それでも糸は紡がれ続ける—女傑達の英雄遺文— 作:護人ベリアス
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「お姉様?お姉様?」
「…あっ。はっ…はい。何でしょう?フィーナ」
フィーナの私を呼ぶ声に意識を過去から引き戻された私。
気付けば私の住む家の一室に私とフィーナはいた。
どうやらここに着くまでの記憶が曖昧なほど考え込んだまま私の家まで歩いてきてしまったらしい。
ハッと見回せば、フィーナはすっかり汚れた衣服を着替え、私の前に座り不思議そうに心配そうに私を見つめていた。
「あっ…いえ。何だかお姉様がすごく悩んでいるように見えたので、私もルナさんも声を掛けないようにしていたのですが、ずっと考え込まれているので流石にちょっと心配で…ルナさんも心配されてました。何でも私が囚われていることを知ってからずっと何かに悩んでいるようだったとお聞きしたので…私でよければお悩みを聞かせてくださいませんか?」
…どうやら私は周囲に勘付かれてしまうほど、顔に出てしまっていたらしい。
私はフィーナに正直に話すことに決めた。
フィーナの救出を私の再出発と見定めるならば、私の背負う重荷をフィーナに率直に吐露するのも必要かもしれない。
それを他の人ではダメだったのかと問われれば答えに窮するが、あえて言うならばアルの真意とアルの生き様を身近で知る者にしか話せぬ事柄でもあった。
「…聞いてくださいますか?フィーナ?私の今抱えている思いを…」
「もちろんです!お姉様!何でもお話しください!」
私の戸惑いを隠さぬ問いにその戸惑いを消し飛ばそうとしてくれるかのようにフィーナは笑顔で快諾してくれる。
それに本心を告げるための少なくない勇気を与えられた私は意を決し、吐露し始めた。
「…正直に言います。以前も言った通り私には力がありません。私は一度失敗した者です。…フィーナが私のそばにいてくださるだけでもとても心強いです。ですがそれでも…私は何かを変えるための行動を起こす決心ができない。フィーナを助けることが第一歩と心に決めていたにもかかわらず…私は第二歩目にどうすればいいか…分かりません。私はフィーナや皆さんに慕われるような資格はないのかもしれません」
「そんな…お姉様はそんなに卑下なさらずとも…」
「フィーナが驚かれた通り私は剣術を僅かながらに身につけました。そしてこの国の辺境を旅して、この目でこの国と世界の惨状を知りました。…ですが私はそれだけでは何も変えることができない。何かが…何かが足りないんです」
「…お姉様…」
「私は時を待ちました。時を待つ間私のできる限りの知恵を得て力を得る。そうして機が廻ってきたその時。私は立たなければならない。声を上げ、力を振り絞り、この国を変えていかなければならない。ですが…私はどれだけ時を待てばいいのか。時を待つ間何をすれば良いのか。機は何時巡ってくるのか…それが全く分からないのです。私には…アルから頂いた大義を如何に果たせばいいか分からない…アルなら…迷う私にどのような声を掛けてくれるのでしょうか?」
それは私の心の奥底にずっと横たわっている憂い。
私には見定められなかったのだ。
アルがいない今私に道を示してくれる人はもういない。
私は何をどうすればアルの願いと大義を果たし、何をどうすれば王女としての責務を全うできるのか分からなかったのだ。
だが私はなぜフィーナに聞いた?
なぜフィーナに助言を求めた?
まさか私はフィーナにアルの影でも見ているのだろうか?
だからフィーナの支えを心から必要とし、命を懸けて助けようとしたのか?
