それでも糸は紡がれ続ける—女傑達の英雄遺文—   作:護人ベリアス

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さて前回から援軍の気配がありました。
そもそも援軍は本当に到来するのか?…からの訳ですが、危機迫る中アリアドネは決断を迫られます。


角笛の音色は何をもたらす

「ガイウス様より伝令!遠方に数多の松明の影あり!姿は暗闇で認められぬが、援軍の可能性もあるとのこと!」

 

 その報告にざわめきが一気に広がる。状況が掴めぬとばかりに周囲は動揺している。

 

 それも当然だ。

 

 援軍は要請もしていないし申し出も受けていない。

 

 援軍など来るはずもないのだから。来るとすれば新手の魔物ぐらい。

 

 だが私は風向きを変える何かがある、

 

 そう直感していた。

 

 だから私は先程までの迷いを一挙に打ち払うと、天幕を飛び出し叫んだ。

 

「各方角の壁に伝令!周囲の警戒に必要な最小限の兵力以外全てを西の壁へ!」

 

「はっ…は!?」

 

「しかし…それでは王女様…!」

 

 私の指示に周囲は動揺を深める。それは普通に判断すれば博打であったから。

 

 だがそれに構う猶予はないと判断した私はその動揺への説得に努める気はなかった。

 

「早く行きなさい!猶予はありません!あと私の馬を引きなさい!私も西の壁に向かいます!続ける者は続きなさい!これにて流れを一気に覆す!」

 

「「…っ!ははっ!」」

 

 私の断固とした指示と判断に周囲もようやく動揺を打ち払い従う。

 

 幾人かが各方角の壁へ伝令に走る一方私の愛馬が連れてこられるまでの僅かな時間。

 

 その間にも私の背では本陣に詰める集まるだけの兵士の方々で隊列が組まれていく。

 

 そして従者の方が引いてきた私の愛馬に即座に飛び乗ると、再び声を上げた。

 

「松明の灯りは私が密かに呼び寄せた援軍によるもの!彼らの協力があれば、西の壁の劣勢は容易に覆せる!今こそ流れを変える時!続きなさい!」

 

 その叫びと共に私は馬に鞭を入れる。

 

 当然援軍が来るなど憶測にすぎない。

 

 私は当然援軍を呼んでもいない。

 

 だが流れを覆す必要だけはあった。

 

 周囲は直前までの私含めて連戦で疲労困憊し、士気の低下は目に見えている。このままの士気で戦っても劣勢になりつつある流れは容易には覆せない。

 

 だから嘘を重ねてでも士気を一時的だとしても覆す必要があった。この嘘が後に士気の低落に繋がろうとも、今防ぎきれなければ一巻の終わりだからである。

 

 そしてその私の嘘は見事に功を奏した。

 

「「おおおおおお!!王女様に続けぇぇぇ!!」」

 

 私の叫びに皆さんは大歓声で応じてくれる。その歓声からは漲る闘志を肌に感じることができる。

 

 これなら戦える。

 

 恐らく士気の低下も払拭できたはず。

 

 そう判断しつつ、ガイウス達が苦闘を強いられている西の壁に向かって私達は突き進んだ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「…っ!王女様!援軍だ!王女様自ら援軍で来てくださったぞ!皆の者奮い立て!」

 

 西の壁に着いて、時を置かずにガイウスが私達の姿を認めて安堵を隠せぬ表情で配下の方々にそう叫ぶ。

 

 何とか間に合った。

 

 壁の各所は既に破られ、壁の中に魔物が入り込み、犠牲を避けられぬ白兵戦に突入しつつある。

 

 壁の上で防戦できるような状況ではない。予断を許さないことは一目瞭然だった。

 

「皆さん!各所に散開!侵入してきた魔物を血祭りに上げなさい!」

 

「「おう!!」」

 

 私の早急の指示に付いてきた皆さんは即座に応じ、私の護衛に残る僅かながらの方々を除き侵入してきた魔物に白兵戦を挑み始める。

 

 その姿を見ながら私は馬を進めて駆け寄ってくるガイウスとの距離を縮めた。

 

「王女様!万死に値する失態を犯し、魔物どもの侵入を許しました…申し訳ございません!」

 

