それでも糸は紡がれ続ける—女傑達の英雄遺文—   作:護人ベリアス

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当面は評価のバーを赤にして、お気に入り登録50に到達できるほどの女傑達の美しい生き様を今後も描いていきたいところ。
…まだオリキャラ含めた主役級の女傑の半分も出ていない状況(アリアドネとフィーナのみ)なので本当にまだまだこれからなんですよね〜(七話目なのに)
…少々展開を早めた方が良いかもと思いつつ、丁寧に進めていくことを気にしてこのペースで進めてます。
足らぬ足らぬは工夫が足らぬと言いますし、投稿ペースを遵守しつつ興味深く度肝を抜けるような物語を描いていきます。…まぁ何が足らないのか正直知りたいですけどね!

それはともかく前話は初の戦闘回でしたが、恩恵なしの魔物の撃破方法が見えてこないのが非常に難しいところ。原作は恩恵ありきですし、イベントも雑兵は蹂躙されるばかりで戦闘の明確な描写が少なかったですから…
まぁ想像を広げて描ける分やりようはある訳ですから、それを考えるのは非常に興味深いところではあります。
個人的に無双的活躍は好みではないので、あくまで戦術と戦略と統率力で魔物相手でも勝ち筋を見出していけるように描くつもりです。
尚ダンメモの追憶の冒険譚のお陰で童話上ではアリアドネが精霊の剣でミノタウロスを斬りつけたとあるため、戦うアリアドネがある程度正当化されました!
指揮官として前線に立つアリアドネ像が童話にも影響を与えたという設定で、今後もアリアドネは前線に立ち続けます。

さて余計な話はこれくらいに今話は魔物との戦いの勝利を皆で祝う回です。


勝利を明けて

 肉が焦げる悪臭。

 

 それは魔物が撃ち滅ばされた証。

 

 私の身を包み込むように集まる数々の視線。

 

 それは私達が今尚生きている証。

 

 この戦いを生き抜いたのは魔物ではなく私達。

 

 私に集まる視線の数々は私にこの戦いの幕引きを求めている。

 

 故に何も言わず合図の代わりにと弓を振り上げた。

 

 それは私にとっての戦いの終わりの合図であった。

 

 

「「わぁぁぁぁ!!!!!」」

 

 

 私の合図に続いて皆さんの歓声が地が割れんばかりに轟く。

 

 隣に立つ仲間と抱き合って喜ぶ方々がいる。

 

 弓を振り上げ、槍を振り上げ、喜ぶ方々がいる。

 

 壁の上で戦ってくださった方々にも魔導士として魔法を放ってくださった方々にも補給のために走ってくださった方々にも何一つ差はない。

 

 皆この戦いの終わりを勝利を心から喜んでいた。

 

 だがただ一人私は。

 

 

 その中に心から混ざることはできなかった。

 

 

「デキウス」

 

「…はっ」

 

 歓声が響き渡り皆さんの注意が私から勝利を喜ぶ方に移る最中。私はそばに控えていてくださったデキウスを静かに呼んだ。

 

 これもまた私の毎度の振る舞いだ。故に気を使って私のそばにいてくださったのだろう。

 

 そして尋ねるのはいつも気の進まぬ内容。戦に終わるたびに何度尋ねようとその苦しみは変わらない。

 

 これが私が戦いの終わりを彼らと同じように素直に喜べぬ理由。

 

 これが私が戦いの終わりを勝利と同義に見なせぬ理由であった。

 

「…此度の犠牲者は…?」

 

「報告によれば負傷者67、死者23とのことです。…死者は恐らくまだ増えるかと」

 

「…そう…ですか…」

 

「王女様がお連れ下さったフィーナ殿の魔法の戦果は絶大。王女様の魔導士隊への指示も非常に的確でした。お陰で間違いなく犠牲は減ったことと思います。なので…」

 

「…治療所へ参ります」

 

「はっ…お供いたします」

 

 デキウスは多くを言わなかった。

 

