side-C
「最近、イリヤの様子がおかしいの!」
イリヤが足早に帰っていくのを確認した私は、チャンバラごっこに夢中で掃除をせずに遊びほうけている3人と、黙々と作業を進める1人の友人に向かって言い放った。
ああ、えっと、私の名前はクロエ・フォン・アインツベルン。私そっくりの娘を持つママに拾われて以降そこでお世話になっている出生不明の養子で、イリヤとはかつて姉争奪戦や正妻戦争を経て固い絆で結ばれた義姉妹なのだ。まあ、そんな絆は些細なことですぐ決裂するんだけどね。主にお兄ちゃん関連で。
まあ、今はそんなことはどうでもいい。重要なのは、イリヤが変だって話!
「今すぐあなたも木端微塵にしてあげます。あのタッツンのようにね」
「」チーン(箒を脳天に食らい気絶)
「……あのタッツン?
「ッ!なんなんだこのパワーはッ?!」
「とっくにご存知のはずだろ?(アニメの実写化について)穏やかな心を持ちながら(実際の出来に対する)激しい怒りによって目覚めた
「雀花ちゃん、
「話を聞けぇぇぇ!」
どんだけフリーダムなのよ、あんた達は。相談する相手を間違えたかな……
「わかったわかったって。いきなり大きな声を出すなよ、クロ」
「ほら、タッツンも起きろー。ふんっ!」
「あべしっ!」
那奈亀の容赦のない介抱が龍子を襲う!
「はっ!ここは穂群原学園初等部、俺は
「いや、タッツンは女だからガイじゃないでしょ」
「それ以前に、なんで突然いらない個人情報しゃべりだしたんだよ……」
「おぉ。そこに居るのは、能天気そうな外見の割に頭の回転は速い
「なんなんだ、その説明口調」
「ね、ねぇ。そろそろクロちゃんの話を聞いてあげようよ」
「あー、
「ひどい!それに私だけ解説が無い!」
いまだに終わらないコントを白い目で見ていると、さすがに悪いと思ったのか、皆は掃除?を切り上げてこちらにやってきた。
ちなみに補足すると、美々というのは私たちのクラスメイトであり友人でもある
「それで?何がおかしいんだって?」
「だからイリヤよ。なんか最近私に隠れてこそこそしてるみたいなんだけど、何か知らない?」
そこまで言うと、那奈亀は口角を上げてニヤニヤし始め、雀花は目をつむってふぅ~と息をつきながら私の肩をポンと叩いた。
「クロ。お前には分からんかもしれないが、イリヤも思春期なんだ。それこそ、人には言えないような秘密のひとつやふたつもあるさ」
「そうそう。もし、部屋から変な声が聞こえても、ノックせずに入っちゃ駄目だよ」
「……ぁぅ」
「何だ?!エロい話か?!」
そう言いながらまた2人はニヤニヤし始める。今の話を聞いた美々は顔を真っ赤にし、逆に龍子は頭上に?マークを浮かべていた。
「いや、部屋の中とかじゃなくてね。最近夜中になると、自分の部屋を抜け出してるみたいなんだよね」
私が詳しく内容を話すと、ニヤニヤしていた雀花があからさまにがっかりしたのが目に見えてわかった。
「なんだつまらん。それってどうせ、夜通しアニメのDVDとか見てるってオチだろ?まさか【検閲済】を見る度胸なんてイリヤにあるとは思えんし」
「ていうか、クロちゃんがイリヤちゃんのあとをつけてみればいいんじゃないの?」
―――――――あっ
「その手があったか……」
「いや、その手って……一番最初に思い付くだろ、普通」
「いやー、睡眠時間を削るなんて発想、全くなかったもので」
あははと苦笑いをすると、呆れたような、哀れみも篭ったような目でこちらを見てきた。やめて!そんな目で見ないで!