それならフィーナに失礼だ。そのような問いはフィーナに不遜だ。
そう思った私は。最後の言葉を撤回しようと思い至る。
だがその前にフィーナが口を開いていた。
「アル兄さんなら…きっと自分を信じろって言うと思います」
それは私が聞きたいと思っていた言葉。
…フィーナは私の迷いを汲み取り、私の求める言葉を与えてくれていた。
「アル兄さんは英雄になりたい。英雄になりたい。そう方々で口にしても本当は英雄になる器はない…そう思っていたようでした。アル兄さんは自身の無力を理解していたのです。今のお姉様と同じように、です。ですがアル兄さんは、英雄になりたいと口にするのを止めませんでした。私の知る限りアル兄さんは例え道化として生きることしかできないと薄々悟りながらも…英雄への道を諦めたりしませんでした」
アルのそばに誰よりも長くいたフィーナの言葉がまるでアル本人の言葉のように染み渡る。
フィーナの言葉が、アルの遺志が私に自信を授けてくれる。
「だからアル兄さんならきっと自らの無力を知り、器の限界を知ったとしても…それでも尚抗い続けるべきだ。何かを変えたいという志、願い、大義…お姉様の抱いた思いを忘れず唱え続けるべきだ…そう言うと思います」
「フィーナ…」
「そして何より私達は分かっているはずではありませんか?アル兄さんは自分は英雄の器はないと言いました。ですがその言葉は真実だったでしょうか?本当にアル兄さんは英雄ではなかった…そう思いますか?」
フィーナの問いに私は力強く首を振る。
そうだ。私は全く思わない。
アルがただの道化などだったとは。
アルは英雄だった。
私の英雄だった。
私達の英雄だった。
私達の希望を背負う英雄だった。
アルの自己評価など完全に間違っている。
「ですよね?アル兄さんは英雄だった。私達の英雄でした。アル兄さんはご自分の価値を理解してなかったんです。だから勝手にいなくなっちゃって…自分ではやっぱり正当な評価はできないんです。それはきっとお姉様も同じ。お姉様はそんな馬鹿兄と同じことはしませんよね?お姉様もご自分の価値を過小評価しています。お姉様は…王女アリアドネは無力でも器がない訳でもない」
フィーナはそう言うと、席を立ったかと思うと私の前に跪く。
その動きに私は慌てて止めようとするが、その前にフィーナが私を制するように言った。
「お姉様…いえ。王女様。王女様は私を必要だと言ってくださいました。そして希望を紡ぎ続けるために、アルゴノゥトの遺志を残すために必要なお方です。どうか自信をお持ちください。王女様は私の…私達の希望となるお方です。王女様は私達がお慕いしお支えするに相応しいお方です」
「でも…私は…そんなこと…」
「なぜならあなたはアルゴノゥトが二度までも守り抜き、アルゴノゥトに選ばれたお方だから!」
「…っ!」
「あなたはアルゴノゥトに選ばれた。だからあなたはアルゴノゥトの遺志を継ぐと仰った。なら…あなたはアルゴノゥトの遺志を継ぐ者として堂々と誇り高く生きなければいけません。それをどうか忘れないでください。今もまたアルゴノゥトはあなたの生き様を遠くで見ています」
フィーナの言葉は希望を与えるものだった。
フィーナの言葉は私の言動を強く戒めるものだった。
フィーナの言葉はアルの存在の重さを改めて私自身に知らしめるものだった。
私は再び心に刻み込んだ。
今尚アルゴノゥトが私のそばにいて、私の背を押し、私の生き様を見守っている。それを再び思い返した。
ならばアルゴノゥトは私の再出発の決意を知っている。
私がその決意を迷いの中埋没させぬか見守っている。
私はこの決意をより強くしなければならない。
フィーナへの問いはそれを強く思い起こさせた。
そして私の決意を問うようにフィーナは重ねた。
「王女アリアドネ。あなたにはアルゴノゥトの遺志を継ぐ…その覚悟が本当にありますか?」
それは私の決意を覚悟をアルゴノゥトへの思いを問う質問。
私はこの重大な問いに寸分たりとも迷いを混じらせるわけにはいかなかった。
私は強い決意を込めて、力強く言葉に重みを含ませて、その問いに決然と答えた。
「当然です。私はアルゴノゥトの遺志を継ぐ者…かの英雄の大義はこの私が引き継ぎます。この遺志を潰えさせはしません」
私の覚悟を込めた言葉にフィーナは満足したように頷いて返してくれた。
「ええ。よくぞ仰いました。お姉様。その強い意志の宿る美しい瞳…それでこそお姉様です。そしてお姉様?もう一つだけ加えさせていただいてもいいですか?」
「何でしょうか?」
「お姉様がどのようにアル兄さんの大義を果たせばよいのか、です。アル兄さんならきっとこう仰ります」
フィーナは私に自信を与えてくれた。
そうして指針までも与えてくれる。それもアルの遺志と言う名を借りて。それは私にとって揺らがぬ礎となり得る。そう思った。
だがそこまでを求めるのは私の甘えだった。
「アル兄さんならお姉様の道を行け。そう言うと思います。なぜならアル兄さんも自らの道を貫いたのだから。絶対お姉様に周囲から押し付けられた思いに基づいて行動しろなどとは言いません。例え私やお姉様を慕う方々が何かを言ったとしても、です。お姉様はお姉様の道を進むべきです。残念ですが私にそこまでの助言はすることはできませんから。お力になれず申し訳ありません」
そう言ってフィーナは頭を下げる。
私の甘えは私の生き方までも規定してもらおうとする浅はかなものだったと気付かされる。
自らに忠実に生きたアルがそんなことを望むはずもない。そう考えればすぐにでも気付いたであろうに。
私は自らの浅はかさを自嘲した。
それと同時にその過ちをすぐにでも是正すべく動いた。
「ありがとう。フィーナ。あなたのお陰でこの決意がより不動になりました。そしてフィーナ。どうかお立ち下さい。あなたにはお話ししなければならないことがあります。これからのために。私は私の道を歩むべく自らの意志で手立てを考えます。ですがそのために知恵は借りさせていただきたいのです」