「気にしないでください!ガイウス!それより状況は!?松明の灯りが見えたとは真ですか?」

 

「偽りございません!ですが距離が遠くすぐに来着するとは思えませぬ。魔物どもに侵入を許し、余裕もない故向かっている方角も掴めておらず、安心する要素にはできぬかと。不確定情報を報告してしまい、申し訳ありませぬ。ですが何かの策であれば、報告すべきかと…」

 

 ガイウスの報告は芳しくない。松明の灯りの正体を掴めておらず、来着も見込めない可能性が高い。

 

 だがその事実を利用せぬ手はない。

 

 もうガイウスの報告が周囲に知れ渡ってしまっている以上、その事実の否定は士気の急落に繋がりかねない。

 

 私に報告を出したガイウスでさえも明確に情報を掴めていないこと。

 

 それまでも徹底的に利用する以外にこの苦境を脱する道はないと私は確信していた。

 

 私は先程までと同じように嘘を吐き続ける。

 

「その通りです。ガイウス。その松明の灯りは私の呼んだ援軍によるもの。魔物達を挟撃するために呼び寄せておいた部隊です」

 

「なっ…なんと!」

 

「ただ機を逃しつつあるようでもあります。ガイウス。以後もこの壁の指揮を続けてください」

 

「承知しました!して王女様は!?指揮所にご帰還なさりますか?」

 

 そうガイウスは尋ねるが、そんな余裕ないこと私にもないことは分かる。

 

 援軍の存在が仮にないとしても一時的に事実であることを示し続け、士気を保つ。

 

 その上で現状の壁の中に侵入されかかっている状況を覆す。

 

 その二つを果たす策。

 

 それを思考を総動員して編み出した私は、その瞬間には再び馬に鞭を入れていた。

 

「私は出撃し、魔物達を撹乱すると共に援軍と合流し進撃を速めるように要請してきます!ガイウスには後続の援軍の指揮もお任せします!騎兵!私に続きなさい!」

 

「ちょっ…王女様!?流石にそれは危険すぎ…」

 

「「はは!!」」

 

 剣を抜いて駆けだした私をもうガイウスの驚きと諫言は止めることができなかった。

 

 私の後には三十四名の私の護衛の方々が続く。

 

 これしかなかった。

 

 援軍の存在を示し続け、魔物の侵入を足止めする方法は。

 

 闇雲で無謀なのは分かっている。

 

 だがこうでもしなければ、遅れてやってくる各方角の壁の援軍が到着する前に完全に魔物の侵入を許し浸透される。

 

 

 それはこの砦の陥落と同義。

 

 

 それだけは何としても避けなければならなかった。

 

 私が出撃するのはそのための撹乱であり、囮である。

 

 私の護衛の方々も道連れにするのは申し訳が立たないことだったが、護衛の皆さんが気勢を上げて応じてくださったのはせめてもの救いであった。

 

 駆けだした私がそばをうろつく魔物を馬で蹴り飛ばし剣で薙ぎ払いつつ向かうのは突破された壁の一角。

 

 わざわざ門を開き、魔物のさらなる侵入を許すことができない状況ではここから出撃するしかなかった。

 

 へし折れた木の柵を馬を躍らせ飛び越えた私は剣を振りつつ前へ前へと突き進む。

 

 周囲は魔物ばかり。そう簡単に一掃できるような量ではない。

 

 その上私達の姿を認めて、一斉に矛先をこちらに向けて襲い掛かってくる。その恐怖を私自身が吹き飛ばすべく指示を叫び飛ばす。

 

「止まるな!駆け続けなさい!無理に魔物を倒そうとする必要はない!魔物の中を走り抜け、できるだけ長い間撹乱するのです!そうすれば中で戦う方々が立て直す猶予ができます!」

 

 そう叫び続ける瞬間も後ろでは馬から滑り落ちる鈍い音が響き、小さな苦悶の声がこの耳に届く。

 

 それでも私は進み続けるしかなかった。決断した以上止まるわけにはいかなかった。

 

「「王女様ぁぁ!!」」

 

 そうして魔物の海の中を進み続ける中、後ろを振り返ることもできず剣を振り駆け続けることのみに懸命になっていた私にはその後方から届く叫びがなぜ起きたのか分からなかった。

 

「…ぇ?」

 

