せない防御フィールドを生み出すモノだ。

 

貫通力の高い一撃か、粒子が安定還流出来ぬ程の連続的な攻撃によってしか剥がれぬこれは、上級死神程度の斬撃では徹す事は不可能だ。

 

ーーーわざわざ喰らってやったが………上級死神とはいってもこの程度か。

 

最後の抵抗が、想像よりも呆気ない一撃であった為か、落胆の感情を抱きながら、ベルリオーズはトドメの弾丸を放った。

 

それは空気に真空の穴を穿ちながら、茫然自失となった死神の眉間に真っ直ぐに放たれーーー、

 

「………許しは請わん。恨めよ」

 

ーーーそのまま、髑髏を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

決着から五分後。

 

ベルリオーズはグリゼルダからの依頼メールに添付されていた座標、即ちカトリック教会が派遣した同行者との合流場所へと降り立った。

 

そこは、骨のように細く萎びた木々が、所狭しと群生する異様な森林だった。その病的な程に細長く、指で弾いただけでへし折れそうな樹木は、ベルリオーズの知識には無い。恐らくは、悪戯妖精(アンシーリーコート)が放つ、いわば『負のオーラ』の影響だろう。

 

ザワザワと風によって雑音を奏でる葉と、どこからか聞こえてくる獣の遠吠えに、周辺どころか森全体を包み込む深い濃霧もあいまって、どこかの魔地に迷い込んでしまったかのようにさえ思える。

 

ーーー予想以上に瘴気が強い。だが、並の妖精じゃこれ程の悪影響を周辺に及ぼす事は不可能……と、なると………やはり、『黒犬』ブラックドッグが主力となっていると見るべきか。

 

気を引き締めながら、ベルリオーズは周囲の状況をサーチする。音響、熱源、光学、それらを駆使して、近くの生体反応の数とおおよその種族を調査する。

 

反応は六つあった。二つは落ち葉に潜んでいる小さな昆虫で、さらに二つは、木の上に安全地帯を見出して羽根を休めている渡り鳥。そして残りの二つは、獲物を求めて彷徨う血に飢えた野犬と、少し離れた場所の岩陰に体を預けている人間。

 

野犬は、ベルリオーズから見て左側の、およそ二十メートル程離れた木から顔をのぞかせ彼を見据えており、今にも喉笛を噛みちぎらんと、その四脚に強靭な力を漲らせている。

 

狙われている当の彼は、しかしそちらを見もせずにただ手に持つ《マーヴ》を野犬に当たらないように出鱈目に乱射する。

 

突然の火薬と薬莢の嵐に度肝を抜かされた野犬は、子犬のような悲鳴を上げながら一目散に逃げていった。

 

「………やれやれ、悪者を退治しにきたってのに、これじゃ俺がそちら側じゃないか」

 

そう呟きながら、ベルリオーズは同行者の元に歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

同時刻。

 

堕天使の主要軍事施設『ルキフェル』。その地下に存在する「次世代型VRトレーニング試験運用第二演習場」、通称「二型演習場」に、コカビエルはいた。

 

ルキフェルは堕天使領の中心部にある軍事施設で、その目的は上層部の技術者ーーーアザゼルやシェムハザを筆頭とするーーー達の研究の実験や試験運用を行う為に建設された施設だ。

 

その軍事施設内部で、最も広い部屋がここ、「二型演習場」である。

 

縦三千メートル、横千メートル、高さ五百メートルという広大な面積を誇るこの演習場は、アザゼルとシェムハザの協働で作られた新型のVRプログラムによる擬似実戦訓練の試験運用中であり、そのスペックを、堕天使最大組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部であるコカビエルが直に体験する事で測っているのである。

 

演習場は、最初は何もないまっさらな空間だ。しかし、一度使用者の合図が送られれば、一瞬で世界各地の様々な地形や風景、状況、天候、特色を完全に再現し、予めセッティングされたホログラフの仮想エネミーを指定された通りに出現させる。

 

「………ふん、神器にばかり偏執していると思っていたが、まあ、少しは働いているようだ」

 

ここ最近の古き仲間にして上司であるアザゼルの神器への異常な探究心に、些か以上に腹立たしい思いを感じていたコカビエルは、このVRプログラムを目の当たりにし、内心ホッとしていた。

 

ーーーまぁ、どうせヤツの妄執じみた研究者魂は今に始まった事じゃない。一々憤慨するのも面倒だ。

 

十枚の黒翼を有する堕天使は、静かに瞠目し、段々と心を落ち着かせていく。

 

戦場において最も忌避されるべきは、集中を途切らせ、平静を失い、怒りや単調な感情のまま、思慮浅く攻防する事である。と、コカビエルは三つ巴の大戦を生き延び、そう確信していた。

 

