BLEACH ユーハバッハ打倒RTA   作:アタランテは一臨が至高

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大変遅れてすいませんでした! 許してください何でもしますから!
今回は三人称オンリーです。


最終話 裏話8 さらば剣人 また逢う日まで

「…剣人君。君がいつの間にかボクの部屋に置いていた手紙の通り準備はしておいたのだけれども…一つだけ聞かせてくれ。こうなることを、君は知っていたのかい?」

 

 

 山本元柳斎重國が、滅却師の首魁であるユーハバッハの手で殺されたことによって二代目総隊長の座に就いた元八番隊隊長、京楽春水。

 彼はその権限と交渉術によって四十六室に更木剣人の一時的な釈放を認めさせた。

 

 そして独房に囚われていた更木剣人を連れ出し、一つの疑問をぶつける。

 それに対し牢獄より解き放たれた囚人、更木剣人はごく普通のことのように答えた。

 

 

「なに、こうなる可能性もあったというだけの話だ。その手紙には『零番隊が負ける事態』と書いたが、実際にそうなる可能性は相当低いと見積もっていた。何せあそこには各時代の傑物たちが集結しているのだから」

 

「…まあ、ボクも彼らが本当に負けるなんて思っちゃいないけど…」

 

「京楽隊長」

 

 

 拘束具を完全に外し、身についている器具は居場所を知らせるためのものだけになった更木剣人は真剣な表情で京楽春水を見つめる。

 

 

「私はユーハバッハと出会い、そして言の葉を交わした。…結論として、私は彼を斬り伏せる。斬り伏せてみせる…が」

 

 

 そこで言葉を切り、顔を顰めた。

 

 

「霊王の命までは、保証できない」

 

「…それは、零番隊が全滅するということかい」

 

 

 更木剣人は、答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駆ける。駆ける。

 剣無きその身は何を思うのか。果たしてその身は人か、獣か。

 

 

「フハハハハハ! よくぞここまで来た! 滅却師を斃す者、額に傷のついた死神、更木剣人!」

 

 

 霊王を下したユーハバッハの手によって変わり果てた霊王宮を走る更木剣人。

 彼の前に現れるは聖文字(シュリフト)“M”、霊王の心臓。

 能力は『The Miracle(奇跡)』 最大・最強・最速の滅却師、ジェラルド・ヴァルキリー。

 

 

「…悪いのだが、君たちの王を斬る約束をしている。そこを退いてはくれないか?」

 

「それは無理というものだ! 滅却師を斃す者、貴様を倒してこその奇跡! 我が力にふさわしいとは思わぬか! いざ、行くぞ!!」

 

 

 己の斬魄刀を失った更木剣人。

 剣と盾を手に襲い来るジェラルドに拳で立ち向かうが、余りに勝ち目は薄く――

 

 

 

「隙だらけですよ」

 

「!!」

 

 

 一閃。

 突如として走る剣閃にジェラルドは正しく真っ二つに断ち切られる。

 

 

「卯ノ花…隊長」

 

「ここは私に任せて向かいなさい。ユーハバッハを斬るのでしょう」

 

 

 現れたるは剣の頂点“剣八”が一人、卯ノ花八千流。

 八千の剣を修めたその身は最強の滅却師と比較しても何ら引けを取らず。

 

 

「…フ、フハハハハ! 良い、良いぞ! 難敵が増えてこその“奇跡”! さあ、我を追い詰めてみせよ! 危機に瀕してこその“奇跡”である!!」

 

 

 しかして目の前に立つ大男は唯の滅却師に非ず。

 その力の源は霊王の心臓。無限に等しきその力は奇跡という形を取って顕現する。

 

 全くの無傷。

 二つに体が分かれようと、粉微塵となるまで体を砕かれようとその身は朽ちず。

 敵の攻撃によって負った傷は更なる力となりジェラルドを強化する。

 