 だが我に返って気付く。その叫びが何によってもたらされたのか。

 

 

 私はその時宙に浮いていたのだ。

 

 

 時間がとてもゆっくりと進むように感じられる中、状況に全く相応しくない冷静さで私は周囲を分析していた。

 

 私の乗っていたはずの愛馬の脚が屈折している。よく見てみれば、その脚には地に剣で沈めたと思っていた魔物が噛みついていた。

 

 私の身体は気付けば愛馬の顔を飛び越え、魔物達が屯する地面に向かっていた。

 

 そうか。

 

 

 私は落馬しようとしているのか。

 

 

 そう考えがようやく至った時には身体中に激痛が走っていた。

 

 地面に強く叩きつけられ魔物達の中を転がっていってしまう。

 

 

 死ぬ。

 

 

 そう瞬時に悟った。

 

 だがその悟りを周囲の皆さんの叫びが吹き飛ばす。

 

「王女様ぁぁぁ!!」

 

「どけぇぇぇ!!魔物どもぉぉ!!」

 

 私の落ちた地から魔物を遠ざけるように突っ込んでくださった皆さん。

 

 三十四人いた護衛の方々はもう十人に減っている。

 

 彼彼女らは馬から飛び降りると、何とか落馬による痛みに耐えつつ起き上がり蹲る私を囲むように即座に円陣を組む。

 

 乗っていた馬は魔物の元へ走らせ撹乱に用いる者もいれば、その場で息の根を止め一時しのぎの肉の盾にする者もいる。

 

 その意味は痛みで意識が朦朧とする私にも分かった。

 

 

 それは馬から落ち、駆ける術を失った私と運命を共にするという意思表示に他ならなかった。

 

 

「…なぜ馬を捨てた…私はあなた方の役割をきちんと伝えたはず…私達の役割は撹乱…馬を捨ててどうして撹乱ができますか…」

 

 今更言ってもどうにもならないことは分かってる。

 

 だが文句を垂れずにはいられなかった。

 

 これで少なくとも私と共に十人の方が命を落とす。

 

 指示を守っていれば、生き残れたかもしれない幾つかの命も共に。

 

 なのに全員が指示を守ってくれなかったことに怒りと悲しみを覚えずにいられない私はそう呟かずにいられなかったのだ。

 

 そんな私に彼彼女らは皆視線を向ける。

 

 その皆の表情を見た時、私はもうこれ以上のことは言うまいと思った。

 

 

 皆笑顔を浮かべていたのだ。

 

 

 そして笑顔のまま皆口々に言う。

 

「どうして王女様を見捨てることができるでしょうか?私達は王女様と最期まで共に戦います」

 

「我が頭領リュールゥにあなた様をお守りするように厳命されているが故に。あなたは我が頭領でさえも認めた希望となり得るお方。あなただけは守り抜いて見せましょう」

 

「まず王女様はこの状況でもお諦めではない。ご命令を。皆の力でこの状況であろうと切り抜けて見せましょう!」

 

 それだけの言葉を受けてもう私は皆の思いを正面から受け止めるしかないと悟った。

 

 この状況さえも打開する意志を見せなければいけないと確信した。

 

 周囲を囲む魔物達が私達に死の恐怖をじっくりと感じさせようとしているのかも思えるほど、ゆっくりと包囲の輪を狭める中。

 

 私はそばに落ちたままであった剣を取り、それを杖代わりの支えとして折れたかのような心地がする両脚を奮い立たせて何とか立ち上がる。

 

 そして皆が視線を向けて待つ指示を再び叫び、恐怖をも吹き飛ばそうとしたその時。

 

 

 再び角笛が鳴った。

 

 

 先程聞いたよりもより大きな音で。より近くから。

 

 周囲の魔物の動きも俄かに止まり、私達も辺りを見回す。

 

 だが周囲には今度は魔物の巨体と暗闇のせいで視界が拓けず満足に確認が取れない。

 

 本当は幻聴なのか?

