年の瀬の大災厄の時
命を賭して自らの主を守り切った夜見は隠世へと飲まれていった…

しかしふとした瞬間に目が覚めると、そこは見知った場所であった…

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とじともをやっていてふとアニメ本編の後に隠世に呑まれた夜見が美奈都や篝と会っていたら?という電波を受信して書きなぐりました、パーソナルスペースを縮めるのが上手い美奈都や、従者としての先輩である篝は夜見にとっていい先輩になるだろうなぁと思います。
時間的には美奈都・篝は可奈美・姫和と別れた後です。
文章力には自信があまり無いですが、楽しんでいただければ幸いです。



本編

深い深いまどろみの中

まるでどこまでも続く深海へ沈みゆくような感覚

浮遊感にも似たその感覚、それはある種の心地よさすら感じさせる

瞼は開かずとも、一切の光を感じず、

四肢に力は入らなかった、

ああ……これが"死"というものか、眠るような、案外心地よいものかも知れない

少なくとも自分が想像していた、恐怖も痛みも苦しみもここにはない

皐月夜見はそんなことを考えながら、身を包む感覚に身を任していた。

今、彼女は自ら定めた役目の為その命を燃やし尽くし、その体と魂は隠世に呑まれ、沈みこんでいた……

 

しかし、ふと瞼の外に光を感じたかと思うと四肢に力が入るようになっている、

最早沈むような感覚は無く、足の裏に感じる地面、体を包む空気に"どこかに居る"というのを実感するとゆっくりと瞼を開ける。

 

「…………ここは……」

 

見知った場所だった

そこは鎌府女学院の一教室、入学当初夜見が通っていた教室であった。

しかし教室には誰もおらず、校舎全体には人の気配すら感じない。

それでも奇妙なことに雰囲気は当時のそのまま、変わっていないように思えた。

変わっていることがあるとすれば、全体的に見える風景が少し色彩を欠き、影の境界が曖昧なことくらいか

 

「なぜ……ここに?」

 

もっともな疑問をポツリと虚空に投げる。

自分は死んだはず、直前の記憶も感触も残っている、ならばここは隠世なのだろうか……

そんなことを考えながら何の気なしに自分の座っていた席の机の上を撫でる。

秋田からこちらへ来た当初を思い出す。

刀使はその身を賭して人様の為に戦い、命を守り、救う。

自分も命を、そして両親を助けられた、憧れだった。

だから鎌府への入学が決まった時は嬉しかったし、親類ご近所、故郷で知りうる全ての人が祝福してくれた、誉れだと言ってくれた。

しかし、そこで待っていたのは厳しい現実であった……

 

「ここに居ても仕方ありませんね……」

 

再びポツリと漏らすと席を離れ、教室を出る。

見覚えのある廊下にはやはり人の気配は全くしない。

誰か居ないものか…、最早暇つぶしの感覚に近かった。

人の存在を感じないただただ静寂な空気は嫌いではないが、やることもないのでは手持無沙汰である。

毎朝通っていた廊下、毎朝上った階段を自らが居た頃の記憶をゆっくりと反芻しながら歩いていく。

いい思い出はあまりないが、かといって嫌な思い出も校舎自体にあるわけではない、ただ"母校"という故郷の雰囲気を感じて歩いていく。

 

「あ……」

 

ふととあるドアの前で立ち止まる。ドアには「学長室」の文字。

目的もなく歩いていたつもりではあったが、足は自然とここへ向かっていた様だ。

ある意味一番思い出深い場所、新しい皐月夜見が生まれた場所だ。

コンコン

ノックするがもちろん返事は無い、ドアノブに手を掛ける、鍵も掛かっていない。

 

「失礼します……」

 

そう一言言いながらドアを開ける、中からは窓から入る陽の明かりと静寂が返ってくるだけだった。

 

「はぁ……」

 

