戌柱と神崎は親友であることを頭に置いてお読みください。

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ハジメマシテェ.......猫ゾンビ駄作型です。
やたら設定もりもりですが、気にしないでください。

初投稿です。急にオリキャラが出ますが設定などは追々出していく予定です。

誤字脱字、加筆修正も追々していきます。


イオリの昔話

とある日、とある時間、とある喫茶店。

黄ばんだような白髪の女性が1人、アイスコーヒーを舐めるように飲んでいた。それ以外に人はいない。

「………なぁ、もうすぐ閉めるんやけど」

「ん?ああ、もうそんな時間か」

和風な給仕服に身を包む女性が話しかける。ぱっと見ただの幼さんの残る可愛らしい女性だが、頭の犬耳とスカートから見え隠れする尻尾が彼女がただの人間ではないことを教えてくれる。

それもそのはず、彼女はケルベロス。地獄の番犬として冥府で生きていた存在だ。名を「戌柱 こと」

一方、アイスコーヒーを一気に飲み干す彼女にも異常な点が多々ある。青白く生気を感じさせない肌、頬や手に残る無数の傷跡、何より黒白が逆転した瞳は虚ろに光り、まるで彼女が死んでいるかの様な印象を与える。

彼女はゾンビ、生者にも死者にもなりきなかった存在だ。名を「神崎 イオリ」

「いや別にええよ、今日暇やし」

「………できれば、飲み干す前に言って欲しかったわ」

戌柱は神崎の正面に座りコロコロと鈴を転がすように笑う、ジト目で返すも無駄だとわかっている神崎はカラカラと氷を回しながら口を開く。

「どうかした?」

「…………教えてほしいことがあるんや」

「私が、戌柱に?」

神崎は予想外だとわかりやすい表情をする。それに対して戌柱は真剣な面持ちだ。

「今日という今日は誤魔化されへんで」

絶対に逃がさない、そんな意志を感じさせる。

神崎はやれやれと言うようにわざとらしくジャスチャーして

「何度も言うけど話す意味がねぇよ」

「意味とかじゃない、そんな顔して隠してることが我慢ならんだけや」

「……どんな顔してる?」

「虚しそな、心ここに在らずみたいな顔しよるで」

「なんだそれ」

薄く笑って誤魔化そうとするが上手く笑えない。神崎は自分でもわかる程、引きつった笑みを浮かべた。

戌柱は表情を崩さず、ジッと神崎を見る。

永遠にも感じられる沈黙の後、神崎が大きなため息を吐き、降参したようなジャスチャーを取りながら重い口を開いた。

「わかった、話すよ。けど、他言無用だからな」

「もちろんや、ありがとう」

「礼なんかいいさ」

イオリはグラスを見やる。カラリと氷が溶けて音をたてる。

 

 

「………ああ、気が重い」

神崎はいつもの口癖を呟いて話し始めた。

 

 

アレは………何年前かは変わらないけど、今より確実にずっと前、記録とか漁って調べてみたけどだいたい150年くらい前だったな。

私は裕福でもないけど、決して貧しいわけでもない平凡な農家の2人目の娘として産まれた。母さんはマナーだのにうるさい厳しかったけど叱る時は叱って褒める時は褒める人で、親父は誰にでも甘くて怒るのが苦手な優しすぎる人だった、姉貴は嫌なヤツだったけど、最終的には優しいヤツだった。

毎年、種を蒔いて、芽が出たら大切に育てて、収穫して、売りに出して、そのお金でやりくりする生活だった。贅沢はできないけど、その時の私はその生活が好きだった。何気ない日常が幸せでいっぱいだった。

けど、あの日を境に全てが変わった。

 

 

神崎は一呼吸置いて、戌柱を見つめた。

戌柱はその瞳に見つめられた瞬間、形容しがたい悪寒と恐怖を感じたが、それを振り払うように見つめ返した。

それを見てふっと軽く笑んで、神崎は続ける。

 

 

始まりはラジオから流れた、とあるニュースだった。内容は海の向こう側にある国から宣戦布告を受けたとのことだった。

すぐに徴兵が始まって親父が連れていかれた。私は母さんと親父の帰りを信じて待った。親父がいなくなって農家としての負担も増えたけど別に苦ではなかった。

けど、親父は望まぬ姿で帰ってきた。

母さんは兵士から木箱とゴタゴタした緑っぽい色をした服、傷まみれのヘルメットとかを受け取って泣き崩れた。

それからさ、母さんが変になったのは。

何をするにしても上手く出来なくなって、呼んでも反応が遅れるし、いつもなら叱ってくれるのに声を荒らげることも無くなった。

私はなんとか母さんを支えようと畑仕事のほとんどを請け負った。朝から晩まで、働き詰めだった。それでも苦しいとは思わなかった。

親父が死んでからも戦争は終わる気配すら見せなかった。むしろ激しくなる一方さ、どっちの国も限界ギリギリだろうに意地張って戦争してた。

そしてまた、戦争は私に牙を剥いた。

私が暮らしていた村が戦場になったんだ。

大切に育てた作物も、家も小屋も森もみんな燃えていた。

すぐに私は母さんと逃げようとした。

けど母さんは拒んだ。無意味だと叫んだ。親父を失った母さんは既に限界だったんだろう。そっから更に家と仕事を奪われたんだ、トドメとしては十分過ぎた。

私の訴えに母さんはただをこねる餓鬼みたいに首を振って涙を流した。そしてこう言った。

 

私はもう生きてられない!私が何をしたって言うの!?あの人はいない!帰る家も!日常もなくなった!

