小説家になろうで連載されているみかんゼリー様の小説『イケメンに転生したけど、チートはできませんでした。』の、バッドエンド妄想です。
WEB版97話で、「もしフレドリックに会えなかったら」という分岐をした、その後のお話。

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原作のWEB版97話で分岐したのちのバッドエンドルートです。

二年前の当時、あまりの衝撃展開に「うわーまじかー」と思いながらも頭のなかで一瞬にしてシミュレートされたルートを、今になって書き起こしてみました。

というのも、原作の方で少しずつですが、テオドールの歩みが進んでいるからですね。
少しずつでも、原作がハッピーエンドを目指して進んでいるので、ようやく、安心して「ただの妄想だぜ」と表に出せるようになりました。

ともあれ、他人の不幸が大好きなんだという麻婆神父一党以外は、あまり読まれるのはおすすめしません。


「イケメンに転生したけど、チートはできませんでした。」バッドエンドルート妄想

 その日は、朝からおかしなことばかり起こっていた。

 変な夢を見たし、起きたらオーナメントが枯れている。そしてリチャードをはじめとして、父上も母上も、ウェンディもチェスターもキャロルも、皆、最初は俺が誰だか()()()()()()()()

 

 魔力たちも、夢の中で無理をしたからか、返事がない。眠っているようだ。

 

 父上に話すと、一連の出来事を「魔族の仕業かもしれない」と言った。

 「テオドールは私が守るよ」と父上は言ってくれたけど、もう子供じゃないんだ。俺が、自分で何とかしなきゃ。

 

 大神殿に着いた後も、会う人会う人に、最初は怪訝な顔をされる。でも、ミュリエルだけは、最初から、いつもと変わらない様子で挨拶してくれた。

 嬉しくて、思わず抱きしめると、顔を真っ赤にしてあわあわする。可愛い。

 涙声で「しばらくこうしていたい」と言う自分の声に、気にしないようにしてたけど、やっぱり、俺も、ちょっとは不安になっていたんだなとようやく自覚する。

 

 

 ――でも、そんな安心は一過性のものでしかなくて。

 

 

 魔王の、魔族の()()は、俺が思っていた以上に、どす黒くて、絶望をはらんでいた。

 

 

「私は絶対、テオドール様を忘れたりいたしません!」

 

 二人で一緒にダンスを踊った後、『薔薇の迷宮』で、話を聞いたミュリエルはそう宣言してくれた。

 でも。

 そんな二人の約束も、魔王の前では無力でしかなくて。

 

 ぽとり、と。

 突然切れて落ちたミサンガを拾った俺に、ミュリエルは――。

 

「……あの、どちら様でしょう?」

 

 一瞬、頭が真っ白になった。慌てて追いすがれば、彼女は怯えた様子であとずさり、そして。

 

「やあ、どうかしたかい?」

「デューク様!」

 

 悠々と現れたそいつに、安心した顔でミュリエルは寄り添う。

 その男は嘲笑うように赤い瞳をこちらへ向ける。

 間違いない。

 ――夢の中で見た魔王だった。

 

 ……俺は、今度こそ、本当に頭が真っ白になって。

 

 それから後のことは、今になって思い出しても、たちの悪い悪夢の中の出来事のようだった。

 夢なのか現実なのかわからない、夢うつつのような、うすぼんやりとした記憶しか残っていない。

 

 デュークと名乗った魔王は剣を抜き、ミュリエルの前で俺を殺そうとしてきた。ミュリエルが衛兵を呼んでくれたこともあって、その場はなんとか逃げ出せた。

 トレヴァーらしき黒猫に誘導されるようにダンスホールへ出たが、やっぱり、誰も彼もが俺のことを忘れ去っている。父上たちを守りたくて、なんとかケヴィンに伝言を頼んだけれど。

 

「そいつが魔王だ!」

 

 くそ! なんで俺が魔王なんだ! 魔王はお前だろうが!!

