FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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大変、大変長らくお待たせいたしました……!!

今年初めての投降が、まさか4月直前になるだなんて夢にも思いませんでしたよ。やりたいゲームほぼ全部封印してたのに…!←

ただでさえ難産だったのに、書かなきゃと思ったシーンを書いてたら文字数も縛上がりしちゃいました。
構成を生み出した当時の僕は、どうしてこれを前話含めて一話に纏めようとしてたの?バカなの?


第147話 羅針が示した先は

常に暗い空の中、点在する大小色んな光が照らす。辺りには球体の足場が無数に存在し、そのすべてが橋で繋がっている。

 

そんな世界に、僕は生まれた。いつ生まれたのかは分からない。気付いたらここにいて、自分がどう言う存在なのかが分かっていた。

 

鍵を使って別の場所へと呼ばれる、星霊と言う生き物。それが僕……いや、この世界に生きる僕たちの事。長い長い時の中で、色んな星霊たちが呼ばれたり帰って来たりを繰り返す。

 

僕も何回か呼ばれたけれど、少ししたらまた別の誰かが僕を呼ぶようになる。それの繰り返し。

 

 

 

ある時、僕の頭の中に、声だけが届き始めた。

 

本当は僕に会いたいけれど、どうやっても会うことが出来なくて……それでも僕の名前を呼んで、僕と仲良くなりたい、僕たちの事が大好きだと言う声が。

 

何度も何度も聴こえてくる。一人の男の子の声が。その声を聴くと、僕もなんだか嬉しくなる。

 

僕も会ってみたいなぁ……キミはどんな顔をしているのかな?どんな表情で声をかけてくれてるのかな?お話してみたい……。

 

キミの家族はどんな人間?キミの魔法はどんな魔法?キミが頑張って覚えたこと、感じた事、一緒に見て見たいな……。

 

ずっと長く生きてきたのに、あの子の声を聴くと次に聴ける日が待ち遠しくなってくる。それでも全然辛くない。その分だけ、楽しみな気持ちでいっぱいだから。

 

 

 

でもある時、声が聴こえなくなった……。

 

どうして聴こえなくなったの?話しかけることがなくなっちゃったの?今まではどんなにまっても大丈夫だったのに、今は悲しくて仕方ない。

 

それからどれだけの時が経っただろう。どんなに待っても、キミの声は聴こえてこない……。どうしたのかな?今どうしてるのかな?

 

またキミの声が、聴きたいなぁ……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

目が覚めると、そこは見知らぬ天井……などと言う物語にありがちな光景とは、当たらずも遠からずの状況に陥っていたことに気付くには、数秒の時間を有した。

 

「あれ……?俺、確か……」

 

ぼやけた視界と朧げな意識の中、少年シエルは記憶を思い返すようにぼやく。依頼を終えた帰り、同行していた二人を置いて露店の本に集中していたところまでは覚えているが、明確なところまでは呼び起こせない。いや、もう少し時間があれば思い出せただろうが、時間が許さなかった。

 

「よぉ、お目覚めかい」

 

聞き覚えのない男の声が聴こえた事で、反射的に警戒心を強めたシエルは顔を勢いよく上げた。目の前にいたのは3人の男女。一人は中央にて大きな椅子にドカリと座る、コワモテで髭面の中年。大柄で筋肉質な身体と、切れ長の目に頬の古傷が、その男の威圧的な雰囲気に拍車をかけている。

 

その両端にはそれぞれ男女一人ずつが立っていて、一人は嫌味な性格が顔に滲み出た胡散臭い雰囲気のイケメン。もう一人は艶やかな雰囲気の中に怪しげで鋭い目を持った美女。それらが三者三様にこちらを見据えて口角を吊り上げている。

 

そしてシエルは自身の状況も把握することが出来た。座高の高い椅子に座らせられ、後ろに手を回された状態のまま上半身を縄で拘束されている。そして両手は手首を雁字搦めに結ばれていて、ほどけそうにない。

 

「何なんだ……お前ら……!」

 

「なーに、しがない盗賊団ってやつさ。とある理由でお前にはここにいてもらっている」

 

中央にいる頭目らしき男が片手をヒラヒラとするように上げながら曖昧な返答をする。謙遜しているつもりなのか、あるいは自分たちの素性を無暗に明かさない慎重な性格なのか、魔導士見習いとは言え子供である自分を相手に、余裕に見えて食えない印象であることを植え付けられた。

 

「身代金でも狙うつもりか?だったら人選をしくじったな。俺は下っ端ですらない見習いだが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は俺みたいな見習いであっても、危害を加えられたらお前らを敵とみなして報復しに来る。その事は理解しての事か?」

 

素性も知らない盗賊団に拘束されてはいるが、シエルの反応は強がりと言うには含みが大きい挑発だった。自らのギルドを明かし、そして奴らもこのままではただでは済まない。そんな意味を言外に含んだ警告……の(てい)をした宣告だ。これがそんじょそこらのゴロツキあがりな盗賊団だったら動揺していた事だろうが、目の前にいる者たちの反応は違った。

 

「あら、強気な坊やだ事。もう少し怖がるかと思ってたのに」

 

「肝が据わってんな。その上頭も切れるか。ま、そのへんは流石、堕天使の弟ってところか?」

 

両端にいた妖艶な女と、嫌味そうな男な男が各々笑みを崩さずそう口にする。シエルが口にした内容を、子供の強がりであると吐き捨てたわけではなく、あくまで冷静に、かつ余裕を見せて返した言葉に隠れた聞き捨てならない単語に、逆にシエルが瞠目することとなった。

 

「(堕天使!?こいつら俺と兄さんの繋がりを把握してる……!?)」

 

堕天使と言う兄の忌み名。そしてその弟が自分であると、目の前の奴等は確信をもって口にした。堕天使ファルシーの名は闇ギルドの世界では知らぬ方がおかしい程の知名度。兄は悟られないように明言を避けてきたはずだったのに……と動揺を隠し切れない。

 

「青ざめたな?どうやら図星を突かれたそうだな……その素直さと理解力に応えて、いい事を一つ教えてやろう」

 

表情に出てしまったその感情を悟り、頭領と呼ばれた男が気分をよくし、口元を吊り上げて語り始める。シエルの表情がさらに焦りと困惑で歪むのを楽しむために。

 

「俺たちの目当ては堕天使……つまりお前の兄貴の身柄を確保する事。何でも、闇に通ずるとある人物が躍起になって探してるって噂があんだ」

 

「けれど、真正面から捕らえに行ったところで、私たちには勝ち目はない。確実に捕らえるにはエサとなるものを用意しなければいけない。それが坊やって訳」

 

ペルセウスの行方を探る闇の世界の人間。聞き捨てならない存在を示唆する頭領に続くように、向かって左側に立つ女が、シエルが何の目的で捕らえたのかを告げた。闇ギルドの世界では、ペルセウスの脅威と危険度は名と同じぐらいに知れ渡っている。

 

そんな魔導士を捕らえるにあたって、力づくなど愚の骨頂。返り討ちにされるだけならまだマシで、下手をすれば報復として組織ごと壊滅させられる。それが分かり切っているからこそ、この盗賊団はペルセウスを捕らえるにあたって有力な情報がないかを調べることを優先した。

 

「そうして得られた情報の中に、確定的なものがあった。奴と同じ色の髪と、首から提げてた銀の鍵を持つ、奴とよく似た子供の話」

 

「っ!!それっ……!!」

 

意識を失う前までは確かに首から提げて持っていた、自分のお守りである銀の鍵を見せびらかすように掲げながら、嫌味ったらしく笑みを浮かべる男。奴の明かした情報は、間違いなく自分の事だとシエルは悟った。確信をもって告げられた言葉への動揺と、大事なお守りをこれ見よがしに持ち上げる姿への怒りが混ざり、シエルは平常心を保つことが出来なくなっていた。

 

「その二つが当てはまったガキに、つい先日ウチのメンバーがボコられた。金目のもんだと思って奪おうとしたのを返り討ちにされてな。だが、あいつらはいい仕事をしてくれた」

 

冷静さを欠いていたシエルであったが、頭領から続け様に明かされた情報を聞き、記憶に残っていたその時の事をすぐさま思い返した。まだ比較的近場での依頼だったが、同行者だったエルフマンが少し離れていたタイミングを見計らって襲い掛かってきた、数人の盗賊たちを竜巻(トルネード)で吹き飛ばして追い払った。

 