「と、とにかく!今夜、イリヤのあとをつけてみるね」
「おーう。なんか面白いことがあったら教えてくれ」
「わかった。あんまり期待しないでね~」
そこまでいうと私は、鞄を持って駆け足で教室を出ていった。
というわけで深夜。私はベッドに入って寝たふりをしながら、イリヤが事を起こすのを待つ。なんだか突然、夜になった気がするけど気にしなーい。でも、イリヤが今夜も何かするとは限らないし、そうなると私無駄骨になるのよねぇ……
だけど、そんな想いが通じたのか、誰かが階段を下りる音が聞こえてきた。
キ、キター!い、いえ、焦っては駄目よクロエ。ここでしくじればすべてが水の泡!そんな深夜帯特有の妙なテンションになりつつも、足音を聞き逃すまいと神経を張り巡らせる。すると、玄関の扉が開いた音が聞こえた。こんな時間に外出?ますます怪しいわね……
そして私は、寝間着から念のため用意していた外出用の服に着替え、玄関に向かう。
「やっぱりイリヤの靴がない。間違いないみたいね」
私も靴を履き、イリヤの後を追うべく玄関を飛び出した。
side-I
『おや?』
「?どうしたのルビー?」
凛さんたちとの合流地点に向かう途中、待機状態になっているルビーが突然喋り出した。
『ふーむ、これは少々困りましたねぇ~』
「何かあったの?」
ルビーが羽根を器用に使って、やれやれだぜ、とポーズをとり始めた。……前々から思ってたけど、ルビーって行動の一つ一つがオーバーリアクションだよね。
『いえ、ですね。わたしたち今、後をつけられてるっぽいんですよ』
「つけられてるって、誰に?」
『イリヤさんのご家族の方です。これは……妹さんでしょうか?』
えッ!クロ?!どうしてばれたんだろう……
『まあ、言い訳は後で考えるとして、ここはさっさと撒いちゃいましょう』
「撒くって、どうやって?」
『それはもう、I can fly.です!さあ、行きますよぉ~!』
え、ちょ、まさかこんな街中で―――
『コンパクトフルオープン!境界回廊最大展開!』
ルビーの言葉に呼応して、私の身体が光に包まれる。って、本当にやるの?!
『時間がないので以下省略、カレイドライナープリズマ☆イリヤ、降臨!』
ルビーの強制変身によって、真夜中の路地で一瞬裸になるという醜態をさらしつつ、私は魔法少女の姿に変身させられた。
『いや~、やっぱり字面だけではイリヤさんの愛くるしい変身バンクは表現できませんからね~。それならば、皆々様のご妄想にお任せした方が賢明です。さあ皆さん!その頭の中でイリヤさんを思う存分辱めちゃってください~!』
「意味わかんないから!それよりも、いきなりなんてことするの!せめてどこかに隠れさせてよ!」
『今は追われている身なんですから、そんなわがまま通りませんよ。それよりほら、早くしないと妹さんが来ちゃいますよ?』
「ぐぬぬ、正論を……」
まだまだ文句を言い足りないのを抑えて、私は飛行魔法を使って街のはるか上空へと飛び上がった。
『ほらほらイリヤさん、気を引き締め直してください。なんて言ったって、今日は前回のリベンジマッチなんですからね』
「そ、そうだね、うん。……でも、そう思うなら、ルビーも少しくらい自重してよ」
多少項垂れつつも、ルビーに言われた通り気を引き締め、私達は皆の待っている場所へと向かった。
side-C
家を出ておよそ15分が経過した頃―――
「……ここ、何処?」
私は道に迷っていた。
「くそ~、やっぱりイリヤを見失ったのが痛かったかな……」
途中までは一定距離を保ちつつ、イリヤの後についていくことに成功したのに、気がついたら姿を消していた。多分、気付かれたんだと思うけど、結構距離があったのによくわかったなぁ。
その後、私のシックスセンスを頼りにあちらこちらへと縦横無尽に移動した結果がこれである。これぞまさに自業自得。
「どうするかなぁ。このまま歩いててもどうしようもないし、知ってる道に出たら家に帰るとしますか。イリヤのことは……もう、明日でいいや」
そうして私は、自分の土地勘を頼りに再び歩き出す。
この何気ない選択により、運命の針は間違いなく進み始めた。運命は複雑に絡み合い、そして、舞台は幕を開ける―――