彼の中では、怒りというイメージは確固たるものとしてその心中にある。それは、炸薬だ。

 

怒りは炎ではない。炸薬であると、コカビエルは理解していた。

 

身を内から煮えたぎらせ、狂おしい程に荒れ狂う激怒の感情を、更なる強靭な意思で飼い慣らし、そして然るべき時に(・・・・・・)爆裂させるのだ。

 

戦いにおいて激情家や単純だと思われがちなコカビエルだが、その実戦闘中の彼の思考は驚く程にクリアなのだ。

 

やがて彼は、すっと目を開き、後ろに無造作に撫でつけた髪と同色の翼をはためかせ、宙に浮き上がり、プログラムを起動させる。

 

「システム・スタート」

 

瞬間、演習場の景色がグニャリと歪み、数秒後には遙かに青い蒼穹の空の真っ只中を形作った。

 

そして、コカビエルから遠く離れた地点に、先ほどまではいなかった存在がある。

 

彼と同じ十枚の翼を持ち、しかしその色は何者にも穢せぬ天上の純白であり、その麗しき美顔の上には光り輝く光輪が浮かんでいる。

 

真っ白いローブを着た彼らの姿は、例え人外の世界に生きぬ一般人でさえこう呼称するだろうーーーーーー天使と。

 

その天使は、十人いた。皆一様に莫大な力を秘めた重圧をコカビエルに向けて発しており、その力は上位天使を越え、『熾天使』にさえ及ぶやもしれぬ程である。VRプログラムにコカビエルが設定した、仮想エネミーだ。

 

「ふん………これぐらいは楽々と倒せねば、来るべき再戦では早々に死んでしまうからな」

 

首を鳴らしながら、コカビエルはその十の羽根にオーラを集中させる。

 

彼我の距離は二kmはあるが、彼にとってそこは「間合い」だ。刹那の時もあれば、容易く消し飛ばせる。

 

コカビエルと対峙する十人もの上位天使は、出方を窺っているのか中々攻め気ではないようだ。好都合、と彼はにやりと笑う。

 

ーーー少々、時間がかかるからな、此方も。

 

体中の全オーラを翼に集中させ、研ぎ澄まし、そしてそれを爆発させ、一瞬で目標へ接敵するコカビエルの強襲戦法だ。

 

「さて………そろそろか、なッ!!」

 

頃合いと見たのか、十枚の黒翼を鞭のようにしならせ、コカビエルが消えた。

 

次の時には、彼はすでに両手に光槍を生み出しており、まるで中世の騎士よろしく突進しながら、その穂先を二人の天使の胴体に突き刺していた。

 

それだけでは止まらない。すぐに槍を霧散させ、新たに手に握る。今度は剣の形で、だが。

 

上位天使達は、一塊りになっていたのが仇になった。仲間が密集する地点では、満足に力を振るえず、しかしコカビエルは一人であるが故に、彼の目に映る者は全て、打ち砕き排除すべき敵なのだ。

 

「ーーー破ッッッ!!!」

 

黒翼さえも刃状にさせ、計十二の斬線が宙を奔った。

 

間一髪、その軌道から逃れたのは僅かに三人。それ以外の五人は、コカビエルのその強襲をまともに認識すら出来ずに、光と翼の刃に細切れに分解された。

 

「………なんだ、この程度か」

 

拍子抜けといった風に呟き、コカビエルは頭を振る。その様は明らかな侮蔑と嘲笑が含まれており、そしてその挑発は効果覿面だった。

 

一度は距離をとった三人が、下から、前から、上から。三方向からそれぞれに光槍を手に持ち、瞬速の鋭さでもって突き出す。

 

それを、コカビエルは読んでいた。

 

極々僅かな挙動と受け流しのみでその三撃を容易く無効化し、近接の間合いに入った獲物を、その血のように赤く染まった両眼でぎらりと睨む。

 

「容易いな、読めすぎるぞ!!」

 

須臾の間さえあったかも分からぬ程の速さでコカビエルが躍動し、その黒翼の羽根一つ一つが鋭利なナイフとなって、小規模な刃の竜巻となって回転した。

 

嵐のような戦闘が終わり、しかしコカビエルは全くの無傷であった。

 

「………ふん、つまらぬ。ーーーシステム・シャットダウン」

 

プログラム終了の合図を出し、風景を元の殺伐とした何も無い白壁の演習場に戻す。

 

調子を確かめるように手首を鳴らし、ゆっくりと地におりていく彼は、そこで入り口の扉に寄りかかって、此方を、正確には今の戦闘を観察していた人物を確認した。

 

シェムハザ。

 

堕天使副総督であり、立場上は彼もまたコカビエルの上司にあたるのだが、しかし幹部陣以上の者達の間では上下関係など、形骸化して久しいので誰もそんな事を気にしない。

 