 もう何度も私の振る舞いを目にしたデキウスはもう私の心境を察して下さっているからであろう。

 

 例えフィーナの魔法が戦いを早く終わらせたとしても。

 

 例え私の判断が的確で戦いを有利に進められたとしても。

 

 

 亡くなった23人の方は戻らない。彼ら彼女らの死を招いた一端は私の力不足にある。

 

 

 そう思うが故に私は勝利などと表現はできなかった。

 

 戦いの前はどれだけ高尚なことを言い、皆さんを激励したとしても。

 

 戦いの後に同じことを述べることは私にはできなかった。

 

 それだから私は戦いの終わりを身振りのみで伝える。

 

 それは私から戦いに贈る言葉などないからだ。

 

 私には勝利のみを喜び、失われた数々のものを見過ごすことはできないから。

 

 これは私が責任と期待を背負う身であるが故。

 

 だからその苦しみは甘んじて受け入れる。

 

 今私の心を満たすのは、自らの無力感と失われてしまった命に贈る哀悼。

 

 私はただ一人周囲から浮いた表情のまま壁の上から退いた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 魔物との戦闘の終結から二刻。

 

 治療所での慰安を果たし、遺族の方とのお話もさせて頂いた私はその治療所のそばの家屋に腰を落ち着けた。

 

 そこには毎度私が治療所を訪れるのを知っている主だった方々が集っていた。

 

 毎度同じ行動を取る私のせいかいつの間にやらそこで戦闘後の軍議を開くのがもはや慣例のようになっていた。

 

 その中には魔導士隊でマルスと行動を共にしていたフィーナもいた。

 

 そこで軍議に参加するフィーナを含めた6人の主だった方々の中からは誰一人欠けておらぬことを確認できたことをほんの少しだけ安堵の糧とした私は、一つ空席となった上座へと足を向けた。

 

 外では戦った皆さんが勝利を祝い、宴会を開く中。この中だけは戦闘が終わっても尚厳正な空気が保たれていた。

 

「「王女様。ご戦勝おめでとうございます」」

 

「…ええ。皆さんどうぞお座りください」

 

 デキウスを始め私を迎えるため一斉に各々の席を立ってくださる。

 

 その堅苦しい礼作法を最初のころは断ろうとも思ったが、ここに集っている方の多くの経歴を考えればそれも意味のなきことと思い諦めた。

 

 皆さんに席に着くように促すと共に私も腰を下ろす。最初に口を開くのはもちろん私であった。

 

「此度もよくぞ皆さん戦い抜いてくださいました。皆さんの指揮と奮闘のお陰で多くの命が救われ、ナクソスの陥落を防ぐことができました。感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」

 

 私はそう言うと感謝の意を込めて深々と頭を下げる。そうして頭を上げると、私は早々に戦後処理に話題を切り替えた。

 

「それでデキウス。魔物の残党処理部隊の手筈は?」

 

「既に出立を。魔物の処理と共にこの度利用された罠の再設置は近日中に済ませることとします」

 

「分かりました。マルス。魔導士隊の物資消耗は?」

 

「杖を3本消耗いたしました。使用限界がある物もありましょうが、取り急ぎ手配する必要はないかと存じます」

 

「余裕を持つことに越したことはないでしょう。万事万全の準備を整えねば。念のため手配すべきでしょう」

 

「承知いたしました。王女様がそう仰るならば、手配させましょう」

 

「ゴヴァン。二アール。ガイウス。私はあまり長く督戦していませんでしたが、各壁において何か気になる点は?」

 

「はっ…特にはないかと」

 

「同じく」

 

「私からあえて申し上げるならば、私の持ち場の壁への侵攻が少々普段より弱かったかに思えます」

 

「それは東側でしたね?ガイウス」

 

「その通りです。恐らく罠を増やした成果かと思われます。是非とも罠を増設すべきかと」

 

「なるほど。それは名案です。再設置だけでなく増設も検討すべき点。皆さんはどう思われますか?」

 