 故に最強。故に奇跡。

 そのジェラルド・ヴァルキリーを相手取れば如何に剣術無双、卯ノ花烈と言えども分が悪く――

 

 

「おいおい、あんまし調子乗ってんじゃねーぜ滅却師さん。

 ――水天逆巻け『捩花』」

 

「……ぐ、ぬっ!! 貴様は、志波海燕か!!」

 

 

 三叉の鉾より湧き出でる水の波濤がジェラルドに襲い掛かる。

 現れるは志波海燕。稀代の天才たる彼の実力はこの場においても全く劣ること無く。

 

 

「行けよ、剣人。コイツは俺と卯ノ花隊長でブッ飛ばしとくからよ」

 

「…すまない」

 

 

 更木剣人は卯ノ花烈と志波海燕を残し、単身ユーハバッハの元へと向かう。

 護廷十三隊の中でも最上位に近い実力を有する二人ではあるが、目の前に立つ最強の滅却師はその能力によって既に巨人と呼べる程の身の丈を有していた。

 

 

「額に傷のついた死神を倒してこその“奇跡”であったというのに…邪魔をしおって! こうなっては仕方ない。我が希望の剣(ホーフヌング)の錆にしてくれよう!」

 

「奇跡…ですか。奇跡と言うものが有るとするならばこの世の多くは奇跡によって成り立つもの。一つの出会いも多くの奇跡が重なり合って出来たものです。こうしてあなたと私が斬り合えること、それも又奇跡。

 ――さあ、この奇跡に感謝して。いざ、斬り合いましょう」

 

「卯ノ花さんテンションたけーな。アイツの助けになれて嬉しいのかな? …ま、俺も一肌脱ぎますかっと」

 

 

 この戦いの結末は未だわからず。

 三者三様、己の魂たる武器を手に動き出す。戦場には、剣戟の音のみが鳴り響く――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――よく来たな、更木剣人」

 

 

 剣を再び取り戻した更木剣人。その目の前に座すは滅却師の王、ユーハバッハ。

 

 

「斬ると言った。剣も取り戻した。後はただこの腕を振るうのみだ」

 

「そうか。では、格の差というものを教えてやろう」

 

 

 ユーハバッハは立ち上がり、更木剣人と対峙する。

 

 放たれる霊圧。お互いに霊力は十三隊隊長のレベルを遥かに凌駕する。その身の霊圧を解放するだけで風は吹き荒れ、地は揺らぎ、空間は振動する。

 只の死神、只の滅却師ならば立つことすら出来ぬ霊圧の嵐の中、更木剣人が構えを取った。

 

 

「……ほう」

 

 

 ――否。それは構えではなく、刀を納める所作。

 腰の鞘に納めるように、戦いを終えた戦士のように、刀を脇の下へと入れていく。

 

 しかし、鞘無き剣を納めることの何と不可解なことか。

 其は触れるもの全てを切り裂く刃。其を納める鞘など存在しないと言うのに――

 

 

 ――何と、その所作の美しきことか。

 

 

 

「卍解」

 

 

「『鞘不死』」

 

 

 

 鞘伏は遂にその真髄を解き放ち、名と姿を変える。

 しかし、外見の変化は驚くほどに少なかった。むしろ、他の斬魄刀と比べて見た目の荘厳さは劣るとも言える。元の刃の輝きは失われ、刀は石のような灰色に覆われていた。

 

 

「…フン。ようやく卍解を見せたか。しかし、今まで隠していた割には何ともまあ、みすぼらしい卍解であることよ」

 

「…本当に、そう思うか」

 

 

 卍解の見た目など戦闘能力には直結しない。

 そう言外に語る更木剣人の言葉にユーハバッハは笑って答える。

 

 

「確かに、山本重國の卍解の様に見た目は矮小なれども強力な卍解はあるだろう。

 ――しかし。私が何を思おうと、もはや関係が無いのだ。何故なら、あらゆる卍解は我が『全知全能(ジ・オールマイティ)』によって既に、砕かれているのだからな」

 