ーーー以前よりも成長している。

 

内心、コカビエルの強化ぶりに舌を巻いていたシェムハザは、表情にはおくびにも出さずに感嘆する。

 

「上位天使十人をものの数秒ですか………また、一段と強くなったのでは?コカビエル」

 

「御託はいい。さっさと性能の良悪を定めるぞ」

 

飛翔し、シェムハザの前に降り立った彼は、今の模擬戦の目的である試験運用の成果を吟味しようとする。早急なその態度は、せっかちというよりは「力のつく動作以外はしたくない」という、根っからの武人気質を感じられる。

 

そんな彼に、シェムハザは指を軽く振り、召喚させた一つのファイルを手渡す。

 

「………何だ、これは?」

 

仕事(要請)ですよ。アザゼルから、討伐任務です。中身を見てもらえれば分かると思いますが、まぁ中々の大物ですよ?」

 

「ーーーほう………」

 

その言葉を耳にした瞬間、僅かにだが、コカビエルの纏うオーラが膨れ上がった。

 

シェムハザはその仕草を見て、やはりな、という諦観にも似た溜息を小さく零す。

 

コカビエルという人物は、とても誤解されやすい。シェムハザ及びアザゼルやバラキエル、その他多くの旧友の、彼に対する共通の印象だ。

 

常日頃からやれ戦いだの、戦争だのとのたまっているので、『戦争狂』などとよく言われる彼だが、それは「ただ只管に強くあろう」とする彼の戦士としての本能と、堕天使という種族に誇りを抱いている為だ。

 

どこまでも高みを目指すその姿勢と、先の大戦の勝者が有耶無耶になったのが原因で、戦争の再開を意見してこそいるが、それも自らの研鑽と、強い仲間意識が根本にあっての行動なのであり、非常に誤解されがちな彼のその性格を知るのは、極々僅かな同僚のみだ。

 

ーーーそしてそれ故に、いつか先走ってしまいそうだ、という危機感もまた、その数少ない理解者達の心中にある。

 

「討伐対象はアポリュオン。貴方も、名前くらいは聞き及んでいますね?」

 

「最近ウチを相手に暴れ回っている小僧か。ふん、悪くない。『熾天使』を相手取るなど、久しいからな」

 

「先に仕掛けたのはあちら側なので、文句を言っては来ないでしょうが、もしもの時は私が尽力します。ーーー気の済むまで、全力で戦ってきてください」

 

了解した。そう言って演習場を去るコカビエル。依然としてその雰囲気はまさしく狂戦士のそれだったが、しかし確かな自信と冷静が同調しており、彼の実力を端的に物語っていた。

 

その背を流し目で見ながら、シェムハザは内心で嫌な予感を覚えていた。

 

ーーー例の『ORCA旅団』とやらの事………言うべきか、否か。

 

彼はそのまましばし悩んでいたが、既にコカビエルが去ったあとという事もあり、「帰還してから伝えるか」と。そう判断して、続くようにその場を後にした。

 

 

 

その判断が、誤りだと気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇Sound Only◇◇◇◇◇

 

「昨日、冥府にて最上級死神ネルガルが死亡した。殺害したのは、ジョルジュ・H・ベルリオーズのようだ」

 

「やってくれるな、雇われめ。ネルガルも、雌伏の内に果てるとは……無念だったろうよ」

 

「しかし、まさかネルガルが倒されるとはなぁ。一度だけ仕合ったが、アイツ、結構強かったぜ?」

 

「それ程の実力者という事か」

 

「………そのベルリオーズとかいう傭兵、どうにかして引き込めないか?ヘルメス」

 

「まさか、口説くつもりか?」

 

「ああーーーヤツは使えそうだ」

 

「はっはっは!まあ、頑張って唾つけとけよヘルメス!」

 

「喧しいぞ、ジャック。………ああ、そうだ。追加で二人程、仲間にしたい者がいる」

 

「ほう……さて、どんな酔狂が来るのやら」

 

「一人は、アステカの魔鏡、テスカ・トリポカ。もう一人は、『神の子を見張る者』のコカビエルだ」

 

「ふん、あの喧嘩屋(バトルジャンキー)か。まあいいだろう。何なら、手伝おうか?ヘルメス」

 

「それじゃ、お前にはコカビエルを頼むかな。しくじるとは思わないが、よろしくな」

 

「コカビエルの引き込みか。煽動家の腕の見せ所だな!期待してるぜテルミドール(・・・・・・)!」

 

「好きでやってるんじゃない。ーーーさて、じゃ、行こうか」

 

 

 

 

ーーーーーーまずは、答えを聞かせてもらうとしよう。




どうだったでしょうか?

戦闘シーンはあえて簡潔に、端的に仕上げましたが、物足りなかったですかね?

御感想、御指摘、御意見、その他誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
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