修練と経過
あれからというもの、私たちはひたすらにここの魔法界における知識と技術の習得に明け暮れていた。ルミナスによると、この世界では17歳以下の人が魔法を使うと魔法省に検知されるらしい。元の世界の魔法は使っても問題はなさそうではあるものの、この世界の魔法は何か対策が必要になるようだ。
とはいえ、魔力吸収ならともかく魔力隠蔽の方は今まで必要なかったためどのようにすればいいのか私たちには分からなかった。
「ルミナス、何か方法ある?」
困ったらとりあえずルミナスに聞く。知識を司る精霊たる彼女に聞けば大体の事が解決するのだから。
「そうですね……もういっそ空間断絶してしまえば早くないですか?」
――空間断絶。
空間魔法の一種であるそれは、指定範囲の空間の接続を切り離しあらゆる干渉を受け付けなくする絶対防御魔法だ。ただ、同時にその空間内から空間外に干渉することも不可能となるが、体制の立て直しや拠点を隠すためにはもってこいの魔法である。ただ、高位魔法であるため使える人は限られているのが私たちの世界の常識だ。
「とりあえず張ってみる。
瞬間、今まで鳴っていた風の音、草木の擦れる音、その全てが無くなる。断絶された空間の中では周りの干渉は一切受けない。その結果だった。
「ん、とりあえず拠点の周辺を囲ってみた」
さも当たり前のように、これでいい? とばかりに私とルミナスを見返すルナリア。果たしてこの子に使えない魔法はあるのだろうか……ないかもしれない。だってルミナスいるし。
「それでは私は外に出ますので何かこちらの世界の魔法を使ってみてください。こちらの世界の魔力が漏れていればわかりますので」
「いつも思うんだけど、なんでルミナスはこの断絶の効果受けないんだろうね」
尤もな疑問。外界と断絶されている以上、魔法を解除しない限りは外へ出ることはできないはずだ。
「それは私達精霊は空間はもとより上位次元の存在だからです。そうでなければ今頃世界も異なるのにお二人の元へなんて来れていませんよ。 一先ず外に出て待機していますね。頃合いを見て魔法を使ってみてください」
そう言い残し、ルミナスは姿を消した。
「ルミナスの魔力を感じないから本当に外に出たみたい。 とりあえず、何か適当にいくつか使ってみる。 姉さまも」
ルナリアは、私に魔導石を加工した棒状のものを差し出してくる。 確かこの世界の魔法族の人々はこの『杖』と呼ばれるものを使って魔法を行使するとルミナスに聞いた覚えがある。
光に当てると七色にキラキラと輝く魔導石製の杖を恐る恐る受け取り、手に持った瞬間、ソウルリンクでつながっているルナリアの魔力が一気に私の体に満ちていく。――この魔力の満ち方には身に覚えがある。以前、ルナリアが魔力伝導の極めて高い魔導石――賢者の石を作った際、それに触れたときに感じた魔力の満ち方と全く同じだった。
「ねぇルナ。これって……」
「賢者の石の削り出し。 私たちの世界の魔法なら別にいらないけど、この世界の魔法を使うのにどれだけ魔力減衰が発生するかわからない。 だから一応念のため。」
「やっぱり……」
流石にここまで高伝導なものを杖にしなくてもよいのではとも思うが、現状魔導具を作れるのはルナリアしかいないためこれを使うほかない。
「それじゃ、早速使ってみるわね。――
私が呪文を唱えたと同時に杖先から強烈な光が迸る。ルミナスに聞いた限りでは辺りを照らす程度の明るさと聞いていたのだけど……これはそのレベルではない。閃光といっても差し支えないだろう。何より目が痛い。対人戦で使えるんじゃないだろうか。
「流石姉さま。この明るさなら目つぶしとしても有用」
「この魔法ってそんな用途じゃなかったよね!?」
「ところで、この世界の魔法は呪文の後に『マキシマ』をつけるとより強化されるって聞いたけど」
しかしだ。通常でさえここまで強烈な光がさらに増強されるとなると、ここで行使するのは少々憚られる。
「ものは試し。
「ちょ、ルナ――!?」
試すのは流石にやめようとルナリアに告げようとした矢先、ルナリアは呪文の詠唱を行う。
次の瞬間には辺りが白に染まっていた。
「……うぅ、目が痛い……まだチカチカする……」
「魔力消費ほとんどないわりにここまでの効果……この世界の魔法すごい」
あれから10分は経っただろうか。
未だに視覚が麻痺してる私をよそに、ルナリアはこの世界の魔法の扱い奴さに素直に感動しているようだった。
実際、(ルミナスリングの効果があるとはいえ)少ない魔力でこれだけの効果を簡単に生み出せるのだから、奇襲には向いているのかもしれない。実用性はないけど。
「とりあえず分かったことは……この世界の魔法は威力が高くなりすぎるってことかしらね。魔力制御もうまくできないし」
