白い魔法少女と黒い正義の味方   作:作者B

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FGO1周年で何かやろうかと思ったけど、何も思いつかなかったので普通に投稿。



VS狂戦士3

side-M

「やぁッ!」

 

私の手に持つ聖剣が、巨人の右腕を両断する。真名解放じゃない。私自身のスペックが飛躍的に上昇して、通常攻撃でも巨人を傷つけることが可能になった。

 

「■■ッ?!」

「はぁぁぁッ!」

 

腕を切り落とされたことで僅かにたじろいだその隙に、懐に剣を突き立て腹部を掻っ切るように剣を振りぬく。

 

「■■■■ッ……」

 

そして、巨人はその場で膝をついた。

 

『美遊様!その姿は一体……?』

 

聖剣からサファイアの声が聞こえてきた。そうか、その状態でも喋れるんだね。

今の私の姿はさっきまでの魔法少女の恰好じゃない。青いドレスに腕や脚を覆う白銀の甲冑。その姿は、まさに騎士と呼ぶに相応しい。

 

「これがクラスカードの本来の力」

『本来、の?』

「そう。クラスカードを使っての英霊の座へのアクセス。その力の一端を、ステッキじゃなく自分自身に上書きすることで、英霊を疑似的に召喚する。つまり今の私は―――」

「■■■ッ!」

 

すると、巨人が最後の力を振り絞って、残った左腕を振り上げる。

 

「英雄そのもの!」

 

しかし、死に体のせいで動きが鈍った腕では私を捉える事なんかできず、振り下ろされるよりも早く私は巨人の胴体を右肩から左腹部まで切り裂く。そして巨人はその場に膝から崩れ落ち、2度目の死を迎えた。

 

付加(インクルード)ではなく上書き(インストール)……しかし、時計塔の魔術師でも解明できなかった力を、何故美遊様が?』

「それは―――」

「■■■■■ッ!」

 

全身に赤く隆起した血管が浮かび上がらせながら、無傷の状態で蘇生した巨人が雄たけびと共に立ち上がる。

 

「ッ!話は後!また攻撃が来る!」

『2度目の再生……いえ、これはもはや蘇生の域です。こんな怪物、勝てるわけが……!』

「無限に蘇生するなんてありえない。そんな能力、必ず制限がかかる筈。だとしたら」

 

私は巨人が動き出すよりも早く、聖剣を振り上げながら、魔力放出を使って再び敵の懐に飛び込んだ。

 

「倒し続ければいい!蘇生しなくなるまで、何度でも!」

 

聖剣が巨人に到達する前に、巨腕が行く手を遮る。でも、その程度でこの攻撃は止められない!私はさっきの一撃の様に敵の腕を両断しようと、剣を振り下ろした。

 

「ッ!」

 

しかし、敵の腕を切り裂くはずだった剣は、まるで鋼鉄の鎧に当てたかのように弾かれた。

 

「そんなッ?!―――くッ!」

 

刃の通らないことに動揺していると、巨人は私を払いのけようと腕を振り払う。私はそれを、巨人の腕の表面を滑るように回転し巨腕をいなす。そしてそのまま懐に飛び込み、先ほどよりも強く踏み込み力を込めて切りかかった。

 

「ッ!またッ?!」

 

けれど結果は変わらず、先ほど確かに貫いたはずの腹部にまるで剣が通る気配はなかった。まさか!でも、そんなことって……!

 

「ッ―――がぁッ!」

 

今度は背後から拳を叩き込まれ、完全に不意を突かれた私は壁際まで吹き飛ばされた。

 

「ぐッ……」

 

私は壁を背に、何とか上体を起こす。

攻撃が通らない。それに、一度は切り裂いたはずの腕や胴体が明らかに硬化している。もしかして、いや、もしかしなくてもこれは―――

 

「攻撃の、耐性……」

『なッ?!それが本当なら、あんな怪物一体どう倒せば?!』

「……だったら」

 

私は自分の身体に鞭を打って立ち上がり、聖剣を上段に構える。

 

「だったら、それ以上の火力で押し通す!」

 