 

 警備兵たちの包囲網をなんとか抜け出して、気が付いたとき、俺は街の郊外にあるスラムまで逃げ延びていた。

 

「……くそっ、くそう……」

 

 ずるずると、汚い路地裏にうずくまる。六騎神の衣装は、所々がほつれ、破れ、泥に汚れていた。

 不安と、絶望が胸を締め付ける。気持ち悪い。震えが止まらない。

 いつも頼りになった魔力たちも、今朝からずっと、うんともすんともしない。

 

 今日一日の出来事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

 父上や、母上や、みんなの顔が次々に浮かび上がって、その最後には。

 

「……ミュリエル……」

 

 それだけ力なくこぼして、俺はゴミの山の中で意識を手放した。

 

 

 ◇

 

 

 その日から、俺は王都のなかでこそこそと隠れて逃げ続けた。

 街中に御触れが出されて、俺は完全に「魔王」として指名手配されている。

 警備兵があちらこちらを巡回し、俺と同じような背格好のやつを見かけると誰かれ構わず尋問を始めた。

 

 俺は六騎神の衣装を脱ぎ捨てて、ゴミ捨て場から拾った襤褸を纏っている。体中が薄汚れていて、もう立派な浮浪者だった。

 

 しかし、そんな見かけによらず、まだ、この頃の俺は絶望しきってはいなかった。

 今思えば、なんて無駄なことを……と思ってしまうけれど。

 やっぱりまだ、この頃の俺は馬鹿で陽気なテオドール・ゴルドバーグを、捨てていなかった。

 この頃の俺は、まだテオドール・ゴルドバーグだったのだ。

 

 魔王(デューク)魔族(トレヴァー)を何とかすれば、すべては元通りになると、俺はまだ信じていた。

 

 そしてそのためには、とにもかくにも、協力してくれる仲間が必要だった。

 俺は馬鹿だから、一人だけじゃ何もできないのは、よくわかっていた。

 あの夜以来、魔力たちも相変わらず静かなままだけど、それでもいつかはまた騒々しく力になってくれると信じていた。

 

 最初は、父上たち……ゴルドバーグ侯爵家を頼ろうかとも考えた。あの夜に一応は伝言を残してあるし、やっぱり家族だから、もしかしたらきちんと事情を話し合えば協力してくれるかもと、思っていた。

 

 結果としては――失敗した。

 というより、協力を持ち掛けることすらできなかった。

 

 ゴルドバーグ家に、トレヴァーがいたのだ。

 トレヴァーが、まるで昔からの飼い猫であるかのように、皆の輪の中にいた。弟や妹たちに撫でられ、甘えるようにその首元に抱き着くそいつを、敷地の外から遠めに見たとき、さすがの俺も気づいた。

 家族はすでに、人質となっている。

 俺が不用意なことをしでかせば、みんなの命はない、というわけだ。

 

 そういうわけで、ゴルドバーグ侯爵家は無理だった。

 

 その後も、なんとか協力者を得ようと街中を駆け巡った。

 でも、結局、二か月がたっても、俺は一人のままだった。……俺は、一応は侯爵家の人間だったのだ。友人たちもまた、大貴族の人間で……親友に至っては王族だ。

 一度、野に逃げ込んでしまった俺には、彼らに接触する機会がまったくないのだった。

 

 事そこに至って、ようやく俺は、自分が()()()()()可能性を肌に感じ始める。

 あの日からずっと続く不安、悪心、震えがいよいよもって強くなる。不穏な考えばかりが頭に浮かぶようになり、以前のように、明るいことを考えることができなくなっていった。

 

 そして、焦燥に駆られるように行動し続けるも、結果は実らないまま、時だけが過ぎていき――。

 

 さらに二か月が経つ。

 