その時の盗賊たちが、目の前にいる奴らの部下だったことを、思い出すと同時に理解した。そして結果的にシエルの情報を持ち帰られたことで、この三人がシエルをまず捕らえる為に動いていたことを。全ては兄である、ペルセウスを確保する為。

 

「すでに布石も打ってある。お優しい兄貴が助けに来ることを祈ってな」

 

指を鳴らして合図を出し、奴らの後方に四角いモニターが映される。映像魔水晶(ラクリマ)の一種だ。いくつも存在するそのモニターに映っていた光景を見て、シエルは戦慄した。そして同時に思った。兄や仲間たちが、この場に来ればどうなるか……。どうか来ないでくれ、と、彼は願わずにいられなかった……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方……ギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)では、今その場にいるすべての魔導士が衝撃の真実を受け、まさしく騒然となっていた。

 

「シエルが!攫われた!だとぉお~~~~ッ!!!?」

 

その中心……もとい騒ぎ立てている一人の青年が、怒り心頭と言った様子で文字通り暴れていた。周囲にいるギルドメンバーがどうにか力づくで取り押さえているものの、いつもの冷静さなど鳴りを潜めた暴走列車の如き勢いは殺しきれず、苦戦している。

 

「てめーら!一体何の為に遠くの街まであいつと一緒に行ってたんだ!?シエルの身に何かあってみろ!!2、3発殴り飛ばすじゃ済まさねーぞ!ああ!!?」

 

「落ち着け、ペル!!」

「そうだ!冷静になるのも漢!!」

 

怒りのあまり口調までもがいつも以上に刺々しくなっているペルセウスの剣幕にあてられ、距離をとって怯えている者もいれば、グレイやエルフマンのように両側からどうにか押さえ込もうとしている者、そして彼ほどではないが、彼がここまで荒れる事となった原因に機嫌を損ねる者など、ギルド内での反応は多種多様だ。そしてそんなペルセウスの怒りの矛先には……。

 

「2、3どころか……」

「オレ達、一人ですら10発ぐらい喰らってるんですが……」

 

「ゴチャゴチャうるせぇ!!むしろそんだけで済んでる事をありがたく思えや!!」

「「理不尽!!」」

 

顔面をたん瘤で埋め尽くされたシャドウギアの二人、ジェットとドロイが横たわって泣き言を零していた。とある美女の誘惑にホイホイついて行ってしまい、その後その美女本人に気絶させられ、気付いたら同行していたシエルが攫われていた。と、申し訳なさそうに報告したら予見した通り弟第一の兄貴によってボコボコにされてしまった。そんな泣き言も、怒りの収まらない当人の言葉によって叩き伏せられたのだが。

 

「まあ、全部に賛同するわけじゃねーが、ペルの怒りはもっともだ」

 

暴れ狂っていたペルセウスのヘイトが、一時的にシャドウギア二人に向いたことで動きが止まる隙に力を緩めたグレイが呟く。グレイとしても、見習いとは言えギルドの後輩であり、仲間の一人であるペルセウスが大事にしている弟のシエルを、誘拐した者たちへの苛立ちは感じている。ついでにあっさり誘惑にやられてボコボコにされた二人に怒りを通り越して呆れていた。

 

「今すぐシエルを助けに行くぞ!誰だが知らねーが殴り込みだぁ!」

 

そしてペルセウスの次に荒れていると言っていいのは、人一倍ギルドと家族への思い入れが強いナツ。特にシエルの事はナツ自身も弟のように接してきたのもあって、体中から怒りの炎を溢れさせながら今にも飛び出そうとする。しかし彼の特攻は「待つんじゃナツ」と言うマカロフの一声で止められた。

 

「シエルを攫った奴等が何者か、どこにいるのか、何もかもが不明のままじゃ。そんな状態でどこへ殴り込みに行く?」

 

カウンターの上に胡坐で座りながら目を閉じ、淡々とした語り口で問いかけるマカロフ。ナツの言う殴り込みをするにも情報が無さすぎる為、彼の怒りを諫めながら覆せない現実を提示したマスターの言ではあるが、それでナツが納得するはずもない。

 

「じゃあこのまま何もしねーってのかよ!?」

 

「そうも言っとらん。まずは犯人を捜すことからじゃ」

 

閉じていた目を開き、剣呑な雰囲気を纏いながら低く呟くマカロフ。事情も知らない者たちがその様子を見れば恐れるほどの怒気を感じられるが、同様の感情を抱えたギルドメンバーたちは、同調するように頷くのみだ。しかし、それでも問題がある事は、困ったように俯くミラジェーンから提示される。

 

「けど、ジェットとドロイが知ってる情報だけじゃ、特定するのも難しいわね……」

 

「テメーら二人で今すぐ探しに行って来い!んでもって犯人ぶっ潰して、シエルを取り返して来い!」

「「んなムチャな!!」」

「元はと言えばテメーらの責任だろーが!!」

 

「ペルの奴、今日は一段と荒れてんな……」

「あいつ弟の事になるとキャラ変わるからなぁ」

 

二人の胸倉をそれぞれ片方ずつの手で掴み上げながら、怒りをぶつけるようにシャドウギアの二人に詰め寄るペルセウス。未だ引っ込まない涙を溢れさせながら思わず反論を叫ぶ二人だが、当然聴き入れてはもらえない。遠巻きに眺める他の面々が、一時的に怒りよりも恐れが勝つほどに。

 

「ん?何だアレ……?」

 

荒れに荒れるペルセウスを中心としたギルド内の騒ぎに、一石が投じられた。開いていたギルドの扉から、小さな影が一つ入り込み、彼らの頭上を飛び回ってその存在を知らしめる。ほぼ全員の認識がそれに向いた時、こうなる事を見計らっていたのかカウンターテーブルにそれが着地した。

 

「魔法伝書鳩……!?」

 

ホログラムのメッセージを記録した紙が首に巻かれた伝書鳩。ミラジェーンがその紙を解き、開けてみると、紙に記録されていたホログラムのメッセージが再生された。しかし、映っていた人物像は厚手の黒いフードパーカーを被っていて、詳細は分からない。

 

《ごきげんよう、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の皆さん》

 

発せられた声は低く若い男性のもの。穏やかな口調とは裏腹に、そこに込められた怪しげな雰囲気が、ギルドの者たちに否が応にも警戒心を植え付ける。そして、フードの内側から見える吊り上がった口元から、場にいる者たちを震撼させる言葉が発せられた。

 

《突然のメッセージで失礼ではありますが、簡潔に用件をお伝えいたします。あなた方の仲間である、銀の鍵を下げた少年の身柄は、我々が確保させていただきました》

 

いち早くそれに反応を示したのは、当然と言うべきかペルセウス。銀の鍵を下げた少年……そのたった一つの特徴が、攫われた弟であると一瞬で理解できた。通信とは違う、ただの刻まれたメッセージであることが分かっても、怒りの矛先をぶつけるように、ホログラムの男をかすめるように拳を突きつけて睨みを利かせた。

 

「テメェら……いや、シエルはどこにいる……!?」

 

周りの仲間たちでさえたじろぐほどの怒気を込めて問いかける……いや、聞き出しにかかるペルセウス。しかし相手はメッセージ。こちらとの会話は成立するわけがない。だがその事実を突きつけるような、無粋で無謀な人間はここにはいない。ホログラム映像に過ぎない男も、質問に答えるようには見えない。

 

だが、ホログラムの男は含み笑いを一つ零した後、まるで今のギルドの状況が分かっていたかのように尋ねてきた。

 

《こちらにいらっしゃるのでしょう?ペルセウス・ファルシーさん》

 

その問いかけと共に、まるでこちらに目を向けたかのように動いたその男の声と仕草に、怒りで染まったいたはずのペルセウスの感情が微かに揺らぐ。怒りに混ぜられた驚愕を表すかのように目を見張ったペルセウスが次に目にしたのは、フィオーレと、その一部一角を拡大した地図。拡大された地図には、一個だけバツ印が刻まれている。

 

《弟さんを無傷でお返ししてほしいのであれば、同封した地図の場所へと、お一人で赴いてくださいませ。もし来なかったり、あるいは多人数で向かった場合は……お分かりですよね?》

 

映像越しでも分かるほどの醜悪な笑みを浮かべながら、用件だけを伝えた男。その男は話は終わったと言わんばかりに姿を消し、残ったのは映像化された地図のみだった。メッセージはこれで以上のようだ。

 

「ふざけんじゃねぇ……!!」

 

コケにされている。そう思わずにはいられない態度だ。見え見えの挑発であることは明白であり、これが普段のペルセウスであれば意にも介さなかっただろう。だが相手は、自分の後よりも大切な弟を奪っていった集団。冷静な判断などできるはずもない。

