陽務楽郎と天音永遠がもしも付き合っていておうちデートをしたら。

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もしも二人が恋人ならばこんなふうな悩みをお互いが持つ日が来ていたかもしれない。そう思って書いた二次創作です。


いい日の二人

 今日はとてもいい日だ。

 互いに忙しい中今日は珍しく外での顔合わせではなく、なんとか取り付けた室内での顔合わせだ。

 というのも、お互いの色々が限界に達したのだ。

 

「こんなもんでいいかな」

 

 簡単に部屋を片付けソファにお気に入りのクッションを置き、何度も確認したのにお茶請けなどを確認している。自分でも笑っちゃうぐらい落ち着かない。

 

 「最近仕事忙しそうだったからね」

 

 コーヒーメーカーを簡単に準備しつつここ最近の出来事を思い出す。

 互いの仕事柄視線に晒される機会が多く、その上で私の性分としてファンサは外せない。

だからこそ、普段外部摂取ニトログリセリンで集中力を増して視線が気にならない彼は、私のファンサに付き合う際に戸惑いと多少のストレスがかかってるようだ。

本人は寝たらある程度気にならないタイプだと思っていたらしいけど、いつもよりもパフォーマンスが落ちてるってこの間話した時に遠まわしにだけどカッツォ君に言われた。

 

 だからだろうか、たまにはお互い視線などに晒されない環境と言う話になった時に、珍しく彼の方から提案してくれたことに驚いたものだ。

 

「んーじゃあ、家とか?」

 

 私としてはカラオケとか娯楽施設、その中でも個室の場所が案に上がると思っていたが、まさかの家。しかも可能なら私の家という普段なら、こういうことに対してある程度の線引きをする彼からの言葉。冷静を保ちつつも口角が上がるのを悟られないように、少しの間とともに了承の返事をした。

 

「今にして思えば、内心疲れてたんだろうな」

 

 彼は疲れるときは疲れた、ダメな時はダメとはっきりという。だけれど本人が気づいていない疲れなどに関してはテンションに任せて無理を通す。あの時の話はそのサインだったのだろう。私としたことが彼が来るということが嬉しすぎてそのことに気づくのに1日を要した。

 

「さて、もうそろそろかな」

 

 さくっと鏡で整え、疲れているであろう彼を優雅に待つとしよう。

 

 

 

「お邪魔します。……えっと、はいこれお土産。」

 

「ありがとう、さあ、上がって」

 

 今日はいつもと違って最近狂信じみてきた可愛らしい協力者から、自分で真面目に選んだと聞いて見るまで言わないでと頼んであった。ほとんど初めてと言っていい彼がそのまま選んだ服装。

私が知らない彼の服装は、やはり私の知る彼のセンス通り、けしてダサいわけではないが、程よく手を抜いた紺のジーンズに青のパーカーと、同一色を選んで冴えない。

 それでも、オフ日であることを考えてそんなにつつくことはないだろう。

 

「案外片付いてるんだな」

 

「ふーん?それは私の部屋が汚いと思っていたってことだよね?これでもトップモデルだよ、有事に備えて部屋をある程度綺麗にするのは当然でしょ」 

 

「瑠美が服のためにひと部屋使ってるから、トップモデル様ともなると服の山でも出来ているのかと」

 

「まあね、マネキン買いを躊躇いなくやっちゃうような楽郎くんにはわからないかもだけど、ちゃんと別の部屋に種類ごとに分けて仕舞ってあるよ」

 

 いつもの軽口。それでもここ数年でお互い丸くなったのかやんわりとした言い合いで終える。

 準備しておいたコーヒーメーカーにコーヒーを準備し、お土産にと受け取った箱には苺のタルトとチーズケーキ。

一つずつ皿に盛り付け、トレイで運ぶ。

 

「可愛くて綺麗な彼女様が、大事な彼氏様のためにティーセットを用意してあげたよ」

 

「可愛くて綺麗だけど外道要素強すぎて濁ってないかそのティーセット。とりあえず、ありがとう」

 

 対面に座って軽い談笑、いつもの軽口、お互いが変わることのない、しかし変化してしまった関係を気にせずに入れるひと時。

スリルがあるわけではない、花火のように派手になわけでもない、それでも私にとってとても好きな時間。

最初はくすぐったく慣れるまで顔に出さないように苦労したものだ。そんな甘ったるくも癖になる想い。

 

 そんならしくない気持ちを胸に抱くと、彼は予想外な……本当に予想していなかったことを言い出した。

 

「……時に永遠さんや」

 

「なんだい楽郎さんや」

 

「その、なんだ……ちょっと近くに寄れるか」

 

「……うん、いいよ」

 

 肩と肩が触れ合う距離。今まではお互い遠慮していたふたりっきりの距離。

 平静を装いながらもいつでも煽れるよう言葉を浮かべるが、何も告げずに彼は頭をこちらの肩に乗せる。

 

「……さすがの鉄砲玉も休みたくなった?」

 

「あー……最近はエンタメ的なところも考えて動いてけど」

 