 「あの日」から、四か月が経っていた。

 俺はもう、見かけだけじゃなく、体の内側、心の中まで、すでにボロボロになっていた。

 完全に浮浪者生活が板につき、ふとガラスに映った自分の顔は、ひどく汚れてやつれて、別人のようになっていた。

 そこに至って、ようやく俺にも()()が近づいていたのだろう。

 

 ある月夜の晩。

 

 俺は、とうとう、アンバー子爵家へと侵入していた。

 ミュリエルの家である。

 

 どんな事情を話したとしても、こんな夜中にこっそりと屋敷へ侵入してくるような輩を、いくらミュリエルでも信じることはできないだろう。

 彼女に限らず、もし誰かに見つかったとすれば、そのときは俺の命の最後という可能性もある。浮浪者同然の格好の俺は、どう好意的に見ようと泥棒か暗殺者でしかなく、そしてやつれ衰えた俺にはもう、警備兵から逃げ切るだけの能力は残っていなかった。

 

 このとき、俺はただ、愛する少女の……ミュリエルの姿を、遠くの物影からでいいので、もう一度だけ目にしたいというその一心だけで、こんな無茶を強行していた。

 

 もう一度。

 もう一度だけミュリエルの元気な姿が見れたなら……俺はまだ、がんばれる。そんなことを考えていた。

 

 よせばいいのに……そんなことを、本当に考えていたのだった。

 

 そして。

 はたしてミュリエルの姿を――俺は見ることが出来た。

 

 ただし。

 

 彼女は。

 

「……もう、デューク様っ」

 

 桜色に染まった頬。月夜に映える可憐な髪。そして濡れそぼった瞳は――そばに立つ魔王(デューク)へと向けられていた。

 

「ははっ、少しくらい、いいじゃないか……」

 

 刃物のような怜悧な美貌に、薄ら寒い笑みを浮かべた赤い瞳の男は、そう言って少女の頬を撫でる。

 月明かりのテラスの中、半ば抱き合うような格好で寄り添う男女の姿は――傍目に見ても、非常に睦ましそうな様子であった。

 

「な、ミュリエルが好きなんだ……もう一度だけ、いいかい?」

 

 赤い瞳を光らせる魔王(デューク)の冷たい声音に、愛した女性(ミュリエル)は顔を少し伏せて恥じらう。

 

「あう、でも、その……」

 

 そしてその顎を引き、魔王は再びのキスを交わした。

 ミュリエルも、瞳を閉じてそれを受け入れる。――嫌がる素振りは、まったくなかった。

 

 重なった二人の影がゆっくりと離れ……

 

「あっ、一度だけって言ったのに……」

 

 恥じらう少女の顔へと、幾度も口づけが降る。

 

「婚姻まではお預けなんだから……これくらい、いいだろう……?」

 

 そう睦言を囁く魔王に、少女は「当たり前ですっ」と返しながらも――

 

「もう……しょうがないひとですね」

 

 そう優しく笑んで、今度は自分から男へと唇を合わせた。

 

 段々と激しくなっていくその行為を、遠く、庭園の木陰から眺めていた俺は――。

 

 気が付いたときには、背を向けて逃げ出していた。

 

 しかし、少しも行かずに木の根につまずき倒れ、そして、吐いた。

 体中が震えていた。

 涙が止まらず、ここしばらくろくに入った覚えのない腹から黄色い胃液だけが吐瀉される。

 ひどく、気持ちが悪かった。

 頭の中が、原色の絵の具を混ぜたようにごちゃごちゃになっていた。

 

 この、少し前までの俺ならば――「あの日」以前のテオドール・ゴルドバーグならば、むしろ怒りのまま魔王へと殴り掛かっていただろう。

 いや、殴り掛かっていなければならなかった。

 

 しかし、実際には、もう、この時の俺は――。

 

 吐くもものもとりあえず、汚れた口元や体をぬぐうこともなく、すぐさまに立ち上がると、前ではなく、後ろに――ミュリエルと魔王のもとではなく、屋敷の外へと。

 わき目もふらずに走っていた。

 

