それでも糸は紡がれ続ける—女傑達の英雄遺文—   作:護人ベリアス

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…今作はお気に入り登録が増えないのは許容範囲になりつつあるとして、PVさえ伸びが悪くなってきたのは非常に憂い深き事項ですねぇ…
一応展開は熱くなり始めた(つもり)なんですが…ようやく魔物との初戦が始まりますし。
うーん…何をどう改善すればいいのかさっぱり分からん…


第二章 女傑達の決起の時
王女に見えるレムノスへの道


 皆さんの心を一つにすることができたと自信を抱くことまでできた私の演説から一週間が経った。

 

 その一週間は先日の戦闘で消耗した物資の補給は当然のこととして初のナクソス外部への大々的な出陣とあって様々な準備に追われた。

 

 そしてその準備に追われる一週間が終わり、必要だと思われる準備は整えた今。

 

 私はアルの遺志宿る黄金の鎧を身に纏い、馬に跨っていた。

 

 それは当然ようやく出陣の時を迎えようとしていたからだった。

 

 私の少し後ろにはリュールゥとデキウスが同じく騎乗して控え、さらに後ろにはナクソスと『ウィーシェ』の方々で編成された騎兵約200名が居並んでいた。

 

 私達は言わば先陣。本当の意味で私達の道を最初に切り拓く者達であった。

 

 そしてその先発の私達をひとまず見送るべく周囲には多くの方々が固唾を飲んで見守っていてくださっていた。

 

「王女様。準備は整いました。下知を」

 

「アリア殿。夜は明けました。そろそろよろしいかと」

 

 デキウスとリュールゥが私に指示を催促する。

 

 その催促に小さく頷いた私はそばで見送ってくださ、ナクソスの後事を託すマルス達に声を掛けた。

 

「マルス。ゴヴァン。ナクソスの後のことは頼みます。後程また会いましょう」

 

「はっ…万全の準備を整え、後を追いまする。王女様達もどうかご無事で」

 

「後のことはお任せあれ。王女様達はどうか自らの役割に専念してくだされ」

 

「心強いお言葉ありがとうございます。では…」

 

 マルスとゴヴァンとの応答を早々に切り上げ、見送りの言葉を頂いた私は手を振り上げる。

 

 それは合図であった。

 

「開門!!これより出陣致します!」

 

「「わぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 私の掛け声と共に大きな歓声が巻き起こる。

 

 それは先陣を切る私達に勇気を与えるため。

 

 それは先に戦に赴く私達の無事を祈るため。

 

 数多の思いをここに集うそれぞれの方が抱いているであろうが、巻き起こる歓声が私達のためのものであることは間違いない。

 

 その歓声を背に受け、開かれた門の下でゆっくりと私は馬を進ませた。皆さんも私の後に続く。

 

 ようやく訪れた出陣の時。

 

 ようやく訪れた反撃の時。

 

 その時を私は複雑な感慨で迎え入れていた。

 

 

 

 ☆

 

「それにしてもアリア殿には実に感服致しました。そしてもちろんアリア殿の周囲を固めていたデキウス殿始め皆々様もです」

 

 ナクソスを出立してから一日。

 

 レムノスへと皆で馬を進める中隣に並んだリュールゥがそう愉快そうに呟いた。

 

「騎兵を先にレムノス近郊に先発隊として送り、設営地を見定める。そして主力となるマルス殿とゴヴァン殿の率いる部隊が後発として続く。それだけでは特段面白きことはない…ただ騎兵を先発その途上で遭遇するであろう魔物を退けるための策を打つために用いる…これには驚きました」

 

「マルスの商団との取引での経験のお陰です。魔物が火を嫌うという事実を生かすため、進む道に松明を立てる…よき策です」

 

「最初は現実味がないものと思いました。確かに魔物は火を嫌いますが、火は人の存在を嗅ぎつけさせることに繋がります。魔物が気付きでもすれば、単独で行動する魔物ぐらいであれば一時は躊躇しましょうが、それも仲間を呼び群れを成せば火などさしたる効果も得られず襲撃してくると思われました」

 

「ですがマルスの策では騎兵で道の途上の魔物を始末した上で松明を立て、すぐに後続の主力部隊が続く。ならば松明の効果も薄れることも魔物が群れを成す前にその一帯を通過できます。長いレムノスまでの道に一定の間隔で松明を配置していくのは、あまりに物資の浪費なのではとリュールゥもデキウスも指摘されましたが…」

 

「人の犠牲には代えられない。まさにアリア殿の仰る通りです。松明に用いる物資などいくらでも手配できましょう」

 

 マルスが授けてくださった策を私は満足げに、リュールゥは愉快そうに語る。

 