私の言葉と共に聖剣に魔力が集まり、純白に輝き始める。込められる魔力はこれまでの限定展開(インクルード)の比じゃなく、その余波だけで周りの壁は破壊されていく。

 

「■■■ッ!」

『ッ!美遊様!無茶です!』

 

巨人が吼え、突進する。この狭小な空間において速力は槍兵をも上回り、その膂力は何者をも寄せ付けない。迫りくる様は正に暴風。繰り出されるただの攻撃が、それだけで敵のことごとくを討ち滅ぼす。

その巨腕が私を捻り潰そうと眼前に迫る。でも、僅かに私の方が早い!

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)ぁぁぁッ!』

 

真名をもって解放された聖剣が、目の前を白で覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

脱力感と共に、私はその場にしゃがみ込む。目の前の壁は吹き飛ばされ、床も抉れ、巨人は目の前から跡形もなく消えた。

 

「くッ……!」

 

そして、弾かれるようにセイバーのクラスカードが私の中から放たれ、元の魔法少女の姿へと戻ってしまった。これは魔力切れ?やっぱり、私の魔力量じゃ1撃が限界か……早く体制を立て直さないと!

 

「サファイア!すぐに魔力供給を―――」

 

でも、そんな私の言葉は轟音によって遮られた。

 

「■■……!」

「ッ?!」

 

私の瞳に映ったのは、腕を伸ばし大きく抉れた床の下から這い出てくる巨人の姿だった。

 

「■■■■■ッ!」

「ッ!逃げ―――」

 

巨人の咆哮によって我に返った私はすぐさま回避しようと立ち上がり―――そのままその場にへたり込んでしまった。

 

『美遊様?!』

 

もしかして、さっきの宝具の魔力が回復しきってないせい……?まさか攻撃直後の隙をついてくるなんて!

理性どころか本能すらない目の前の巨人は、当然そんなことを考えてはいないだろう。きっと傷が癒えた瞬間に攻撃に移っただけで、この展開は単なる偶然。だとすれば結局のところ、あの巨人の蘇生能力を見誤った私の失態ということになる。

 

「■■■■■■■ッ!!」

 

巨人の、すべてを破壊し尽くす腕が目の前に迫る。回避はもう間に合わない。物理保護だけじゃ防ぎきれない。障壁も無意味。

もう……駄目なの?ごめんなさい、お兄ちゃん……

 

「美遊ッ!!」

 

 

 

 

 

side-I

『ここまでくれば一先ず安心ですかね』

 

凛さんとルヴィアさんを抱えてビルの奥の方へとやってきた私は、ルビーの言葉を聞いて二人を床に下ろし壁に寄りかからせる。

 

『お二人ともバイタル値は安定。とりあえず、命に別状はありません』

 

その言葉を聞いて安堵の息をつく。

よかった。あの巨人に襲われた時はどうなるかと思ったけど、とりあえずなんともなくて。

 

『気休め程度ですけど結界も張っておきました。これで、瓦礫が落ちてきた程度なら大丈夫です』

「よし、それじゃあ美遊を助けに行こう!」

 

凛さん達を一瞥して、私は今来た道を戻るために飛翔した。

 

『とりあえず、美遊さんを回収して今回は撤退しましょう。流石にあんな出鱈目な怪物に無策で戦うのは危険ですから』

 

確かに、魔力弾も効かない。例え攻撃が通って倒せたとしても、すぐ復活しちゃう。私も正直、このまま戦ってもどう倒せばいいのか思いつかない。

 

『あまり悠長なことを言っていられませんが、クロさんが回復するのを待って手を借りるしかないですかね?』

 

……え?クロの手を、借りる?