「お待ちを。私はガイウス殿の意見に反対です。壁の外に兵を出したままにするのは望ましくありませぬ。壁の外では万全の対抗がしにくいですからな」

 

「そうは仰られますがね。ニアール殿。被害を最小限に減らすは王女様の望み。その準備は怠らぬが吉ではございませぬか?近頃は小規模な襲撃よりも大規模なものが増え…」

 

「それもそうだが、壁あっての被害の少なさ。壁を出て隙を作ることはできるだけ避けねば…」

 

 報告を交えて今後の対策の意見をぶつけ合うこともまた軍議の慣例。

 

 私よりはるかに戦闘経験の多い方々の知恵を借りるが最良と理解する私は、過度の過熱を留める以上の介入はしない。

 

 時折問いを挟むに止め、議論の行き着く先を見守り最後の最後の結論を私が担う。そんな振る舞いを確立していた私はその議論の行く末を見守っていた。

 

 ただ私はその中でただ一人その白熱する空気についていけていない者の姿を認めてしまった。

 

 フィーナは末席で一人二人から四人に参加者を増やして交わされる激論にどうしたらいいか分からないと言わんばかりの表情を浮かべている。

 

 …フィーナの事はここにいる皆さんには紹介してあったので特にこの軍議に参加することへの反感は買わないであろうと推測していた。

 

 だが肝心のフィーナがここに集っている方々のことをマルスしか知らない。それでは居心地が悪くなるのは致し方ないだろう。

 

 すると私のフィーナを心配する視線に気付いてくださったのは魔導士隊でフィーナと共にいたマルスであった。

 

 マルスがわざとらしく咳払いをすると、白熱していた議論が途絶えマルスに四人の視線が集中する。それを確かめたマルスは私に許可を求めるように目配せをしてくださった。

 

 その配慮に感謝を込めて頷いて応えると、マルスが口を開いた。

 

「皆々。白熱した議論をなさるのもよろしいが、皆々の熱気にこの度の戦いにおける功労者であるフィーナ殿が唖然としておられますぞ?皆々は暑苦し過ぎる」

 

「「なっ…」」

 

 マルスの直球の指摘に激論を展開していた四人の方はすっかり言葉を失う。

 

 …さすがはマルス。この中で最長老である魔導士の雄の冗談を口にする余裕と人を制する貫録にはいつも感服させられる。

 

 そのマルスは完全に黙らせた四人は放置し、今度は私に視線を向けた。

 

「王女様。王女様からお話は伺っておりましたが、フィーナ殿の力量は予想を上回る物。是非とも今後も軍議の場に参加して頂いては如何でしょう?」

 

「えっ…わっ…私がですか!?そんな私なんか役に立ちませんよ…!」

 

 マルスの言葉に私が答える前にフィーナが大慌てで自嘲を口にする。

 

 だがその自嘲を私より先に否定したのは先程まで議論を白熱させていた四人であった。

 

「何を仰せか!我らはフィーナ殿の魔法の戦果をこの目で壁の上で見ておりました。恐らくこのナクソスで一、二を争うでしょう」

 

「同感ですな。何より我らがこの軍議に今同席を許していること自体があなたの力を認めている証。信なくばいくら王女様の信ある者と言えど、軍議の場に立ち入らせはしませぬ」

 

「何よりフィーナ殿はかの英雄アルゴノゥトの義理の妹君であり、王女様のお命を救うべく尽力されたことは周知の事実。何故フィーナ殿を無下になどできましょうや?」

 

「王女様の王都脱出の際のご英断は王女様から度々聞かせて頂きました。あなただからこそ我らだけでなくこの街に住む全ての者が王女様が単独で救出に向かうと申されたのを承諾したのです。…まぁ護衛を付けるように申し上げはしたのですが」

 

 四人が揃ってフィーナを褒め称えてくれたことに私は安堵を覚える。…ただ最後の最後にデキウスが付け加えた私への嫌味は流石に私は苦笑いで受け流す他ない。

 