「うん。光源魔法は私たちの世界のものを使えばいいから、このルーモスは攻撃魔法ってことが分かった」
それは違うと思う。少なくともこの世界の人にとっては。
そのあとにもいくつかの魔法を試した。
炎上呪文であるインセンディオを使えば爆炎が起こった。
反対呪文である水増し魔法を使えば、辺りは水で覆われ。
裂傷呪文を使えば何故か複数個所が裂けた。
総じて私たちは結論付けた。
「この世界の魔法は扱いにくい」
と。
「お二人とも、魔力漏れは全くないようで――これはこれは、また凄まじい惨状ですね‥‥」
「ルミナス、この世界の魔法使いにくい。もうやだ」
「何とか制御しないといけないわね、これ」
戻ってきたルミナスは悲惨な惨状を目にしながらも魔力漏れは全くなかったことを私たちに報告してくる。
確かにひどい惨状だった。
家の周りの木は燃やされ切り裂かれ水浸しに。その周りも同様にボロボロだ。
何も知らない人が見たら戦争でもあったのかと錯覚してしまうほどだ。
現状はさておき。
ともかく、これで心おきなく魔法の練習ができる環境は整った。
こちらの魔法の魔力制御を安定してこなすには時間はかかるかもしれない。しかし、やらなければならない。このせいで何かトラブルが起きてからでは遅いのだから。
そして冒頭へ戻る。
時は流れ1年後。
私たちはある程度の制御ができるようになっていた。それでもまだ実用には程遠いものではあるものの、少なくとも最初期に比べれば幾分かましになっていた。 何よりひどい惨状にならないのが大きい。
ルナリアに至っては実験的にこちらの世界の魔法を利用した魔導具を作っていた。初めて使ったルーモス・マキシマ。その閃光の威力を何かに利用できないかと思った故だ。まだ実験段階ではあるが、うまくいけば私たちの防衛手段の糧になるかもしれない。
さらに1年が経った。
完璧とは言えないものの、制御ができるようになった。
ルーモスは通常の周りを明るく照らす程度に。
インセンディオは物を燃やすのに丁度良い火力に。
アグアメンティは鉄砲水になることはなくなり。
ディフェンドは狙った箇所が引き裂けるようになった。
とりあえずは必要十分な制御はできていると言えるだろう。
問題はルナリアだ。
魔導具の作成の進捗はあまり順調ではないらしい。魔力の封じ込めと起動条件の固定が上手くできないらしいが、私にはさっぱりだ。
こればかりはルナリアに任せるしかない。
また1年が経った。
制御はもう問題ないといって良いだろう。
浮遊呪文、粉砕呪文、呼び寄せ呪文……その他数多の呪文も問題なく使えるようになった。
依然として汎用性は元の世界の魔法の方が便利ではあるものの、単一の呪文でここまでの効果が出る魔法は私たちの世界にはなかったため、魔力量の調整次第で規模も容易に変えられるこの世界の魔法は非常に使い勝手がよかった。
ルナリアはというと、無事魔力の封じ込めに成功し、起動条件を満たしたときに発動するルーモス・マキシマの呪印を刻んだ魔導具の開発に成功していた。
なお、実験と称して部屋に投げ込んだ後、目の前が真っ白に染まり暫く何もできなかったことを私は言っておきたい。
その後、付与魔法への応用も無事成功し、燃える水だとか、光るゴーレムだとかよく分からないものがたくさん出来上がったのだがこれはまた別のお話。
そんな生活を続けていくうちに、この世界に来てから10年の月日が経っていた。
予定ではもう少し早く書き上げるつもりだったのですが、気が付いたら結構日が経っていた件について。
賢者編……の序章にになります。二人のこの10年間何やってたんだろー?ってお話です。
ちなみに閃光魔導具と化したあの道具は今後もちょくちょく出てきます。目つぶしって奇襲における重要な要素だと私は思うの。
今回のTips
・
絶対防御魔法……と銘打ってますが、そりゃ空間的に隔離されたらそうなります。
自分の回りや自分の正面、さらには相手の周辺など結構自在に断絶できるため、隠しものや防御、あるいは攻撃魔法として使える汎用性があります、応用性はないけど。
・ルーモス・マキシマの呪印を刻んだ魔導具
閃光弾です。ルミナスリングによってブーストされたそれを刻み込んだ魔導具です。
起動方法は接触式、時限式、魔力感応式の3つ。
とりあえず敵陣に投げ込みましょう?
・付与魔法への応用
他の二次創作でもある二重詠唱やデュアルスペルみたいなもんです。
アグアメンティ+インセンディオで燃える水に仕上がりました。……エタノール?
・賢者の石を削りだした杖
凄まじく魔力伝導の良い材料を杖に仕上げてみました。 正式な持ち主のニワトコの杖と同じかそれ以上のスペック。ただし耐久性に難あり。