鬼はたまに出てくるかも?
基本ほのぼの展開です。たまにシリアス。
柱の方々などにもたくさん登場していただく予定です。
しのぶさあああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!(挨拶)
壱、始まり
弐、蝶屋敷
参、甘味処へ
私———
あの時の彼女はとてもつんけんしていて、せっかく助けたのに「誰も助けてなんて言ってません!」と言われたことは印象的でいまだに思い出すことがある。どうやら本人的にはそのことを後悔しているらしいので、わざわざ掘り返すようなことはしていないけれど。
それからなんやかんやあって文通をする仲になり、お互い非番の日は街にお粧しして出掛けたりしていた。控えめに言ってもすごく仲良くなれたと思う。まあ、いつも話している内容は藤の花の毒だとかもっと私のように強くなりたいだとか色気のない話ばかりなのだが。
それでもしのぶの中にある鬼への憎悪とかを少しでも紛らわせられたのなら僥倖だ。そう思っていた。あの日が来るまでは———
『カァァァァ!!花柱・胡蝶カナエ!上弦の弐・童磨と戦闘ののち重症!!意識不明!!カァァァァ!!』
———そう、しのぶの実の姉で花柱でもあったカナエさんが、上弦の鬼と戦って大怪我をしてしまったのだ。もう鬼殺隊士としては再起不能なほどの。私も蝶屋敷にお世話になることがたまにあったので、カナエさんとは当然面識はあった。しのぶの数少ない友達である私にカナエさんが色々話を聞きにこないわけがない。それから何度か任務を共にしたり、継子に誘われたり、甘味を巡ったり。色んなことがあったので実の姉妹のように私自身感じていた折がある。
そのカナエさんが3ヶ月経った今でも目を覚まさない。
しのぶも毎日薬の研究や看病などしているが、いまだに目は覚ましてくれない。無論死んでいるわけではない、しっかりと呼吸をしているのは確かだからだ。
まだ生きている。そんな事実に藁にもすがる思いで必死にしのぶは看病を続けている。人窮すれば天を呼ぶ、とはよく言ったものだ。あまり神や仏の類を信じていない私でも思わず天に願ってしまうのだから。このままではしのぶも倒れてしまうよ、カナエさん。
———そしてちょうど、三ヶ月と一週間がたった次の日。
「……し、のぶ?」
「あら、どうしたんですか沙百合さん。そんな呆気に取られたような顔をして」
「……そう。それが、しのぶの答えなの?」
「何を仰っているのかよく分からないのですが……どこか具合でも悪いですか?」
「ッ!その気持ち悪い取り繕った笑顔やめて!!可愛くない!!カナエさんが好きなしのぶの笑顔はそんなのじゃない!!」
いきなり怒鳴ってしまって悪いとは思ったが、これだけは譲れない。唐突の出来事で呆けていたしのぶは、また笑顔を顔面に貼り付けた。
「酷いですね、沙百合さん。私たち友達じゃないで……」
「気持ち悪い!全て諦めて自分がカナエさんになるとでも言う気!?そんなの絶対無理よ、だっていつものしのぶの方が何倍も可愛いんだから!!無理に笑わないでよ、私には弱いところ見せてよ!ねぇ、しのぶ!!私はありのままのあなたが好きなの!」
言い切った瞬間、しのぶの瞳から一筋、涙が零れ落ちた。
貼り付けていた笑顔が見る見るうちに変わっていく。泣き顔を我慢している顔は普通なら人様に見せられるような顔ではないのだが、しのぶは可愛いのでその姿さえ世の男性には魅力的に映るだろう。
「さ、ゆり……あなた、気持ち悪い、って、言い、すぎよ」
「それはごめん。でもしのぶ、今の方が私好きだよ」
「……私、姉さんになろうって、姉さんを模倣して生きようって、誓ったばっかりなのに」
「そんな誓い無駄。それにそんなしのぶを目覚めたカナエさんが見たらとても悲しむよ」
「……でもやっぱり、私は姉さんみたいに生きる」
「!!……だからしのぶは、」
「でも……!沙百合の前では私でいたい……!これじゃ、だめ?」
