同じ屋敷に住む少女、マドカ・ミューゼル
これは幼い頃から家族のように一緒に過ごしている二人のある一日の物語
「ん……」
とある屋敷の一室。朝日がカーテンの隙間から差し込むその部屋にあるベッドでは淡い栗色の髪をした少年が眠りについており、閉じていた瞼越しに差し込んできた光を感じたのかもぞりと身じろぎする。
しかし眠さが勝ったか、彼は布団を顔まで被って光を遮断。再びまどろみに身を任せる。
ふに
その時、少年は布団の中に異物に気づく。それは柔らかく滑らかな何か。
「ん~」
さらに何か聞こえてくると同時にその柔らかく滑らかな何かがすり寄ってくる。
さしもの異物感に眠気が飛んだか、目を開いた少年は被っていた布団を持ち上げた。
「すぅ、すぅ……」
一人の少女がいた。黒色の髪を短く切った幼さの残る様子の美少女、しかし彼女は何故か全裸で眠っており、幼さの残る顔立ちと同じく発展途上の未熟な、それでいて猫のようにしなやかな肢体を惜しげもなく晒していた。
「……」
一瞬ごくりと唾を飲んでしまうが、その少女がそこにいること自体が不自然。そしてその不自然な状況を作り出した存在に心当たりがあるらしく、少年はすぐさまベッドから降りて、少女が風邪をひかないように布団を被せる。そしてこの部屋の出入り口まで無言で移動してドアを開けると、その相手がいるだろうリビングへと駆けた。
「ダァァァリィィィルゥゥゥ!!!」
「オウ、グッモーニンオータム」
リビングに飛び込んだ少年の怒号に対し、テーブルに直接腰かけて足を組んだかっこつけたポーズでニシシと笑いながら挨拶を返すのは金髪をホーステールに結んだグラマーな美少女──ダリル。野菜スティックをカリッと齧る姿がやけに板についていた。
そして彼女はニヤニヤと笑いながら、自身がオータムと呼んだ少年を見る。
「で、なんだったか。お前らの国ではこういう時サクヤハオタノシミデシタネって言うんだったか?」
「なにも起きてねえわ!!」
「は?」
ダリルのからかい交じりの言葉にオータムと呼ばれた少年が再び怒号で返すと、ダリルは呆けたように口を大きく開けて、齧っていた野菜スティックを取り落とす。そして彼女は大仰に手を額に当てて顔を後ろに逸らすように持ち上げた。その顔には呆れという感情が満ち溢れていた。
「マジかよオメー、あんな可愛い子が全裸で添い寝してたのに襲わないってお前はそれでも男か? 日本じゃスエゼンクワヌハオトコノハジって言葉があるんだろ? スエゼンってのがなんなのか知らねーけど」
「やっぱお前の差し金じゃねえか!!! ってかマドカに何をした!?」
「んにゃ? そこの酔っ払い共が昨日の夜明日、つまり今日は休みだからって宴会してただろ? その時ちょっと酒を分けてもらってマドカに飲ませて、マドカが酔っぱらって寝たから身包み剥いでお前のベッドに放り込んだだけだ」
そう言ってダリルが指差す先ではたしかに金髪を長く伸ばした美女と、茶髪をこちらも伸ばした、どこかオータムに似た顔立ちの美女が床に直接寝転がって申し訳程度にバスタオルをかけて眠りこけている。
二人とも相当の美女なのだが大口開けて「グゴゴゴゴ」「グガガガガ」と大イビキかいて眠っているだらしないにも程がある寝姿がその美貌を台無しにしていた。
「スコール様、礼子
その姿を見たオータムが呆れた様子で額に手を当ててうつむくと、ダリルが取り落とした代わりに取った野菜スティックをポリッと齧る。
「つってもまさかお前がそこまでヘタレとはなぁ……お前もそろそろ恋人の一人や二人作ったらどうだよ。オレみたいにさ?」
ダリルはそう言って勝ち誇ったような笑みを浮かべ、何故か抜群のスタイルを見せつける。しかしその姿を見たオータムがハッと鼻で笑った。
「この前振られた癖に」
「なっ!? ち、違うぞ! あれは間違いなくオレから振ったんだ!! 大体最近の男ってのはどいつもこいつもなよなよしやがって、自分より強い女はお断りだとか偉そうに! 男の癖にそれぐらいどうにかする気概ぐらい見せろってんだ!!……はっ」
オータムの言葉にダリルが顔を真っ赤にして否定、怒りに歯をきしませて吼えるがそこで失言に気づいたかはっと声を漏らすと沈黙、続けて開き直ったようにふんっと鼻を鳴らした。
「いや、別にもういいんだ! オレは女に生きるって決めたんだ!! IS学園で可愛い恋人を見つけてみせる!!」