 

『我々だけではどうしても戦力差が―――おや?どうしましたか?イリヤさん』

「え?あ、ううん。なんでもない」

『はて?』

 

クロを頼る……クロをまた戦場に……

私が思考に耽っていると、突然ビルの中にとてつもない衝撃音が鳴り響いた。

 

「ッ?!何今の?!」

『イリヤさん!美遊さんの居る方からですよ!』

 

それを聞いた私は全速力でさっきの場所まで飛ぶ。そして、到着した私が目にしたのは、今まさに巨人に潰されそうになっている美遊の姿だった。

 

「美遊ッ!!」

 

私は速度を落とさず、美遊が居る方へと飛んでいく。そして、そのまま美遊の身体に抱き着き、転がるようにその場から離脱する。その刹那の後、美遊がさっきまでいた場所に巨人の剛腕が振り下ろされた。止まったところで巨人の方へ振り返ると、腕を叩き付けられた床はクレーターの様に大きく抉れていた。

 

「ってて。み、美遊!大丈夫?」

「う、うん……なんとか……」

『助かりました、イリヤ様……』

 

私に抱きかかえられた美遊はもう大丈夫、といって私から離れる。けど、体の至る所に打撲痕や傷がついてて、どう見ても酷く消耗してる。

 

『まずいですね。(やっこ)さん、完全にお二人を目で捉えてます。こりゃ、このまま逃がしてくれそうにありませんねぇ』

『あの敵に有効と思われるクラスカードはもう使い切りました!なんとかして、この場を乗り切らなければ……』

 

逃げる。乗り切る。駄目、それじゃあ……

私は意を決してルビーを構え、まだ動けない美遊の前に立つ。

 

『イリヤ様?』

「美遊はここに居て。私が行く」

「イリヤ、いったい何を!」

 

美遊の声も聞かず、私は巨人に向かって走りだした。

 

「シュート!」

 

巨人の顔面に魔力弾を放つものの、やっぱり掻き消えてしまう。これじゃいけない。もっと、魔力の密度を上げて……そう、黒い剣士と打ち合った凛さんの刃の様に!

私はステッキの先端に出現させた、高圧縮された刃で切りかかる。

 

「はぁッ!」

「■■■ッ!」

「ッ?!ぐッ!」

 

でも、巨人は振り下ろされていた腕を横に払い、いとも容易く私を退けた。いくら高密度の刃でも刃渡り数十センチじゃ当てられない。だからといって長さを伸ばしたら、刃の魔力密度が下がって宝具の壁を越えられない。それならいっそのこと―――

 

「飛んで、けぇーッ!」

 

刃を魔力弾の要領で放つ。額に直撃した巨人は小さな唸り声を上げ、頭を仰け反らせた。

 

「効いた?!」

『いえ!弾いただけです!ダメージは入っていません!』

 

このままじゃ駄目だ。もっと何か、あの守りを突破する何かが。

……そういえば、あの黒い剣士ってどうやって倒したんだっけ。確かクロが双剣で打ち合って、一度離れて矢を……矢?いや、違う。あの時は何が何だかわからなかったけど、あれは確かに―――

 

「―――高密度の魔力刃に、回転を付与」

 

何故そう思ったのかわからない。そもそも、私はクロの持つクラスカードの力を何も知らない。だけど分かる。あれは矢なんかじゃなく、剣だった。それも本来の姿からも捻じ曲げられた、謂わば!

 

「螺旋弾、シュートッ!」

 

螺旋状に捻じ曲げられた超高密度の刃が一直線に飛んでいく。回転によって推進力を得た魔力弾は、さっきとは比にならないほどの速力で巨人に迫る。でも、その常人では反応できないほどの速度を持ってしても巨人の前に意味はなく、両手をクロスさせて防がれた。だけど……

 

『ッ!腕に血が!』

 

私の弾が直撃した巨人の左腕から血が一筋流れ、滴り落ちる。

通った!これなら、私の攻撃でもダメージを与えられる!

