飛来する妖を倒し続ける内に、徐々に雲は晴れていった。
強い力は感じなかった。
おそらくあの人型の妖は来ていない。
一つ確かな情報は、あの馬の妖…牙銀の立場は幹部級。
敵の戦力はかなり削がれただろう。
既に雑魚をけしかけることしか出来ない程。
(でも…油断は出来ない。)
あの刀は結界を切る。
あの話術は味方を裏切らせる。
あの気配は皆を萎縮させる。
あの存在一つで…戦況は変わる。
頭領なら倒せるだろうけれど、あの速さは人間に追い付ける速度じゃない。
もし戦うのなら…
(私が…)
「動ける者は――」
頭領の指示が飛ぶ中、時音さんが叫ぶ。
「良守が…いません!」
―――――
戦闘終わりに主な守護者の行方不明。
ざわつく皆に指示を出した頭領の冷静さは流石の一言。
とにかく雪村家にて全員の治療へ向かった。
「……」
「どうしたの?」
「刃鳥さん…いえ…何か嫌な予感がして…」
「サポートする対象が片方消えたから?」
「…私と志士尾さんの傷を付けた敵…そいつが今回いなかったんです。それにもし…良守さんが一人でそいつに会っていたら…」
「…少しごめんね。…はい。」
頭領からの電話のようだ。
顔を見るだけで何があったかよく分かる。
「…予感…当たりよ。全員注目。」
良守さんは拐われた。
その会話を見ていた影宮さんまで。
今すぐ黒芒桜へ向かう連絡が頭領から来た。
動ける者全員で、黒芒桜を潰しに出る。
―――――
黒芒桜への抜け道…その場所に、夜行、墨村家当主、そして雪村家の結界師が集結していた。
時子さんの話では、抜け道は完成したものの、既に先の世界の崩壊が始まっていると。
その危険を考え、行く人数は絞られた。
「まず俺と―蜈蜙。それと白道、黄道。それから―」
箱田さん、保護者として行正さん、そして良守さんのお祖父さん。
当然私は呼ばれない。
しかし…
「頭領。私も行きます。」
「…人数を絞る上で、君を連れて行くわけにはいかない。例えそれが…出自不明の子だとしても…」
「…相手に二刀流の剣師がいます。あの人とは…私が決着を付けなければなりません。」
「堂々と命令違反を行うと?」
「はい。」
二人を救う任務を放棄、戦いを目的とした潜入。
正に命令違反そのものだろう。
それでも…私には必要なこと。
「必要なら、夜行を抜けます。」
「…分かった。但し、良守達を回収次第撤収は変わらない。例え決着が付かなくとも、無理矢理にでも連れ帰る。」
「!ありがとうございます!」
氏名された全員が蜈蜙さんに運ばれ、入り口を抜ける。
―――――
箱田さんのおかげで飛行中に二人を見つけた。
白い世界に飲まれた二人を。
「なんだあれは!?」
結界師本人が言う以上、まともな結界ではないのだろう。
しかし声は届くようで、中にいる影宮さんに頭領が確認した。
良守さんの意識もなく呼吸もしていない。
とても危険な状態のようだ。
しかしそれほど巨大なものの端、遥か真下に、私はあるものを見つけた。
偶然視界に捉えたもの…刀の破片を。
「頭領…すみません…」
「魂魄さん!?」
呼び止める声も無視して飛び降りる。
人間なら死ぬ高さでも、私なら特に問題はない。
着地した私は、その破片に少しずつ近づく。
拾い上げた時に確信した。
あの結界で、あの剣師は消されたのだと。
「…迷いは…断ち切れましたか…?」
破片は彼の魂の現れ…彼そのもの。
戦うことが叶わなず、救うことも出来ない。
そんな私に出来ることはただ一つ。
魂の籠ったこの破片だけでは意味はないだろう。
それでも…
「どうか…素晴らしい来世を…」
私の持つ二刀は、その破片を切り裂いた。
これが私に出来る、最後の供養だ。
―――――
二人を回収して(回収してもらって)、蜈蜙さんにもう一度結界に向かってもらう。
道中下を見ると、城が消え、黄金色の野原が出来上がる。
黒芒桜は終わった。
それを表すようなすすき野原が…私達を見送った。
火黒出番なし!そして計二巻分完全カット!話に出来るとこ少ねぇよ…