双子姉妹と転移の魔法界   作:凪薊

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トレローニ先生の予言時の口調が全くわからん!!

お気に入りやしおりありがとうございます!


私たちのこれから

あれから暫く、ペナイン山脈の上空にて私たち湖畔の静かな場所を探して飛んでいた。

浮遊(フロウ)を使い風魔法を使用した高速移動は、当たり前だが電車よりも早かった。何より直線的に移動できる上に自分たちの目で場所を選定しながら移動できる。……やはりロンドンの時点でソウルリンクの事をルミナスに聞いておくべきだったと今更ながらに後悔した。

「できれば谷間で湖があるといいんだけど……」

「その場所ならさっきあったよ?」

え?全く気が付かなかった。

私はルナリアに案内されその場所に降り立った。見渡してみるとなるほど、確かに。なだらかな谷間には渓流が湖に流れ込み美しい湖畔を形成していた。

ただ、湖畔を離れると固い層があるせいなのか土壌はそんなに良くないようだ。最も、私たちには農作スキルは無い為その点は全く問題なかった。

冒険者である以上、農作スキルは習得している時間がない――といえば、「まあ、確かにな」となるかもしれないが、実際の所は私たちにはアイテムボックスがある。要は買い貯めできるのだ。それにいざとなれば転移で一度町に戻り補給することもできる。そのせいでますます農業スキル必要性が皆無だった。

 

さて、理想の場所を見つけた私たちは、もう一度浮遊(フロウ)を使い飛び上がると辺りを確認することにした。周りの民家の有無、生き物の存在、立地の確認……他にもいろいろ確認することはあったが、とりあえず拠点の確保を優先する為に最低限の確認をすることにした。とは言え、民家の確認はしなくてもよかったのかもしれない。どちらにせよ、認識阻害を拠点周辺にかけるのだから。

加えてルナリアの事である。過剰なまでの防御、妨害その他致命傷にならない程度のトラップをばら撒くことだろう。今までがそうだったのだから。

 

「姉さま、このあたりに建物何もない。生き物の気配はするけど人間じゃないみたい」

「ありがと、ルナ。それならこの辺りを拠点にしてこの世界の事を調べていきましょうか。ロンドンでローブを着た人が言ってた『例のあの人』とか『ハリーポッター』ってのも気になるしね」

「それに『マグル』って言葉もあった。あの人も人間みたいだけど、もしかして姿形は一緒でも種族が違うかも?ルナたちの世界の魔族みたいな」

 

魔族とは、私たちのような人間と姿は一緒でも先天的に魔法技術に長けている一族の事だ。

私たち人間と違い(ルナリアというイレギュラーを除けばだが)膨大な魔力を持ち魔科学と呼ばれる技術が発達してる種族だ。

 

「それも含めて調べましょう。幸い私たちにはルミナスもいることだし」

「期待されても困りますけどね? 流石の私もこの世界の知識は初めて触れるものばかりですから」

私の言葉に反応したのか、いつの間にか顕現していたルミナスは謙虚にそう答える。同時に、知識を司るルミナスにも知らないことがあるのかと私は思った。

「リナリア様、私にだって知らないことはあるのですよ?確かに知識を司る精霊ではありますがこのように知らない世界に来て早々では流石にどうしようもないです」

どうやら表情に出ていたらしい。私は苦笑いしながらルミナスに謝る。

 

「でもルミナス」

「何でしょうか?ルナリア様」

「結局、この世界の全知を得るのも時間の問題でしょ?」

「あと1日くらいですね。魔力と知識を司る精霊たる私です。この世界には精霊も存在しますし精霊信仰もあることは来てすぐにわかりました。ともなれば、彼らに知識の蒐集の協力を頼みましたからそんなに時間はかかりませんよ。何やら興味深いことも知ることができましたし」

 

ルナリアの疑問に当り前のように答えるルミナス。精霊ネットワークと称すべきか……流石精霊の長である。

精霊長たるルミナスだけど、世界違っても影響あるようだ。精霊は私たちより高次元存在であるため世界をまたいでもあまり関係ないかもしれない。

 

「でもこの世界にいる精霊たちに分かるものなの?人間――マグルってのが人間かはともかく――と精霊って全く違う種族だよね?」

私の疑問にルミナスは穏やかな笑みを浮かべながら答える。

「ふふ、ご安心ください。精霊というものは常にどこかしらにいるものです。故に、人間の営み、技術、発展、衰退、歴史、表と裏の世界、そのすべてを彼らは見てきました。そしてこれからも見ていきます。もっと言えば精霊というのは基本的に個ではなく集合体です。よって、精霊が存在してからこれまでの、そしてこれからの知識は全て蓄積されていくのですよ。というわけですので、はっきり言ってしまえば精霊から聞いた方が手っ取り早いのです」