 

「■■■■■ッ!」

 

そう思ったのも束の間、巨人は私の攻撃なんか意も介さずに私に襲い掛かるために地面を蹴り、跳び上がった。攻撃が効いたことで緊張の糸が緩んでいだ私は、転がるように巨人の着地地点から離れる。その直後、ビルの床を大きく揺らすように、さっきまで私がいた場所へ巨人の腕が叩き付けられた。

 

『イリヤさん!いくら攻撃が効いたからって、あの程度じゃ意味がありません!』

 

確かにルビーの言うとおり、いくら宝具の壁を越えたって倒せなかったら意味がない。でも、今撤退したらきっと今度はクロも呼ばれる。そしたら、この前みたいに。駄目!そんなことは、絶対―――

その一瞬の思考が、私の動きを鈍らせた。

 

「■■■ッ!」

 

巨人が僅か一歩で肉薄し、その剛腕で私の身体を薙ぎ払った。

 

「がぁッ!」

 

背中に強い衝撃が走る。刹那のうちに刈り取られそうになる意識は、皮肉にも攻撃をもろに食らった脇腹の痛みですぐさま現実に戻される。私は自由の利かない全身を無視して、視線だけでも前に向けた。

私を壁に叩き付けた巨人は既に身体を反転させ、止めを指すべく鬼気迫る勢いで地面を蹴りあげた。

 

「イリヤッ!」

 

極限状態で思考が引き延ばされていく。今まで目にも止まらないスピードだったはずの巨人が、スローモーションのように遅く感じる。美遊も動けるようになったのか私の方へ走り出したけど、これじゃあ間に合わない、なんてまるで他人事のように結論を下す。

絶体絶命を目の前にして思考がクリアになる。やっぱり無理だったのかな。クロを連れてこられたら、もっとうまく立ち回ってたのだろうか。でもそれは、あの槍兵との結末を再現することになるかもしれない。そんなの嫌だ!これ以上クロが傷つくなんて!だけど、そんな意地を張って、自分一人で戦って、私は今こうして死にそうになってる。

巨人が目の前に迫る。ああ、もう終わるんだ。結局、私はクロを守ることなんてできなかった。ごめんね。不甲斐ないお姉ちゃんで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めるのは勝手だけど、その前に右に避けなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え?」

 

疑問よりも先に身体が動く。叩き付けられた衝撃でさっきまで動けなかった私の肢体は、驚くほどスムーズに、私を右へと動かす。

そして、すれ違うように何かが通りすぎた。私の背後にあった壁を壊して突入してきたそれは、さっき放った魔力弾とは比較にすらならないほどの暴風を纏って、切先にいる巨人を貫いた。

 

「■■……■……」

 

胸に大穴を空けた巨人は喉から擦れた声を上げながらその場に倒れる。

 

一瞬の静寂

直後、ビルの中に足音が響き渡る。私のでも美遊のでもないそれは、徐々に私たちの下へと近づき、やがて破壊された壁の向こうから姿を現した。

それは見間違うはずもなかった。両腕と腰を覆う赤い外套と胸部を覆う黒いプロテクター。後ろで纏められたピンクの混じった白髪。そして偶然か否か、以前黒の剣士に追いつめられたときと同じように現れた―――

 

「クロ……?」

 

私の妹だった。

 

「……クロなの?」

 

私の妹のはずだった。

わからない。何故そう感じたのかわからない。見た目はどこにも変化はなく、剣士や槍兵と戦ったときと同じ格好。なのに、何か言いようのない疑問が頭から離れない。

 

"あれは本当にクロなのか"

 

その言葉がループする。前後不覚に陥る。目を開いたまま、目の前が見えなくなる。思考の渦に囚われる。理由もわからず、只々不安だけが私の心を侵食していく。あれは何、アレはナニ、アレハなに、有れハ何、あれは―――

 

「ていっ」

「痛っ!」

 

突然頭に走った衝撃で我に返る。目の前を見ると、いつの間にかクロが居た。どうやら、今のはクロのデコピンだったみたい。

 

「まったく、何ぼーっとしてるのよ」

 

クロは呆れたような目でこっちを見る。やめて!そんな目で見ないで!