「――本当に、そう思うか」

 

「!!」

 

 

 更木剣人の手。そこには未来を改変する能力、全知全能(ジ・オールマイティ)によって砕かれた筈の卍解、『鞘不死』が無傷で存在していた。

 

 無傷の刀を撫で、僅かに笑う。そんな更木剣人の背に、微笑む少女が見えた気がした。

 

 

「鞘伏の刃は、この世に存在するありとあらゆる物全てを等しく斬り伏せる。故に、納める鞘が存在し得なかった。

 ――ならば。もし、その刃を納める鞘が存在したとするのならば。逆説的に、その鞘は不壊でなければならない。不死の鞘でなければならない」

 

「……!! それが、どうした! たかが折れぬ程度の刀で、私を斬れるというのならば――」

 

 

 更に高まる霊圧。霊王を取り込んだ今、限界など無いと言わんばかりに霊圧が溢れ出る。

 強力過ぎる霊力は実体を持って顕現し、ユーハバッハの身を覆っていく。

 

 その姿は正しく化物。

 右の手に力が集い、矛先を眼前の敵へと向けて――

 

 

「『韋駄天』」

 

 

 更木剣人は、()()()()()()()()()()()()

 

 

「……そんな…馬鹿な…その程度の、(なまくら)で……」

 

「…三度、斬った。この『鞘不死』は鞘に納まった状態。ならば、何かを斬れる筈も無い…が。

 一度振れば元の斬れ味を取り戻し、二度振れば鞘は消えて無くなる。

 (さや)()()んば(それ)(すなわ)()。三度目の刃は死の刃。四度目は無い」

 

「ふ、ざ…けるな…!!」

 

「すまない。その眼でも、何が起きたのかわからなかっただろう」

 

「グ、オオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 更木剣人によって斬り伏せられたユーハバッハ。

 鞘不死によって“死”を付与された今、再び立ち上がれる筈も無く、その膨大な力を噴き出すようにして消滅していった。

 

 滅却師の侵攻より始まったこの戦。尸魂界に多大なる被害を及ぼしながらもここに決着し――

 

 

 

「ふざけるなと、言ったのだ!!!!」

 

 

 

 再び吹き荒れる霊圧。滅却師の王は死からも立ち上がる。

 間違いなくユーハバッハは一度その命を失った。恐るるべきはその力。絶対である生と死の境界すらをも塗り替えるその力はまさしく“全知全能”。

 

 その身を霊力そのものと化して死の淵より蘇る。

 この戦いに、更木剣人の勝ち目など元より存在せず――

 

 

 

「四度目は無いと、言った筈だ」

 

 

「――卍解」

 

「『清虫終式・閻魔蟋蟀』」

 

 

 現れたのはかつての十三の頂点の一人、東仙要。

 更木剣人が確保し、京楽春水によってコールドスリープより目覚めた彼はユーハバッハとの戦いに備えて戦場の近くに潜んでいた。

 そして彼の卍解、『清虫終式・閻魔蟋蟀』は清虫本体を握る者を除き、卍解を展開した空間内に存在する者全ての視覚・聴覚・嗅覚・霊圧知覚を奪う卍解である。

 

 

「……ッ!! 貴様等、やりおったな…!!!」

 

 

 四種もの知覚情報を奪われれば、戦闘行動など取れる筈もない。

 更にこの場合においては視覚情報に依存するユーハバッハの『全知全能(ジ・オールマイティ)』を封じることにまで成功していた。

 

 

「…………だが。だが、だが、だが、だが!! この程度の加勢なぞ、何も問題はない!! 我が『全知全能(ジ・オールマイティ)』を封じた所で、我が知覚を封じた所で、辺り一帯を我が力によって吹き飛ばせば貴様等は終わりだ!!!」

 

 

