作者が息抜きに書いたものです
注意;この作品は作者の自己解釈が含まれます。苦手な方はお気を付けください。
覚えていて、僕の事を
「あれからもう十年か。」
彼と別れていて早十年。
君と会えたその日から忘れることは一度もなかった。
「何処にいるんだろうね君は。」
初めて会った場所で呟く。
心地よい風が頬を撫でる。
丁度あの時も同じ様な季節だった。
初めて会ったのは私がまだ小学生だった頃。
私は世界に絶望していた。
当時は私のお父さんが怪我で入院していて他の家族は皆必死になっていた。
だけど私は幼く無力だった。
だからなのだろうか、私は一人で我慢する事を決めた。
皆に迷惑をかけない為に。
殻に閉じ籠る事を選んだ。
「大丈夫か?」
いつもの公園で座っているといきなり彼に声を掛けられる。
初対面なのに妙に馴れ馴れしかった。
最初はほっといて欲しいと思っていたがそんな事もお構いなしに話しかけられる。
「ま、何があったかは分からないけどあまり我慢するなよ。何のために口があるんだ?」
「それに泣いた顔すんなって、笑顔の方が似合うぞ。」
「……じゃ、またいつか。」
そう言うと彼は何処かへ行ってしまった。
それが出来ないからこうしてるのに。
でも……少しだけ話してみようかな。
「おう、久しぶり。」
次に会ったのは友達と喧嘩した時。
あの時と変わっていて最低限の事しか話していなかったけど。
また同じ様に誤魔化そうとしたが何故か話してしまった。
自分が今友達に言えない秘密がある事、それが原因で喧嘩してしまった事。
「そっか、友達と喧嘩したのか。」
何気ないように口に出す。
「俺は喧嘩した事ないから仲直りの方法は分からないけど。」
彼でも分からない事があるのか。
あの日の悩みを解決したから何でも知っていると思っていた。
「けどその友達も君が悩んでるから一緒に解決したいと思っているんじゃない?友達ってそういうものだと思うぞ。」
「またな。」
自分だけ言ってまたどっか行ってしまった。
あの日のお礼がまだだったのに。
「お、最近よく会うな。」
また会ってしまった。
彼とは悩みがある時に限って遭遇する。
普段町にいても会わないのに……
「で、今日はどうした?」
彼も同じ様に思っていたのかそう言った。
私は今までとは違い流れるように口から出ていた。
「ふーん、今度は友達になりたい人がいてどうすればいいのか悩んでいるのか。」
「……俺友達いないからな。」
困ったように呟いた。
「そういう時はちゃんと話し合った方がいいと思うぞ。その形がどうであれ君が今できる一番の方法で。」
「想いはちゃんと伝わるからさ。」
「じゃあまたな。」
立ち去る彼を止める。
今までのお礼を言わなくちゃ。
感謝の言葉を言うと彼は、
「っ……そうか、どういたしまして。」
悲しいような苦しいような表情をしていた。
最後に遭ったのはこの世界を去る前日。
この町を散策していると向こうから彼の姿が見えた。
彼はぎょっとした顔で私を見たがすぐに取り繕うと、
「久しぶり。」
いつも通りの顔で話しかけた。
私もそれに倣うかの様に挨拶を返した。
そういえば今日は特に悩みとかもなかった。
そのことを伝えると彼は少し笑って、
「そっか、それはなにより。」
話が途切れる。
何とか話そうと話題を考えていると。
「なら大丈夫だな、俺はこの辺で。」
「さようなら。」
いきなり何処かへ行く彼。
ちらりと見えたその顔は前会った時と同じ顔をしていた。
そして最後の言葉。
何故かあの言葉が脳裏に響いていた。
そして今。
久しぶりに地球に帰ってきた。
といっても仕事の一環だから一概には休暇とは言えないけど。
「私は今も悩みを抱えているよ。……君はどうすればいいと思う?」
誰もいない公園で言葉を漏らす。
今までならこのタイミングで彼がひょっこり顔を出すのに。
前に家族から聞いたのだが彼は私が地球から出ていった次の日に引っ越してしまったそうだ。
少ししか話してないのに挨拶に来たのが彼らしいというか。
「でも……最後くらい名前を聞きたかったな。」
母親が持っていたのは私宛への手紙のみ。
それには彼の名前が書いておらず結局知らないまま何処かへ消えてしまった。
あの時は良く分からなかったがこの感情は今なら知っている。
彼に会いたい。
「私はここに居るよ。」
その言葉が夕闇に溶けていく。
俺は転生者だ。
トラックに轢かれたとかそんなテンプレみたいな死に方はしていないが、兎に角神様とやらに転生しろと言われた。
行先は魔法少女リリカルなのはの世界。
最初は興奮したよ。
本物のなのはやフェイトと会えるなんて夢みたいだった。
俺は意気揚々としていた。
それが悪夢の始まりとも知らずに。
見つけた。
幼い時のなのはだ。
思った通り高町士郎が怪我で入院していた。
物語ではあまり触れてはいないがなのはの根底ともいえるものが形成された場面でもある。
俺はつい好奇心が出たのか話しかけてしまった。
彼女の顔が元に戻ったのを見てすぐさま去ったが。
それでもこれでフラグは立ったな。
今後もなのはを支えていけば俺に惚れるのも時間の問題だ。
嘘だ。
次の日、翠屋に行くとそこにいたのは。
家族と仲良くしていたなのは達だった。
なぜだ?何故だ?ナゼダ?
