白い魔法少女と黒い正義の味方   作:作者B

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VS暗殺者

side-M

「それで、押し切られちゃったってわけね?」

 

項垂れているイリヤと満面の笑みを浮かべているクロエを見て、凛さんはため息をついた。

 

「これは遊びじゃありませんのよ?わかっているのかしら?」

 

ルヴィアさんが諭すようにクロエに問いかける。

 

「わかってるわよ、それくらい。私だってイリヤが心配だからついてきたわけだし。それに、少なくともお荷物になることはないと思うけど?」

「それは……」

 

ルヴィアさんが言葉を濁す。ルヴィアさんと凛さんは既に昨晩のことは知っているみたいだけど、やっぱりにわかには信じがたいらしい。クロエの参戦にあまりいい感情は持っていないようだ。

 

「まあ、イリヤと美遊だけじゃなくサファイアも見てたんだから過大評価ってことはないんだろうけど……でも、軽い気持ちで参加するなら―――」

「その問いかけは愚問ってやつじゃない?」

「―――?!」

 

凛さんの台詞を遮るように、クロエの姿は昨晩と同じ赤い布と黒い装甲に包まれた姿に変化する。それと同時に、今までのクロエからは感じられなかった、黒騎士と対峙した時のような存在感が放たれた。

 

「……まあ、ここで問答をしていても埒があきませんし、連れて行くしかありませんわね」

「ッ?!ルヴィア!」

「ここで置いて行ったところで、勝手についてくるだけですわ。昨日も単独で鏡面界に侵入したようですし。それならば……」

「……目が届く範囲に居てもらった方がいいってわけね。わかったわよ」

 

凛さんは観念したように再びため息をつくと、鏡面界に向かうべく私とイリヤに指示を出す。

 

「それじゃあ、サファイア」

『了解しました』

『ほら、いつまで落ち込んでるんですか?シャキッとしてください、イリヤさん』

「う、うん、わかったよ……」

 

私とイリヤは向かい合うように立つ。

 

『『限定次元 反射炉形成!境界回廊 一部反転!』』

「「接界(ジャンプ)!」」

 

 

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 

 

鏡面界へと転移した私たちが最初に見たものは、先ほどまで居た場所となんら変わりない風景だった。木々は鬱蒼と生い茂り、夜という時間帯も合わさり独特な雰囲気を醸し出している。でも、(いびつ)な空を覆う網目のような模様が、この場所が現実のそれではないことを私たちに突き付ける。

 

「……おかしいわね。敵の姿が見えないわ」

 

転移してから辺りを見回していた凛さんがぽつりと言葉を零す。

 

「鏡面界がある以上、カードもここにあるはずなのですけれど……」

『それらしき影は見当たりません』

 

サファイアの言うとおり、この場は私たち以外の物音は何ひとつ聞こえていなかった。これは、確かにおかしい……

 

「こうなったら、地道に足で探すしかなさそうね」

「そうですわね」

『え~。私、そういう地味な作業は魔法少女っぽくなくて嫌いなんですけど』

「そこ、文句言わない」

 

凛さんの提案に(1人?1ステッキ?を除いて)皆が賛成し、私たちは歩みを進める。

 

「なーんだ。私、てっきり移動と同時に即バトルとかだと思ってたのに、なんか拍子抜けしちゃった」

 

クロエも愚痴を零しながら後に続いた。

 

『そうでもありませんよ。いつもはクロさんの言うとおり間髪入れずに戦闘というのがデフォルトでしたし、むしろ今回のケースは初めてですよ』

「……へぇ、そうなんだ」

 

ルビーの言葉を聞いて目を細めるクロエ。それと同時に、クロエは両手に白と黒の双剣を出現させた。

 

「それが、あなたの力?」

 

それを見ていた凛さんが、クロエに問い掛ける。

 

「まあ、そんなところね。他にも色々できるけど、まあそれは追々話すとし―――ッ?!」

「?」

 

突然、クロエは身体を林の方に向ける。それとほぼ同時に、イリヤもクロエと同じ方向へ振り向いていた。私やルヴィアさんたちはわからなかったが、何か見つけたのだろうか。

 

「どうしたの?イリヤ、クロ?」

 

その様子を不審がった凛さんが二人に尋ねる。

 

「あ、いや。今何かそこで動い≪ギィンッ≫たよ、う……な?」

 

イリヤの会話は突然の金属音によって遮られた。

 

「イリヤ!」

 

凜さんの焦燥した声を聞いて、皆が一斉に音のした方向へ視線を向ける。イリヤは尻餅をついて地面に腰を落とし、クロエは体制を崩している。そして宙には、クロエが持っていた白い剣が舞っていた。

 

「ちょっと!イリヤ、クロ、大丈夫?!」

 

急いで私たちは二人のもとへと駆け寄る。

 

「ぃててて、片手じゃ軌道を変えるだけで精いっぱいだったみたいね。イリヤ、大丈夫だった?」

「う、うん。私は平気……」

 