 ユーハバッハの言っていることは正しい。

 『清虫終式・閻魔蟋蟀』の破り方は数種あるが、知覚情報など関係無く辺りを丸ごと吹き飛ばせば卍解の術者への攻撃は可能である。

 そしてその稚拙な攻撃が致命傷となり得る程の力の差が彼我には存在していた。

 

 

 ――しかし。惜しむらくは、卍解の展開からそれを行動に移すまで数瞬の遅れがあったことか。

 卍解による知覚の遮断。それはユーハバッハの最も無力であった、三重苦の時代の記憶を呼び起こした。

 

 その記憶はユーハバッハの最も恐れるもの。何より遠ざけたいもの。

 恐怖、嫌悪、憤怒。様々な感情が冷静な判断を阻み、ユーハバッハの行動を遅らせた。

 

 

 そして、その数瞬の遅れで全ては決した。

 

 

 

  「――卍、解」

 

 

神殺鎗(かみしにのやり)

 

 

 

 其は音速を遥かに超える刃。

 其は神を殺す毒。

 其は無限の間合いを持つ槍。

 

 

 『清虫終式・閻魔蟋蟀』の展開した空間の外より飛来せし刃は寸分違わずユーハバッハの胸を貫き、その刃の内に持つ毒の力を遺憾なく発揮した。

 

 清虫終式の弱点の一つは味方をも巻き込むことである。

 事実、更木剣人はユーハバッハの位置を捉えることは出来ず、従って斬ることも不可能であった。

 

 無論、東仙の持つ清虫を握れば居場所を把握することも可能であっただろうが所有者である東仙が握り続ける以上行動は制限されてしまう。

 結果、致命の一撃に至らずユーハバッハに反撃を許す可能性があった。

 

 また、東仙自身も実力者ではあるがユーハバッハに反撃を許す暇を与えず殺害せしめるかと言われれば首を傾げざるを得ない。

 

 故に必要であったのはユーハバッハの反撃を許さぬ“速さ”、そして一撃、または一瞬の内の数撃で殺害せしめる“致命性”、それに加えて清虫の展開された空間外から攻撃できる“射程”であった。

 

 

 ――結論として。

 東仙要と同じくコールドスリープより目覚めた市丸ギンの卍解、『神殺鎗(かみしにのやり)』によってユーハバッハは完全な死に至ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…東仙。聴覚だけ元に戻してくれ」

 

 

 『清虫終式・閻魔蟋蟀』の空間内。東仙要と更木剣人、そしてユーハバッハの三者のみが存在する空間で、更木剣人が口を開いた。

 

 

「…ユーハバッハ」

 

「私は、貴方が創ろうとした世界のことを『人の美しさを奪う世界』と言った。そしてその考えは未だ変わらない」

 

「貴方の言う通り、私は獣なのかもしれない。剣を握っている間だけは人になれていると私は思っているが、全くの自惚れなのかもしれない」

 

「ただ、それでも、獣にだって、人の美しさというものはわかるのだ。どんな金銀財宝よりも価値が有り、どんな絶景よりも美しい。そんなものが、人の心にはあるのだ」

 

「私は、それをこの十三隊で学んだ。この戦いだって、私は多くの人たちに救われた。誰か一人でも欠けていたら、こうして倒れていたのは貴方ではなく、私だったかもしれない」

 

「友に、師に、仲間に、多くの人に救われた。彼らはその心が持つ美しさが故に戦っていた」

 

「――嗚呼、だから。この結果は必然だったのだよ」

 

「さようなら。YHVH、滅却師の王よ。どうか安らかな眠りを」

 

 

 

 

 




 今までご付き合い下さり本当にありがとうございました。完結まで書き続けられたのも一重に読者の皆様のお陰です。
 拙作なんかをここまで読んでくださった読者の方には感謝の念が絶えません。

 番外編なども気が向けばアンケートなんかで書く話を決めてやろうかと思いますのでその際はご意見を下さると嬉しいです。

 本当にありがとうございました。

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