それでも糸は紡がれ続ける—女傑達の英雄遺文—   作:護人ベリアス

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遂にリュールゥさん登場!
今作の主役を担う女傑の一人です。すっごい活躍する予定ですよ!(ここ大事)


詩人の来訪

「…何者か分かりませぬが、王女様?如何いたしますか?」

 

 デキウスによる私への問いと共に視線が一気に私へと集まる。

 

 私はしばらく思考を巡らせた末にその問いへの答えを導き出した。

 

「来たる者拒まず…それがこのナクソスのやり方です。招き入れましょう」

 

 私の答えに一瞬だけ静寂が訪れたが、もう私の判断は下っている。それに応ずるようにデキウスが使いとして来た者に指示を飛ばす。

 

「承知しました。おい。門番に伝えよ。その者達を門を開け迎え入れる準備をするように、と。警戒を解けとは言わん。だが無礼がないように気を付けるように」

 

「ははっ!すぐに伝えて参ります!」

 

 デキウスの指示にその者はすぐさま背を翻し、部屋を飛び出す。

 

 その姿を見送ると同時に私もまた部屋を出るべく席を立った。

 

「私達も彼女達を出迎えます。付いてきてください」

 

「わざわざお出迎えに…お待ちを。彼女?」

 

「ふむ…どうやら王女様はその方と面識がある…そういうことですな?」

 

「話は歩きながらでも。念のため正体を確認するためにも出迎えなければ」

 

 デキウスとマルスの詮索に私はそれだけ言うと少々急ぎめに部屋を出る。そんな私に皆さんが続くのを横目で確認した所で皆さんの問いに答えた。

 

「リュールゥ…彼女は王都ラクリオスにて私もフィーナも面識のあるお方です。吟遊詩人をされているとのことでしたが、記憶が違わなければアルゴノゥトのミノタウロス討伐にも同伴されていたはずです」

 

「王女様の言う通りです!リュールゥさんは王女様を助けるために私達と共に戦ってくださった言わば同志です!もし本当に来られた方がリュールゥさんなら信頼できるだけでなくきっと王女様や私達のお力になってくれると思います」

 

 リュールゥと面識のある私とフィーナによる説明に皆さんは頷きやら感嘆で応じてくださる。

 

 それはきっとリュールゥがアルと共に戦ったという事実。

 

 リュールゥが私の救出に関わったという事実。

 

 そして私の信頼が厚いと思われているフィーナもリュールゥを信頼できると評した。

 

 それらが皆さんの心に響いたからに違いがなかった。

 

 ただその中に混ざっていたデキウスの唸り声と共に発せられた疑問は私の中で密かに沸いていた疑問につながるものであった。

 

「それで…その吟遊詩人殿が何用で王女様の元へ?そもそも如何様に王女様がここにおられることを知ったのか?このナクソスに王女様がおられることは機密事項ではなかったのか?確かにここに住む者には王女様のために共に戦う同志として王女様がおられることを知らせておるが…」

 

「えっと…リュールゥさんは吟遊詩人ですから、アル兄さんの戦いを見届けた後はその英雄譚を世界に希望を届けるために旅をする…と仰っていました。だからその旅の途中でここを立ち寄られたのではないですか?」

 

「そう仰るが、フィーナ殿。このナクソスはラクリオス王国でも辺境に位置する上に周囲の街ともさして交流の多くない山奥。確かにかつての我らを含め流れて来る者は数多くいるが、旅の途中で立ち寄るような場所とは思えませぬな」

 

「つまり…デキウスさんはリュールゥさんを信頼できないと仰りたいのですか?」

 

「王女様とフィーナ殿のその吟遊詩人へのご信頼は理解しますが、警戒は解けない。そう考えております」

 

「そんな…でもリュールゥさんは!」

 

 デキウスの冷徹な分析にフィーナは感情的に言い返そうとする。それを最初は黙って聞いていた私だったが、これ以上放置すると余計な対立になり得る。信頼するデキウスとフィーナの間でそんな対立が起こるのは望ましくない。

 

 そう判断した私は歩みを止めて始まりかけていた二人の口論を制した。

 

「そこまでです。デキウス。フィーナ。お二人のご意見両方に私は同意せざるを得ません。デキウスの仰る通りリュールゥが今現れたことは不審と評さざるを得ません。それと同時にフィーナの仰る通りリュールゥはアルゴノゥトの勇姿を共に目にし、知らぬ仲ではないお方であり、できれば信頼を置きたいですし、お力もお借りしたい。私の中でも相反した考えが存在します。それはあまりに情報が足りぬからです。それはご理解いただけますよね?」