 

一呼吸。

 

けど、イオリ…貴方はまだ、生きていたいの?

 

私は困惑した、確かに親父を失ったのは死んでしまいそうなくらい辛かった。けど、その分生きようと思った。母さんはそうは思わなかったんだろう、家族の間でも思考の違いはあるもんだ。

母さんは続けた。

 

私が死んでいも生きていたいと思うなら、生きなさい。

私はもうダメだけど、貴方を巻き込もうなんて思わないし、思えない。

 

よく覚えてないけど、私は頷いたんだと思う。

私は母さんに背中を押されて走った。

悲鳴が聞こえたし、銃声もそこら中で響いてた。なんて言ってるかわかんない人が、私に銃を向けてたけど構わず走った。

どれくらいか走ると村の出口、それを抜けると森、後ろには銃を持ったヤツらが追いかけて来てた。銃声と私の頬に何かが掠めた。

後ろから叫び声が聞こえた。前からは、止まるな!と怒声に似た声。

声の元まで必死で走った。死にものぐるいってヤツさ、そしたら親父と同じ服とヘルメットのオッサンがいた。私は助かった。

 

 

神崎は氷が溶けきってぬるい水だけが入ったグラスを傾けて、中身を煽った。

戌柱は黙ってそれを見ていた。

一息ついて神崎はまた口を開く。

 

 

それから私は兵士になった。

それ以外に選択肢なんてなかったし、あったとしても兵士になってた。

オッサンには死ぬほどしごかれたし、周りは男ばかりで肩身が狭い思いも結構した。何度か寝込みを襲われたしね。

程なくしてオッサンは死んだ。

不思議と何も感じなかったのは、既に感覚が麻痺し始めたんだろう。

それから私は本格的に戦場に駆り出された。

初めて人を殺した感覚は今でも覚えてる。2人目も3人目も、全員、忘れていない。

いきなり最前線に放り込まれた時は捨て駒として扱われてたんだろうけど、そこから帰ってきたらめちゃくちゃ驚かれたし、対応もガラリと変わった。

その後も私は死地を乗り越え続けて昇格して、ある部隊の隊長も請け負った。部隊は幸運と実力に恵まれて、誰も掛けることはなかった。私が死ぬまでは。

 

一呼吸……。

 

あの日も唐突に訪れた。

一発の弾丸が私の胸を貫いた。

致命傷、助からない傷。自分でも理解できた。

隊員のスゴい焦ってた、私は全滅だけは避けようと、指示をした。

私を置いて後方を警戒しながら撤退。

声が出ていたかわからなかったけど、伝わったから出ていたんだろうな。隊員は立派なヤツらだった感情に振り回されず、全員が涙ながらに頷いてた。

私は隊員を見送って、目を閉じた。

身体から感覚と熱が失われていくのが、ハッキリわかった。どうしようもなく安堵した自分がいたのもわかった。

程なくして私は死んだ。

 

………死んだはず、だった。

 

 

私はまっくらな場所にいた。

すぐにここは地獄なんだなと思った。けど違った。

歩き出そうとしたら、足が鉛のように重くて前に出ない。それどころか、全身が重くて膝をついた。聞き覚えのある声が聞こえた。

私は…何故か瞬時に理解できたよ。

その声たちが私が殺したヤツらの声だって。

私を離すまいと、前に進ませまいと、希望を持たせまいと、私にまとわりついて呪っているんだと。

怖くはなかった。当然だと思った。

私はあの戦場で誰よりも殺したと言える自信がある。躊躇いなく。躊躇せず。助けも悲鳴も聞かず。父や母、オッサンを殺した恨みも込めず、空虚に、当たり前のことのように。

それが許さるわけがない。

現に許さないと、耳元で囁いている。

 

 

私はそれを受け入れた。

そしたら足から真っ黒な空間に沈んでいった。

目を閉じて、それも受け入れた。

 

 

「で、気がついたら埋められてて。ゾンビになってましたとさ」

ちゃんちゃん、とおちゃらけた様子で話を締めくくる神崎。

対して戌柱は大量の汗を流し、震えていた。

「ああ、もしかして見えちゃってる?流石は地獄の番犬だな」

戌柱の目には神崎、とそれにまとわりつく黒く煙のような流動的で無数の顔のようなモノがついた、形容しがたいナニカが映っていた。

それは時より何なら呟いている。

 

『許さない』

『苦しめ』

『同じ痛みを味わえ』

『死ね』

『家族を返せ』

『足りない…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前の幸福を"俺私僕たち"は許さない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戌柱は思わず、口を抑え、テーブルに嘔吐する。

神崎は「あー、あー」と困り顔をする。

戌柱が落ち着いたのを確認して、神崎は。

「だから聞かない方がいいって言ったじゃん」

「ハァ…ハァ………ごめん」

「謝る必要はないさ、どうせこうなると思ってたし」

戌柱は神崎が背負い続けているモノを少しでも肩代わりできると思っていた。だが、彼女が背負っているものはそんな半端なものではない。他の何者だろうと、ケルベロスだろうが関係ない、背負えば一瞬で押しつぶされる代物。

戌柱は怯えを隠せず震えたまま、問うた。

「それは…」

「そう今でもコイツらは私の足を引っ張り続けてる」

言い切る前に神崎が答えた。続けて言い残して、彼女は帰っていった。

 

 

 

「ホント…気が重い」




神崎 イオリって誰だよ!戌柱 ことって誰だよ!ってなったそこのアナタ!
後々、書いていくんで気長にお待ちいただけると嬉しいです。


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