 

なるほど、よく分からないけどすごいことは分かった。

 

「ルナ達が書物やギルドカードに結果や記録を残すように、精霊たちは知識を共有して消滅するまで永遠に保持するってことだよ、姉さま」

「……わかったような気はする」

ごめんよルナ、お姉ちゃんにはちょっと難しすぎる……。

 

「じゃ、ルミナス。そのあたりは任せた」

「お任せください、ルナリア様。何より私が知らないことが増えるのが一番楽しいですからむしろ任せてください」

そう言い残し、ルミナスは姿を消した。早速この世界の精霊たちと知識の共有・交換をするようだ。

 

「それじゃ私たちは拠点を作ってしまいましょうか」

「姉さま、テントお願い。私は周りに認識阻害とトラップ撒いてくる」

「あー……ほどほどにね?」

「何かがあってからじゃ遅いから徹底的にすべき。それにルナたちはどうせ転移魔法で移動するから関係ない」

「……それもそうね。それじゃ思いっきりやっちゃいなさい」

「まかせて」

 

ルナリアはそう言い残し飛び去った。早速作業を始めるようだ。ここに侵入してくる人たちの生存を願うばかりである。

 

「さてと……」

私はアイテムボックスからテントを取り出す……取り出すといって良いのだろうか。最早その場に召喚というべきかもしれない。設置状態をイメージしながらテントを呼び出すとポンッという音共と共にテントが出現する。相変わらず便利なものだ。手で引っ張り出し、組み立てそして固定……これらの作業をしなくていいのだから。ちなみにしまう時はテントに手を当て収納をイメージすればいい。

 

見た目2人用の小さいテントではあるが、中に入ると広い空間が広がっていた。

入ってすぐには広々としたリビングがあり、そこから4つの扉と階段が続いており、それぞれキッチン、浴室等の水回り、貯蔵庫、ルナリアの工房、そして階段を上がると部屋が3部屋(うち1室は私とルナリアの部屋だ)につながっていた。アイテムボックスがあるのに貯蔵庫がいるのかという疑問は尤もだが、幾らなんでも入るとは言え、拠点として使う以上頻繁に使うものや食料は一度貯蔵庫に出してしまった方が楽なのだ。

 

テントの設置を終え、リビングで愛用の魔導剣を弄っているとルナリアが帰ってきた。

「ただいま。設置終わった。たぶん誰も入ってこられない」

「おかえり。……一応聞くけど、何を仕掛けたの?」

「まず家の周囲1kmに認識阻害を掛けた。これで一般の人はまず入ってこれない」

「うんうん、それぐらいなら普通だね」

「でもそれだけじゃ心もとないから、私たち以外の魔力を感知したら自動で発動する魔力吸収と減衰のトラップを仕掛けた。認識阻害掻い潜れる人って私たちの世界だと魔族くらいだったでしょ?だったらこっちでも同じようにしておけばいいかなって。ちなみに効果はいつもの十倍。発動したら最後、魔法は使えない」

「うん……うん?そこまでする必要はないと思うけど」

「ついでに暇つぶしにつくった魔導炸薬にありったけの魔力を注ぎ込んで埋めておいた。多分発動したら死ぬ。それでも来るなら面倒だけど警報音が鳴るようにした。とてもめんどくさいけど直接空間的に切り離そうかなって」

「……ちょっと過剰じゃない?」

「姉さまを守るためにはこのくらい当然」

「そ、そっか」

 

明らかに過剰と言える防御魔法にトラップを仕掛けたルナリアが褒めて?とばかりに私にくっついてくる。

私の為を思ってやってくれたんだもんね。私はありがとうの気持ちを込めて頭を撫でてやった。ルナリアはくすぐったそうにしながらも私にされるがままに身を任せてた。

 

 

翌日。

私たちは部屋でルミナスの帰りを待っていた。

昨日はトラップを仕掛け終わってから二人でこの世界の事について話し合っていた。

マグル、例のあの人、ハリーポッター……この3つはまず最優先でルミナスに確認することとなった。この世界の人が言ってたことだ、何か重要な意味があるのだろう。

次に確認すべきはこの世界のこと。転移魔法のトラブルでこの世界に来た以上、魔術やそれに類する技術があれば帰還の一口となるだろう。とは言え、この世界に来てここに来るまで魔法的なものといえば、電気と呼ばれる未知のエネルギーぐらいでこのほかにもあるのかは分からない。