 そんな風に私とリュールゥが先頭を進む中でも後方では、皆さんがマルスの策通り道の両端に時折松明を打ち立て火を灯していく。

 

 この策を実行するために騎兵を用いたのは、ただ単に行軍速度が歩兵より早く松明立てを迅速に行えるからというだけではない。馬にならば、歩兵だけよりもある程度多くの物資を運ばせることができるのである。お陰で松明の準備のためにわざわざ荷馬車を連れてくる必要も消え、行軍速度をあまり落とさずに先へ先へと進んでいけている。

 

 そしてこの火が灯り続けるのは一刻か二刻の間であろうが、それくらいならば後続も通過できることであろう。先に私達がその準備をしておくということは、後続の行軍速度を落とさずに済むことに繋がる。

 

 さらに言うならば、夜道を照らすのにも役に立つ。

 

 レムノスへは全速力の馬で2日、徒歩で4日という比較的近場。

 

 だが目的地まで急がねばならない事情を抱える私達はそんな近場だからこそ昼夜問わない行軍をしなければならない。よって夜道を照らす松明の存在はそういう意味でも必要不可欠であった。

 

 そしてこれが魔物除けに繋がっていることは今私達が安全に行軍を進められていることからも明らか。周囲に姿を現した魔物を時折何人かの方に行って頂き掃討することはあるものの、落伍者も負傷者も一人たりとも出していない。

 

 今は事は順調に進んでいた。レムノスへの道に大きな障害はないかに見える。

 

 だからこそ私もリュールゥもこのように呑気に話しながら進むことができているのであった。

 

 だが言うに及ばず私とリュールゥの役割はこの軍の頭脳。松明立て以外にすべきことが数多あるのである。

 

 すると前方から馬蹄の音と共にデキウス達数名の姿が遠目に見えてくる。

 

 彼らには松明立てを行う私達よりもさらに先行して進むように指示を出してあった。

 

 それは当然別に存在する策を実施するための言わば斥候であった。

 

「王女様!」

 

「デキウス。お疲れ様です。それで首尾は?」

 

 全速力で私達の元に駆けてきたデキウスとそのお供をしていた四名は辿り着くと共にでキスは私と馬を並べ、他の者はその後ろに続いた。そうしてデキウスは私の問いに答えた。

 

「はっ…選定されていた地点を全てこの目で見た限りレムノスの南西にある二つ目の地が設営地に一番良いかと」

 

 デキウスに託した指示。それは設営地の場所の偵察。

 

 念のため言うと、一応は設営地の候補は割り出していた。私もデキウスもリュールゥも皆レムノス近郊を一度は歩き、その地勢をある程度把握していた。

 

 だが私達のその経験が数カ月でも危ういというのに年単位ときており、地勢に何かしらの変化があるかもしれぬと警戒せずにはいられなかった。

 

 そのためここの地勢に一番詳しいと考えられるデキウスに偵察を託していたのである。

 

「一帯には印とすべく杭を打ち立てました。ついでに途上で遭遇した魔物どもは相手にできる限り打ち倒しておきました」

 

「ありがとう。デキウス。ですがくれぐれも無理はなさらぬように。戦いはこれからです。お頼みした任務は終わったのでこれよりの行軍ではどうかお休みください」

 

「はっ…ですがお言葉ですが、私は…」

 

「デキウス殿。あまり気負いなさいますな。レムノス奪還は短期戦でもありますが、長期戦でもありましょう。そう気負われては持ちませんぞ?アリア殿の申される通りどうぞごゆるりとこれよりの行軍はお過ごしください。デキウス殿が東奔西走せずとも我々『ウィーシェ』の者達とナクソスの方々で十分に魔物への対処はできます」

 

「…リュールゥ殿?それほど私の表情は険しいですかな?」

 

「ええ。かなり」

 

「…気を付けましょう。ただですな…私は…」

 

 私とリュールゥのデキウスを気遣う言葉にデキウスは表情を変えぬまま応じる。

 

 …それでは気を付けられてないのでは…と思ったが、そこは触れても仕方ないことだと抑える私。

 

 レムノスの奪還。

 

 それはデキウスにとって大きな意味を持つのは当然理解しているし、雪辱に燃えるのもよく分かる。

 

 だが戻ってきたデキウス含めた五名は、負傷は目立たぬものの矢筒は空に送り出した際に持っていた槍はなく…とかなり消耗した様子。これは無理して魔物との戦いに挑んでいたことを明らかに示している。

 

 奮闘して下さることは嬉しいが、死に急がれるのは話がまるで違う。

 