「そういうのは慣れるまでしんどかったりするからねー……年上の綺麗なお姉さんに甘えたくなったのかな?」

 

「はいはい、綺麗で可愛い年上お姉さんに甘えたくなったなー」

 

「誠意が足りない」

 

「お前が甘えるとか言うからのったんだろー」

 

「今を煌くプロゲーマー様が彼女にだけは弱音を吐く……ギャルゲかな?」

 

「甘えても留学しなけりゃいいよ」

 

「留学するなら連れてくよ」

 

「……」

 

 お互い顔は見ない。ただ肩ごしに伝わる彼の体温と変わらぬやり取りを楽しむだけだ。

 

「あー……最近疲れたりしてないか」

 

「私?何年プロの世界にいると思ってるの、そういう体調管理もプロの仕事だよ」

 

「そういうところは素直に尊敬する」

 

 こういう時にしっかり煽れる間柄だったはずなのに、いつの間に私は彼にここまで甘くなったんだろうか。

それとも単純に好きな人からの照れくさそうな褒め言葉に素直に口角が上がってるせいだろうか。

 

「楽郎君はさ、後悔してない?私と付き合ったこと」

 

「なんだいきなり」

 

「ほら、私ってさ視線に敏感でこういう性分だから、どこでもファンサを欠かさずにこなしちゃうでしょ?一般的な……ゲーム以外ではえ一般的な感性の楽郎君にはきついんじゃないかなって」

 

「まあそうだな、初めは慣れなかったけど目当てはお前だし、なにより──」

 

 

 すっと肩から重さが取れる。視線を向けると彼がこちらに顔を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな天音永遠が好きになったから、あんな告白をしたわけで、今更どうこう言われても調子狂うぞ」

 

 

 そうだ。彼はこういうタイプだった。なんだかんだと真面目で真っ直ぐで、良い意味で裏がなくどこまで行っても私でいることを許してくれそうな、だけど同時にただ甘やかすのではなく認めてくれるそういう彼だから私は好きになったのだ。

 

 

 

「愚問だったね!いやーほら、最近調子悪そうだったから私の性分のせいだったのかなーて」

 

「ん?ああ、最近はカッツォと100連勝負を週一でやってたりして調整が上手く言ってないから、なんていうのスタイル改造中みたいな」

 

「野球のフォーム改造みたいなことしてたのね……ってことはカッツォ君……それと瑠美ちゃんにやられたかな」

 

 つまり、事の顛末としてはカッツォ君と瑠美ちゃんに一枚食わされた……気を使われたわけだ。

お互いの時間調整や微妙に詰切れない関係に手を加えたのだろう。ありがた迷惑な気持ちもあるが、多分そこまでしてようやく、彼は放送越しではなく対面で言ってくれただろう。

 

「はは……そっか、私焦ってたのかも」

 

 恋は盲目だなんだというが、この思いは刹那のように燃え盛るのではなく永遠に続けたいと思っていたからこそ、今回のわかりやすい仕掛けに気付かなかったのだろう。

ふわふわと浮ついていたことに私自身少々ショックだ。

 

「あーなんだ……ペンシルゴン、お前カッツォに嵌められたのか」

 

「そうみたい、しかもその餌はサンラク君」

 

「うわ、マジかよ今度会ったら餌代請求しとくわ」

 

「一緒に慰謝料もよろしく」

 

 とりあえずむしゃくしゃした気持ちをどうにかしたい。

 

「あいよ。で?この体勢はどういうこと」

 

 私は彼の膝に頭を乗せた。

 

「何って、傷心中の彼女を慰めるつもりはないの?」

 

「傷心の理由もなにもわからない彼氏がそれをできるとでも」

 

「楽郎君なら或いは……」

 

「生憎と俺はエスパーじゃないんでね」

 

 そう言いながらもそっと温かい手が頭を触る。先程はお互いの顔を見なかったが今度は上下でお互いの顔を見ることができる。

 

「それでも慰めようとする心意気を感じるからよしとしよう」

 

「お褒めに預かり光栄ってか。逆に俺に言うことなんかないのかよ」

 

 人を小馬鹿にするような目線をこちらに向けつつ、呆れているのか、哀れんでるのか、いつものようなアホみたいなことを考えているんだろう。

 

「じゃあ……撫でてくれてありがとうね」

 

「誠意を感じない」

 

「ふーん?じゃあ……」

 

 

 

 そっと彼の首に腕を回しそれを支えに上半身を持ち上げ、もちろん彼の頭も一緒に近づける

人前では流石に恥ずかしくてあまり出来なかったけど、それでもしたかったことを行った。

 

 あまり短くなく、しかしお互いの体温を感じる程度に長い間くっつき、そっと離れる。

いつもの人の目を気にして作る笑ではない、自分の中の花火に従って浮かべる黒い笑みでもなく、ただ彼にだけ向ける最高の笑顔。

 

「これで誠意は感じてくれた?」

 

「……っ十分に」

 

 

 ああ、今日はとてもいい日だ。

 



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