最後に私たちのこれから。下手をすればこの世界に何十年いることになってしまうかもしれない。そうなれば、仮に元の世界に戻ったとしても私たちは依頼中の死亡という形で処理された後だろう。そうなってしまっては戻る意味もなくなってしまう。……そうなったときはいっそこの世界で暮らそうか?元の世界に戻る手段がわかったのなら、こちらに戻ることもできるだろうし。

 

「ただいま戻りました」

「ルミナス、丁度いいところに来た」

「おかえりなさい、ルミナス。早速で悪いのだけど説明してもらおうかしら。この世界の事とか色々」

「お二人ともお待ちください。結構長くなりそうなのでお話はリビングで行いましょう」

ルミナスはそう言い残し姿を消した。私たちもそれに倣って下に降りると既にルミナスは机の横で待っていた。

話が長くなるのならと私は一度キッチンへ行き飲み物を持ってこようとするがルナリアに止められる。

何なのだろう?とルナリアを見ると彼女はアイテムボックスから一つの金の盃を取り出した。

「姉さま、せっかくこれがあるのだから準備しなくてもいい。コップもあるし」

「すっかり忘れてたけど、そんな便利アイテムありましたね……」

ルナリアが取り出した金の盃――想起の盃も古代遺物(アーティファクト)の1つだ。組成識っている液体、一度飲んだことのある液体、作り方を解っている液体であれば魔力と引き換えに何でも生み出すことができる便利アイテムだ。古代遺物(アーティファクト)は精霊たちが関わっている物が殆どではあるが、これを作った精霊、もしくは人はどんだけ自堕落だったのだろうか。この古代遺物(アーティファクト)……恐らく飲み物を手に入れるために作ったと思う。尤も、私たちもその恩恵に肖っているのだからあまりも大きな声では言えないのだけど。

 

ルナリアは盃からとぽとぽとコップに淡い緑色の液体を注いだ。

あぁ、緑茶ですね。東方の地域の国産でしたっけ。ほのかな渋みと緑茶特有の甘さがあり非常においしい飲み物だ。

 

「さて……何から話したものでしょうか……。お二方、先んじて聞きたいことはございますか?」

私たちが席に座ると徐にルミナスは口を開いた。

「とりあえず、マグル、例のあの人、ハリーポッターこの三つについて教えて。それ以外にも聞きたいことあるけど、この世界の人が言ってたことをまず知りたい」

「承知いたしました、ルナリア様。前もって言っておきますと、その三つは全て共通点がございます。それは何れも魔法使いに係わること事だということです。先ず『マグル』という単語ですが、これはこの世界の魔法使いが魔法使いでない人間を指す言葉の様です。対してマグルと呼ばれる方々は魔法使いに対しての名称は持っていないようですね。どうやら、魔法使い……魔法族と言いましょうか。魔法族はマグルに対して存在を隠しているようですね」

「つまりこの世界には魔法族とマグル族がいるってことなの?」

「その通りでございます。話を続けますね。次に『例のあの人』と『ハリーポッター』と呼ばれる人についてですが……どうやら、例のあの人とはヴォルデモートと呼ばれる魔法族における犯罪者のようですね。そのヴォルデモートが殺害しようと襲ったのがハリーポッターと呼ばれる人らしいです。ですが、僅か1歳のハリーポッターに返り討ちに遭いヴォルデモートは失踪したようですね。ですから、『生き残った男の万歳!』というように崇められてるようですよ」

 

要約すると、この世界には魔法族とマグル族がいるということ。ヴォルデモートと呼ばれる魔法族の犯罪者が同じく魔法族のハリーポッターを殺そうとしたところ失敗、そして失踪したと。つまりこういう事の様だ。

 

「つまりこの世界には魔法があるってこと?」

「その通りでございます」

「転移魔法やその類は?」

「姿現しと姿くらまし、そして煙突飛行ネットワークと呼ばれるものがあるようですが……どれもルナリア様の転移魔法と比べてしまうと程度が低いものですね。ですが、習得難度は転移魔法よりかは優しいようです」

「なるほど。ほかには?」

「申し訳ありません……転移魔法に関するものは先ほど述べたものしかないようです」

「そっか」

 

転移魔法の類は当てにならないと分かるとルナリアはぶつぶつとつぶやきながら思考の海に潜っていった。こうなってはしばらくは戻ってこないだろう。

 

「ルミナス、他にも聞きたいことあるんだけどいいかな?」

「構いませんよリナリア様」

「えっとね。この転移魔法はさっき言ってたのしかないって言ってたけど私たちの世界で言うところの儀式魔法的なものは無いの?」

儀式魔法。大がかりな術式を発動させるために魔法陣を直接描き発動させる魔法の一種だ。規模や効果はずば抜けて高いものの利便性は極端に劣るため、主に王城の守護として用いられている。

 

「そうですね……私たちの世界のような儀式魔法はないみたいですが、一応破れぬ誓いといった仲介人を立てて行う契約魔法があるようですよ?約束を破ったら破った人が死ぬとのことです。ほかにもいくつかあるようですが、転移やその類のものはないみたいですね」

 

儀式魔法もないと来た。これではいよいよもって帰る術がないのでは?