 逃げていた。

 

 逃げ出したのだ。

 

 ――この日、俺は……とうとう、テオドール・ゴルドバーグであることすらも、捨て去ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 それからの俺は、死んだように生きていた。

 生きているだけの、死人だった。

 

 日がな一日、スラムの端の暗い路地裏にうずくまっていて、たまに見かける残飯や昆虫を拾って食べた。

 雨が降った後の、道端の泥水をすすって喉を潤した。

 

 そんな日々を過ごしていると時間の感覚もなくなるが、おそらく、そこからさらに二か月が経ったころのことである。

 その日は、街中が騒がしかった。

 

 あまりにも騒々しいお祭り騒ぎなので、さすがの俺も興味を覚える。それに、もしお祭りならば、残飯もよく落ちているというものだった。

 すきっ腹を抱えて、のっそりと俺は路地裏から顔を出した。

 

 そして、それを見るのだ――。

 

「《魔女》カトリーナ、追放! 《魔女》カトリーナが、とうとう追放されるぞ!」

「これで、国も平和になる!」

「処刑すればいいのに! 本当に《聖女》様はお優しい……」

「本当にな! 《聖女》アイリーン様、万歳!」

「《聖女》アイリーン様、万歳!」

「《魔女》カトリーナは、とっとと野垂れ死ね!」

 

 街中の、老若男女が、そんなことを叫び、囃し立てる。

 そしてそんな群衆が囲む大通りの真ん中を、ぼろぼろの服を着せられたカトリーナが、うつむいたまま歩いていた。

 彼女の両手は鉄の枷で拘束されており、それを引くのは――満面の笑みを群衆へと向ける、あの頭のおかしい女(アイリーン)である。

 しかも、なぜかそのアイリーンのそばに寄り添うのは、エリオット、ルーク、ヴィンス、シミオン、レックス……そして魔王(デューク)だった。

 魔王はともかく、その他の彼らは、アイリーンを愛おし気に眺めて寄り添い、そして背後に引きつられるカトリーナには視線すら向けていない。

 俺の、かつてテオドール・ゴルドバーグの友人だった頃の面影は、彼らの顔には微塵も残っていなかった。

 皆が皆、アイリーンだけを見つめている。

 群衆たちも。

 彼らも。

 

 俺はその場で吐いていた。

 

 国中が、おかしくなっている――。

 

 

 ◇

 

 

 街中を引きつられたカトリーナは、最後、王都の外へと放り出された。街の壁門の前で、アイリーンに蹴飛ばされた彼女は郊外の地面へと倒れる。

 倒れたままのその背に、かちゃり、と鉄枷の鍵が放り投げられて。

 

「じゃ、さようなら」

 

 アイリーンはそれだけ言って、踵を返した。六騎神の皆や魔王(デューク)も、その背に従う。

 群衆たちも、最後に持っていたがらくたや石を彼女へ放り投げ尽すと、そのまま興味を失ったように街の中へと戻っていった。

 

 後には、無様に倒れた小汚い《魔女》と、閉まりゆく壁門だけが――

 

「ま、待って、くれ!」

 

 そこに、壁門へと駆け寄る影があった。門番の兵たちは何事かとそちらを見るが、そこにいるのは外の《魔女》以上に汚らわしい恰好をした浮浪者の姿で――

 

「お、俺も外へ、出る! だ、出してくれ!」

 

 久方ぶりに出た声は、しわがれて枯れていた。老人のようなその声に、門番たちもその浮浪者が手配されている年代の男だとは思いつかず、

 

「とっとと通れ、屑が」

 

 そう言って彼をそのまま通して。

 そして、門が閉まった。

 

 夕暮れの中、王都から完全に締め出された原野に、そうして、浮浪者のような俺と、魔女となった聖女だけが残された。

 