 

 そんな疑いを抱く中、その疑いを晴らす証拠がようやく私達の前に現れた。

 

 

「うぉぉぉらぁぁぁ!!」

 

 

 周囲に響き渡る雄たけび。

 

 それは私達の中の誰かの物ではなかった。

 

 その雄たけびの主を探そうと皆で辺りを再び見回すと、魔物の巨体が突然横に吹き飛び一方の道が拓ける。

 

 それが何故起きたかを確認する前に私は直感で叫ぶ。

 

「道は見えた!反撃開始です!」

 

「「おぉぉぉ!!」

 

 私の即座の指示に私を囲む円陣を攻勢に出て徐々に徐々に広げていく。

 

 魔物に包囲の輪を縮められるのではなく円陣の輪を広げていったのである。

 

 だが立ち続ける以上の身動きがとれぬ私はその奮戦を見守りつつ、その拓けた道に目を凝らす。

 

 その暗闇からようやく鮮明な姿を見て取った時私は思わず驚きで固まってしまった。

 

 

「あなたはっ…ガルムス!?」

 

 

 そう。

 

 そこにいたのは王都ラクリオスでアルと共にミノタウロスを討伐し、王都でのクーデターでアルと共に命を墜としたはずだったドワーフの武人。

 

 ガルムスだったのである。

 

「おっ…おぬし!?まさかあの姫か!?」

 

 ガルムスは剣を振るいそばの魔物を蹴散らしながら私の元に目を丸くしたまま寄ってくる。

 

 その後ろには何人ものドワーフの屈強な戦士が続き、ガルムスの拓いた道をさらに広げていくように魔物を駆逐していく。

 

「ガハハハッ!ここまであの姫が育っておったとはのう!者ども!魔物の包囲の真っただ中で戦い抜いた勇士達を殺させるでないぞ!勇士を傷つけんとする魔物どもを殲滅するのじゃ!!」

 

「「おぉぉぉ!」」

 

 ガルムスの激励にどんどんと姿を増やしていくドワーフの戦士達は雄たけびで応じる。

 

 そうしてついに私の元に辿り着いたガルムスはニヤリと笑って呟いた。

 

「なんじゃ。あの吟遊詩人。話が違うではないか。何がひ弱な姫じゃ。おぬしもはや姫というより『戦姫』じゃな」

 

「…ご冗談を。私は今もこうして戦えていません。無力を実感するところです」

 

「何を言うか。もうおぬしの顔は立派な戦士の顔じゃ。ドワーフが何物よりも尊敬する戦士の、な。ともかく危ない所を間に合ってよかった。一部の者を先行して連れてきて正解じゃったわ。お陰で多くの勇士を死なせずに済んだ」

 

「先行…つまり…」

 

 

「俺達はあくまで先行してきただけ。本隊はじきに到着することじゃろう。ドワーフの四散していた氏族の連合軍じゃ」

 

 

「なっ…」

 

 ガルムスの告げた事実に私は驚きを隠せない。

 

 遠目から見えたという松明の灯りと遠くから聞こえた角笛の音色。

 

 これらは幻覚でも幻聴でもなかったとはっきり証明されたのである。

 

 それだけでなく来援したのはドワーフの氏族の連合軍。

 

 具体的な兵力が分からずともガルムス始めとしたドワーフの屈強な戦士達なら、戦況を覆し得る強力な戦力となる。

 

 周囲の戦いがドワーフの戦士達と私の護衛達の奮闘のお陰で徐々に収束に向かいつつある中。

 

 

 角笛の音色は私達に確固たる勝利をもたらそうとしていた。




援軍はガルムスさん率いるドワーフの戦士達でした。ガルムスにイケメンの称号を与えましょう()

ちなみにイベント中ではドワーフの状況が不鮮明なんですよね。故郷を失い、ドワーフの氏族は四散したとあるだけ。ガルムスはドワーフの古の武具を保持してるので身分が高い可能性は十分考えられますが…
そこら辺を今作では掘り下げたい所なんですが…ドワーフって全く指揮官向きじゃないので出番は増える気がしませんね()

あとアリアドネが先陣に立って突撃しましたが、繰り返しますがアリアドネは武勇に優れている訳では全くありません。単に指揮官が先陣に立つ効果を理解し、危機の打開策を即興で実行しただけです。
…自らの実力を考慮すれば愚行もいいところ。その証拠としてあっさりと落馬してもらいました。
ここら辺の無謀さでアリアドネとアイズさんを繋げています。ま、二人の志では完全に格が違うんですが。
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