個人的な山吹沙綾という人間の解釈を入れながら書きました。ポピパとCHiSPA、彼女の大事なものいっぱい詰め込みました。嫁の誕生日なので、必死に書いたよ……。楽しかった!
沙綾、誕生日おめでとう!

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山吹沙綾

手を振って、お礼を言いながらみんなを見送る。

 

 しばらくして四人の姿が見えなくなってからも、一人ぼっちの部屋に戻るのが何となく嫌で、玄関の前で立ち尽くしていた。そんな私を不思議に思ったのか、お母さんが声をかけてきて私は慌てて家の中に戻った。

 

 部屋着に着替えて髪を下ろして、ベッドに横になる。ついさっきまでお菓子の袋やらジュースのゴミやらで散らかっていたけれど、今はきれいに片づけられて昨日と何も変わらない。まるでここだけ時計の針を巻き戻したみたいだ。

 

 寝っ転がりながら、寂しさを紛らわすようにスマホの電源を入れる。

 カメラフォルダを開くと、小さなディスプレイに今日撮った写真が次々と表示されていく。今日一日で何枚くらい撮ったんだろう? もう自分でも数えきれないくらいだ。

 

 最初の方に出てくるのは、さっきまでここで騒いでいたポピパのメンバーたち。子供みたいにケーキにかぶりつく香澄。それを注意する有咲。口ひげみたいにべっとりと生クリームがついてるおたえ。それを拭きとってあげるりみりん。

 そんな写真たちを見ながら、本当に今日一日楽しかったとため息をつく。

 

 続いて、学校からうちまでの帰り道を歩くみんな。そして教室で色んな人にプレゼントをもらう私の写真。私が写ってるものは全部香澄が撮ってくれた。「さーやの誕生日なのに、さーやが一枚も写らないのはおかしい!」って言ってくれて、自分が写真に写るのは恥ずかしかったけど、嬉しかったなぁ。

 そうそう。学校でも色んな人に祝ってもらえてびっくりしたんだ。なによりも、今年はCHiSPAのみんなからも誕生日プレゼントをもらった。ううん。もらった、というより、もらえた。私自身が、彼女たちからプレゼントをもらうことをやっと許せた。ずっとナツたちになにかをしてもらう権利なんて、私にはないと思ってたから。

 楽しみにしていた初ライブをぶち壊しにしたことと、話し合うこともせず一方的にバンドを辞めたことへの罪悪感。それはまだ完全に消えたわけではないし、昔とまったく同じように彼女たちと話せているかといわれるとそうではないと思う。まだどうしても心の棘が抜けない。もしかしたら、一生抜けないのかもしれない。

 だれかに迷惑をかけるくらいなら、自分だけが困ればいい。そう思ってすぐに自分の本音を隠す。隠して隠して、でも結局は誰かを困らせる。そんな自分が嫌いで、だけど家のことも放っておけなくてどうしようもなくて。

 CHiSPAを辞めてからポピパに入るまで、心の底から笑えたことなんて一回もなかったように思う。いつもどこかに罪の意識が棘みたいに刺さってて、でもそれを抜く痛みに耐える勇気もなくて、ずっとそれを抱えたままだった。

 

 だけど。

 この棘が背中を押してくれたから、私はあの時走りだせたんだと思う。もう繰り返したくないから、昨日までの私にサヨナラをしようと決意できたんだと、そう思える。

 

 みんなが笑っている写真を見ると、不思議と色々なことを思いだした。

 もしかしたら、写真にも音楽と同じ力があるのかも。

 そんなことを考えながら、今日撮った写真を全部チェックして『誕生日』と書かれたフォルダに移していく。

 香澄が間違えて連写しちゃったやつとか、おたえが撮ってくれたぶれぶれの私の写真とかもぜーんぶ。

 それらをもう一度、一枚一枚人差し指でめくりながら、その時の会話や空気、においや音と一緒に自分の心に描き写していく。

 

「忘れないよ、絶対に」

 

 そう言葉にしながら、スマホを抱きしめる。

 まだまだ弱虫な、こんな私を必要としてくれたみんなとの、大事な大事な思い出だから。

 私が自分で掴んだ、私の大切な居場所だから。

 

 すると、その瞬間スマホがブーブーとけたたましく鳴いた。

 驚いて画面を見ると、LINEの通知が二十件近く来ていた。慌ててアプリを開いて確認する。

 

「……あははっ」

 

 思わず声をあげて笑ってしまった。画面の中には、ポピパのグループラインに次々と自分のスマホで撮った写真をあげていく香澄とおたえ、慌ててグループアルバムを作るりみりんと、通知がうるさくてぷんぷん怒っている有咲がいた。

 

「私も参加しよーっと♪」

 

 そう言いながら、お気に入りの写真を誕生日フォルダの中から選んでいく。

 だけど結局選びきれなくて、山のように大量の写真を送ってしまった。

 これは明日、有咲にたっぷりしぼられそうだなぁ。

 お昼休みの生徒会室で香澄とおたえと私が有咲にお説教されて、りみりんがそれを必死になだめて……。そんな光景が当たり前に目に浮かび、自然と頬が緩む。

 

 早く明日にならないかなと遠足前日の子供みたいにそわそわしながら、私は電気を消してあたたかいベッドに潜り込



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