 なにを考えることもなく、気づいたら行動していた俺は、そこで少しだけ後悔する。

 外壁の外は、野獣や野党がいる。

 貴族だった頃の俺はともかく、今の俺には剣もなく、そして魔力たちもあの日からずっと眠ったままだ。

 

「いや、そ、それより、も……」

 

 俺は頭をふると、いまだ倒れたままの、懐かしい友人のもとへと、のろのろと駆け寄った。

 

「か、カトリーナ、だ、大丈夫、か……」

 

 そう声をかけて抱き起した彼女の顔に、俺は息をのむ。

 

 あれほどまでに壮麗だった面影はなく、やつれ、隈の濃い、疲れ切った顔。そしてその顔がぼんやりとこちらを眺める、その瞳は、……暗く、絶望に澱んでいた。

 

 それは、とても見覚えのあるものだった。

 

 ――何を隠そう、つい先日に水たまりで眺めた俺の顔が、ちょうどそんな瞳をしていた。

 

 

 ◇

 

 

 その後、壁門の前から俺たちは寄り添って移動した。のろのろと原野を歩き、なんとか夜を明かせそうな場所をみつくろうと、そこで二人腰を下ろして、ぽつり、ぽつりと互いの身の上を話し合った。

 

 カトリーナもテオドール・ゴルドバーグのことは忘れていたはずだったが、壁門からずっと黙ったままの彼女に、俺がひとり勝手に身の上をすべて話した後には、ぽつりと一言、「信じるわ」とつぶやいた。

 すべてを諦め、疲れ切っていた俺は、数か月ぶりにまともに人と話せるという状況に舞い上がっていたのか、前世が異世界の男子高校生で、そこから転生したというところからすべてを話したのだが、その後、ぽつり、ぽつりと彼女も身の上を話し出したことで、なぜ彼女が俺の話を信じたのかということを知ることになる。

 

 なんと、彼女もまた、俺と同じ境遇であったのだ。

 

 これには俺も驚いた。しかも彼女の言うことには、この世界は元の世界では乙女ゲームと呼ばれるジャンルの恋愛シミュレーションゲームの世界なのだという。

 俺ことテオドール・ゴルドバーグはゲームでは攻略対象キャラであり、彼女ことカトリーナ・ライラックはゲームでは悪役令嬢であるという。

 

 そして、それ以上に衝撃なことに、あの頭のおかしなアイリーン・プラムこそがゲームでの主人公であるという。

 

 ゲームでは、悪役令嬢であるカトリーヌはろくな最期を迎えない。

 それをなんとかしたくて色々やってきたが、結局、ゲームのように、悪役令嬢……それどころか《魔女》として、周囲に嫌悪されて追放されてしまった。

 

 あれほど心を通わせたと思っていた婚約者(エリオット)も、友人だと思っていた令嬢たちも、皆が、主人公(アイリーン)の肩を持って悪役令嬢(カトリーヌ)を排斥したという。

 

「魔族の、魔王の、力だ……」

 

 震える声で、なんとかそう呟いた俺に、カトリーヌは抱き着いた。

 一瞬だけ慌てるも、ひっしと抱き着く彼女の手は、白くなるほどに強く、震えている。

 

 そしてそれ以上に。

 俺は、非常に久しぶりに感じることのできた他人のぬくもりに、震えていた。

 知らず、視界が滲む。

 震える手で抱き返せば、カトリーヌもまた、とめどなく涙を流す顔をこちらへ上げた。

 

「――ねえ……」

 

 小さく呟かれたその声は、ひどく震えていて、そしてそれ以上に、暗く重い情感が灯っていた。

 そして、そんな彼女の顔を見下ろす俺もまた、同じような暗い感情に支配されている。

 

 お互いに、別々の相手の顔を脳裏の隅に追いやって――

 

 月夜の下で、逃げ落ちた二人の愚者は、ゆっくりとその影を重ねるのだった。


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