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天気の良いある日。
私たちは相も変わらず帰還方法を調査していた。とはいえ、この10年間に目立った進捗はない。煙突飛行ネットワークや姿現し/くらましを調べてみても、空間転移の原理はあったものの、それは私たちにとっては既に既知のものであったし、そもそも世界を跨ぐなんて概念なんて存在しなかった。
「…だーめだね。なんっにもわっかんない!!」
「この世界って死から逃れる方法とか延命の方法とかはある癖に、なんでほかの世界の移動方法は研究しない訳?概念くらいは研究しててよ」
「こちらも駄目ですね……過去に一度たりとも世界の移動は研究された痕跡はないようです。ですが、魔法省の神秘部というところでは死のゲートと言われるものがあるみたいです。とはいえ、入ったら最後。もう戻ってこれないそうですが」
3人(精霊を人としてカウントしていいのかはさておき)であーでもないこーでもないと悩んでいると不意にルナリアが席を立った。
「どうしたのルナ?」
私の問いかけに答えずじっと外を見つめているけどいったいどうしたのだろうか。
「鳥。なんか持ってこっち来てる」
ルナリアが指さす方向に目をやると、一羽の鳥がこちらに向かって飛んできていた。
「梟……ですかね。そういえば認識阻害は人間には確かに効果ありますが、それ以外にはあまり効果ありませんでしたね……」
そうこう言っているうちに飛んできた梟は私たちの目の前に降り立ち足に括りつけられたものをすっと差しだしてきた。
私は梟の足からそれを取り外し、2人の前で広げる。梟は目的を達成したとばかりに悠々と空に飛び立っていった。
「あら、これホグワーツ魔法魔術学校からみたいよ?」
手紙を広げて真っ先に目に飛び込んだホグワーツ魔法魔術学校という文字。10年間、魔法省からも全く察知されなかったこの場所にどうやって手紙を届けたのかという疑問はともかく。内容を読み進める。
ホグワーツ魔法魔術学校
校長 アルバス・ダンブルドア
マーリン将軍、勲一等、大魔法使い…etc
親愛なるリナリア・フォンターナ並びにルナリア・フォンターナ殿
この度、ホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されたましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。
新学期は9月1日に始まります。7月31日必着で梟便にてのお返事をお待ちしております。
敬具
副校長 ミネルバ・マクゴナガル
「…ねぇ、姉さま。一つ疑問がある」
「そうですね、私もあります」
読み終えたと同時に神妙な顔つきをしたルナリアとルミナスが声を上げる。
疑問については私も大体察しがついていた。
さて。
ホグワーツ魔法魔術学校は魔法界における全寮制の学校だ。その入学資格は9月1日の時点で11歳である魔女や魔法使いだ。
そして、私たちは姉妹だ。長女の私、次女のルナリア。
そして問題なのは年齢。この世界に来た当初は私は15歳、ルナリアは13差だ。
……超過しているのである。入学条件なんてとっくに。
ましてや、この世界に来てから10年も経っている。いくら愛飲しているエリクサーのせい体は元気そのもの、見た目もかなり若く見えるとは言え25歳と23歳だ。元の世界であればいい年である。今頃どこかの貴族家の男と結婚していてもおかしくはない。
私とルナが結婚ですかー……正直想像できないけど。ずっと二人いそう。父さまは焦るかもしれないけど。
今回の手紙は私達姉妹充てに送られてきた。それが意味するところはつまり、”この世界において、私たちは年齢が同じである”ということ
そうです、双子ってことです。いえ、双子かは知りませんが、双子ってことにしておきます。元の世界では決して叶うことの無かったルナリアとの学校生活……!これはもう運命といっても差し支えないのでは?