 

強く歯を食いしばり、握った拳を震わせながら呟いたペルセウスは、すぐさま動き出した。ミラジェーンが持っていた手紙……正確には浮かび続ける地図をひったくるような形で奪い、猛スピードでギルドを後にしようとする。

 

「おいペル、待て!!」

「マズいっ!!」

 

すぐさま気付いたギルドの面々がどうにか止めようとするも、動きが追い付かない。メンバーの間をする抜けるかのような素早さに、止められそうにないと半ば周りが諦める中、ペルセウスの足が何かに力強く掴まれた。

 

「ぬおっ!!?」

 

振りほどけないまま、勢いよく前のめりで倒れこむペルセウス。相当な力で自身の足を掴むそれの正体を、振り向いて確認したペルセウス。その犯人はカウンターに今も座りながらも、巨人化(ジャイアント)の要領で腕と手を伸ばしていたマカロフであった。

 

「マスター、この手を離せ!!俺はすぐにでもシエルの所へ……!!」

 

「分かっとる」

 

行く手を阻むギルドマスターに向け、抗議を叫ぶペルセウスであったが、その言葉は静かながらも重く、そしてイヤに響く声を放ったマカロフによって遮られた。彼の様子を見聞きしたペルセウスは、思わず怒りも引っ込むほどに目を見開いた。

 

「こちとら、大事な家族を傷つけられて……末っ子同然のガキすら人質にされたんだ……。一人で来いだぁ?随分舐めたことほざきやがる奴等よ……」

 

抑えきれない程の魔力の揺れが小さい体から溢れかえり、ペルセウスを掴んでいる手とは反対の手を強く握りしめながら、静かに、しかし荒れ狂うほどの怒りを孕んだ声を絞り出しながら、マカロフは座っていたカウンターから飛び降りて、周囲のメンバー(ガキども)を見渡した。

 

「相手が何者だろうと、どのような力を持っていようと、やる事は……たった一つじゃ」

 

意思確認をするかのように、面々へと呼びかけるようにそう呟いたマスターに、誰もが決意を固めたように表情を変え、首肯する。中には、今か今かとその言葉を待ち望む者たちも数人ほど見受けられた。

 

「全員で乗り込むぞ、そしてシエルを取り戻す!!」

 

『おおぉーーーー!!!』

 

憤怒の表情と共に声を張り上げたマカロフの号令に、ギルド内のほぼ全員が応えた。大切な家族を取り戻す為、危害を加えた不届き者に報復する為、誰もが湧き立ち、戦闘準備を始めるのだった。

 

「ゼッテーシエルは助け出す……燃えてきたぞ……!!」

 

その中でも、紅蓮の炎を身体から迸らせながら、左掌に右拳を叩きつけながら滾る火竜(サラマンダー)が、その様相とは裏腹に静かに呟いた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

マグノリアから遠く離れた山の奥。そこにはかつて住民がいたと思われる痕跡だけが残された村の跡……いわゆる廃村があった。

 

手入れなどされていないようで、荒れ果てたり傾いていたりする家屋がいくつも並ぶ中、かつての村の出入り口から見える位置にある広場にて、焚き火を囲みながら盛り上がる一団があった。

 

「聞いたか?この前うちのモンを牢屋送りにしやがったガキの話!」

 

「聞いた聞いた!頭領の指示で動いた幹部が、あっさり捕まえたってヤツだろ?」

 

「ガキの癖にウチに逆らうからだ、ザマーみろ!!」

 

酒の入ったジョッキを片手に、今日囚われた少年•シエルについて嘲笑混じりに上機嫌で談笑する。年端も行かない生意気な子供一人に、仲間がやられてしまった屈辱も、これで幾ばくか晴れたと言うもの。

 

「で、頭領たちはまだ来ねーのか?」

 

「捕まえたってガキのとこにまだいるみてーだ。オレらは気にせず、ここで宴やってろってよ」

 

「頭領たちのことだ、何か考えがあるんだろ。難しい話は、頭が回るモンに任せときゃいい」

 

「オメーじゃ無理だもんな!」

「テメーだって似たようなもんだろ!」

 

指示をされた通り、広場に集まり酒を片手にドンチャン騒ぎをしているのはいいが、指示した側である頭目たちの姿はない。それについて首を傾げつつも、細かいことに意識を向けない下っ端たちは話の流れから次第に軽口の叩き合いに変えた。

 

「う~っ、しょんべんしょんべんっと……」

 

そのままつつがなく行われるはずだった宴。しかしそれは一人の男が催して席をはずし、入り口の名残がある丸太の門から廃村の外に出たタイミングで終わりを向かえることとなる。

 

「……んあ?」

 

外に出た一人の男は、違和感を感じて思わず声を漏らす。明かりの無い参道は真っ暗闇で覆われている。だが、その暗闇の中で、何かが動いたように見えた。気になって様子を見に、一歩踏み出したその瞬間……。

 

爆炎がその男を襲った。轟音が響き、空気が震え、炎に包まれた男は悲鳴を上げる間もなく意識を落とし、喧騒に包まれていた同胞たちの元へと飛んでいく。そして突如として起こった事態に理解が追い付かず、思い思いに騒いでいた盗賊たちは時が止まったように硬直した。

 

何が起きた?全員の脳裏に浮かんだその言葉は口に出ることなく、入り口の奥から現れた多くの影による足音が、彼らの耳に届く。盗賊たちが一斉に向いた先にいたのは、奴等にとって、予想外としか言えない者たち。

 

「テメーらか……!シエルを攫ったのは……!!」

 

影の先頭に立っていた一人の青年が、拳に炎を灯したことでその姿を明白にする。桜色のツンツン頭、鋭いツリ目、白い鱗柄のマフラー。魔導士に疎い盗賊たちでも、噂程度には聞き覚えのある、炎の魔導士。そしてその男が属するギルド。

 

「ま、まさか……!?」

 

「シエルを返しやがれぇえっ!!」

 

一部の盗賊たちがその名を口にするよりも速く、降りぬいた拳から爆炎が飛んできた。近くにいた者たちはその一撃だけで、抵抗する間もなく炎に包まれ後方へと飛ばされる。

 

「て、敵襲!敵襲だー!!」

「呑んでる場合じゃねぇぞ!迎え撃てぇ!!」

 

ようやく我に帰った盗賊たちが、奥の方にいる仲間たちへと向けて号令を飛ばす。正面から乗り込み、仲間であろう子供を取り返しに来た魔導士ギルド。その中でも上澄みであろう戦力が来たことは、いやでも理解できたようだ。

 

各々武器をとりに行こうとする盗賊たち。しかし、その背を黙って見送るほど、彼らは優しくもない。炎の青年ナツはそんな盗賊たちに向けて空気を吸い込んだ口から、炎を吐き出して狙い撃ちにする。

 

魔導士たちの勢いはそれだけにとどまらず、同様の者たちが氷に閉じ込められ、鉄の腕で殴り飛ばされ、カードや文字による属性攻撃に翻弄され、指輪からの竜巻に巻き込まれる。その様相はまさしく、蹂躙。

 

「な、何だよこいつら……!バケモンだらけじゃねーか……!!」

 

魔導士たちの被害にあった盗賊の一人が、涙を浮かべながら力なく呟く。この状況下になっても彼らは理解できていなかった。そんな化け物の家族を攫い、あまつさえ挑発の道具にしていたことを。

 

「こいつら、舐めやがって……!」

「魔導士が何だってんだ!」

 

僅かに武器の調達に成功した盗賊たちが、先にやられた仲間たちの仇を取ろうと、魔導士たちへ攻めていく。しかし、勇猛果敢と形容されそうな盗賊たちの攻勢も、相手によってはただの無謀と片付けられる。それを現すかのように、換装魔法で両手に一本ずつ直剣を手にした女騎士の放つ剣劇や、一瞬で巨大化した老人の圧倒的物量によっていとも呆気なく返り討ちにされてしまう。

 

「いくら魔導士どもでも、こいつを喰らえば……!」

 

近接戦に挑んで蹴散らされた味方の姿に若干怯みながらも、遠距離から魔導大砲を用意して照準を合わせていた部隊が、悟られないように動いていた。魔力を詰め込んだ砲弾を、敵の密集する箇所へ放てば、如何に強力な魔導士であろうとただでは済まない。

 

砲撃を準備を済ませ、隊長に当たる男が号令を飛ばすと同時に、大砲から炸裂音が響いた。それは砲撃音とは違う別の音。妙な異音に部隊全員が砲台をみやると、砲身に見慣れない紫の槍が突き刺さっており、摩擦で発生したスパークを生み出していた。状況が呑み込めず、場の全員が呆けた声をあげたその直後……。