「……いつも本当のしのぶでいて欲しいけど……今は、それで許してあげる。だから私の前では無理した笑顔しないこと。約束できる?」
「うん。ありがとう——『好きよ、沙百合』」
「え?なにか言った?」
声が小さくてよく聞き取れなかったのでしのぶに聞き返すと、しのぶはここ数ヶ月の間で最もいい笑顔を浮かべて言った。
「いいえ、なんにも!」
———蝶屋敷。それは怪我をした隊士たちが運ばれる施設であり、日々心を擦り減らす鬼殺隊士の安寧の地でもある。
その蝶屋敷を統べる者こそが、鬼殺隊の誇る最高戦力、柱が一人、蟲柱・胡蝶しのぶだ。柱としての力もありながら医学・薬学にも精通しており、彼女がいなければ今頃鬼殺隊士の数は文字通り半分ほどまで減っていただろうことは想像に難くない。
そんな私も、今回の任務で珍しく下弦の鬼に手こずってしまい、右腕を少し切ってしまったのだ。大したことない怪我だし放っておけば———という考えは胡蝶しのぶには通用しない。そんなことをしてしまえば、もはや素になりつつあるあの笑顔でひたすら罵詈雑言を浴びせ続けてくれることだろう。それも目が笑っていないガチなやつだ。
というわけで今朝方帰ってきて診察を終え、休眠を取っていた私なのだが……
(右半身が暖かい。それに重さも感じる)
私は一人で患者用の寝台にいそいそと入り、体の赴くままに惰眠を貪っていたはずなのに、誰かいる。
(まぁ、予想はつくけど……)
と、半ば確信を持ちながら右側に視線を向けると、案の定——むしろ違ったら困る——しのぶが私の右腕に抱き付いて静かに寝息を吐いていた。私よりも気持ちよさそうに眠っている。なんだか悔しくなって頬をつん、と人差し指で触ると、しのぶは寝ぼけ眼を擦りながら起き上がった。
「あら……いつの間にか寝てしまってました」
「おはようしのぶ」
「おはようございます、沙百合」
「……どうしてここで?」
「ふふ、好きな人と寝るのはダメなことですか?」
「はぁ……まあいいけどさ。あと敬語」
「あ……ごめん。寝起きだから」
そう言うと、しのぶは着ていた隊服を直し、立ち上がる。
「これから診察が入ってるの忘れるところだった」
「いやしっかりしなさい」
「ふふっ、沙百合といると安心しちゃうもの」
それでは行ってきますね、と部屋を出ていくしのぶに私は行ってらっしゃいと告げると、これからどうしようかと思考を巡らす。
とりあえず木刀を持って中庭にいくか、と部屋を出て歩いていると、見慣れた姿が目に入ったので声を掛けた。
「カナヲ、久しぶり」
「……お久しぶりです」
「うーん、身長伸びてきたね。そろそろ越されるかなぁ?」
「……沙百合さんももうすぐ一八歳ですし、まだまだ伸びると思います」
「あ、年齢覚えててくれたんだ、嬉しい」
「……」
(照れてる)
多少顔を赤らめそっぽを向く姿は非常に可愛らしい。最初の頃はただ微笑み返してくれるだけだったのが、大きな成長だろう。とは言っても、蝶屋敷の面々と私にしかこのような反応は見せないのだが。普段はカナエさんからもらった表裏コインで判断を決めている。
(いつかは誰にでも心を開いてくれるようになって欲しいな)
その時が来るのはきっとそう遠くないだろうと、なんとなく感じた。
「……それでは、師範に呼ばれてるので」
「あ、うん。呼び止めちゃってごめん」
一礼して、そそくさと早歩きでしのぶのもとに向かったカナヲを眺めつつ、目的の場所に着いたと確認する。今日は非常に天気がいい、洗濯日和だろう。
「「「あ、沙百合さん!!お久しぶりです!」」」
「お久しぶりです」
そんな心のうちを読んだのか、と錯覚してしまうほど間がいいことだと苦笑いしながらその挨拶に答える。
「久しぶり、きよ、すみ、なほ、アオイ」
「「「会いたかったです〜!」」」
「ちょ、三人とも洗濯物放り出さないの!」
私は見逃さなかった。抱き付いてきたきよ、なほ、すみの三人を見てウズウズしているアオイの様子を。もう、この屋敷には可愛い子しかいないの?