「――姉さま、姉さま!聞いてる?」
「はっ……ごめん、ルナと双子で一緒の学校ってことで意識とんでた……」
「あ、姉さまも気づいてたんだ。実際、10年こっちに居るのに体は全く成長してないしおかしいとは思ってた。でもルナも姉さまと一緒の学校に行けるから嬉しい」
すりすりと私に頭を押し付けてくるルナリアを受け入れながら私はルミナスに聞く。
「何か原因があるのかしら」
「現時点では何もわかりませんが……あの転移の事故で何かあったのか、はたまたこの世界からは私たちはイレギュラーとして見られているのか……なんにせよ、不明ですね」
それにしてもホグワーツですか。
イギリス魔法界では特に安全な場所と評価されているらしい。教える内容も低学年では広く平均的に、学年が上がっていくと選択的により専門的に教えるようだ。
……いずれにしても、ルミナスのおかげでこの世界の魔法は大半は既に既知のものとなっている。今更学校に行く必要もないといえばその通りだ。
しかし、学校というからには、図書の類も膨大にあるはず。1000年も続いているのだ、少しくらいは知らない蔵書もあと思いたい。そしてそれが帰還のきっかけになってくれればいいのだけど。
「あ、そういえば梟便……」
「……飛んで行っちゃいましたね」
「え、これ返信どうするの……?」
既に飛び立っていった梟を思い浮かべながら私は空を見上げる。……戻ってくる気配は全くない。当然か。
「返事がなかったら誰か来ると思う。この認識阻害の中場所を特定したくらいだし、容易に入ってくると思う」
無表情ながらも、どこか楽しそうにそう告げるルナリア。
ルナリアが楽しそうにしているときは大体碌な事を考えてない。私は閃光弾を投げ込まれたことを未だに覚えている。あれは本当に目が痛かった……。
「そうね……7月31日は…10日後ね。買っておいてよかった、カレンダー」
私たちの世界では明確な暦は存在していなかったため、このカレンダーというものは何かと便利だ。一目見ただけで今日はいつかという優れもの。できれば元の世界でも広めたいところではある。
そういえば教科書リストも同封されていたっけ。何々……?
普段着ローブ3着、普段着の三角帽、冬用マント……あぁ、どこかで見覚えがあると思ったらあの時の魔女が来てた服装ですか。納得です。
後は安全手袋…え、ドラゴン居るんですかこの世界。竜素材の収集は困らなさそうですね。それに類するものでいいということは、ルナリアの普段着に使ってる布でもいいかもしれないね。あれ恐ろしく高い対物理性能持ってるし、対魔法と耐薬性能つければきっと十分でしょう。あとで聞いておこう。
教科書は……まぁ一応取り揃えましょうか。いくら知識はあるとはいえ、もしかしたら知らない内容も書いてあるかもしれないし。
後は……杖と大鍋、薬瓶と望遠鏡に物差しですか……。
大鍋はこの標準2型っていうのがよく分からないから買うしかない。材質も指定されているし。薬瓶は何とでもなりますね。ルナリアの部屋に転がってますから。
望遠鏡と真鍮の物差しは買わないとなさそうですね……それにしてもなぜ真鍮指定なのかしら。別にいいのだけど。
問題は杖。
一応、過去に作ってもらった賢者の石を削り出したものはある。あるが、如何せん目立ちすぎる。光が当たればキラキラと七色に光るものを持っていくわけにはいかない。となると……これも買った方がいいかもしれないね。
「んー売り場はどこなんだろ」
「ダイアゴン横丁。漏れ鍋っていうパブから行けるみたい。存在を知らないマグルの人たちには隠されているらしいけど、知識と知っているルナ達なら問題なくいけるはず」
「あのロンドンにあるパブですか。魔法界とマグル界の接点らしいですね。ロンドンの街中にひっそりと存在してますが、精霊たちに聞けば場所は分かりますから、今度行ってみますか?」
パブっていうことは酒場ですか。情報収集にも丁度よさそうですね。ぜひとも行ってみたところだ。……お酒は飲めないけど、流石にソフトドリンクくらい置いてあるだろう。
何にせよ、31日まで様子見だ。入学はするが、学費とか気になるし。
今まではマグル界で金を換金しながら生活してきたが、それが魔法界でも通用すかもわからない。尤も魔法界にもグリンゴッツ銀行はあるようだし、恐らく換金は問題なくできそうではあるけど。
「姉さま、杖どうする?買ってもいいけど、別に作ることもできる。作り方はルミナスに聞いたし」
