BLEACH ユーハバッハ打倒RTA   作:アタランテは一臨が至高

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日間1位ありがとナス!もっと甘やかして評価感想くれてもいいのよ…?

今回は卯ノ花さん視点です。


裏話1 卯ノ花 烈の独白

 初めは、傷が疼いただけだった。

 

 

 今年の霊術院卒業生に更木出身の天才がいるという話は前から聞いていた。それだけに、その本人から四番隊の入隊届を出された時は思わず刀を手に取ってしまった。

 

 実際目にすると想像していた人物とは違ったもののその男の持つ風格はまさしく歴戦の戦士。

 

 まず感じたのは莫大な霊圧。隊長格を遥かに超えるその霊圧は、あるいは古参である自身すらも超えるのではないかというほどのものであった。

 

 次に目に付くのは額に付いた大きな斬り傷。あの更木出身というのは真実なのであろうと確信させられるほど深い古傷が付いていた。

 

 そしてそれだけに疑問であった。そんな戦士が、何故回復を主任務とする四番隊に入隊を希望したのかと。

 

 

 四番隊に入隊してまず行うのは回道の習得である。主任務である隊士の回復にこれは欠かせないため当然とも言えようが四番隊に来るような子は皆ある程度回道を使える子ばかり。

 あまり時間をかけずに次の段階へと行くはずであった。

 

 しかし、彼は違った。その高い霊圧に振り回されているのかまるで回道を使えない。

 本当に不思議であった。回道も得意でないというのなら何故四番隊に入って来たのだろう?十一番隊に入れば隊長すら狙える器であるというのに。

 彼に回道を教えながらもその疑問を考えていた。

 

 

 彼は常に任務もしくは鍛錬を行っていた。休暇を一切取らず四番隊の管轄でもない虚の討伐任務すら行うその姿に周りの隊員も心配する。

 やはり戦闘が好きなのだろうか。しかし回道の習得も熱心に行っている。本当によくわからない。

 もしやすると、私と同じ目的で回道を習得しようとしているのではないかと勘繰ってしまう。

 

 

 ある日、彼が修練場で剣の鍛錬を行う姿を見た。その剣筋は基礎に忠実であるが、才能を感じるものであった。恐らく霊術院に入るまで剣には触れて来なかったのであろう。霊術院に入り剣の基礎に触れ、それを忠実に守り続けて来た結果だと思われる。

 

 惜しい、と思った。彼には確かな剣の才能を感じる。基礎は確かに重要であるがそれだけでは強くなれない。私の持つ剣術の一部を教えた。

 今思えば、強くなった彼と斬り合いたいという欲望もあったのかもしれない。

 

 

 休みなく働き続けた彼はすぐに副隊長になった。異例の早さであるが、彼の持つ霊圧や功績などを考えると妥当だろう。回道の腕はまだまだ未熟ではあるがその高い霊圧で回復任務も立派にこなしている。

 剣の稽古も時たま見ていた。本当に筋が良い。それと努力の塊でもある。どんどん伸びていく。いつか自身を越えるのではないかと思わず昂る自分がいる。

 

 …が、相変わらず彼のことはよくわからない。一度虚の討伐任務を見たがとにかく早く終わらせることに全力を注いでいる様子であった。とても斬り合いを楽しんでいるようには見えない。

 

 一度、別の隊に行けばすぐ隊長になれると彼に言った。彼にはその実力はある。四番隊には回復の役目を求められているため難しいが、他の隊…特に十一番隊である。そこならばすぐ隊長へと上がれるだろう。

 その高い霊圧に裏付けされた実力は既に隊長並と言っても過言ではない。卍解が未修得であるのが足を引っ張るかもしれないが彼の霊圧ならすぐに習得できるだろう。もしやすると隠しているだけで既に習得しているのかもしれない。

 

 しかし彼は即座に否定してきた。四番隊が良いのだと。本当によくわからない。戦闘が好きなのではないのだろうか。

 彼に稽古をつけた夜は傷が、疼く。

 

 

 そしてあの戦が起こった。滅却師掃討作戦。彼の持つ役割は前線での回復と戦闘であった。前線での回復は応急措置さえすれば後方で本格的な治療を行うので彼の実力に丁度良いと言える役目であろう。

 戦闘の方も彼の実力とあの斬魄刀があれば問題ないと思われる。私は彼にその役割を任せ、後方での治療に専念していた。

 

 

 次第に戦いが激しくなり、前線での治療役がもう少し欲しいと言われ、私が出向くことになった。

 

 

 そして、そこで目にしたものは素手で戦う彼の姿であった。

 

 その戦い方は溢れ出る霊圧に身を任せ敵を叩き潰す、理も術も無い獣の戦い方。更木ではそのように戦っていたということが容易に想像できる。

 

 恐らく長きに渡る戦いで昔の記憶が呼び起されたのであろう。剣を捨て、荒れ狂うその姿はあの修羅の世界、更木に相応しいものであった。

 

 しかし、辺りの敵を倒し終わると彼は、後悔するかのようにまた剣を取った。

 

 嗚呼、理解した。彼は()()()()()()()剣を取ったのだ。

 

 長きに渡る更木での生活。そこで彼が何を考えていたかはわからない。ただそこで彼は一度獣と成り果てたのだろう。

 

 しかし彼は人に戻ることを望んだ。霊術院にて彼が最初の白打の授業で相手役に酷い怪我を負わせたという。その時より彼は剣の授業に邁進するようになったらしい。彼にとって拳は獣の象徴、剣の理は人の象徴であるのだ。

 

 そして四番隊へと入隊したのも人に戻るための一環であろう。人を回復する、それこそ彼の求めていた人の心。霊術院では習得できなかったものを求めて必死に努力したのだろう。彼が四番隊に執着するのもわかるものだ。

 

 

 ――ここに彼の名は決まった。彼を呼び、名を与える。名こそが人の証。名付けこそ獣から脱却するための一歩。

 

 剣人(けんと)。剣八と似て非なるその名前。剣を以って人と為る。剣八の名は与えない、与えてはいけない。

 あの名は正しく剣の獣となった者の名。私と全く違う目的で回道と剣術を得ようとする彼に、私の技術を教えようと本気で思った。

 

 獣に堕ちた私にとっては、人に戻らんとする彼の姿は少し眩し過ぎる。しかしだからこそ、彼が人へと戻れるように私の技術を教えたい。

 

 私にとっては戦いこそすべて。その戦いの技術によって彼を人に戻せるというのなら喜んで私の技術を差し出そう。

 彼が人へと戻れるのなら、私も人へと戻れるのかもしれないのだから。

 

 

 ――嗚呼、しかし私は剣によって獣となった。いつか私の全てを教えた彼を斬りたいと、斬られたいと思ってしまうのです――

 

 


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