 

「…つまりその吟遊詩人を試すためにお招きになる、と?」

 

「そういうことです。デキウス。そのまま追い返しては何も情報は手に入らないでしょう」

 

「王女様がそう仰るならば…私はただその吟遊詩人の動静を見守るのみです」

 

「ありがとうございます。デキウス。そしてフィーナもいくら相手がリュールゥであろうと、油断して良いわけではありません。分かりますね?」

 

「はい。分かります。でも…」

 

「フィーナの仰りたいことはよくよく分かっています。だからこそ早々に彼女達の元へ。確かめねばならぬことは多々あります」

 

「「ははっ…」」

 

 何とかデキウスとフィーナに一時は納得させられたことに少しだけホッとしつつ私は歩みを再開した。

 

 向かうは、リュールゥがいるであろう門の前であった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「王女様だ!開門せよ!」

 

 私達が門の前に姿を現すと同時に門番が叫ぶ。私達は門の前に陣取り、リュールゥの率いているという一団が入ってくるのを待った。

 

 その掛け声とともに重々しく開門されると、それと共に入ってきたのは騎馬の一団。エルフやヒューマン、獣人にドワーフと様々な種族の者で構成されていることに正直驚きを隠せない。

 

 確かにその両脇を固めてはいるこのナクソスの兵士達もヒューマンにとどまらず多種族で構成されているものの、あくまでヒューマンが中核。ここでも多種族の共生は楽ではないにも関わらずこの一団の頭だというリュールゥはこの一団を見事に束ねている…?

 

 そう考えると私とフィーナの知るリュールゥは彼女のほんの一部でしかないのではないか?飄々とのらりくらりと詮索を躱していた彼女の事。多くの事を隠しているに違いない。

 

 そんな疑いと関心を抱きつつ私達は一団が入ってくるのを見守った。

 

 そうして見守り、100人前後かに見える一団がナクソスの内部に入ると、一団の中央が割れて道が出来上がる。

 

 その道によって拓けた視界から見え、まさにその者のために作られた道をゆっくりと騎乗のまま進んでくるのは一人の女性。

 

 帽子を被り長い髪を風に靡かせ馬を察そうと操る姿は美しいと表現する他ない。あそこまで華麗に馬を操ることができるのはエルフの慣習によるものか、それとも彼女自身の鍛錬の賜物なのだろうか?

 

 その女性は私の目の前に辿り着くと優雅に下馬する。それに続くように後ろに控える一団も下馬して跪いた様子はまさに壮観といったところだった。

 

 そして彼女、リュールゥは被っていた帽子を外し恭しく挨拶をする姿は周囲の視線を一身に集めているかのようだった。

 

「お久しぶりにございます。アリア殿。フィーナ殿。そしてお初にお目にかかります。ナクソスの皆さん。皆さん御健勝で何より何より」

 

「…お久しぶりです。リュールゥ。あなたもご無事で何よりです」

 

「…はてさて何やら我々への視線が少々厳しいようですが、これは如何なることでしょうかな?」

 

 リュールゥが陽気な声と共に頭を下げ挨拶を私達に贈ったので、私もまた相応の返答を返す。

 

 ただ周囲の、もちろん私も含めての視線はあまり客人の来訪を歓迎するようなものではない。それを早々に感づいたらしいリュールゥは頭を上げると共に鋭い視線と問いで私を射すくめた。

 

「単刀直入に聞こう。吟遊詩人リュールゥとやら。今日は如何なる用向きでこのナクソスに参った?」

 

 それに私よりも先に応じたのは、先程よりリュールゥを疑うデキウス。武骨な武人らしい単刀直入な問いはリュールゥ相手には上手く躱されてしまいそうだと少々警戒した私であったが、リュールゥは私の予測の上を行った。

 

「あなたは確かラクリオス王国が辺境で城主をお勤めになり、三年前のアル殿の遠征にも参加しておられたデキウス殿ですね?アリア殿の下でご活躍されているとは知っておりましたが、アリア殿の意思を代弁なさるほどのご信頼とは…いやはや驚きましたなぁ…いえ。何よりアリア殿がここまで皆さんを心服させているところを感服すべきところでしょうか…」

 

 リュールゥが口にしたのはナクソスに住む者でも多くの者は知らぬデキウスの素性。それには周囲だけでなくデキウスまで呆気に取られ、言葉を失うことになった。

 