 ただフィーナはそれどころではないような表情になっていた。

 

「えっ!?皆さんアル兄さんを…兄をご存じなのですか!?」

 

 フィーナが驚いたのはアルの名が出たことが原因のようだった。フィーナからすればアルの名を皆が知っているのは驚きだったようだ。

 

 だがここに集う皆さんのことをよく知る私からすれば、アルの事を知っている…それは当たり前の事であった。

 

「もちろんですとも!ここラクリオス王国に住む者ならば、英雄アルゴノゥトの勇姿は誰でも知っておりましょう!」

 

「その通りです。私はお目にかかったことはありませぬが、ここにいる者の一部は英雄アルゴノゥトの遠征に同行した者もおります。だから…」

 

 そう言いかけたところでゴヴァンは言葉を詰まらせる。その理由は言うまでもない。

 

 アルの軍勢に同行していた者もそうでない者も英雄アルゴノゥトには一つの思いを抱かずにはいられない。

 

 

 それは後悔。一人の英雄をむざむざと死なせてしまったという後悔であった。

 

 

 その後悔がフィーナを迎えて快活だった雰囲気を一気に重い物へと変えた。

 

 そうして訪れた沈黙は話を停滞させるぐらいにしか役立たない。それが分かっているマルスは気分を変えるためか手を叩き、アルを思い出し気分の沈んでしまった皆さんの顔を上げさせた。

 

「さぁさぁ。とりあえず王女様、そして皆々。フィーナ殿が軍議に今後を出席なさることに異論はございませぬな?そしてフィーナ殿?あなたは遠慮なさるが、王女様にはあなたの力をきっと欲していることでしょう。何せこの軍議の場はこれまで我ら暑苦しい男衆のみで王女様も何かと気苦労が多かったであろうことは言うに及ばず。年端の近いフィーナ殿の存在は王女様の支えとなりましょう。何より実力、権威、そして王女様の信頼。それらを兼ね備えるフィーナ殿は我らにとっても欠かせぬ存在となることでしょう。是非ともお受けくだされ」

 

 マルスの問いかけに私も皆さんも頷いて賛同を示す。それを見たフィーナは大きく目を見開いて驚きを示したかと思うと、深々と頭を下げた。

 

「王女様。皆さん。そこまで信頼のお言葉を頂けて、私はもう言葉がありません。私フィーナは慎んで軍議の場に連なる責任を引き受けさせて頂きます」

 

「それは上々。これでこのむさ苦しい軍議の場にも花がもう一輪添えられましたな。いやはや嬉しい限り」

 

 フィーナの謝意にマルスが冗談交じりの言葉で応じたことで大きな笑いが起こる。その中でフィーナも笑ってくれていたのを見て、この場に少しでも慣れてくれたことを感じることができ、私はホッとする。

 

 きっとアルの事を皆が知っているという事実はフィーナにとって少しでも居心地がよくなる材料になったことだろう。

 

 そうしてこの場に慣れ始めたことを示すかのようにフィーナが再び口を開いてくれた。

 

「あの…これから私もこの軍議の場でお世話になるなら是非ともみなさんのことを知りたいです。よろしければ、お教え頂けないでしょうか?」

 

 そのフィーナの問いに皆さんの視線が私に集まる。それは許可を求めるための視線だったと分かりきってる私は笑みと共に頷いて許可を出した。

 

「ではフィーナ殿は少しばかりはご存じでしょうが、私マルスから話させて頂きましょう。知っての通り私は魔導士隊の指揮を預かっております。よくヒューマンと見間違えられますが、遠縁にエルフの血を引いております。故にフィーナ殿と同じ所謂半端者と蔑まれてきた身でもあります。故に私はここに来る前はそんなはぐれ者の集まる街で長をやっておりました。ですがその街は魔物に滅ぼされ…流れ着いたがここナクソス。フィーナ殿がこれまでどのような扱いを受け、もしかしたら酷い目に遭ったこともあるやもしれませぬが、ここでは何の心配もいりませぬ。ここにそのような些末な差別はありませぬからな。…まぁ年寄りを労わらぬ者が多いと思いはしますが?」