どうやら、クロエは何かからイリヤを庇ったらしい。クロエが痛そうに右腕をぶらぶらさせていると、宙を舞っていた剣が音を立てて地面に落下する。

 

「一体、何があったんですの?」

 

ルヴィアさんが、状況を理解しているであろう二人に問い掛ける。

 

「攻撃よ。短刀の投合による攻撃。あの威力からして、何かしらのスキルで強化された攻撃と見て間違いないわ」

「なんですって?!」

 

そんな……敵の気配はまったく感じなかったのに……

 

「―――ッ?!美遊!」

 

クロエは私の名前を叫ぶと同時に、私の腰のあたりにタックルするように捕まり、そのまま私を後方へ押し出した。すると、さっきまで私の場所には、見たこともない程長く赤い腕が振り下ろされていた。

 

「敵?!いつの間にこんな近くに!」

 

私とクロエが地面に接触すると、右腕だけが異様に長い髑髏の仮面をかぶった敵は、追撃することもせずそのまま後方にジャンプし、この場から離脱した。

 

「逃げた!」

「一体何のつも―――あれはッ?!」

 

逃げていく敵を目で追うと、その赤い右手にはカードが握られていた。

 

「あれは、セイバーのクラスカード?!」

 

私はとっさに自分の太ももに触れるが、そこにはあるはずのカードケースが無かった。もしかして、クロエがかばった時に敵の攻撃がかすって落ちた?!

再び敵に目を向ける。敵は一つ目の髑髏の面でこちらを見据えながら、カードを自らの胸に押し当てていた。よく見ると、カードが身体の中に沈んでいるように見える。

 

「逃がすもんですか!イリヤ、追撃よ!」

「は、はい!―――シュート!」

 

凜さんの指示で放ったイリヤはすぐに立ち上がり、逃走しようとしている敵に向かって魔力弾を放った。そのスピードは敵の速度を上回り、私はそれが敵に当たることを確信していた。しかし、いざ魔力弾が着弾しようかというとき、その攻撃は阻まれた。私たちにとって見覚えのある、黒い霧によって。

 

「嘘ッ?!」

「あれって……まさか!?」

 

その霧を私は、いや、この場の全員に見覚えがあった。あれは紛れもなく、昨晩私たち全員が苦戦を強いられたセイバーの対魔力の霧だった。

 

『……■■■■■』

 

私たちが唖然としていると、敵は林の中の闇夜に溶けるように消え、再び姿を眩ました。

 

「くっ、逃がした!皆、構えて!また不意打ちがくるわよ!」

 

凛さんの言葉を聞き、私たちはすぐさま臨戦態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

静寂―――

さっきまでの攻防が嘘のように、辺り一帯は不気味なくらい静まり返っていた。それこそ、私たちの呼吸の音が聞こえるくらいに。

あれからどれくらい経ったのか。1時間か、10分か、それともまだ1分なのか。時間の感覚がおかしくなるくらい、私たちは張り詰めた緊張感の中に身を置いていた。

 

「…………ふぅ」

 

刹那。少し気が緩んだのか、誰がしたかもわからない、普段なら聞き逃すであろう小さな息が聞こえるとほぼ同時に、ヒュンッと風を切る音が聞こえた。

 

「「「「ッ?!」」」」

 

その音に反応した全員が、反射的に風切り音のした方向へ目を向ける。すると目に映ったのは、投合された短剣を避けたせいなのか体制を崩しているクロエと、その背後に迫る敵の姿だった。

 

「クロ!」

 

イリヤが叫ぶ。私も急いで駆け付けるべく足を動かす。

 

『……妄想心音(ザバーニーヤ)

 

しかし、それをあざ笑うように、敵はその不自然なまでに長い右腕を振り下ろした。

 

 

 

 

 

「…………■……■■……?」

 

だが、その腕はこの場の全員の予想にも反して、クロエに触れることも叶わずに寸のところで止められた。

 

「ふう。少し隙を見せたら、面白いくらいに引っかかってくれたわね」

 

クロエが敵の方へと振り返る。よく見ると、敵の腹部は1本の剣によって貫かれていた。

 

「自己改造でセイバーのカードを取り込んでパワーアップしたつもりなんでしょうけど、そのせいで存在感が増して気配遮断が鈍化してちゃ世話ないわね」

 

クロエは深々と刺さっている剣の持ち手を握る。

 

「それに、竜の因子を取り込んだせいで、対竜属性を持つ攻撃の前には無力となる……って、あんたに言ってもわからないか」

 

腕に力を入れたクロエは、一気に剣を抜く。

 

『■■■■■■ッ!!』

 

敵の苦痛の声に意も返さず、クロエは剣を振り上げた。

 

竜殺し(インテルフェクトゥム・ドラーコーネース)

 

真名開放と共に剣は振り下ろされ、敵は唸り声を挙げながら消滅した。

 

 

 

 

 




一応補足しておきますと、冒頭で凛とルヴィアがクロの参加に否定的だったのは純粋にクロを心配しての発言であり、別に嫌味とか見下してるとかそういうわけじゃありませんのであしからず。
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