よかった、誰もいなかった。

ここに居てほしくない、居てはならない人が居ないことに安堵のため息を吐く。

それは消してやましいことをしようとしているからではない、

隠世に飲まれた自分と同じ場所にいるということはその人も呑まれてしまったということだ。

なのでここに居ないということは生きているということ、恩人の生を確認したことで全身の力を抜く。

そのまま学長室に入り、なんとなしに来客用のソファに座る。

高津学長の見ていた風景も気になりはしたが、その机に在るべきは自分の中でただ一人だけ、自分が座るなど恐れ多いと感じた。

外は静かであったが、学長室ともなるとさらに厳かにシンとした雰囲気に包まれる。

その感覚に心地よさを覚えながらここに来た時の記憶を反芻する。

御刀に選ばれるほどの力が無かった私にあのお方はここで力を与えてくれた。

それは自分がただノロとの適正が高いから、ある種の実験だったことも悟ってはいた。

でもただ「刀使にしてくれた」それだけで感謝しかなかった……

刀使になれず、さりとて家に逃げ帰ることもできなかった私にあの人は生を与えてくれたのだ、それだけで身命を捧げるだけの理由があった。

労いも、感謝も、褒美も必要とはしない、ただお役に立てればそれでよかった、その先に死があろうとも……

ここでの思い出を反芻し終えると立ち上がる、ここに居るのは嫌ではないが、待っていても誰も来ないだろう、一通り校内を回ってからまた来ればよい。

 

「…………?」

 

ふと目の前の風景に違和感を覚える、自分の知っているものとはどこか違う雰囲気を感じる。

どこが、とは明言できない、長年ここに通ったから感じられる勘のようなものだ。

ただ目に見える違いは無いので気のせいかと学長室を後にする。

 

再び廊下を往く途中、生前の同僚─此花寿々花─に投げかけられた言葉を思い出す。

(あなたは今、幸せ?)

どうなんでしょう。とあの時答えた、今も答えは出ていない……

そもそも幸せとはなんだろうか、ただ一心に高津学長のお役に立つことを考えてきてあまり考えていなかった。

ここにいつまで居れるのかわからないが時間は有るらしい、生き返れるわけでも無い、ならば友の問いを考えてみよう。

おむすびを食べているときは確かに美味しいし嬉しいと感じるが、それは此花さんが聞きたかったことではないだろう……

 

校内の散策を終え、外へ出る。

校舎の隣には青々とした芝生が広がり、ベンチやテーブルが置かれている場所がある。

休み時間や放課後には生徒たちの憩いの場として機能している空間だ。

お昼にお弁当や買ってきたものを食べている生徒をよく目にしたものだ、私は利用することは無かったが……

良い機会だ、皆はどのような風景を見ていたのだろうと気になりベンチの一つに座る。

なるほど、特段障害物もなく視界は開け、校舎や道のレンガは木々や芝生の青色を際立たせる、やさしく吹く風でも感じられればさぞ心地よいだろう。

そんなことを考えていると再び視界の端に違和感を覚える、違和感の正体は一本の木であった。

今度は明確になった違和感に立ち上がり、その木に近づく。

 

「はて、ここにこんな木はあったでしょうか?」

 

一々木の一本一本など確認していたわけではないし鎌府の学生であったのもあまり長いわけではなかったが、なぜかその木だけ違和感を感じられずにいられなかった。

 

「あれー?またお客さん?」

 

その木に触れようとした瞬間、突然頭上から声が降る。

人など居ないと思っていたところに仕掛けられた不意打ちに手を引っ込め後ずさりする。

急いで声の元を確認するために視線を上げると木の太い枝の一つに一人の女性が寝ていた。

同い年くらいだろうか、その女性は身体を起こすとよいしょという声と共に身軽な動作で木から降りてきた。

 

「ごーめんごめん!驚かせるつもりはなかったんだけどさ」

 

「はぁ……」

 

後頭部で髪を結った快活な雰囲気のその方は笑いながら謝る、その雰囲気に圧されて生返事を返す。

 

「美奈都先輩!またここにいたんですか…ってその方は?」

 

「あ、篝、なんだかまたお客さんみたい。ま、別に私たちの家でもないんだけどね」

 

違う方向からまた別の声が響く、その方向を向くと濃い緑のセミロングヘアーの先ほどの快活そうな方が居た。

二人は二言三言話した後、柊さんがこちらに向き直る、

 

「えっと、あなたは?」

 

「私は……」

 