 

「ぎゃあーーーーっ!!?」

 

大砲の中に入っていた、行き場を塞がれた魔導爆弾がそのまま爆発。大砲を木っ端微塵にするほどの規模を生み出した爆発は、部隊の者たちの身体を吹き飛ばし、悲鳴を生んだ。そんな大惨状を生み出した、戦神の槍(グングニル)を大砲に投げ放っていたペルセウスは、大砲を無力化したことを確認すると、今度は鉄をも切り裂く灰色の大剣を呼び出して、後方に控えている盗賊たちに目を見やる。

 

「テメェらのお遊びに付き合ってる余裕なんざねぇんだよ、こっちは……!(あいつ)にこれ以上何かしやがったら……地獄を見せる程度じゃ済まねぇぞ……!!」

 

終始怒りに燃える表情を隠しもしないペルセウスに、萎縮した盗賊団は抵抗する意志すら見せず、ただただ襲い来る脅威から背を向けて逃げ出す。しかしそんな奴らにも大剣を持ち上げながら追い回し、廃村に響く轟音を鳴らしながら進撃していく。

 

「ペルの奴、容赦ねーな……」

「そりゃそうだろ、あのペルだぞ?」

 

同様の怒りを抱えていた仲間の魔導士からも、呆れと畏怖が孕んだ声と共に引かれる始末である。

 

「ペル!この場はもうよい!奴らの頭を叩きに行けい!!恐らくは、シエルもそこにおる!!」

 

「おう!!」

 

勢いそのままに突き進むペルセウスに、マカロフは辺りの盗賊たちを振り払いながら指示を飛ばす。この場の雑魚たちは総員で対処し、まっすぐに頭目を狙ってシエルを救出。シンプルながらも、大きな実力を持つ妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとっては理に適った動きだ。

 

マスターからの指示を聞いたペルセウスはそれに一言だけ答え、廃村のさらに奥へと駆け抜けていく。夜目ではあるが目に見えるのは高い丘の上に立つ大きな建造物。セオリーに従えば頭目は、そしてシエルはあそこにいる可能性が高い。抵抗する盗賊たちもおらず、障害のなくなったペルセウスは真っすぐに丘を登りだした。そんな彼の進撃を、傍に存在する森から眺めてた存在がいた。

 

「あーあ、足止めにすりゃなってねーじゃん……」

 

いくら相手がここ数年で実力を急上昇させている注目の魔導士ギルドとは言え、あまりにも一方的に押される盗賊たちの姿を見て、その男は溜息を吐くことしかできなかった。個々の力が高い集団。その上組織としての練度も高い。真正面から戦っても勝ち目はないと踏んでいたが、ここまでとは。

 

「しょーがない、ここは当初の予定通りにやるとしますかね」

 

一つ息を吐いたその男は、そう口にすると森の奥の方へと姿を消していく。振り向き様に口元に浮かべていた笑みは、まるでこの後の戦局がどう動くかを全て把握しているかのようだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

丘の上にあった大きな建造物。その内装は経年劣化で荒れ放題だった他の建物と違い、ここ数年の間、手が加えられたかのように整っていた。石造りが主になっている廊下を走りながら、ペルセウスは真っすぐ頭目がいるであろう部屋へと向かっていた。

 

場所の目星はついている。入り口で構えていた盗賊の一人から聞き出していたので、迷う事もない。お誂え向きな両開きの二枚扉を思い切り蹴破って、ペルセウスは乗り込んだ。

 

「シエル!迎えに来たぞ!!」

 

乗り込み、開口一番でそう叫んだペルセウス。しかし、目の前に広がった光景は、彼の怒りも勢いも削ぐ、驚くべき光景であった。中の部屋はあちこちが魔法による焼け跡や傷があり、崩落したであろう壁と天井、抉れた床もその痛々しさを物語っている。

 

そして、部屋の奥の壁にもたれて項垂れている強面の男。男以外に人影は見当たらない。思いもよらない状況に、ペルセウスには困惑しか浮かばなかった。

 

「どう言うこった、こいつは……!?おい!一体何があったんだ!?」

 

状況が飲み込めないまま、奥で倒れている男の元へ駆け寄り、ペルセウスは声をかける。呼びかけで意識が戻ったのか、声を漏らしながら男はゆっくりと顔を上げる。

 

「お前が、ペルセウスか……?一足、遅かったみてーだな……」

 

「どう言う意味だ……?」

 

呻き声とともにそう言った男に、落ち着きを取り戻しながら問いかける。この惨状と何か関係が有るのか?胸中でそうこぼしていたペルセウスだが、次に男が告げた内容に、冷静さは再び失われることになる。

 

「オレにも、細けえ事は分からん……。だが、突如現れた“奴ら“に、オメェの弟は連れてかれちまった、ってのは確かだ……」

 

「……なんだと……!?」

 

今この部屋の惨状となっている原因。聞けば唐突にこの場に現れた正体不明の一団が強襲し、頭領であるこの男も含めて全滅。人質にとっていたシエルをさらに奪われてしまったのだと言う。わざわざ丘を駆け上がって辿り着いたと思えば、横から掠め取って行ったその一団への怒りが噴出する。

 

「そいつら、どこに行った!?」

 

「分からん……だが、そう遠くには行ってねえだろう……。そう時間は経ってねぇ……」

 

ここに来てまさかの第三者の介入。本来であれば困惑するところだが、弟に得体の知れない危機が迫っていると理解したペルセウスには怒りが勝った。すぐさま動き出し、不自然に開かれた窓から躊躇なく飛び降りた。

 

着地したペルセウスが目を凝らすと、夜目で分かり辛かったが廃村の外の方へと複数人規模の足跡が続いている。詰めが甘い奴らのようだが、今はありがたい。考えるよりも早くペルセウスは追い始めた。

 

「チクショウが……!!」

 

許すことなど断じてできない。隠すことも出来ない悪態をついて、ペルセウスはひたすら駆けた。森を横切って遺された痕跡を辿り、真っすぐ突き抜けていくと、森を抜けて、開けた荒野へと辿り着いた。

 

そして、視界が開いたと同時に彼の目に映ったのは、フードを被って姿を隠した集団と、それに連行されているシエル()の姿。視界に映った瞬間、理解するよりも早く彼は動いた。

 

「シエル!!今助ける!!」

 

そう声をあげると同時に、換装で呼び出した紅炎の剣に炎を充填し、追いついてきたペルセウスに慌てふためくフードの集団へと狙いを定める。同時に兄の存在に気付いたシエルが、焦燥の顔を浮かべながら振り向いた。だがもう安心だ。ここで奴等を蹴散らして、弟を救い出せば、全ては解決する……。

 

 

 

「違う、兄さん!()()()()()()()()!!」

 

そんな弟の言葉を聞いて、思わずペルセウスは硬直した。その隙を突いてか、先程まで慌てていたフード集団の内の一人が、口角を吊り上げながら手の平に魔法陣を浮かべて何かを発動する。直後、ペルセウスが駆けて来る範囲を大きく埋めるように術式の空間が展開。閉じ込められてしまった。

 

「なっ……!?」

 

シエルが言った、自分はここにいないと言う言葉と、連れ去ったはずの奴らの近くで用意されていた術式。そして術式に刻まれていた設定は「空間に作用する魔法を例外なく使用できなくなる」と言うもの。明らかに自分を無力化する為に記されたものだった。ここまで追ってくることを、まるで分っていたかのようなトラップ……何故?と言う言葉が頭を過った。

 

「残念~!こっちはハズレでした~!わざわざ檻に入ってくれてありがとう、ペルセウス・ファルシーさん?」

 

「テメェは……あの時の奴か!!」

 

罠にかかったペルセウスを、これでもかと馬鹿にするように仰々しく礼を告げたのは、被っていたフードを外し、顔を露わにした若者。その声を語り口から、ギルドに送られた魔導伝書鳩で伝言を伝えた男と、同一人物である事が発覚する。

 

これだけでもペルセウスにとっては不可解な事であったが、事態はそれだけでは済まない。間に合わなかったと言いたげに顔を俯かせるシエルの姿に、数回ノイズが走ったと思えば、その隣に現れたのは、先程ペルセウスが会った頭目だった。

 

「ご苦労。全てお前の計画通りだ。リーダーとして鼻が高いぜ」

 