おかしい、本来なら入院から帰ってくるまでこの状態にはならないはずなのに。
俺はすぐさま逃げ出した。
そうか。
俺というイレギュラーがいるからおかしいのか。
俺という存在が世界を壊す。
もし俺のせいで物語が改変されたら?
最初は些細な事かも知れない。
だが、マザーグースにこんな唄がある。
『釘がなかったので 蹄鉄が打てない』
『蹄鉄が打てなかったので 馬が走れない』
『馬が走れないので 騎士が乗れない』
『騎士が走れないので 戦争が出来ない』
『戦争が出来ないから 国が滅びた』
『全てはダレのせい?』
俺は戦慄した。
その日から俺は海聖に行くのを辞め普通の公立の小学校に通うのを決めた。
この世界の両親は残念がっていたがそんな事は知らない。
俺は……関わってはいけないんだ。
この世界に関わることを決めて数年、俺は小学三年生になっていた。
この時期から物語が始まる。
そんな事俺には関係ないけど。
何故?
また彼女に会ってしまった。
逃げ出す気持ちを抑え最低限口数を減らした。
ここはちゃんと言うべきなのか、否か。
本当なら俺は関わってはいけない。
それでも……
次に会ったのは数日後だった。
彼女は今まで通り俺に相談してきた。
話の内容からしてフェイトの事なんだろう。
また同じ様に言うだけ言って逃げようとすると彼女止められてしまった。
恐る恐る話を聞くと感謝の意を述べてきた。
君のおかげで家族や友達に本当の事を言えた。
ありがとうって。
俺は今度こそ関わるのを辞めようと決心した。
覚悟を決めて数年。
中学生になった俺は町を歩いていた。
俺はあの日から関わる事を辞めた。
ジュエルシード事件も闇の書事件の事も、彼女が大怪我する事さえ。
俺は黙って見ていた。
町を散策していたのはこの町を出て幾ことを決めたから。
いくらなんでも数年過ごしてくれば愛着も沸く。
惜しみないように歩いていると、
「こんにちは。」
出会ってしまった。
数年ぶりに会った彼女は雰囲気を残しつつも立派な女性へとなっていた。
逃げ出したい。
体中から声が上がる。
でも、俺は。
「久しぶり。」
彼女と話をしたかった。
一緒に遊びたかった。
彼女の支えになりたかった。
彼女に……恋をしたかった。
だけど世界がそれを許さない。
「いつもなら悩みがあるんだけど……今日はないんだ。」
彼女は自分自身の翼で飛んでいくのを決めたんだ。
なら俺はもう必要ない。
「そっか、それはなにより。」
彼女に別れを告げる。
これで彼女と関わるのはもうなくなった。
元の日常に戻る。
いいことなんだ。
でも、願わくば……
「俺の事を覚えていて。」
これは唯の我儘だ。
それでも……
これくらいは許してくれ。
――あとがき
この短編は執筆中にTK from 凛として時雨さんの『unravel』を聴いていたのがきっかけで閃きました。
歌詞の世界観通り異質の存在である主人公。
それに苦悩しながらも彼女を助けたかった。
そんな感情を出しました。
この短編はヒロイン×曲が題材になっていますが、ヒロインはなのは、フェイト、はやての三人に固定しています。
こんな曲はどう?とアドバイスをくれる方。
是非待っています。