 

「そもそも、この世界の魔法族は自力では空も飛べない様です。その点を考慮すると、そもそも転移魔法自体が習得は容易とは言え珍しいものなのかもしれませんね」

 

「つまり私たちで帰還の方法を探さないとダメってこと」

「あ、おかえり。ルナ」

いつの間にか思考の海から戻ってきていたルナリアがぽつりと声を漏らす。

「そういう事になりますね……。一先ずこの世界の知識をお教えます。マグル族の知識には魔法に関することはほとんど含まれてませんでしたのでとりあえず省きましょう。魔法族に関する知識及び、彼らが使っている魔法を一通り。あと薬剤もありましたからそれも教えておきますね」

 

それからというもの、ルミナスの知識の教授が始まった。

魔法族について、彼らが使う魔法・薬・契約……それ以外にも地域に学校と様々である。

私はというと魔法族の歴史や有名家系を聞いたところで既にお腹いっぱいであった。元より私は魔法は補助程度にしか使わない。そんな私が純粋な魔法に薬の事を聞いたところでさっぱりなのは考えるまでもない。

対してルナリアは歴史や家名なんかどうでもいいから魔法と薬そして契約について早く教えてとルミナスを急かしていた。魔導技術者としてか、はたまた未知に対する強い探求心からか、貪欲知識を吸収していた。

 

そんな二人はというと……

 

「ホグワーツでは魔法は平均的に、ボーバトンは女性が多い、ダームストラングは闇の魔術…攻撃魔法?をメインに教えると」

「はい。安全性の面ではホグワーツが一番だと一般的に言われていますね。とはいえ、どの学校も自分の学校が一番安全だと言いたいのは当然なので本当なのかどうかは知りませんが」

「なるほど。賢者の石ってのはなに?ルナが前に作った魔力伝導がものすごく高い魔導石とは違うの?」

「賢者の石というのは、命の霊薬と呼ばれる魔法薬を作るための媒体のようですね。飲み続けると不老不死になれるみたいです」

「不老不死になったところで周りに先立たれて不幸しかなさそう。でも不老不死ね……エリクサーも寿命伸びたよね確か」

「伸びますね。しかも想起の盃で量産可能ですね」

「だよね。しかも作るのもそんなに難しくないし。……賢者の石、いらない子説?」

「……少なくとも私たちにとっては要りませんね」

「まぁいいや。次の質問。許されざる呪いってのは?」

「服従、拷問、そして即死の3つの呪文の事です。すべて言葉通りの意味ですね。使ったらアズカバンと呼ばれる魔法界の刑務所に投獄され終身刑となるようです」

「服従は分かるけど、拷問と即死?普通に魔法でやっちゃえばよくない?ほら、重力魔法で徐々に加圧するとか、炎魔法で火あぶりにするとか。即死にしたってそれこそ重力魔法でぺしゃんこにするとか、空間魔法で空間ごと隔離するとかいろいろあるよ?」

「まぁ……理屈はわかりますけど、即死魔法は対抗魔法がないみたいですよ?拷問魔法もあれこれしなくても一つの魔法で強烈な苦痛を与えられることを考えると……言い方は悪いですが、便利なものであるかと」

「なるほど?んじゃ次。吸魂鬼(ディメンター)ってなに?」

「魔法界における魔法生物の一種ですね。非存在にして破壊不能の生物と言われています。人間の幸福感情を餌に生きており、名前の通り魂を食らうこともあるようですね。一応防衛手段として、守護霊魔法があるようです。最も幸福な思い出を思いながら呪文を唱えると使える魔法だとか」

「破壊不能ってのはあくまでこの世界でのこと?」

「その通りです。私たちの世界の手法なら可能かもしれませんね。尤も出会いたくはないですけど」

「確かに。もしも出てきたら姉さまの剣に守護霊魔法を付与魔法(エンチャント)して切ってもらおう」

「あの剣、付与魔法(エンチャント)の増幅効果ありますしね。可能かもしれません」

「ま、遭いたくはないけど。それじゃ次だけど――」

 