二転三転する展開に、瞠目し続けるペルセウスは二の句が継げなくなっていた。彼の混乱を見透かしてか、「さっきぶりだな、ペルセウス」と、先程まで弱っていた様子など嘘のように佇む頭目は、なおも時々体にノイズを走らせながら嘲ている。

 

「思念体さ。投影(ビジョン)と言ってもいいけど……ま、要するに実体のない映像って事だ。頭領と弟くんは、さっきあんたが乗り込んでた建物の中にいる」

 

ペルセウスの脳裏に、つい先ほど見た瓦礫に埋もれた部屋の光景がよぎる。あの場に“本物”がいたはずだという確信が、足元から崩れ落ちていくような感覚に変わっていった。

 

「大層弟くんが大事だったんだね~。想像以上に釣れて、笑いをこらえるの、必死だったよ」

 

その言葉に、胸の奥で何かが弾けた。拳が軋むほどに握り締められ、怒りが理性を焼き尽くしていく。しかし、術式の中で使える限られた魔法を放っても、壁はビクともしない。幾重にも重なった怒りと苛立ちに、ペルセウスは頭が支配されかけていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方、廃村の入り口広場で襲い来る盗賊たちを、一方的に蹴散らし終えた妖精の尻尾(フェアリーテイル)。そろそろ先に向かわせたペルセウスの方に動きがあると思っていた面々であったが、向こうで起きていた事態を知らせたのはペルセウスではなく、思念体で現れた頭目だった。

 

「てなわけで、人質はたった今二人になった。取り返したければ取り返しに来るといい。ここまで来られればの話だがな」

 

本体のいる場所から、捕らわれの身であるシエルと共に姿を具現化した頭目が挑発する。大事な弟をエサに、ペルセウスを拘束したと口にした彼の言に、最初はデタラメだと告げていた妖精たちも、彼の口ぶりから否が応にも事実であると実感させられる。

 

焦りと怒り、そして微かな絶望を宿した彼らの顔を見た頭目は、己の優位さをこれでもかと感じ取って笑みが深くなるのを自覚した。自分からの挑発はこれで十分だろう。そう判断した男は一方的に思念体の投影魔道具を解除した。

 

「やりましたね頭領。あとはここをトンズラして、捕らえた兄弟を差し出せば……」

 

「そのことだが、向こうから追加の依頼があった」

 

勝利を確信し、浮かれ気味だった部下の一人がかけた声を遮るように、告げられたその一言に、場の空気がわずかに張り詰める。金で動く連中ですら、その響きにただならぬ気配を感じ取っていた。

 

例の兄弟を探していると言う大きなクライアントとコンタクトを取ったところ、どうやって入手したのか、兄弟が身を置いていたギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)に関する情報が渡ってきた。まるで向こうにスパイでもいるのではないかと疑うぐらいに正確なそれと共に、依頼主に当たる人物は自分たちにこう告げたと言う。

 

「奴らの……妖精の尻尾(フェアリーテイル)の心を折れ、ってよ」

 

男は愉快そうに口元を歪め、わざと間を置いてから言葉を吐き出す。その声音には、単なる誘拐とは次元の違う悪意が滲んでいた。仲間内に当たる盗賊団の面々さえ、依頼主からの新たな要望と、それに嬉々として応えようとする頭目に恐れを抱き、生唾を飲み込む。

 

「随分と恨みを買っちまってんだなぁ……ちいとばかし同情はするが、運が無かったと思ってくれや」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は当然、あんな挑発を受けて素直に引き下がりはしなかった。怒りを更に燃え上がらせて特攻し始めたナツを筆頭に、あとを続くグレイやエルフマン。状況を見定める為に、現在地を拠点として留まり、カナやレビィなどのサポート役がマスター・マカロフと共に状況把握を担う。ナツたちの方に気を取られた盗賊たちの隙を突いて、別のルートから捜索する複数の集団。そしてエルザが伴った数人がペルセウスの方へと向かう。

 

「待てナツ!!」

「シエルがどこか分かってんのか!?」

 

「分かる!こっちの方だ、間違いねぇ!!」

 

ペルセウスが先に向かって行った丘を、一直線に駆け上るナツ。グレイたちにシエルの場所が分かるのか問われるが、シエルの匂いを鼻で感じ取ったナツは、細かい場所は兎も角、方向については確証を持っている。険しい表情だが、真っすぐとシエルに近づいているナツであったが、上り坂の途中、普通の地面ではありえない、カチリと言う音と共に不自然に盛り上がった箇所を踏みつけた。

 

「のあっ!?」

 

直後飛来してきた、数本の矢。持ち前の反射神経で第一軍を躱したナツだったが、矢の飛んで行った先の仕掛けが発動し、四方八方から何本もの矢が三人に襲い掛かる。

 

「罠か!?」

「姑息な!漢なら正々堂々とかかって来んかい!!」

 

魔法で矢の大群に対処するも、足止めを喰らってしまう。しかも、悪戦苦闘を強いられていたのはナツたちだけではなく……。

 

「何だこりゃ!?」

「落とし穴の中に、術式まで!?」

 

裏口から入ろうとした者たちに、床に仕掛けられたスイッチで発生した落とし穴。しかも、穴の出入り口を塞ぐように封鎖術式まで仕込まれている。

 

「壁や天井が動いた!?」

「まずい!分断された!!」

 

建物の中に入り込んでも仕掛けはある。魔法によるものなのか、方向感覚を狂わされ、ひとりでに動く壁や天井で、複数人で行動していた魔導士たちも分断されてしまう。二人一組で動いていたアルザックとビスカも、迷路によって離されてしまった。

 

「どうにかして、ビスカと合流しないと……ん?」

 

はぐれてしまったパートナーと合流を急がねばと歯噛みするアルザックだが、視界の端に映った人影に気付き、そちらへと目を向ける。すると、探していた少年の姿をしたそれが、通路の先の曲がり角を曲がったところを目撃した。

 

「シエル!?何であんなとこに……待ってくれ!!」

 

すぐさま追いかけるアルザック。追いつかねばと言う焦燥が彼の足をより速めていくが、曲がり角に差し掛かったところで、突如彼の身体が金縛りにあったように硬直してしまう。

 

「へへへ、引っかかりやがった!」

 

思わぬ衝撃に呻くアルザックを嘲笑うように、変身魔法を解除した盗賊の一人が、拘束用魔道具を持ってこちらを煽っていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「よっしゃー!また引っかかったぜあいつら!」

「スッゲェ!魔導士どもが次々と……!」

「まさしく掌の上だ!ざまあねえぜ!!」

 

敷地内に仕掛けられた無数の監視魔水晶(ラクリマ)で送られてくる映像と、それを見て滑稽と言わんばかりに盛り上がる盗賊たち。幹部が仕掛け、頭目が指示をし、その通りに動くだけで、仲間たちは良いように惑わされ、捕らえられ、傷ついていく。諦めずに立ち上がって、自分を助けようとナツを始めとした、比較的無事な魔導士たちが足を動かすも、その姿さえ、奴らは人形劇の一幕として扱っている。

 

それを見る度に、シエルの胸の奥で、怒りが積み重なっていった。正面からぶつかる事に勝機がないからと言って、仕掛けた罠に仲間がかかるたびに嘲笑う卑劣さ。高みの見物の姿勢を決め込み、自分たちが優位に立っていると勘違いしている愚かさ。他人をこれでもかと馬鹿にするような言動。許せるわけが無かった……。

 

何よりも……仲間が、家族が、あんな目に遭い続けていると言うのに、何もできずにいる自分が、許せなかった。

 

元はと言えば自分が捕まったことが原因なのに。兄が捕らわれたのも、仲間が傷ついているのも、自分の欲に抗えず、まんまと捕まってしまった弱い自分の生なのに。今もこうして、何度も罠にかかって嗤われる仲間たちを、助けに行ける力もない。

 

何のために魔法を求めた。何のために魔法を覚えた。何のために魔導士になった。今こうして、助けに来てくれた仲間の想いに報いるためじゃないのか。何故自分は、今もただ捕らわれて助けを待つだけの無力な存在のままなんだ。

 

 

 

───力が、欲しい……。

 

力が、今こうして周りにいる盗賊たちを蹴散らし、仲間の元に向かう力が……。

 

───待ってるだけで、得られるものか?

 

いいや、掴みにいかなければ。かつて手にした魔法を求めるために、あらゆる魔法を探したように。

 

───あんな奴ら、簡単にやれるぐらい……。

 

そうだ……本当なら仲間たちも負けやしない。そんな仲間たちを守れるほどの強さなら、あいつらも……。

 

 

 

今、自分は何と話している?