「あーはいはい頑張ってね」
このご時世女性同士の同性愛は珍しくはない。会話に付き合うのが面倒くさくなったかあしらって自分も野菜スティックを一本取って齧るオータムにダリルはぐぬぬと唸り声を上げていた。
「フガッ」
そこに間抜けな声が聞こえたと思うと、眠りこけていた金髪の美女がむくりと起き上がり、しかめっ面で頭を押さえた。
「あ~頭いった~、飲み過ぎたかしら……あらオータム、おはよう。悪いけどしじみの味噌汁作ってくれない? インスタント置いてるでしょ?」
「はいはい」
ここアメリカの割と富豪にあたる家のはずなのにやけに日本&庶民染みた事を言い出す家主だが今に始まった事ではなく、オータムはテーブルの上に置かれていたインスタントのしじみの味噌汁の袋を二つ取り出してカップも二つ用意、中身をそれぞれに入れて湯を注ぐと、カップの一つを金髪の美女へと手渡した。
「どうぞ、スコール様」
「ありがと」
金髪美女──スコールはカップを受け取りながら、男を魅了する美麗なスマイルをオータムにサービスするが、オータムの方も微笑を浮かべて返すのみ。すっかり慣れた様子にスコールは面白くなさそうに嘆息してカップを口につけた。
それからオータムは、彼女の近くで寝ていたもう一人の美女が「うむむ」と呻き声を上げているのに気づくとさっき用意したもう一つのカップを彼女に持っていく。そして彼女が目を覚まして起き上がるのを見越してカップを差し出した。
「礼子姉ぇ、おはよう。ほら、しじみの味噌汁」
「お~、悪いな
礼子と呼ばれた茶髪の美女はカップを受け取りながらオータムこと秋也にお礼を言って味噌汁を豪快に一気飲み。「うぃ~」とだらしない声を漏らした。
「ずず……あ、そういえばオータム。一つ聞きたいんだけど?」
「なんですか、スコール様?」
スコールの言葉に秋也が聞き返す。様付けになっているが、彼にとっては姉共々両親を亡くして身寄りのなかった自分達を、父の旧友だという理由で引き取ってくれた恩人なので当然のことらしい。
そんな彼の律儀な姿にスコールはクスクスと笑い、美しい唇から言葉を紡ぐ。
「孫はまだかしら?」
「
「あぁ中学生にはちょっと早かったかしら? マドカは養子とはいえ私の子でしょ? ならその子供は私の孫なのよ?」
「ツッコミどころはそこじゃねえよ!!」
飄々と言ってくるスコールにツッコミを叩き込む秋也。それに対しスコールは怪訝な目をしながらダリルへと目を向ける。彼女も彼女で勝手にインスタントのスープを準備して飲みながら野菜スティックを齧っていた。
「ダリル、昨日ワイン分けてあげたでしょ? ちゃんとマドカに飲ませたの?」
「飲ませたし酔っぱらって寝たから身包み剥いでオータムが寝てたベッドに放り込んだよ。けどこいつが思ってた以上のヘタレでなぁ、手を出さなかったらしい」
「あらまあ。今度はオータム自身も泥酔させた方がいいかしら?」
「本人を前に変な企みすんのやめてくれないかな!?」
本人を挟んで法に触れそうな事を企む親代わり&姉貴分の言葉に秋也もツッコミを叩き込む。礼子は我関せずの様子でニヤニヤと笑いながら眺めていた。
「オータム……」
するとリビングの入り口からそんな今にも消え入りそうな声が聞こえてくる。呼ばれてついそっちに目を向ける秋也だが、その目がぎょっと見開かれた。
「あたまいたい……」
そこにはマドカが寝ていた時と同じく全裸で、右手で控えめに頭を押さえながら立っていた。目はしょぼしょぼしているし声も抑揚がなく、昨夜ワインを飲まされたという酔いがまだ残っているのか完全に寝ぼけている様子だった。
「マドカお前少し隠せ馬鹿!」
「さむい……」
「そうだろうなぁ!」
グラマー体型のダリルと比べれば凹凸のない未成熟な身体だが晒していいものではなく、しかも寒いと当たり前の反応を寝ぼけながら行う彼女に、秋也はツッコミを入れながら、さっきまで礼子がかけて寝ていたバスタオルを拾って彼女にかけてやろうと歩き寄る。
「うみゅう……」
「マ、マドカ!?」
その歩き寄って来た秋也にマドカは突然抱きつく。いくら未成熟とはいえ何も遮るものがない柔らかさを自分の服越しとはいえ受けた秋也の顔が赤くなり、さらにそのままマドカは彼の身体に頬ずりを行い始めた。
「オータム……あったかい……」
「寝ぼけるなマドカちょっと落ち着け!」