「…っ!はいっ!もちろんです!お手伝いならいくらでも!」
フィーナは私のお礼と求めに威勢よく返事を返してくれる。そうしフィーナは再び私の前の席へと座る。
その間にそばから巻物を手に取った私は私とフィーナが挟んでいる机にそれを広げた。
「これは…」
「この辺境一帯の地図です」
「…それは何となく分かりますが、これまさか手書きですか?」
「ええ。私が皆さんから情報を頂き歩いてみて回りながら書いたものですが、それが何か?」
「へっ…へー」
何やら不自然な反応を示すフィーナに違和感もあったが、質問を重ねてこないことからさしたる問題ではないだろうと考え、早速私の話を始めた。
「まずここが私達のいるナクソスです。ここに来るまでで分かったでしょうが、ここは王都のそばを流れる川に沿った位置にあるとはいえ、かなりの上流。それは恐らく王都の最終防衛線であったカルンガ荒原がこの位置にあることから分かると思います」
そう説明しつつ地図を指で差していくと最後に行き着いたのはカルンガ荒原。
私達の言わば因縁の地。
ミノタウロスが数多の魔物と人々を葬ってきた王家にとって忘れるにはあまりに因縁が強い地であった。
「カルンガ荒原のさらに南…王都の最終防衛線からこんなに遠いんじゃ、この一帯の防衛は…」
「ええ。当の昔に放棄されています。ラクリオス王国領でありながら、この地を事実上王国に防衛する気はない。当然この辺境一帯全てがです」
「だからお姉様は捕まらずに済んだ…そういうことですか?」
「その通りです」
執念深いはずの父の追手から逃れられた理由。それは簡単なものだった。
父の手の及ばぬ地、もはや王国の力の及ばぬ地に辿り着いたからであった。
だが父の追手が及ばぬとも危険なら言うに及ばずいくらでもある。
「私の安全は確保されているとは言え、王国の軍の防衛が行き届かぬのはこの南部辺境一帯にとってかなりの危険なこと。魔物に対し自主防衛で挑まなければならないからです」
「でも…自主防衛なんて大きな国でさえも魔物に対抗できないのに…」
「…ええ。先日も近隣の都市が陥落したとも聞きます。何も手を打たなければ、南部一帯は魔物に飲み込まれます」
「つまりそれを防ぐための手立てが分からない、と」
「その通りです。アルの遺志に沿うならば、目の前で危機に瀕している南部一帯の救済が最優先でしょう」
「お姉様のお考え通りだと思います。ただ肝心な手立てが…」
そうまで言って私もフィーナも言葉に詰まる。
南部一帯に住む方々を守らなければいけない。
それは重大な目標で大切な事柄。
だが肝心な手立てがないのだ。それが私達に意志があっても力がない。そういうことだった。
「あの…やっぱり王都を奪還して、王国の軍で救援に来るしかないのでは…」
「そうは言っても王都を奪還摺う手立てもそれで救援が間に合うかも分かりません。その時にここ一帯が魔物に飲み込まれていたら話になりません」
「ん…んー…」
「そもそも…私達の状況は…」
「…そもそも…何です?」
「それは…」
私がそう言いかけたその時。
遠くでけたましい鐘の音が鳴り響く。
それを私もフィーナも聞き逃すことはなかった。
「…何の音です?…鐘?」
「…っ!またですかっ!」
「…え?ちょ…お姉様!?」
私が苦虫をつぶしたような表情を浮かべる一方状況への理解が及ばないフィーナは首を傾げる。
だがそんなフィーナに説明をしている時間は存外にない。
私はフィーナへの説明もせずに席を立つと、そのまま部屋を飛び出す。
そんな私を慌てた声で追いかけてくるフィーナにも構う余裕もなく足を速める。
そうすると私の元に大慌てで家へと報告に飛び込んできたルナの姿を認めた。
「ルナ!敵襲は?盗賊ですか?それとも魔物ですか?」
「まっ…魔物です!四方から鐘の音が鳴っています。かなりの規模かもしれません」
「分かりました。今まで通り落ち着いて対処するように伝達を。私もすぐ出ます」
「…っ!はい!」
「…お姉様?魔物ってまさか…」
私の言葉に緊迫した表情を隠せないまま来た道を駆け戻る。
一方のフィーナは今のルナの言葉のお陰で私の説明がなくとも理解が及んでくれたようだ。
…それが分かるのはフィーナがルナと同じような表情をしているからという望ましくない結果によるものだが。
状況が状況。このタイミングで魔物が襲ってきたのは、不幸中の不幸と言えたが、それでも背に腹は代えられないのが正直なところの現状。
私は率直にフィーナに告げた。
「フィーナ…申し訳ありません。早速お力を貸していただけませんか?今から…魔物との戦いに臨まなければなりません」
これは私の再出発をある意味飾った魔物の襲撃。
この時の私はまだ知らない。
この襲撃が再出発を飾るどころか現状に大きな変化をもたらす重大なきっかけになるとは。
今後作品を続けていく上で登場させる予定のオリキャラに関わるアンケートです。アリアドネとアイズさん、リュールゥさんとリューさん、と転生思想らしき構想が垣間見えますが、今作でそれを採用するのは違和感はありますか?その構想をどのように思われているでしょうか?
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転生なしでアルゴノゥトと原作は無関係
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転生と言うよりは容姿が似ているだけ
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転生思想あり。性格等での類似点がある
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転生でキャラ同士に因果があるほどの関係