 

「ガハハ!こんな元気溌剌な老将を誰が労わり休ませましょうか!まだまだご老人には王女様のため働いて頂かなければ!」

 

「ほっほっほ。申した通りでございましょう?特にゴヴァン殿は全く労わってくれんので困っとるのです」

 

 マルスとゴヴァンの掛け合いにドッと笑いが起きる。この掛け合いが皆さんの間が信頼で結ばれているが故に成立しているということはきっと言うに及ばないだろう。

 

 そしてマルスさんの自己紹介に続いたのは、先程突っ込みを入れたゴヴァンであった。

 

「では次は私が。私はこの度の戦では西の壁の指揮を任されて追ったゴヴァンと申します。かつてはラクリオス王国の辺境防備の将を務めておりました。…まぁ小さな砦の守備を担う大隊長止まりでしたがね。隣の二アールはその時からの戦友。我らは王女様が王都を逃れられて以後王国が辺境の防備を放棄した際に軍を脱走し、各地を傭兵として転々とした末にここに参りました。なぁ?二アール?」

 

「ゴヴァンの言う通りです」

 

 ゴヴァンの快活な問いかけに二アールは相変わらずの口の少なさで応える。ただ先程の防衛策の議論の時のように二アールは肝心な時には口を開き具申してくれるため、何を考えているのか分からないとまでは見えない、というのが私の二アール感だった。…もっともそれがフィーナに伝わるとはとても思えないが。

 

 そして二人分さっくりと済ませてしまったゴヴァンの次に口を開いたのは、先程議論を特に白熱させていたガイウスだった。

 

「マルス殿に散々暑苦しいと嫌味を言われておるのはこの私ガイウス。これでも一応は王女様の遠縁の末端の王族だが、なぜか皆には信じてもらえぬのを常々疑問に思っている。もっとも末端過ぎて王女様とはここに来るまでお会いしたことがなかったと言うか、王都が狭苦しすぎて王女様が生まれる前に王都を飛び出し、魔物相手に自警団を組織して各地を転戦しておった。ここナクソスに偶然部下と共に参った際に王女様と出会いお仕えすることにしたと言う訳だ」

 

「と言う感じで本人は分かっとらんが、全く王子様らしくないと言う訳だ。王女様とはまるで品性が違うと言うか何と言うか…同じ王族と言われると王女様に失礼なのではないのかな?」

 

「何だと!?ゴヴァン!?もう一度言ってみろ!?」

 

 …と早々に口論を始めてしまうのがガイウスとゴヴァン。

 

 …正直もう見慣れたという感じで少し微笑ましさを感じるほどだ。…もちろんお二方とも私より年上だが。

 

「やかましい。王女様の御前だぞ」

 

 そんな口うるさく口論を続けるお二方を圧で制したのはデキウスであった。その圧にお二方があっさりと引き下がる辺り如何にデキウスの言葉の重みと力が認められているかが分かる。そしてそれは当然裏付けのあるものであった。

 

「名はデキウス。フィーナ殿も知っての通りこのナクソス唯一の門の防備を預かっていた者である。かつては南部辺境の防衛を担うとある都市の城主であった。そのため…私は英雄アルゴノゥトの遠征軍に配下の者と同行していた。あくまで支援軍の一部隊としての参加だった故に英雄殿の軍議にも参加していなかった。だが…その軍の先頭に立つ雄姿は今も目に焼き付いている。そして英雄殿が魔物によって無念の死を遂げられたと噂が広がると共に軍勢は散り散りになり…私はどうすることもできなかった。そして遠征軍の解体は辺境一帯の軍事力の減少にも繋がり、王国の辺境一帯の放棄がそれに拍車をかけた。…結果私は自らの守るべき都市を失った。そして一人放浪する中ここへと流れ着いた。そうして王女様の下働くことを許され、今に至る次第」