 

「イリヤ!大丈夫?!」

 

美遊もクロに遅れてやってきた。よかった。美遊も怪我は大丈夫みたい。大丈夫だと返すと、美遊も安堵の息をついた、

 

「それで……クロエ、どうしてここに?」

「どうしてって、目が覚めたらイリヤの姿がなかったし、カード回収に行ったのかなーって思って手伝いに来たのよ。それに、どうやらグッドタイミングだったみたいだし」

『正直助かりました。我々だけでは撤退すら難しく』

 

美遊とサファイアがクロと話している。その様子からは、さっきまで感じていた奇妙な違和感は消え、いつも通りのクロだった。さっきのはなんだったんだろう。

 

「■■■……」

 

すると、全身を赤く充血させた巨人が呻き声を上げながら立ち上がった。そうだ!あいつは倒しても復活しちゃうんだ!

 

「ッ!まだ蘇生するなんて!」

 

美遊はサファイアを構えて臨戦態勢に入る。それを見た私も慌てて立ち上がり、いつでも戦えるように準備する。

 

「蘇生……ねぇ、美遊。あれ、何回(・・)殺したの?」

「え?こ、これで4回目。だけど、何故そんなことを」

「そっか」

 

すると、何を思ったのかクロが私たちの数歩前に出た。

 

「クロエ!何をやって―――」

「じゃあ、あと7回(・・)殺せば十分かしらね」

「ッ?!」

 

クロエは左腕を上に構えると、その手にまだ見えない架空の何かを握りしめる。

 

「―――投影開始(トレース オン)

 

現れたのはクロの等身を上回る大剣。いや、剣と言えるのかも怪しい、ただ岩を荒削りしただけのような斧剣。その柄をクロは左手一本で掴み、頭上に構えた。

 

「■■■■■ッ!」

 

それを見た巨人が、その狂気に満ちた目をクロに向けた。あれは、完全にクロに狙いを定めている。まだ充血の引かない巨人は、断末魔を上げながら走り出す。

 

「―――投影。装填(トリガー・オフ)

 

私は動けずにいた。目の前に迫る巨人もそうだけど、この前に立ちふさがるクロから放たれる言いようのない圧力に、私たちは戦いの横やりを入れることすら憚られた。

目の前に迫る巨腕。激流と渦巻く気勢。それがクロを捉えようとした、その時―――

 

「「獣縛の六枷(グレイプニル)!」」

 

巨人の後方から現れた無数の縄が身体を締め上げる。それが、巨人がクロに到達するのを僅かに遅らせた。

 

「―――全行程投影完了(セット)―――是、射殺す百頭(ナインライブスブレイドワークス)

 

クロの持つ斧剣から放たれた九つの連撃が、その巨体を吹き飛ばした。そしてさっきの縄によって再び拘束されると、今度は巨人の周りを水晶のような結界が覆った。この魔術ってもしかして!

 

「凛さん!ルヴィアさん!」

 

天井に空いた大穴を見上げると、そこにはビルの屋上に立っている2人の姿があった。

 

「なるほど。やはり、瞬間契約(テンカウント)レベルの魔術なら通用するようですわね」

「てゆうか、クロ!一人で勝手に突っ走るんじゃなぁーい!」

 

二人は屋上から降りて、こっちへ向かってくる。よかった。二人とも目を覚ましたんだ。

私たちは、全く反省した様子のないクロに説教している凛さんの下へ向かった。

 

「ルヴィアさん、凛さん。ご無事だったんですね」

「ええ。身体の方は大丈夫ですわ」

「クロに起こしてもらったんだけどね。こいつ、私たちが起きたら用が済んだとばかりに一人で先に行っちゃって。追いかけるのがどれだけ大変だったか!」

「あはは……」

 

まったく、と凛さんが呆れたように溜め息をつく。すると、巨人が凛さんたちの張った結界の中で怒声の咆哮をあげて暴れだす。

 

「……抜け出すのも時間の問題ですわね」

「でも、例えここで倒したとしてもまたすぐに蘇生してしまいます。その上、一度殺した攻撃は2度通用しません」

「本当に滅茶苦茶ね。さて、どうやって倒せばいいのやら」

 

凛さんが半ば愚痴のように呟くと、クロが巨人―――ではなく大きく破壊された壁の方へ歩き出した。

 

「そんなの簡単な話よ」

 

そして、クロが落ちていた1枚のカードを拾う。

 

「1度の攻撃で、複数回殺せばいいの」

 

拾ったカードは―――セイバーのクラスカード?