 気遣う言葉を掛け、皆さんがこれからも必要であることを示さなければ、望まぬことが起きてしまうかもしれない。そう私は直感してしまったのである。

 

 それは私とリュールゥの言葉を受けても尚『私は戦う』と幾度も告げようとするデキウスの言動が何よりの証拠になりそうだった。

 

 そしてそれはどうやらデキウスの表情から察したリュールゥも同じ思いだったらしい。

 

「それにしても、ですなぁ。アリア殿?デキウス殿の授けてくださった策は実に面白い物でしたなぁ。まさにナクソスの者の戦い方に一番相応しき策!流石はナクソス唯一の門の守りを預かるデキウス殿」

 

「ええ。全くです。私達が防衛の経験しかなく、攻勢に不安がある。ならばいっそ攻勢の戦術を生み出すのではなく防衛の戦術を流用してしまえばいい…そのような発想の逆転はデキウスしか思い浮かばぬこと」

 

「…王女様もリュールゥ殿も有難きお言葉。ですがこの程度大した策ではございませぬ」

 

 デキウスが授けてくださった策。攻勢の戦術に防衛の戦術を流用する。

 

 そのこれまでの防衛の戦術とはナクソスに築いた防衛施設に立て籠もって直接の抗戦を限りなく避けること。

 

 

 簡単に言うならば、攻勢のために本来防衛用の城をを築いてしまえという策である。

 

 

 言わばそれは出城。奪還目標であるレムノスの近くに築くつもりなのである。

 

 これがデキウスに設営地の場所を探って頂いた理由。

 

 私達が急いでいる理由は素早くレムノスに辿り着きたいからではない。

 

 その出城を築くのに時が必要であり、その間が必然的に隙となる。隙ができれば対応が遅れ、犠牲が生まれてしまう。

 

 それを防ぎ、隙のある時をできる限り縮めるために私達は昼夜を問わない強行軍で進んでいたのである。

 

 これがリュールゥがこの戦いが短期戦でも長期戦でもあると表現した理由。速さも大切だが長きにわたり気を抜くことができない長期戦にもなるのである。

 

 果断と慎重を兼ね備えた武人。

 

 その指揮を前線で完璧に執ることができる武人。

 

 それはデキウス以外にいない。私はそう確信していた。

 

「…この策の効果はこの度実践してみなければ如何ほどかは分かりません。ですがただ闇雲に攻勢に出るよりは犠牲を減らせるのは明らか。そして成果によれば今後も是非とも採用していきたい策。この策を授けてくださったデキウスには今後も戦いの指揮を執って頂きたいのです。…決して早まった真似はしないように。これは命令です。デキウス。無理だけはなさらぬように」

 

 私は命令という使い慣れぬ言葉まで用いてデキウスにきつく言った。

 

 それほどまでにデキウスの身を案じ、デキウスの力をこれからも必要としていたからである。

 

 その力をレムノスの奪還のみで使い潰すなど論外であった。

 

 ただ流石に身分上は上とは言え、年上の方に物申すには失礼極まりなかったのではと後になって思い立つ。

 

 それで恐る恐る横目でさりげなくデキウスを見てみると、俯いたまま。

 

 その様子に若干不安を助長させられるが、返ってきた回答はその不安を裏切るものであった。

 

「…そのようなお言葉を王女様からこの田舎者に頂けるとは…このデキウス!王女様の命令を守り、この命を燃やし尽くすまで戦い抜き、王女様の大義を果たさずして決して先に死ぬなどという不忠は犯さぬととお誓いします!」

 

 返ってきたのはその決意をそのまま表現したかのような大音声で告げられた誓いの言葉。

 

 デキウスは先ほどまでの厳しい表情はすっかり崩れ、感極まると共に今にも感涙で泣き始めそうな表情にまでなっている。

 

 …ここまでの反応が返ってくるとは完全に予想しておらず、完全に掛ける言葉を失った私はリュールゥに視線で助けを求める。

 

 ただリュールゥは助けてくれるはずもなく笑みを浮かべるばかり。

 

 仕方なく私なりの掛ける言葉を何とか見つけ出して、デキウスの強い覚悟に応じた。

 

「…ありがとう。デキウス。これからもあなたのご活躍を信じています。そのお力をどうかこれからも私にお貸しください」

 

「ははぁ!!」

 

 恭しく力強く私の言葉に応じてくださるデキウス。

 

 …デキウスが死に急ぐことはなくなる…そう考えることもできるデキウスの反応にひとまず安堵する私。

 

 だが安堵する一方私はデキウスとまた距離が遠くなってしまったのではないか…そう感じずにはいられない。それは言うまでもなく精神的なもの。

 

 私は忠義とか命令とか上下関係がはっきりする言葉があまり好きではなかった。

 