 

 その人柄を表すような重々しい紹介を終えるデキウス。

 

 こうしてここに集う皆さんの自己紹介が終わったところで締めを告げるようにマルスが言った。

 

「このように我ら皆経緯経歴は違うと言えど、この場にいて抱く思いは同じ。皆これまでもこれからも王女様に忠誠を誓い、王女様の大義のために戦うことを心に決めています。それがいつかは王国を救い、人類までも救うことに繋がると信じておるからです」

 

 マルスの言葉にフィーナを含めた皆さんが頷いて賛意を示す。

 

 その皆さんの私に向けてくださる思いは私にとって期待されているということへの嬉しさを与えると共に背負う責任の重さを感じさせるものであった。

 

「それは私も同じです!私フィーナはアルゴノゥトの義理の妹として。王女様をお慕いする者の一人として。非力でしょうが、この身に宿る全ての力を用い王女様の大義のため全身全霊を尽くしたく思います。皆さん。これよりどうかよろしくお願いします」

 

 一方の五人の自己紹介を聞き終えたフィーナは簡単な自己紹介と共に五人に挨拶を贈る。それに応えるように五人も笑みを浮かべて各々フィーナに声を掛けた。

 

「よろしく頼むぞ。フィーナ殿」

 

「さらなるご活躍を期待しております。フィーナ殿」

 

「フィーナ殿。これより共に王女様を支えようぞ」

 

「それにしても魔導士隊の指揮官の座を奪われぬとよいですなぁ?マルス殿?」

 

「ほっほ。フィーナ殿に負けぬようこの都市よりも精進せねばなりませんな」

 

「えっと…王女様にお褒め頂くにはやっぱりマルスさん以上の活躍をしないといけませんかね?」

 

「それはもう。マルス殿の活躍を越えれば、ナクソスにおける第一功労者は間違いなくフィーナ殿のもの。王女様のお褒めの言葉も思うがままかもしれませぬぞ?」

 

「本当ですか!?なら私精一杯頑張ります!是非とも王女様にお褒めの言葉を頂いて、あわよくば抱きしめてもらいたいです!」

 

「はっはっは!それはまた我らではとてもお受けできぬ褒美ですな!フィーナ殿が羨ましい!はっはっは!」

 

 そうして早々にフィーナを中心に会話に花を咲かせたかと思えば、またもゴヴァンのからかいから始まった会話にフィーナはもう私のそばにいる時と同じ調子で話しており、もう完全に溶け込んでしまっている。

 

 いくら私の紹介が事前に為されていたとはいえほぼ初対面のフィーナを温かく迎え入れてくださった皆さんへ感謝を覚えると共に、いとも簡単に周囲の人々と溶け込んでしまうフィーナには改めて感服させられた。

 

 ただ会話を弾ませる皆さんを見守る私は、ほんの少しだけ皆さんとの距離を感じずにはいられなかった。

 

 だが私の抱く複雑な感情も思いも皆さんに気取られる必要は全くない。故に私はできる限り笑みを浮かべ、その団欒を少し遠くで見守っていた。

 

 そんな時部屋の外から響く声が私達の耳に届いた。

 

「王女様!王女様!」

 

「何事だ!入れ!」

 

 それは私を呼ぶ声。それも切迫した声。

 

 その声に瞬時に反応し団欒を打ち切る辺りがここに集う皆さんの意識の高さの証明たるものであった。その声に真っ先に反応を示したのはデキウスであった。

 

 デキウスによって瞬時に与えられた許可に応え、一人の方が軍議の場へと入ってくる。その姿は革の鎧を纏った兵士の物であり、息は切れているようだが目に付く所には怪我はなく、魔物の襲撃などの急報ではないことが推察された。

 

 だが何が起こるか分らぬがこの時世。私は早々にその者に何事か尋ねた。

 

「何事ですか?何か問題でも生じましたか?」

 

