ハーメルンでも有名なとある業界の匠のお話。
ブラックな日常をお過ごしの中、ちょっとだけお時間をいただいてお話を聞かせていただきました。
おはようございます。
私が誰かわかる方、いらっしゃいますか?
いらっしゃらないでしょうね。
私実は・・・漫画やアニメといった創作物にそれなりの頻度で出演させていただいてるんですが、名前出ませんし仕方ありませんね。
はじめまして皆さん。
自己紹介させていただきますと、私、天使でございます。
どう良心的に見ても三十路過ぎのおっさんにしか見えませんが、天使です。
天使って可愛い子供のはず?
全裸や半裸でラッパをもって祝福するのはどうしたのか?
HAHAHAHAHA!!
・・・皆さん、いつの話してるんですか?
人間だって子供のころは可愛くても、年を取れば皺くちゃのおじいさんおばあさんになるでしょう?
子供のころの話ですよ、それ。
まさか三十路過ぎのおっさんに、それをやれとおっしゃるんですか?
冗談きつ過ぎですよ。
47歳のおばさんがセーラー服着て「月に代わって~」の件をやるくらいキツいですって。
私が出ている創作物なんて見たことない?
三十路過ぎのおっさん天使なんて知らない?
なるほど、もちろんそうでしょう。
画面に映っていると表現していいか、私もいささか悩むレベルの出演ですから。
でも間違いなく皆さんもご存じのはずです。
どうも、転生トラックの運転手です。
「あ」って声が次元を超えて聞こえてきますよ。
はい、転生トラックを運転している
顔をお見せする機会が、まあまずそうそうないので、ご存じなくても仕方ありません。
でも、そちらの世界の皆さんが観測している『あらゆる並行世界』で彼らを無事転生させる重要な役割を担っているのは、実は私こと天使でございます。
神様の不注意や気まぐれではないのか?
もちろん!それはかなり多いですよ。
コーヒーやシュレッダーで寿命を消し飛ばす
でも実はこれ、内緒なんですけど・・・寿命消し飛ばしてから皆さんが亡くなられるまでって、タイムラグがあるんですよ。
ほら、世界と所属は違いますが、寿命を司るノートを落として退屈しのぎをする
あの方でも最短で40秒かかるんですよ?
階位が低いとはいえ、一応神様の一柱なのに。
いえいえ、あの方の能力が低いとかいうわけではありません。
ただ、天界や死神界を始めとした異界、あるいは異界由来の力で発生した『寿命を消し飛ばす』という因が、『人間の死』という果に至るまで、どうしても発生するラグです。
たしか最短のアテナ様でも7秒で、最長の方の話は聞きませんが、1分を超える方はいらっしゃらなかったはずです。
神様がいかに優秀とはいえ、1分で失われた書類を修復するなんてできるわけがありません。
1分で修復できる程度の書類が、そもそも神様の手に渡るはずもないのですが。
話を戻しますと、このタイムラグの間、神様は何もしていないかというとそういうわけでもないんです。
だってそのままじゃ大きな問題が起きますからね。
転生者の死因が人為的なものになってしまう。
実はこれ、結構大きな問題なんです。
寿命が消失したということは、何かしらの理由で死亡してしまいます。
しかし転生される皆さんは、なぜか結構高い割合で健康体そのもの。
病状が急に悪化するなどの理由にはできないのです。
そうなった場合どうなるか?
他の何かの理由で突然死亡してしまうんです。
いるはずのない通り魔。
起きるはずのない事故。
あるはずのない刃傷沙汰。
罪を犯すはずがなかった者が、神様の不注意のせいで罪を犯す。
これ、主神様と閻魔様が怒鳴り込んでくるレベルの事案なんですよ。
寿命に関しても思うところがないわけではありませんが、神様のせいで人に罪を犯させるのって、死後の裁判で天国でも地獄でもない『虚界』という本当に何もないところに送らざるを得ないという大きすぎる問題が発生するんです。
思いとどまるはずだった人物が、神様の不注意のせいで思いとどまれず人を殺してしまう。
マズすぎるんですよ。
大昔それで一万近い神様が神格を剥奪されて、今も地獄で服役されてらっしゃいます。
そこで考案されたのが転生トラック制度です。
ある天使が休暇で現世にバカンスに出ていた時に、まあ例によって神様がやらかしましてね。
私物のトラックで寿命を消し飛ばされた人間を殺害したのが始まりなんだとか。
私たちも天使です。
当然人を殺めることに思うところはあります。
しかし、本来人を殺めることを専門とする死神様たちは、一部の稀な世界を除いて割とお忙しい方なのです。
人間の医学が発展しすぎたせいで、人口が増えすぎないように日夜働いてらっしゃるんです。
十万時間勤務がデフォルトって、もうブラックじゃ済まされませんよ・・・。
なので、天界で比較的手すきの私たちが転生トラックを運転して、現世からの旅立ちを手伝わせていただいているわけです。
旅立ち以降の皆さんがその後どうされているのかについては、完全に管轄の違う話になってきますので、私たちのところにその後の話はほとんど降りてきません。
たまに噂話で聞く程度です。
下っ端の辛いところですね。
皆さんを轢いた身としては、本当なら皆さんがお元気でお過ごしかどうか、気になるところなのですが。
神様に聞けばわかることもあるんでしょうが、互いに忙しいですからね。
私、今日だけで7人ほど轢かせていただいているわけなんですが、ちょっと神様?いい加減にしていただかないと、数か月前主神様に提出した刑罰を体感してもらうことになりますよ?
今回の刑罰は、普段仕事をしない堕天使が、珍しく張り切ってお手伝いくださいましたからね。
人間界で発売したゲームから考案したものだとか。
いえいえ、大したものではありませんよ?
ちょっと神格を剥奪してラクーン観光旅行に出ていただくだけですから。
いやはや、罰として観光旅行とは、まさしくホワイト企業の鏡です。
是非とも『体験』もしていただきたいですね。
お帰りになられた神様たちは、とても勤務態度が改善されたのだとか。
良いことです。
ところで、あそこへ転生したがる方が稀にいるそうなんですが、なんでなんですかね・・・?
特典が弾数無限のロケットランチャーだけって、火力だけで乗り切れるほど甘い世界ではないはずなのですが。
たしかにタイラントやネメシスあたりに太刀打ちする火力と言えば、まあそのあたりなのでしょうが、彼らにたどり着く前にゾンビ化したラクーン市民10万人を相手することをお忘れなのではないでしょうか。
一部は抗体持ちや頭部破損などでゾンビ化しませんが、最大級に良心的に見積もってなお1万人のゾンビがいるんですが、まさか常にロケットランチャーを乱射する気なんでしょうか?
バルブハンドルやクランクを要求した方もいたそうですが、なぜそう極端なんでしょうね。
おっと・・・お話しているうちに8人目の命令が出ました。
有給100年分くらい溜まっているんですが、いつ消化できるでしょうか。
私たちの戦いはこれからも続きます。
大変残念ながら、私たちの戦いは終わりなき残業というデス・マーチと転生トラックというデス・ドライブですが。
それでは皆さん、相変わらずセリフも描写もないでしょうが、皆さんがご覧になる次の転生作品でお会いしましょう。
お元気で。