 

シエルは気づけば、己の中に何かがいるのを無意識に感じ取っていた。己への自問自答と思っていたが、頭の中に響くように聴こえたそれに、己とは何か違うものであると気づいた。

 

───今はそんなこと、どうでもいい。力が、欲しいよな?

 

意識した瞬間、それは明確に問うてきた。力……それは勿論欲しい。みんなを助けられるのなら、今すぐにでも……!!

 

───だったら、心の底から願え。全てに打ち勝てる力を。

 

俯いていた顔を上げると、そこには何かがいた。黒いモヤがかかった人型の何か。こちらに手を差し伸べて、問いかけているようにするそれに、シエルは怪しむ余裕も持てず、縋り付くようにその手を取った。

 

手を取ったその瞬間、黒いモヤはとった右手を伝い、シエルの体を徐々に飲み込むように包み込んで行く。自分が求めた、そして手を伸ばした力の得体の知れなさに、気づいた時にはもう遅く、彼の意識は薄れていく。

 

───そう、それでええ。その力を使って……全部……。

 

その言葉を聞き終わるより早く、シエルの意識は闇に包まれ、この会話もまた、彼の記憶から抜け落ちることとなる。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「何だ……?急に空が……」

 

両手に持った剣を離さないまま、緋色の長い髪を持つ女剣士は訝しんだ。剣の切先を向けられていた、地に転がされて降参を伝える姿勢で固まる男と、いくつかの切り傷を付けられて満身創痍となってる美女も同じだ。

 

他の配下たちは、エルザに幹部たちを圧倒され、他数人の魔導士たちに制圧されて意気消沈となったところに、得体の知れない異常事態が起きかけていることでさらに萎縮している。そんな中、ようやく術式の檻から解放されたペルセウスは、空を覆い尽くしていく暗雲から、僅かながらその存在を感じ取っていた。

 

「まさか……シエル……!?」

 

兄が感じ取った弟の異変。それは的中していた。暗い夜の空を、更なる闇を招き入れたかのように、中で摩擦を繰り返して電気を生み出す雲が、黒く覆い潰す。それを生み出したのは、空とは対照的な白い小型の雲に乗る、先程まで拘束されていたはずの幼き少年。

 

「な、何だよ一体……!?」

「何で拘束が外れてんだ!?」

「確かに“魔封石”を使ってたのに!!」

 

つい先刻まで、魔導士たちが踊らされる様を見て嘲笑っていた盗賊たちが、一転して困惑と恐怖に顔を引き攣らせている。ここまで常に冷静さを保っていた頭目ですら、突如として起こった予想外の出来事に、困惑の色を隠せていない。

 

映像魔水晶(ラクリマ)に映る魔導士たちの様子を眺めていたところ、前触れもなく後方から爆発音が響いたかと思えば、部屋の天井が木っ端微塵に吹き飛び、人質にしていた子供が姿を消していた。天井が破壊された際に起きた粉塵がようやく晴れたので、穴が開いた空を見ると、件の子供が空中で雲を生み出しているところを目撃し、今に至る。

 

「何をするつもりだ……?」

 

頭目はシエルを侮ってはいない。子供で見習いであるが魔導士だ。それも随分と利発だった。ここ一番に切り札を隠していた可能性も捨てきれない。それを加味しても、今の少年からは明らかに異常そのものであると言わざるを得なかった。

 

そんな少年が起こしている不可解な現象は、罠に賭けられている仲間たち、もしくは罠から抜け出すことに成功した者たちも含めて、視認できる全員が思わず目を向けていた。

 

そして……渦中にいるシエル本人は、目を閉じたまま上に顔と手を向け、上空に生み出した暗雲を操っている。しばらく静止を続けながら雲を拡大していったシエルであったが、それが終わった頃合いに、掲げていた両掌から雷の魔力を集中。そして発射する。

 

暗雲に撃ち込まれた雷は、瞬く間に全体へと伝播。誰も彼もがこの後に起こり得るであろう現象に予測がついた。しかしまさか……まだ未熟の域を出ない見習いの少年が……?どうしても結び付けられずに立ち尽くす地上の者たちの胸中など計ることなく、少年は動いた。

 

 

 

ゆっくりと開かれた彼の瞳には、一切の光は宿っておらず、無機質さを感じる無表情のまま、掲げていた両手を勢いよく振り下ろした。

 

 

 

それを合図とした皮切りに、廃村に無数の雷が降り注ぎ始めた。地上に落ちた雷群は、木々に触れると着火させ、地面に触れると地表を焦がし、建物に当たれば貫き壊し、水辺に落ちれば伝播させて付近の小さな命を刈り取る。無差別の脅威を生み出した。

 

辺りに響く悲鳴と轟音。不幸中の幸いと言うべきか。予測できていたであろう人間たちは途端に避難を始めるか、雷が当たらなさそうな物陰に潜む。しかし勢いは止まらない。曲がりなりにも拠点としていた盗賊たちが築き上げていた、生活の礎を容赦なく破壊していく。

 

「なんだいこの雷!?」

 

「シエルの魔法か、これ!?」

 

もしもの時の為に術式で作った結界の中から、カナを始めとした数人が瞠目している。その中の一人、マスター・マカロフもまた、思わぬ力を覚醒した……否、暴走させた少年の姿を遠目にしながら、冷や汗を垂らしていた。

 

「怒り……天を操る魔法を得たあやつが、暗雲の如き黒の感情を、怒りと変えて、全てにぶつけた、と言うのか……」

 

感じる。降り落ち続ける雷から、少年の怒りを。数多の黒い感情に塗り潰された、心を。それが今、刃となって敵に、いや、全てに襲い掛かっている。こうなってしまっては、最早敵も味方もない。

 

この後、マカロフは早急に指示を飛ばした。罠にかかった仲間の救出、及び敵であったはずの盗賊団を、廃村から避難させるように。指示を聞いた魔導士たちは最初こそ戸惑ったものの、事の異常さに戦意を完全に喪失させた盗賊たちが慌てふためいて逃げだす様子を見て、指示の通りに従った。

 

後に合流したエルザと、助けられたペルセウス、及び敵の幹部であった二人も加わって救出と避難を実行。シエルを止めようと丘を登り切って真正面から飛び立ったナツが、標的として狙われて雷の一つに直撃したことを除き、被害はごく最小限に抑えられた。

 

最終的にシエルは巨人化(ジャイアント)で最大級の大きさとなったマカロフの圧倒的質量によって抑えられ、魔力を大きく消耗していたこともあり、しばし気を失う事に。事態の終息には至ったものの、夜明けとともに映し出された周囲の光景は、廃村だった証を何一つ残さぬ、更地しか残っていなかった。

 

 

 

これが後に、“天の怒り”と呼ばれる異常気象の名称として、翌日の新聞に掲載し、魔法界を震撼させることとなる事件となった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

時は現在、X791年。ペルセウスが知り得る当時の出来事を語り終えたその空間は、静寂に包まれていた。詳細を知ったウェンディとシャルルは一切口を挟めず、途中からの記憶が曖昧であったシエルも、あの時の惨状を改めて知ったことで唖然としている。

 

その空気を感じながらも、ペルセウスは視線をシエルの席の前に置かれた銀の鍵へと移した。マカロフに抑えられた弟を迎えに行く途中に、偶然落ちていた鍵を見つけた彼は、回収こそしたがシエルにはその真を伝えなかった。

 

「お守りとして持たせていたはずの鍵が、シエルの身に危険を招いた……そう判断した俺はこの鍵を物置部屋の中に隠し、シエルには鍵が見つからなかったと伝えた。あの時は、それが最善だと思ったんだ……」

 

「そうだったのか……」

 

体感1年半の合間、兄が隠していた真実を知ったシエルは不思議と憤りは感じなかった。むしろ納得さえできた。元はと言えば、銀の鍵と言う特徴を掴まれたことで起こった事件。兄がその判断を下すのも仕方ない。むしろ、それが自らの首を絞める結果を起こしてしまった。そう考えざるを得ないシエルの表情に影が落ちる。

 

「天の怒り……新聞にも載っていたわね。廃村を襲った未知の自然現象……と書いてあったけれど……」

 

「シエルの魔法だったの……!?」

 

ようやく閉ざしていた口を開いたシャルルが最初に言及したのは、記憶に残っていた当時の新聞記事。廃村とは言え更地に変えてしまったほどの脅威の根源が、実は目の前の少年だったとは夢にも思わなかったようで、ウェンディ共々驚愕を隠せずにいる。

 

