座る志士尾さんを見て頭領が最初に放った言葉は、叱るのではなく安否の確認だった。
炎縄印がないことを問い詰めるでもなく、無事だったことに安堵していた。
最初に他人の心配をする辺り、墨村の人なのだろう。
それから詳しく説明をして、志士尾さんの状態や烏森の状況を話した。
「――分かった。魂魄さんは引き続き烏森に。いままで通りサポートを頼むよ。それから…」
「……」
「限。翡葉から状態は聞いた。無事で良かった。」
「…頭領…俺は…」
「…確かにお前は禁を破った。一度は翡葉の忠告で思い留まったようだが…」
「…俺…夜行を抜けます。」
その言葉は、流石の頭領でさえ驚かした。
「姉ちゃんに謝りに行って…どこか遠くに…もう俺が、ここにいる資格も意味もない…」
「限…お前が夜行に来たことで、助けられた奴らも多い。お前が完全変化をしたおかげで、俺の弟もこの土地も守られた。資格なら十分にある。」
「俺…今回の戦いで満足したんです。今までの自分から、計り知れない成長を感じました…だからこそ…また妖に飲まれて、誰かを襲うのが怖い…」
墨村さんは昔、時音さんに怪我を負わせたことがトラウマになり、他人のことばかり考えるようになった。
おそらく彼も、同じような過去があるのだろう。
自分が自分でいられない、そんな感覚を。
「志士尾さん、迷惑ならいくらでもかけて下さい。傷付けるかもしれない。恐怖を与えるかもしれない。それくらい大丈夫です。もしそんな時が来たって、皆で止める。不安を感じる必要なんてないんです。」
「……」
「…限。完全変化による罰は、お前に与えない。」
「え…?」
「元より禁止しているのは、本人が無事ではすまないからだ。今のお前なら、炎縄印なんて拘束も必要ない。それから、お前は自分のやったことや、その感情を悪だと思っているが、今のお前が間違えたことなど一つもない。今の自分を誇れ。」
今日の行いに選択肢があるのなら、志士尾さんの選択は、全て正解だったことだろう。
その自分を非難することも、叱咤することも、何故必要だろうか。
「成長したその力で、これからも俺達を…烏森を守ってくれ。」
「…はい…!」
―――――
その後、志士尾さんは一度休暇を取った。
姉の元…実家へ帰るため。
今まで拒んできた手紙を全て読み、感謝を伝えるために。
志士尾さんがしばらく離れた以外、私達は以前と同じ日常を送っていた。
何故か日に日に墨村さんの傷が増えているが。
「どうしたんですか?その傷。」
「ああ、ちょっとカラスに…」
「カラス?」
詳しくは話してくれなかったが、多分捕まえて結界の練習でもしてたのだろう。
「良守!侵入者だ!」
言うやいなや、辺りに大量の人影。
完全に包囲されている。
その人影全て、墨村さんが結界で捕らえてしまった。
精度も速さも遥かに上がっている。
修行の成果を垣間見た。
滅しようと手を振り降ろす直前、別の結界に手を止められる。
『そこまでだ良守。』
空からした声の主は頭領だった。
となれば必然、人影の正体は…
「ひどいなぁー。ちゃんと弟さんに説明しといてくださいよー」
墨村さんの張った結界は、全て違う壊され方で消えていく。
夜行の本拠地をしばらくこちらに移すということらしい。
夜行の面々全てが揃っていた。
「そんな訳で、まとめて世話になるんで。」
『よろしく!』
結界師の家二軒は、これから騒がしくなりそうだ。
一巻分近く話し改竄してるから限の話とかまじで悩んだ。本来葬式からスタートなんで辛い…