魔導技師としての血が騒ぐのか、興奮気味にルナリアが私に聞いてくる。
というか作り方をいつの間に聞いていたのだろうか。まぁあの二人だし暇なときにやり取りしていたのだろうけど。
「でもさすがに専門の人が作ったものの方がよくない?いくら作り方が分かるとはいえ……」
「姉さまには私の作ったものを使って欲しい……誰のかわからない物を使われるのはヤダ」
「う……そういわれると弱いけど……ルミナス、作り方って具体的にはどんな感じなの?」
グッと手を握り締めて俯いているルナリアの撫でながらルミナスに問う。
2層構造になっているというのは知っているけれど、詳細はよく覚えていない。
「杖の技師によって若干異なるようですが…原則、素体となる木材と芯材となる魔法生物或いはその他魔術的なものを組み込んで完成となります。木材と芯材の組み合わせによって杖にも性格というものがあるようでして、千差万別のようですね」
なるほど。
確かに聞いた覚えがある。
木材はアカシアやセコイア、その他数多の木が使われていると。
曰く、アカシアを使った杖は所有者を選ぶだとか、セコイアを使った杖は幸運を呼ぶ杖だとか。
芯材もいろいろだ。一角獣の毛、ドラゴンの心臓の琴線、不死鳥の尾羽、バジリスクの牙その他いろいろ。
曰く、一角獣の毛は安定した魔法を繰り出せ、魔力を伝えやすいが、闇の魔術には向かない。
曰く、ドラゴンの心臓の琴線は魔力効率がよく、派手な魔法を繰り出しやすく闇の魔術も扱いやすい。しかし事故を起こしやすい。
どれも一長一短ではあるものの、木材との組み合わせによっては、お互いのデメリットを打ち消しあいながら良いところをより昇華し最高の杖になるようだ。
「……まぁ、どこの杖を買えっていう決まりもないしルナにお願いしようかな」
「……!本当!?ルナに任せて、姉さまに合ったこの世で最高の杖作るから!」
「一応限度は考えてね?ルミナスもあまりルナが暴走しないように見ててね」
「お任せください、リナリア様。精一杯ルナリア様のサポートをいたしますわ」
あ、これは安心できないやつだ。
だけどもう遅いかな……一度やる気になったルナリアを止めるのは至難の業だ。ましてや今回は私の為にっていう前提があるのだから余計に止まるはずがない。
早速始めるからルミナス来て、とルナリアがルミナスに告げ工房へ移動する。
一体どんな杖が出来上がるのかという楽しみ。その一方でどんなえげつないものが出来上がるのかという不安に苛まれながら私は「早速始めるからルミナス来て」とルナリアがルミナスに告げ工房へ移動背中を見ながら思うのだった。
お手紙が来たーぞ!
返事書く前に梟帰っちゃったけど。
当初、ホグワーツまで転移と一瞬浮かびましたが、そういえばホグワーツ行ったことないじゃん、出来ねーわ。となったので却下されました。
ちなみにロンドンへは転移で飛べます。プロロ2話でロンドンにいたし、転移錨打ってあるし。
さて、ついにタイトル回収です。リナリアとルナリアでは原作(まだ書いてない)の方でも15歳と13歳です。蛇足になりますが、元の世界で冒険者になるには12歳以上です。
13歳にしてはやけに博識なルナリアですが、もともと、魔術や魔導具に強い興味を持っており、工房のおじさんが触らせたらドはまりした結果です。知識と技術がさらに加速したのルミナスのせい。
さて、そんなルナリアが作る杖がどんな性能になるのか。それは次回。
そしてお迎えに来る先生は誰なのか。これも次回。
……そういえば、家の周囲にトラップが大量に仕掛けられてましたね……。
今回のTips
・ルナリアの普段着に使われている布
プロロ2話でも登場したあの普段着に使われている布です。近接戦が苦手なルナリアは自身の服に対物理性能を付与することで何とかしました。
正直風魔法のシールドとか使えば何とでもなりそうな気がしますが、それを破られたらもう守るものがないってのも駄目ですからね。ルナリアは賢いのです。
・転がっている薬瓶
ガラス製、クリスタル製、ミスリル製……いろいろ転がっています。元の世界では通常のポーション類はガラスかクリスタルの薬瓶に、ドラゴンの血やその他有毒なものは複合耐性を持っているミスリル製の薬瓶に入れています。
・漏れ鍋
マグルには隠匿された魔法界のパブ。
場所を知っている場合には分かる。勉強会にて一通りの魔法界知識を知っている為このパブの存在も知っています。