……と、このような様子で終わりが全く見えなかった。私はこれからのことを考えながら二人の会話が終わるのを待つことにした。

 

 

 

 

数時間後。

「取り合えずはこれで基本的なことはお教えできたと思います。ルナリア様、魔法薬と呪文については後程纏めたものをお渡しいたします。リナリア様、長い間申し訳ありませんでした。また何か聞きたいことありましたらいつでも聞いてくださいませ」

「ん、分かった。ありがと」

「やっと終わったのね……えぇ、分かったわ。ルミナスもお疲れ様」

 

ルミナスは私たちに向かって一礼すると姿を消した。

窓から外を見ると辺りはすっかりしんと闇に包まれていた。

「それじゃこれからのことなんだけど、姉さま」

「うん?」

ルナリアは真剣な顔で私の顔を見ながら告げる

「結局のところ、私たちで探すしか手段はない。一先ず、この世界の魔法技術を習得してからでも遅くはないはず」

「なるほど」

「それに元の世界はここまでのんびりと事を構えることは少なかった。姉さまと一緒に何かをできるのは私にとって至上の幸せ。むしろこのまま帰れなくてもいいまである」

「うん、うん?」

「さしあたっては姉さまと一緒にお風呂に入る所存」

「え?いいけど……これからのことは?」

――何やら雲行きが怪しくなってきましたよ?

「さっきも言った通り。だからお風呂入ろう?」

「……ルナもしかして……面倒になった?」

「うん。面倒になった。時間ならいくらでもあるし」

 

ルナリアは確かに優秀である。優秀ではあるものの、優先順位がおかしいのだ。普段であれば、知識や技術に対する欲が圧倒的に強い為そのようなことはないが、時間的に余裕があるときはすぐに作業を投げる節がある。そして投げた後はこれだ。

 

ルナリアは私にべったりなところがある。

曰く「姉さまがいない日常なんてありえない。王国が姉さまを敵視した?だったらルナはそれをすべて破壊する。どんな手段を用いたって破壊する」

『姉さま至上主義』とはよく言ったものだ。もちろん、気持ちは嬉しい。嬉しいのだけど……時々愛が重すぎると感じることもあるのも事実。

とは言え、私もルナリアの事は大好きだし大切にしたいと思うのも事実、お互い様かもしれない。二人の力が合わされば最強ってね?

 

 

あれから二人でお風呂に入ることとなった。二人で入ってもゆったりと浸かれる広さの湯船。

そうですね……時間はたくさんあるのだから。

今はこのひと時を楽しむことにしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ある場所にて

「どうじゃ?何か見えるかの?」

すっと立ち上がる女性を老人は静かに見つめる。

「……太陽と月!少女を妨げてはならない!決して敵対してはならない……! 敵対は死を意味する……そうなれば最後……闇の帝王は再び力をつけるのだ……!」

そう言い残し、女性は気を失うように倒れた。

 

「どういう事じゃ……?一体何が……」

老人は気を失った女性を一瞥しつつ静かに思い巡らすのだった。

 




これにてプロローグ編終了となります!

正直キャラ紹介程度に軽く書くはずだったのですが、変に設定を考えてしまったせいで余計な時間を食った感が否めない。

さて、ここでこの魔法界における基礎知識は全てリナリア及びルナリアに渡ったことになります。大体ルミナスのせいです。


次回から本編スタートとなります。ですがまだ書いてません、次回投稿はしばし待たれよ!


今回のTips

【想起の盃】
古代遺物(アーティファクト)その2
知っている液体であれば何でも生み出せる盃。ハリポタ世界において禁忌アイテム。調合のクッソ怠いポリジュース薬も、幸運薬も真実薬も量産できます。ただし魔力は消費します。魔法薬学なんてなかった。
なお、当人たちはもっぱらエリクサーを飲むために使ってる模様。
リナリア「これのむと日頃の疲れが取れるんですよねぇ~」
ルナリア「同意、明日に残らないから最高」

【エリクサー】
万能回復薬。ゲームによくあるアレです。状態異常、体力、魔力その他けがとかなんかもろもろ全部ひっくるめて回復します。あと副作用で寿命がちょっと延びます。病気で瀕死でも完全回復して寿命が延びます。命の水なんて可愛いものですよ。
エリクサー病?(´・ω・`)知らんな

付与魔法(エンチャント)
対象に属性や魔法を付与することができる。物理攻撃をする際に何かと便利。

【テント】
イメージは炎のゴブレットのあのテントです。あれ便利ですよね、リアルに欲しい……。

【ある場所】
一体どこなんでしょうね? 時間的には最初の予言はすでに語られたあとです。

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