「…なぜ…私の事を知っている。私の事はここの者でも僅かな者しか知らぬはず…そなたは…何者だ?」

 

 問いただすように尋ねるデキウスにリュールゥはニヤリと笑みを浮かべつつ答えた。

 

「何者?アリア殿からお聞きしておりませんか?私はリュールゥ。流離人ならぬ流離妖精。所謂吟遊詩人。英雄達の勇姿をこの目に収め、歌を歌い希望を各地に届ける…そんな大望を心に抱き、世界を歩く流離の吟遊詩人。風よりも早く世界を歩けば風と共に噂がこの耳に届くのもまた必定…これでは説明が足りませぬかな?」

 

「その点は王女様からお聞きしております。リュールゥ殿。ですが我らが疑問に思ったのは、何故その吟遊詩人を名乗るリュールゥ殿が一団を率いておられるのか?吟遊詩人が一団を組むとはあまりお聞きしませぬが…」

 

「はて?それが何かおかしき点ですかな?あなた方『ウィーシェ』と言う名をお聞きになりませぬかな?」

 

 デキウスの後を継いだマルスの問いにリュールゥは笑みを崩さぬまま答えると、俄かにざわめきが広がる。

 

 そのざわめきの中心にあったのは『ウィーシェ』という言葉。

 

 ただその言葉の意味が分からぬ私は周囲のざわめきに付いていけなかった。

 

 横目にフィーナを見て、ざわめきを理解しているか確かめる。

 

 だが生憎フィーナも理解できぬかのように目を点にしつつリュールゥを見つめるばかり。

 

 そして話についていけぬ私に答えをもたらしてくれたのは私の後ろに控えていたガイウスであった。

 

「ははぁん。なるほど。なるほど。つまり『あなた方』が『ウィーシェ』なのですね?」

 

「お若いヒューマンのお方。お察しがいい。流石はアリア殿のそばを固める武人ですなぁ」

 

「…私の名前は覚えてないのかい…おい待て。お若いの…?まさか…俺より年上?あれほどの美貌を保っているのに…?おい…本当かよ…」

 

 後ろでようやく私に答えを与えてくれたガイウスは、リュールゥに褒められたはいいものの何やら不満やら衝撃やらで続きを述べてくれない。

 

 よって代わりにデキウスがもっと分かりやすい答えを与えてくれた。

 

「つまり世界に希望を届ける英雄譚を吟遊詩人ウィーシェと各地で語る噂で流れていたのは、一人の吟遊詩人ではなく複数の吟遊詩人の業績が合わさって生まれた幻想の存在…そしてその幻想を生み出したのがそなた達だと言うのか?」

 

「幻想とは少々異なる物ですなぁ。私の真名は確かにウィーシェ。ウィーシェという者は確かに存在しておりまする。ですがお若いヒューマンのお方とデキウス殿のお察しの通り吟遊詩人ウィーシェは一人ではありませぬ。後ろに控えし者達は種族は違えど皆我が真名ウィーシェの名を背負い世界に希望を届けるべく身を粉にして歌を届け世界を歩く同志」

 

 

「仰る通りです。『私達』こそが『ウィーシェ』です」

 

 

 その言葉によってざわめきが一気に収束していく。それと同時に疑いを含んだ厳しい視線も。

 

 私もまたようやく理解した。

 

 リュールゥが吟遊詩人であることは知っていたが、以前会ったときは一人であったため、どうにも一団の頭であるというイメージが定着しなかったのだ。

 

 だが今の説明でそのイメージがようやく腑に落ちたのだった。それと同時に同じように人の上に立つリュールゥに勝手ながら親近感まで抱く。

 

 何より皆さんに与えた『ウィーシェ』と言う名のこの影響力。希望をもたらす吟遊詩人の名は初対面の者からも信頼と安心を勝ち取るほどの力があることを目に見えて感じられた。

 

 だが肝心なことをまだ知れていない。それはリュールゥ達がなぜこのタイミングで現れたか、という問題である。

 

 それを周囲がリュールゥ達への警戒を和らげる中で尋ねなければならなかった。

 

「あなた方の素性は分かりました。ただあなた方がなぜここにお越しになったのかまだ分かっていません。それをお尋ねしても?」

 

「いやはや…素性を知っても尚その真意を知るまでは疑うことをやめない…陰謀を警戒せねばならぬ指導者には必要な素質にございましょう。アリア殿の周囲を固める方々の疑いを含む視線もあまり揺らいでいないのは何よりの事。それこそが上に立つ者の証。ウィーシェという名や私の表の顔にばかりは騙されてはいけない。そういうことです。よろしいですかな?フィーナ殿?」