とりあえずようやく会えた人に、安堵したような静かな雰囲気が消えてしまって残念なような気持ちになりながら、口を開く。

口をつぐんでいても始まらないし、ここがどこでどうやってきてどこへ行くのか、この二人に聞けば答えが得られそうだったからである。

軽い自己紹介の後、今度はお二人が自己紹介をしてくれた。

ここに居る理由、20年前の大災厄時に隠世へ来てしまったこと等、私もそれを黙って聞き入っていた。

二人の制服と顔、そしてその名前は資料で見覚えがある、確か敷島銀行立てこもり事件の藤原美奈都さんに紫様の側仕えだった柊篝さん、二人とも鎌府女学院所属だったはず、古い制服がその証左だ。

二人の話を聞き終えた後に一番気になっていた疑問を投げかける、

 

「藤原さんに柊さん……ですか」

 

「そ、夜見ちゃん、よろしく」

 

「ええ、よろしくね」

 

「はい、お二人ともよろしくお願いします…」

 

自己紹介と軽いあいさつを交わした後、一番疑問に思っていたことを聞く、

 

「ここは一体…?」

 

「隠世…のはずなんだけど、恐らく"鎌府女学院"というあなたと私たちの共通の場所の記憶が混ざったものを隠世が投影したんだと思うわ」

 

そう言われて少し合点がいった、自分の記憶中の雰囲気に少し混ざる違和感は20年前の、お二人の記憶の"鎌府"なのだろう。

そう納得していると今度は柊さんがこちらに問いかけてきた。

 

「皐月さんはどうしてここに?」

 

その問いに答える為、生前のことを語った、二人は真剣な眼で聞き入っていた。

生から解き放たれたからだろうか、それとも目の前の方が刀使として、鎌府生として先輩だからだろうか、自然と言葉が出てきた。

 

「そう…あなたは刀使として立派に戦ったのね、最期まで」

 

「いえ、私は…あのお方、高津学長の為に自分の身を削ることしかできませんでした、それでもお役に立てていたかどうか……」

 

「立派立派!自分の命を賭してまで恩人救ったなんて立派な刀使の務めだよ、役に立ってないなんて、恩が返せてないなんてないはずだよ」

 

そう藤原さんが言う、その声には明らかな賞賛や優しさが含まれていた。

藤原さんに続くように柊さんも語りかけてくれる、

 

「私もそう思うわ皐月さん、あなたは立派な刀使よ、きっと高津学長もわかってくれていると思う。それにね…」

 

一息おいて柊さんが続ける、

 

「皐月さんの気持ち、私には少しわかるの、私も主に…紫様の為にいつか命を捧げる使命があって、それだけ考えて生きてたこともあったから……」

 

「…………」

 

少し伏し目がちに話す柊さんの言葉を聞く。

この方も主に仕え、使命に殉じようとしたのだろうということが言葉で、そしてその眼差しからも察することができた。

 

「まあどこかのお節介さんのおかげで半分生き残ったのだけどね」

 

「篝!まぁたあんたはそう可愛げのない言い方する!」

 

少しふざけて言った柊さんの言葉に藤原さんは少し呆れたような様子で怒る。

といっても険悪な雰囲気はなく、そんなやり取りをし慣れているような様子だった。

 

「ふふ、冗談です、でもあそこで美奈都先輩が半分命をさし出してくれたからこそ、現世の私は生き残れて未来を繋ぐことができたし、今ここに居る私も随分と助けられたの…」

 

「んん、まあそういうことなら…」

 

その言葉は私に向けられたものであったが、柊さんの遠回しのお礼の言葉に藤原さんは気恥ずかしくなったのかそっぽを向いて鼻の頭を掻いている。

そんなやり取りがこの二人は仲が良いのだと確信させる。

照れてる藤原さんを見てまた少し笑うと柊さんは私の手を取る。

 

「命を救われるってそういうことなの、だから救われた高津学長はきっとあなたに感謝してるはずだし、その人をいい方向へ変えると思うわ」

 

手を取ったまま真剣な目でこちらを見据える柊さんと目を合わせ、言葉を聞くと最期の瞬間が脳裏に蘇る。

 

『お勤めご苦労様でした。夜見。』

 