 

「複数回ってどうやるのよ」

「難しいことじゃないわ。2度死ねるほどの攻撃を放てば、あいつの魂が2個減る」

 

なるほど。ゲームでいうところの残機(ストック)性みたいなことかな。

 

「でも、どうやって?セイバーの宝具は私が使ったけど、1度しか殺せなかった」

「あのね、私が何のためにさっきの技を打ったと思ってるのよ」

 

そう言って、クロが巨人の方へ視線を促す。あれ?よく見たら、クロの攻撃の傷跡がそのまま再生していない?

 

「さっきの攻撃は、かつて無限に再生する怪物『ヒュドラ』を殺したとされる大英雄の奥義、その模倣。その技は、自然ならざる再生を阻害する効果を持ってる」

 

そうか!傷も癒えずに満身創痍の今なら、同じ攻撃でも通用するって訳だね!

 

『待ってください。セイバーのクラスカードは、先ほど美遊様が使用したばかりです』

「あっ、カードの使用制限!」

 

そうだった!確か、クラスカードは一度使うと2~3時間は再使用できないんだった。

 

「だったら、こうすればいいのよ」

 

クロはセイバーのクラスカードを床に置くと、その上に自分の手を置いた。

 

投影開始(トレースオン)

 

クロの呪文と共に、普段クロが剣を出す時とは違い、辺りに魔力の余波が巻き起こる。な、なんなのこれ?

そしてクロがカードから手を放し、そのまま開いた手を上へと持ち上げると、カードから一筋の黄金の光が現れる。それはやがてクロの手の下で形を作り、一振りの剣へと姿を変える。その剣は見覚えのあるものだった。1度目は、反転していたものの黒い剣士が使っていた。2度目は槍兵との戦いで美遊が使った。その剣の名は―――

 

「……エクス、カリバー」

 

あまりに尊い幻想。この剣よりも美しい剣、豪奢な剣は存在する。この剣の真価は、これが人々の思いによって編まれた幻想、星によって鍛え上げられた至高の一振りであること。

この黄金の剣は今までと違う。何が違うのか、どう違うのかわからない。確かに言えることは、これが真に迫る(・・・・)一振りであるということ。

 

「私にできるのは、ここまでね」

 

そう言うと、クロは聖剣を持った手を私の方へと突き出す。

 

「正直、今ので私の魔力は限界。それに、カレイドステッキを通して半永久的に魔力を供給できるイリヤたちの方が適任だから」

 

クロは額に脂汗をかきながら、決意のこもった眼差しでこっちを見た。私はクロから聖剣を受け取ると、全身の力が抜けたのかクロがバランスを崩した。

 

「っと、危ない危ない」

 

倒れそうになったクロを凛さんが受け止めてくれた。

 

「クロは私たちに任せて、頼んだわよイリヤ」

「は、はい!」

 

私は託された剣を持って、拘束を解こうと暴れている巨人に相対する。

聖剣を持つ手が震える。クロはもう限界だし、倒しきれなかったらもうあの巨人に対抗する手段がない。

失敗は許されない。そう思うと急に背筋が寒くなる。さっきまであれほどクロを守りたいっていっておいて、情けない。そんなネガティブな感情が頭の中でグルグル回っていると、ふと暖かいものが私の手に触れた。

 

「……美遊?」

 

もう一人の魔法少女である美遊が、私と一緒に聖剣の柄を握る。

 

「私がついてる。二人なら、きっとできる」

 

美遊のちょっと不器用ながらも優しい言葉が私の心に響き渡る。いつの間にか、手の震えは止まっていた。

 

「いくよ、美遊!」

「うん!」

 

縄の結界の限界が訪れ、遂に巨人が放たれる。それと同時に、私たちは一緒に聖剣を振り上げた。

 

 

 

「「約束された勝利の剣(エクスカリバー)ッッ!!」」

 

 

 

私たちの魔力が聖剣によって光に変換され、眩いほどに燦爛と輝く黄金が巨人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 




勝った!第1章完!
というわけで、次回は1章エピローグです。
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