「アオイもほら、抱きしめてあげるよ」
「…ぅ……わ、私は大丈夫ですので!!」
「そっかぁ…じゃあ私から!えぃ」
と言って抱きつくと、アオイは顔を真っ赤にしながらプルプル震えていた。口では遠慮しているが、全く抵抗しないあたりがとっても愛らしい子だ。
「皆さん、随分と楽しそうですね〜、ねぇカナヲ?」
「……はい。…私も……して、欲しい、です…」
「うふふ、あらあらまあまあ。今日は素直なんですね」
カナヲにおいで、と呼びかけるとおずおずしながらも駆け寄ってきてくれたので抱きしめる。今私の腕の中には五人もすっぽり入っているのだと考えると、一周回って冷静になってしまった。この状況すごくない!?
「しのぶ様もー!」
「みんな一緒になりましょー!」
「早くこっちにきてくださいー!」
「はい、今行きますよ」
そう言ってこちらに歩いてくるしのぶの笑顔は、いつもの貼り付けたような笑顔ではなく、本心から出る花のような笑顔だった。
それはある日の昼下がりのことだった。
私としのぶ、お互いそれなりの地位についてから久しくなかった非番。それが今日であり、二人同時にあるとなればまさしく運命。実際はお館様が気を使ってくれただけなのだが。特にしのぶにおいては医療に携わる者として、いついかなる時も必要な存在であるだけに休みなど皆無と言っても過言ではないだろう。
しかし今日は運が良い。患者の数もそれほど多くなく、その処置もアオイらに任せられる程度のものしかないらしいので、絶好のお出かけ日和であるのだ。
「甘味処へ行きましょう」
お粧しして。
そう言外に伝えられた言葉を否定する理由もないし、そもそも否定しようと思わないので二つ返事で了承する。しかしお粧しなどする機会がないものだから勝手がわからない。
「もちろんお化粧も着付けも全部私がやるわよ」
「え?でも私着物とか持ってないよ」
「大丈夫、沙百合に似合うと思って買ったものがあるから」
「いやでも寸法とか合わないんじゃない?」
「絶対大丈夫」
「え、どうして」
「…………さぁ、まずはお化粧からしていきましょーう!」
「ちょっと待って」
「お出掛け楽しみですねー!」
「誤魔化すな」
こうして、街に出て甘味処に来たわけだが———
「「……」」
「すみませーん!桜餅を二十個くださーい!あ、三人ともどうしますー?」
「私は……このしゅーくりぃむ?なるものを」
「それは洋菓子ね!目の付け所が素敵!」
———どうしてこうなった。
そう内心大きなため息を吐いたのはこの二人。今日がほぼ初と言っても過言ではない非番に、沙百合と出かけられると心躍っていた胡蝶しのぶと。
こちらもまた貴重な非番に、想い人である恋柱・甘露寺蜜璃を甘味処に誘うことに成功し幸せを噛み締めていた蛇柱・伊黒小芭内の両名である。
(おい胡蝶めが。せっかくの非番だぞ、体を休めたいとは思わないのか。全くこれだから貴様はいつまで経ってもそうなのだ)
(あらあら、伊黒さんこそ貴重な非番を甘露寺さんのために使うなんて……もしかしてお慕いされてるんでしょうか?)
(ふん、なんて浅はかだ、どうやら貴様は医学はできてもそれ以外はただの純情な乙女のようだな。実に浅はかだ胡蝶めが)
(あらまあ、うふふ。相変わらずネチネチしてますね伊黒さん。そんなことでは意中の女性ができた時軽蔑されかねませんよ)
(何かすごい目で語っている気がする……)
そう察した沙百合は流石の勘の鋭さである。
「伊黒さんにしのぶちゃんも、何食べるの?注文しなくちゃ!」
「っ……俺はお茶だけにしよう」
「では私はみたらし団子を」
それから甘露寺が沙百合に桜持ちをあーんで食べさせたことに伊黒が目を見開いて悔しがったり、それを見たしのぶもみたらし団子を沙百合にあーんしたり、しゅーくりぃむなるものがあまりにも美味しすぎて数十秒固まったり、甘露寺が桜餅をさらに追加で十個頼んで完食したりと様々なことがあったが、自分の想い人たちが幸せそうだったので満足した胡蝶、井黒両名であった。
こんな感じで短編を連ねるの楽しい。
名前 九重 沙百合
階級 『 』
誕生日 3月3日
年齢 18歳(原作開始時)
身長 158cm
体重 51kg
出身地 東京府深川区伊勢崎町
趣味 笛、写生、源氏物語の収集
好きなもの きんぴらごぼう