一度として─労いも、感謝も、褒美も─返ってくるものなど求めなかった、要らなかった、ただあのお方のお役に立てればと。

それでもあの時、高津学長が真剣に目を見つめ"私を見て"放った労いの言葉を貰った瞬間、私の心の中の感情が込み上げ、自然と笑みが零れた。

その瞬間を、心の奥底から湧き出るあの気持ちを幸せと呼ぶのならば……

生涯にたった一度の、最期の瞬間だったとしても……

私は確かに"幸せ"だったのでしょう……

 

「柊さん、ありがとう…ございます……」

 

思わず微笑みながら柊さんの手を握り返し、感謝の言葉を述べる。

 

「あ、やっと笑った!」

 

私のその顔を見て藤原さんが釣られて笑う。

 

「夜見ちゃん、ずっと昔の篝みたいに無表情なんだもん、表情筋が固まっているのかと思っちゃった」

 

「なっ!?皆が皆、美奈都先輩みたいに能天気じゃないんです!そもそも皐月さんに失礼でしょう!」

 

またしても軽い言い合いを始める二人。

夜見はその姿に在りし日の親衛隊の友を思い出し、静かにまた笑みが零れる。

そして思い出して良かったと感じるならば親衛隊としてのあの日々もまた確かに"幸せ"だったと気づく。

 

ああ、此花さん…

 

 

私は…

 

 

想像以上に私は幸せだったようです……

 

 

 

 

~エピローグ~

 

 

 

「それにしてもさ」

 

口論をいきなり切り上げて美奈都が夜見に問いかける。

 

「夜見ちゃんがそんなに熱心になる"高津学長"ってどんな人なのか気になるなぁ」

 

「美奈都先輩、あんまり根堀り葉堀り聞くのは失礼ですよ」

 

「えーいいじゃん、篝だって気になるでしょ?」

 

「まあ…今の鎌府の学長がどういう方だか気になるのは確かですけど……」

 

「全く素直じゃないんだから~、ねぇ夜見ちゃん聞かせてもらってもいいかな?」

 

たしなめようとする篝を上手く丸め込み、ずずいと近寄る美奈都。

その眼はただ無邪気で、本当に好奇心からの行動だとわかる。

人の心の壁を飛び超して、しかし嫌味のない距離の詰め方をする美奈都に不思議な魅力を感じながら夜見はしゃべり始める。

 

「わかりました……高津学長のお二人でわかりやいところで言えば、まずは20年前の相模湾岸大災厄でしょうか、高津学長は特務隊に参加してたらしいですから……」

 

夜見のの言葉を聞いた瞬間二人が固まって顔を見合わせる。

少し動揺した顔をしながら篝が問いかける。

 

「ご、ごめんなさい皐月さん、その高津学長なんだけど、下の名前を聞かせてもらっても?」

 

「?はい、高津学長の名は高津雪那ですが……」

 

「は……?」

 

「え……?」

 

再び二人は固まる、

 

「嘘でしょ、あの雪那が…結婚して、鎌府の学長?」

 

「……まぁ私たちが現世で結婚して子供が居る以上、想像できないことではないけれど…」

 

美奈都は唖然とし、篝は難しい顔をしていた。

 

「人生どうなるかわかったものじゃないねぇ、あ!そうだ篝アレやってよ、いつか見せてくれた雪那のモノマネ!」

 

「い、嫌です!あれすっごい恥ずかしいんですからね!」

 

「いいじゃん、スッゴイ似てたんだかららさ!」

 

3度目となる言い争いが始まる、が今度の争いを制したのは篝だった。

 

「だ、だいたい今20年後の雪那の話を皐月さんに聞いてるんですから関係ない話は後にしてください!」

 

「うー、まあ仕方ない、じゃあ続き聞かせてもらってもいいかな?」

 

「はい、高津学長は……」

 

催促され、夜見は高津学長の話を再開する。

話ながらに夜見は思う、

この話が終わったら二人に20年前の高津学長の話を聞かせてもらおう。

今の紫様の話をしてもいいかもしれない。

いつまでここに居ることになるのかわからないけれど……

この二人と居れば"友と居たあの時"みたいに暇することはなさそうだ、と……




読んでいただきありがとうございます。
出来れば感想等いただければ励みになります。
またオリ刀使の方のSSですがもうしばらくお待ちください。
遅筆ですみません……

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