「あの一件があって、ギルドへの正式加入は一度保留に。俺が天候魔法に一層慣れてから、って話になったんだ」

 

「懸命な判断ね。事情が事情とは言え、力をコントロールできないと、どんな弊害が起きるかわからないもの」

 

世間では自然現象として公開されていたが、それはたった一人の少年による所業であると言う荒唐無稽な事実に信憑性が無かった、と言うのも事実だが、実際は公表することで引き起こされたであろう凶行を防ぐ為でもある。仮にも正規ギルドの妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属する魔導士が、魔法を暴走させたことで廃村を消滅させたとなれば、魔法界も大打撃を受けてしまう。故に正式的な加入を一旦見送る事は、シャルルからすれば最善と感じられた。

 

「お守りがなくなってた時、シエルは大丈夫だったの?魔法を覚える為に欠かせないものだったのに……」

 

「……最初は、ショックだったよ。覚えのない力で暴走して、支えにしてたお守りもなくして、頭がどうにかなりそうだった……。けど、ギルドのみんながいてくれたから」

 

敢えて天の怒りについての話題を避け、ウェンディが本題である鍵について探るように聞いた。当時の事が頭を過ったのか、少しばかり表情を暗くするものの、傍にいてくれたギルドの仲間と言う存在が、少年を立ち直らせ、一年と言う期間でついに憧れの魔導士になれたと考えれば、シエル自身にとっても幸いだったと言える。

 

「今思うと……お守り鍵が原因で遭ったあの事件、って結びつけて、トラウマを呼び起こすことになったかもしれないし……そう考えたら兄さんにも感謝、かな」

 

「……ありがとな……」

 

弟のことを思って鍵を隠しはしたものの、それが弟の怒りを、ひいては恨みや憎しみを生み出してしまうのではと、考えすらしたペルセウス。それが結果的にシエルの新たな精神的支柱を構築し、前を向くきっかけになり、なおかつ天の怒りによるトラウマを呼び起こす要因を取り除けた。お守りに縋る必要のなくなったシエルからの恩赦と言える言葉に、安堵を覚えた。

 

「ずっと、天の怒りを生み出す力が気がかりだった。他にも知らないことが数多く出てきて、まだ不明瞭なことばかり。だけどその力とは、俺自身がこれから向き合わなきゃいけない」

 

シエル自身、天の怒りが何故暴走するのか、それとは別に起きる爆破の魔法や暴走状態の原因はなんなのか、まだ分からない。向き合うべきことは数多くある。テーブルに置かれた銀の鍵を取り、手の平に乗せて見つめながら、シエルは決意を固めた。

 

「俺のお守りでいてくれたこの鍵も、そろそろ本懐と向き合わせなきゃな……」

 

「どう言うこと?」

 

呟いたシエルの言に、ウェンディが首を傾げる。問われた少年は、どこか清々しさを感じる面持ちを浮かべながら答えた。

 

「星霊の鍵は星霊魔導士が持つことで本来の力が発揮される。あとは分かるね?」

 

その返答を聞き、ウェンディだけでなくシャルルとペルセウスの脳裏にも、一人の人物が浮かび上がった。シエルが頭に浮かべている者と、恐らく一致している……そして、かつてシエルの手元にこのお守り鍵があった時にはいなかった、仲間の姿が……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「え、これ、星霊の鍵……!?どうしたのこれ……?」

 

ファルシー家での話から数十分。場所は変わって妖精の尻尾(フェアリーテイル)の現拠点である小さな酒場にて、揃って訪れたシエルたちから呼ばれて手渡された、銀色の鍵を見たその少女は、困惑を隠せずに思わず聞き返した。金色の髪を二つ結びにした星霊魔導士のルーシィだ。

 

「おい、それって確か……」

 

「懐かし〜!!お守り鍵じゃない!見つかったの?」

 

気になって身に来たナツとリサーナが、ルーシィの手の上に置かれた銀色の鍵を見てその記憶を呼び起こす。以前のシエルが肌身離さず持っていたお守りの存在。紛失したとばかり思っていたそれが、シエルの元へと戻り、そして今ルーシィの……星霊魔導士の手へと渡った。

 

ギルドの者たちにも、シエルのお守り鍵は無くしたと言う話で伝わっていたようで、事実はペルセウスがシエルのことを思って隠していた事、そしてルーシィを始めとしたお守り鍵のことを知らない面々には、その鍵がどのような存在かを、説明した。そして今ここに来たのは、シエル自身も、ただのお守りとして持つことから、前へと進むため。

 

「ルーシィに受け取って欲しいんだ」

 

「そんな!貰えないわよ!大事なお守りなんでしょ!?」

 

「いつまでも俺が持ってたって、宝の持ち腐れさ」

 

話を聞く限り、お守り鍵はシエルの原点。何にも代えがたい唯一無二の存在。同じように星霊を愛する者として、ルーシィは二つ返事でその要望に応えられないと返したが、シエルにとっては寧ろこれが最善だ。

 

「ルーシィは俺にとって、俺が目指していた理想。才能がなくて諦めるしかなかった、本当の意味で星霊との絆で結ばれた魔導士。そんなルーシィだからこそ、俺が抱いていた星霊への憧れを、この鍵と一緒に託したい」

 

望む道こそ歩けなかったが、ずっと心の支えとなってきたお守り。星霊と契約を結べない自分がずっと持つより、自分と家族の絆を結んで来た憧れの魔導士に渡るなら本望。幼き頃から夢見た理想形と言える少女に、鍵に込めた様々な理想とともに譲る事は、一切の悔いなどない。

 

ただ、一方的な話にしていることは否めず、「なんて、押し付けがましい感じになってるけどね」とはにかみながら頬をかくシエル。その言葉と姿を見聞きしたルーシィは、しばし目線を手に持った銀の鍵に移し、参ったと言わんばかりに息を一つ吐いて、笑みを浮かべた。

 

「そこまで言われちゃったら、断りづらいわね。わかった……シエルのお守り、そしてお守りで呼び出す星霊のこと、絶対大切にする……!」

 

手渡された銀色の鍵をしっかりと握りしめ、シエルの覚悟と想いを受け入れたルーシィは、その決意を表明する。憧れも、思い出も、そしてシエルが結びたかった精霊の絆も、全て抱えると言う覚悟を決めて。

 

確かに譲渡されたことで、シエルも心なしか安心したような表情だ。寂しさが無いとは言い切れないが、ルーシィほどの星霊魔導士の手に渡ったのなら、鍵の星霊も本望だろう、そうに違いないと。そんなシエルを後方から見ていたウェンディは、ルーシィの方に向き直して一歩前に出ると、こう願い出た。

 

「ルーシィさん、早速ですけど、その星霊さんを呼んでくれませんか?私、会ってみたいです!」

 

「もちろんいいわよ!」

 

唐突な頼みではあったが、ルーシィとしても断る理由はない。二つ返事で快諾し、スペースを確保するためにテーブルと椅子を移動させ始める。

 

「確かあの鍵って何の星霊だったっけ?」

 

「羅針盤座……つまり方位磁石(コンパス)の星霊ね」

 

移動の手伝いをしながら、独り言ちるように呟いたハッピーの疑問に、鍵に描かれていた星座の形から知っていたシャルルが答えた。つまりは方角を司る星霊と言うことになる。

 

「つまり……こうか?」

 

まだ見ぬ星霊のイメージとして、グレイの頭に浮かんできたのはプルーやジェミニのような小さい小人の頭に方位磁石(コンパス)が載ったもの。俗に言う妖精タイプ。

 

「いや、あるいはこう……」

 

次にエルザが浮かべたものは、ホロロギウムのように大きな羅針盤に顔と手足などが生えたような見た目のもの。俗に言う無機物タイプ。

 

「こうだったりしない?」

 

続け様にリサーナが浮かべたのは、両肩と腰に巻いたベルトに大きな方位磁石(コンパス)がついた筋肉質のマッチョマン。その様相はまるでどこぞの変身ヒーローのようだ。

 

「何にしろ楽しみだなぁ!」

 

期待に満ちた目でそう告げたナツ。そんな彼の脳裏に浮かんでいたのは、ラーメンどんぶりに紳士や貴族のような髭が生えた男性の顔が張り付いた、全く別の世界にいそうな存在。ペルセウスから「最早方位磁石(コンパス)要素すら無くなったか…」と呆れた苦笑を交えた静かなツッコミが入れられた。

 

「じゃあ、呼ぶわよ。我、星霊界との道をつなぐ者……」

 