 

「えっ…あっ…リュールゥさん?えっと…すみません…」

 

「どうかお気を付けを。フィーナ殿。あなたもアリア殿を正しく支えたいと思うならば、その辺りの警戒を身につけた方がよいでしょう。上に立つ者はお人好しでばかりはいられませぬ故」

 

「つまり…リュールゥさんは何か陰謀を企んでここに来られたのですか?」

 

「まさかまさか。フィーナ殿にこう諭した手前申し上げにくいのですが、私達は何ら陰謀は企んでなどおりませぬ。アリア殿。どうかお信じくださいませんか?」

 

 リュールゥはそう言うと両手を挙げて敵意がないことを示す。ただリュールゥ自身が先程言った通り簡単に信じられるものではない。何か信じる根拠が必要だった。

 

「…私達があなた方を信じるためにあなた方が私達に示せるものは?」

 

「武装解除と一時的な監視の許可。これで如何でしょう?これは皆にすぐさま言い含めまする。代わりにアリア殿にはご受諾いただきたい。ここに参った目的をアリア殿に一対一で話す機会と旅で疲れた皆に宿泊する場所の提供を。それさえ頂ければ、私達は何ら問題はありませぬ」

 

 リュールゥの告げた交換条件は一考してみたものの、一長一短。私は背後を振り返り、皆さんに意見を目で求める。それに最初に小声で答えてくださったのはデキウスであった。

 

「…あの者達は明らかに強者。あのリュールゥという吟遊詩人も然り。武装を解除しようとも危険は伴うことには違いありませぬ。何か企てがあれば監視の者などすぐに一掃され、王女様を人質に取られましょう…ですが…」

 

「…王女様は決心したような目をしているから止めたくとも止められない…ですよね?デキウスさん?」

 

「…仰る通りです。フィーナ殿。この目をした王女様を止めようとは思えませぬ」

 

「…はは。私も何度も同じこと思ったことがあります」

 

「…デキウスとフィーナは何を言っているのですか?一応言うと聞こえてますよ?」

 

 私に苦笑いを向けて口々に言うデキウスとフィーナに私は釘を刺しつつ尋ねる。そうすると同じく苦笑いするマルスが代わりにか口を開いた。

 

「要はですな。王女様。どうぞお心のままに、というのが我らの思い。我らは王女様のご判断に従います」

 

 マルスがそう言うと共に皆さんが頷いて同意を示す。

 

 要はそう言うことだった。

 

 いつも通り私の決断に皆さんの命が掛かっているということ。

 

 それは私にとって重荷とも感じられる。

 

 だがそれは私が決して逃れるわけにはいかない責任である。

 

 私は振り返ってリュールゥに告げた。

 

 

「リュールゥ。いいでしょう。あなたの提案を受け入れます」




『ウィーシェ』が吟遊詩人集団の総称というのは独自解釈です。
言うまでもなく世界に歌を届けると言うことを一人でできるはずもない。だからリュールゥ一人ではないと考えていました。よってこのような設定を加えさせて頂いた次第です。

一応『吟遊詩人リュールゥ』と歴史に名が残らず、『吟遊詩人ウィーシェ』と残った理由説明も兼ねてます。
まぁ本音を言うならば…
第一にリュールゥさんを歌を伝えるためという名目で登場回数が減るのが嫌なため(代わりに配下を歌を届ける役に使っていくスタイル)。
第二にリュールゥさんが独自の組織を抱えることによってリュールゥさん個人の才覚以上の実力を付与するため。
まだまだ一応理由はありますが、現状ではこれくらいに。

次回はアリアドネとリュールゥさんの対談!
一対一を望んだと言うことはアリアドネにしか話せないことがあると言うことで…
個人的にリュールゥさんは秘密主義的傾向があると思ってます。ここでもリューさんと違いますね。…まぁリューさんも信頼を置ける人があまりに少ないせいで秘密で満ち溢れているように周囲からは見られてる訳ですが。

今後作品を続けていく上で登場させる予定のオリキャラに関わるアンケートです。アリアドネとアイズさん、リュールゥさんとリューさん、と転生思想らしき構想が垣間見えますが、今作でそれを採用するのは違和感はありますか?その構想をどのように思われているでしょうか?

  • 転生なしでアルゴノゥトと原作は無関係
  • 転生と言うよりは容姿が似ているだけ
  • 転生思想あり。性格等での類似点がある
  • 転生でキャラ同士に因果があるほどの関係
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