「うぅっ・・・・ぼ、僕の腕が・・・・っ」
シクシクと泣きながら、間接が逆方向に折り曲げられた自らの右腕を左手で抑えて優男は泣き続ける。それはもう、惨めな程に。そんな男にイラついた男は、拳を握り締めバキバキと骨を鳴らして、蹲る優男に近づき、死刑宣告にも似た絶望を突きつける。
「なに?もう一本折れって?良し、分かった―――」
「―――もう止めてぇぇぇぇぇっ?!」
ニコニコと楽しそうに笑いながら、優男のもう片方の腕に自身の右腕を絡ませた男はギギギッと再び、辺りに響き渡る嫌な音を立たせながら、相手の腕をへし折ろうと更に力を込める。
優男は男に対し、もう止めてくれと、絶叫混じりに懇願する。優男は、今まで感じた事のない様なあまりの痛さにその美貌を歪め、鼻水や涙でグチャ濡れになりながら男に許しを、助けを乞う。
「だが断る」
だが、男は決して彼を許しはしなかった。男の顔が急に真剣さを増し、変な威圧感を出しながら優男の懇願を即座に切り捨てる。男にとって、優男の意思など関係ないのだ。
そう、彼にとっては至極当たり前の感情であり、誰もが必ずしも誰かに抱く感情。それは・・・
「俺はテメェが気にいらねぇっ!!!!!」
「そんな事で僕の腕を折るなあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!?」
ただ単に、目の前に立っている男が気に入らない。彼にとってはその理由だけで十分だった。
そして、本日二度目となる悲痛な優男の悲鳴がこの空間に虚しく木霊した・・・。
「・・・というか、お前、直ぐに回復できるだろ?さっさとしろ。俺も暇じゃない」
「ああ、もうっ。こんな人間初めてだっ・・・ったく・・・よっと・・」
流石に、そろそろふざけるべきではないと判断したのか、腕組みをして、呆れながら優男の回復を男が顎を杓って早くしろとばかりに促すと、文句をブツクサと言いながらも優男は今までの痛がりぶりが嘘の様にピタリと収まり、あらぬ方向に折れ曲がった優男の右腕が緑色に光る淡い光に包まれる。
暖かな緑の光に包まれた右腕は傍目から見ても光に包まれた腕の中の様子が見れず、男が怪訝な顔をしながらその様子を眺め、軽く溜息を吐きながら自らの懐を探る。すると、優男の光に包まれた右腕からパチパチと静かな電流が流れ始め、次第に強くなる電流が一際大きな音を立てて、光と共にバチン!と弾けた瞬間に優男の腕は、時間が撒き戻されたかの様に正常な姿で光の中から現れる。
優男は腕をブラブラと力なく振りながら、拳を握ったり開いたりしながら満足そうに呟く。
「うん、完璧だね」
「何が完璧だね、だ・・・瞬間回復の術式か?」
「うーん、まぁ、そうだね。正確には瞬間回復ではなく、再生だけど・・・・」
「そんな事はどうでもいい」
男は優男の言葉が気に入らなかったのか不機嫌な表情のまま、優男のやんわりとした訂正を憮然とした態度で断ち切りながら、懐を弄っていた手を止め、目当ての物が見つかったのか懐から古びたオイルライターとくしゃくしゃになった煙草の箱を取り出し、慣れた手つきでくしゃくしゃになった箱から煙草を一本抜き取り、口へと運ぶ。
「ここは禁煙なんだけど・・・」
「知るか、クソ食らえ。そんな決まりは野良犬にでも食わせておけ」
優男の苦笑いを浮かべた制止を一蹴し、男は不機嫌な表情のまま咥えた煙草の先端に古びたオイルライターで火を灯す。
「ふぅぅ・・・」
「まぁ、いいさ・・・。君にとっては大きな仕事の後の一服だしね。死んだ時吸えなかったんでしょ?」
「ああ・・・」
紫煙を吐き出しながら男は、ゆっくりとその煙草の味を噛み締めるように目を閉じ、優男の言葉に肯定の意を伝える。失ったものは沢山あったが漸く全ての事柄に終止符を打った。今はソレだけで良い。これで、これで俺がいなくとも、人類は再び寄り添って再興の道へと進めるだろう。新たなパートナーであり、古くからの友、幻想種達と共に・・・。