気を取り直して準備を終えたルーシィが一言言うと、銀の鍵を前方へ突き出して口上を唱え始める。シエルが初めて同様の口上を告げたときには一切の反応を示さなかったそれは、ルーシィの魔力にはその反応を示したように、彼女の足元から光る魔法陣を展開させ、鍵自身も銀色に光り出す。

 

「汝、その呼びかけに応え、(ゲート)をくぐれ!」

 

もし自分にもその才能があったら、と何度思ってきただろう。今ルーシィが成し遂げたことを、自分にもできたらと、何度も思い返して来た。しかし覆しようのない現実を、いつまでも悲観してはいられない。むしろシエルの胸中は、ルーシィと言う己が夢見た星霊魔導士として、このギルドに来てくれた事を喜んでいた。彼女がいてくれたから、待ち望んだ瞬間に立ち会えたのだから。

 

「開け!羅針盤座の扉!ピクシス!!」

 

一層輝きを強めた鍵は、先端の光から(ゲート)を作り出し、その存在を人間界へと招いた。現れたそのその星霊。まず目を引くのはぐるぐると針が回る方位磁石(コンパス)。それを頭上に乗せ、下に目を向ければ見えたのは面長の顔。白い顔についた二つの目に黄色い嘴。そして顔を覗いた体は全体的に赤を基調とした着ぐるみの様な体型に、先端が対照的な明るい青の羽がついた両の翼。全体的に赤いヒヨコともペンギンとも言える着ぐるみチックな外見となっていた。

 

「ピクーーーーッ!!」

 

『鳥ーー!?』

 

「この子……が、ピクシス、さん?」

 

甲高い鳴き声の様な声を発し、あらゆる意味で予想外な外見の星霊が現れたことで、ほとんどの者たちが目を見開いて驚いている。シエルが初めて手にした鍵の星霊に興味を示していたウェンディも、呆然としてしまっている。

 

「ピクシス……!」

 

その一方で、ついに叶ったピクシスとの邂逅。その喜びを噛み締めるようにシエルがその名を呟いた。どれだけ焦がれても会うことのできなかった星霊にようやく会えた喜びを噛み締め、しかし衝動を抑えながら、ルーシィとピクシスの契約(口頭での習慣スケジュール確認)を外から眺めている。

 

「よし、契約完了!これからよろしくね、ピクシス!」

 

「ピックー!!」

 

「なんつーか随分……」

「テンション高そうだな……」

 

契約に使っているメモ帳を閉じながらそう告げたルーシィに、ビシッと敬礼のポーズを取りながら元気良く返事をする羅針盤座の星霊。言葉を交わすことは出来ないようだが勢いが強い印象を持つ彼に、周りが軽く置いていかれている。星霊として一番重要と言える契約を終えたタイミングを見計い、ここでシエルも動き出した。ルーシィたちの……正確にはピクシスの元へと近づいていく。

 

「ピクシス」

 

「ピクッ?」

 

背後からシエルに名を呼ばれたピクシスは、一瞬体を震わせるも、すぐさま己を呼んだシエルの方へと勢い良く振り返った。こちらから一方的に呼びかけることしかできなかったシエルにとって、自分の声に確かな反応を示してくれたピクシスの姿は、なおさら胸に込み上げるものがある。わずかばかり抑えきれなくなったその喜びを笑みとして浮かべながら、シエルは口にした。

 

「俺、会えて嬉しいよ……!これからよろしく!!」

 

本心から溢れたシエルの言葉。そして彼の姿を見聞きしたピクシスの反応は、周りの予想からは大きく外れたものだった。先程まではルーシィに元気良く返事をする姿がほとんどであったが、今の彼は大きな目をさらに見開き、何かに気づいたかの様に息を呑んで立ち尽くしている。

 

周囲の魔道士や、目の前に立つシエルがそんな、思いもよらぬ反応を示したピクシスに首を傾げていると……。

 

「ピックーーーッ!!」

 

「え、うわあ!?」

 

ピクシスは僅かに目元を潤ませながら、勢い良くシエルへと飛びついた。予期しなかった行動に当然シエルは対応できず、飛びついたピクシスによって後ろから倒れてしまう。その場の全員が驚愕する中、少しばかりの痛みに唸るシエルに、どこかすがりつく様にピクシスが鳴き出した。その表情や声には、涙が混じった喜びが感じられる。

 

「ピィク!ピィク!ピクピク!ピックーー!!」

 

「君も嬉しいの……!?ありがとう……!!」

 

それはまるで、長い間会えずじまいだった友達と、久々に会えたときの様な反応。シエルはすぐに気づいた。お守り鍵として持っていた時分から、声をかけ続けたことを、ピクシス自身も知っていたことを。その声の主が、目の前にいる自分のことだと分かったことを。

 

一方的にかけてきた声が届いていたことに、より一層目頭が熱くなったことを自覚したシエルは、くっついて離れようとしないピクシスをたまらず抱き締めた。そんな光景を見ながら、ウェンディの顔にも自然と笑みが浮かぶ。

 

「あんたも嬉しそうね」

 

「うん、だって……シエルはようやく会えたんだもの……」

 

相棒の声に、静かに頷きながらウェンディはその目を離さない。才能と魔力と言う壁で隔たれていた、種族を越えた友情。まさに今それを垣間見た。心の底から喜ばしい気持ちを与える二人を、誰もが暖かく見守っていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ずっとずっと、声が聴こえなかった。あの子の声も、他の声も。

 

周りの仲間が色んな人たちに呼ばれていく中、僕は今日も世界に置いて行かれたまま。

 

ずっとこのままなのか、もうあの子を声を聴くことが出来ないのか、悲しい気持ちでいっぱいになりながら、日々は過ぎていった……。

 

そして今日も、独りでいる一日が、過ぎていく……。

 

 

 

そんな考えが、一人の女の子の声で終わりを迎えた。

 

何度か聞いてきたその言葉は、僕を呼ぶための言葉。いつぶりに聞いたか思い出せないけど、その声に抗う方法は僕には無かった。

 

 

 

気付けば目の前にいたのは金色の髪をした女の子。彼女が僕の、新しい所持者(オーナー)。優しそうな人であることはすぐに分かった。周りには、彼女の仲間と思われる人間たちがたくさん。

 

この人といれば、もしかしたらいつかはあの子にも会えるのかな?人の言葉を離せない僕だけど、どうにか探せないかな?大事な契約をしている途中も、頭の中で考えていると……。

 

「ピクシス」

 

その声が、聞こえた。

 

一瞬、嘘じゃないかと思った。僕の幻聴なんじゃないかって。けど、後ろを向けば、僕を優しく見つめる一人の男の子。

 

「俺、会えて嬉しいよ……!これからよろしく!!」

 

聞き間違う訳が無かった。だって、ずっと聞いてきて、ずっと知りたくて、ずっとずっと、また聞きたいと思ってきた、あの声を。

 

『よろしくね、ピクシス』

『君を呼べなくて、ごめんね』

『また、僕に使える魔法が見つからなかったよ……』

『それでね!その時兄さんが……!』

『ピクシス……君のおかげだよ……!僕、遂に……!』

 

そうか……キミだったんだね……!ずっと、僕に話しかけてきてくれたのは……!

 

気付いたら、僕はその子に飛びついて、全身から、嬉しいを伝えてた。長い間待ちわびた、キミとの出会い。そして、この出会いを叶えてくれた、新しい所持者(オーナー)

 

僕は羅針盤座の星霊。別々の場所から、ようやく交じり合う事の出来たキミたちの進む先を指し示して、より良い未来を進めるように、お役に立って見せるから。

 

僕の方こそ、これからよろしくね!




おまけ風次回予告

ハッピー「突然だけどさ、透明人間になれたとしたら、何したい?」

シエル「透明人間に?そりゃあ色々やれることは出来るだろうね~」

ハッピー「例えば?」

シエル「物をひとりでに動かしてポルターガイストみたいにしたり、首とか耳とかに近づいて息を吹きかけてびっくりさせたり、椅子に座ろうとしている瞬間椅子を引っ張ったり!」

ハッピー「透明人間になっても悪戯ばっかなんだね……」

シエル「何だよその不服そうな顔は……どんなの期待してたの?」

ハッピー「ロキとかマスターだったら、確実にやりそうな『アレ』だと思ったんだけどな~」

次回『透明ルーシィの恐怖!』

シエル「へ~?じゃあハッピーはシャルルの着替えとかお風呂とか、透明になった俺に見られてもいいって事?」

ハッピー「そ!それとこれとは別問題だよ!ダメー!!絶対ダメーー!!」

シエル「……ま、どのみち俺には需要ないけど……」
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