「な…そなたは残党処理のために送り出した部隊の者ではないか?外で何かあったのか?」

 

「はっ。仰る通り私はその部隊の者です。先に申し上げると、魔物の襲撃など犠牲が出るような事態は発生しておりません。今日中には罠の再設置含めて全て完了することと思われます」

 

「なら何か他に問題でも?」

 

 私の問いに部隊を編成した張本人であるデキウスが情報を加えてその者に尋ねる。するとその者の言葉を聞いた限り切迫した問題が発生した訳ではなさそうだ。

 

 だがこの者はわざわざ私の元に報告に来たのだ。

 

 何かがある。そう私は確信した。

 

「実は周囲の探索を行う途上で正体の分からぬ一団に出会いました」

 

「正体の分からぬ一団?なんだ?商団ではないのか?」

 

「それはあり得ませぬな。商団の到着は近日にはありませぬ。何だ道に迷った旅人か何かだったのか?」

 

「いえ…そうではなく…」

 

「何だ!歯切れが悪い!とっとと何者が現れたのか言わないか!」

 

 曖昧な報告の物言いにデキウスが疑問を告げ、それを商団との取引を担う日程を把握するマルスが否定する。だがその言い合いを経ても歯切れの悪いその者にゴヴァンがしびれを切らして喝を入れる。

 

 それに恐怖でおびえた様子を見せつつその者はようやく明確な答えを口にした。

 

 

「リュールゥ…この街の頭…王女様にリュールゥと言う名を告げれば、分かる…そう言ってそれ以上の事を言わぬのです…」

 

 

「リュールゥ?一体何者だ?」

 

「分かりませぬ。森のエルフの者のようですが、それ以上は分からず…そのため我々も反応に困り、今は街の外で待たせております」

 

「…何者か分かりませぬが、王女様?如何いたしますか?」

 

 リュールゥ。

 

 その名を知らない皆さんは首を傾げ、判断を仰ぐべく私へと視線を向ける。

 

 だが私はその視線にすぐには答えられない。

 

 それはリュールゥという名は私に懐かしさを覚えさせたから。

 

 それと同時に今になってなぜ現れたか、それが理解できなかったから。

 

 

 吟遊詩人リュールゥ。

 

 あの行動が読めない変わり者のエルフが現れたことは何かが起こる前兆に違いないと私は思わずにはいられなかった。




今回は半分アリアドネの周囲を固めるオリジナルの五人の将帥の紹介用の回となりました。今後もっと掘り下げれたらいいな、と思ってます。
一応はオリキャラ設定集を後々投稿することを検討していますが、表記すると望ましい情報というのがどうにも見えてこないですね…
それはともかく初のオリキャラ大量導入を目指しているので、しっかりとそれぞれの人物に差をつけて描写していきたいところです。

そしてなぜここでオリキャラを用いたか。なぜユーリとガルムスではダメだったか。
それは個人的評価としてあの二人はイベント中の描写だけでは戦士ではあっても将帥ではないと考えるからです。(まぁそれだけではないですが、その点は追々論点にする予定なのでここでは語らないでおきます)
…というかユーリとガルムスどこに行ったんだ?

そして次回!ついにリュールゥさん登場!
一応は自分の推し(+リューさんの次に主役に据えた小説を書いてるお方)が登場するのにここまでかかるとは思いませんでしたね~
尚何度考えても思うのがリューさんとリュールゥさんって容姿以外ほぼ全て違うような気がすることですね。

今後作品を続けていく上で登場させる予定のオリキャラに関わるアンケートです。アリアドネとアイズさん、リュールゥさんとリューさん、と転生思想らしき構想が垣間見えますが、今作でそれを採用するのは違和感はありますか?その構想をどのように思われているでしょうか?

  • 転生なしでアルゴノゥトと原作は無関係
  • 転生と言うよりは容姿が似ているだけ
  • 転生思想あり。性格等での類似点がある
  • 転生でキャラ同士に因果があるほどの関係
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