 仮に私が人を統べ上に立つ者であったとしてでも、である。

 

 ただデキウスのような物事の分別をはっきりすることを旨とするお方に色々と余計とも言える個人的な思いなど告げるべきではないと私は今も考えた。

 

 だから私はそれらについて何も言うことはない。

 

 それを言うことができたのは結局フィーナだけだった。だからフィーナを私は必要としていたのかもしれない。

 

 だがそのフィーナとも距離が生まれ始めようとしていた。

 

 そのきっかけを思考を巡らせる中で思い出してしまった私は、思わず表情を歪める。

 

 だがそれにばかり気を取られるわけにもいかない。もう終わったことである。

 

 そう言い聞かせようとした私であったが、そんな私の表情を見計らったかのようにリュールゥはその私に残るしこりに指摘を入れてきた。

 

「アリア殿?デキウス殿の御無茶をお止めされている所申し訳ないのですが、それはアリア殿もあまりお止めできる立場にはないかと思われます」

 

「…どういう意味です?リュールゥ?」

 

 不快感を燻らせていた時に入れられた指摘に私は不快感を隠せぬまま応じてしまう。

 

 それにリュールゥは全く表情も変えず答えてくる。

 

「言うまでもなくこの度の出陣において危険度を考えれば、今いる先発の騎兵より後続の主力に随伴する方がいい。確かにアリア殿が先陣に立たれた方が皆の士気は上がります。ですがそれだけではないでしょう?」

 

「…さてはフィーナ殿のことですかな?」

 

「…」

 

 リュールゥの暗示にデキウスは早々に勘付く。

 

 そう二人の予想通りだ。

 

 私は先発の騎兵と行動を共にする一方フィーナは魔導士隊と共に後続の主力と共にいる。

 

 私は安全面を無視してでもフィーナと別の場所にいたいと考えたのだ。

 

 いくらリュールゥが述べたような建前を用意しようと、そう私が考えていたという事実は変わらない。

 

 それはこの準備の一週間で問題が起きたからであった。

 

 

「…王女様。まさかあのナクソスを捨てると決定された時のフィーナ殿との口論が原因ですか?」

 

 

 私はデキウスの問いに答えなかった。

 

 全くその通りだからである。

 

 私とフィーナは一つの問題で意見が合致しなかった。

 

 これまでほとんど意見を衝突させたこともなかった私とフィーナがである。

 

 

 その問題とはこの出陣に際しナクソスを捨てるということ。

 

 

 その意味はそのまま。

 

 ナクソスを文字通り捨てる。

 

 これまで安定した生活を送れていた地を捨て、新天地レムノスに移る。

 

 そしてそれをナクソスに住む者全てに強要する。

 

 私はそれが正しい決断だと信じている。

 

 人を統べる者として決断を下さなければならないことだったと確信している。

 

 その判断は合理的に戦略に基づきどう考えても必要な決断であった。

 

 

 だがフィーナは反対した。

 

 

 それもその反対の理由は私にとって決定的な怒りを呼び起こした。

 

 その結果が今の別行動。

 

 議論と呼ぶこともできない口論の結果は既に出ていた。

 

 軍議においてフィーナ以外の全員一致でナクソスを捨てることに決まっていた。

 

 だから私の決断はどう考えても戦略的に正しかったはず。

 

 だがフィーナの反対が私の頭から離れなかった。

 

 フィーナの反対は他の誰でもない私のみに響くものだったからである。

 

 

 今は事は順調に進んでいた。

 

 レムノスへの道に大きな障害はないかに見える。

 

 だが遠くないうちに障害となり得る物はこの時確かに芽生え始めていたのだった。

 

 そのことに私もフィーナも薄々気付いてしまっていたのである。




アリアドネとリュールゥに褒められるデキウスさんが羨ましい件について。
まぁデキウスさんが褒め称えられるだけの武人であるのは間違いないことですね。
経験ではリュールゥさんの次。…いや、それ以上?リュールゥさんも吟遊詩人ですからね。統治経験という意味ではアリアドネにとってとても大切な人材です。
まぁここまで持ち上げるのは女傑の物語だからと女性だらけだと異様だからなんですけど!
尚デキウスさん始め諸将がアリアドネに従っている理由はラクリオス王国の王女への忠誠であるということを覚えておいてもらえると後々の展開を理解するのに役立つ…かもです。

そして強い絆で結ばれていたアリアドネとフィーナに少しずつ亀裂が入り始めます。
これはこの作品と言うかイベント内でも大きなテーマと言えた部分に着目するためです。
レムノスへと向かう戦いが進行する中、こちらの問題も少しずつ触れていこうと思ってます。
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