ゴロゴロと喉を鳴らして懐く猫のようにすりついてくるマドカに秋也が慌て出す。その横では礼子とダリルが腹を抱えて爆笑し、スコールに至っては「カメラ持ってこなきゃカメラ」とか言ってどこかに行っていた。
「う、みゃあ……」
するとマドカの動きがぴたりと止まり、彼女はぼーっとした目で秋也を見上げる。
「オータム?」
「目が覚めたか? ならまずは落ち着いて俺から離れてこのバスタオルを羽織るんだ」
「へ? どゆこと?」
「いいから。絶対に自分の身体を見下ろすんじゃないぞ?」
「見下ろす?」
秋也の身体で温まったおかげで脳が活性化したのだろうか。しかし目は覚めたとはいえ酔っていた&寝ぼけていたのコンボで現状を把握していない様子のマドカに秋也は落ち着け離れろバスタオルを羽織れと命令。しかしさらに続けての念押しを受けたマドカがきょとんとした様子で、落ちついて離れるまでは指示通りだったがその次の命令に背いて自分の身体を見下ろしてしまう。
「……」
瞬間、自分が全裸になっている事に気づき、しかもさっきまで秋也に抱きついていたという事が明らかなマドカの顔が真っ赤に染まりあがる。
「にゃああああああああああ!!!!!!」
そしてマドカのどこか猫のような叫び声が響き渡るのであった。
「ダリルゥゥゥゥゥゥ!!!」
「ダッハハハハ! いや悪かったから落ちつけってハハハハハ!!」
「笑いながら言われても納得できるかぁぁぁぁぁっ!!!」
自室に飛び込んで黒色のワンピースに着替えたマドカは一本の木刀──この前日本旅行に行った時に記念として買ったものだ──を振りかざしてダリルを追いかけ回す。ダリルは爆笑しつつ逃げながら謝っているがそれが逆に彼女の中の怒りという火に油を注ぎまくっていた。
「……」
対して秋也はマドカの機嫌を直すために朝食メニューでは彼女の好きなベーコンたっぷりベーコンエッグとフレンチトースト、そしてホットココアを作っていた。
「ねえねえどうなのオータム? マドカ可愛かったでしょ? 私はいつ孫が出来たって大丈夫よベビーシッターくらいいつでも手配できるようにしとくから心配なんていらないわよ」
ただしその後ろでスコールがめっちゃニヤニヤしながらからかい交じりに煽ってきているわけだが。秋也は無心で料理を作っていた。
巻紙秋也とマドカ・ミューゼル。友達以上恋人以下、家族同然の二人の一日が、今日もまたいつものように始まるのだった。
なんとなく
・平和な世界
・亡国機業善玉化
・オリ主×マドカ
というネタで一本書いてみたくなったから書いてみました。
というか前々から思いついていて、秋也の設定も出来上がってはいたんですが。原作介入型の話を予定してたけど二人の使用するISが思いつかなかった(流石にこの世界観でマドカがサイレント・ゼフィルス使用はアカンやろと判断した)からお蔵入りしてました。
しかし今回書きたくなったから一話だけ日常ものみたいなノリで書かせていただきました。というか実はこれ自体は一ヶ月前にほとんど書けていたんですがどうしてもオチが思いつかずに、秋也が朝飯作りながらスコールに煽られてるとこまでで投げてて、でもここまで書いたのに没とか勿体ないと思って投げっぱなしのオチで投稿しました。(ややヤケ)
ぶっちゃけ、一ヶ月前に完成してた本文に投稿前に新たに追加されたのって「巻紙秋也とマドカ・ミューゼル。友達以上恋人以下、家族同然の二人の一日が、今日もまたいつものように始まるのだった。」のオチの一文だけです。正直完全に投げたと言っても過言ではありません。(開き直り)
さて自虐含めた愚痴はこの辺にしまして。
本作は大元のネタ通り平和な世界観。結局話の中では出せませんでしたが、本作の
そして本作でオータムの名を(ニックネームという形で)襲名したオリ主こと巻紙秋也は姉と共にミューゼル家に居候、マドカは本作では訳あってスコールに拾われて養子になったマドカ・ミューゼルとして、そして同じく居候ポジにスコールの姪と明言されたダリル・ケイシーの五人家族みたいなノリでのんびりぐだぐだと暮らしています。
秋也とマドカは巻紙家及びミューゼル家の公認カップルで、この二家の目下の楽しみはオータムとマドカをしっかりくっつける事。そのために日々からかい尽くしてます主に秋也を。(笑)
今回は短編のため連載は一切考えておりません。というか上で言ったように原作介入型で考えてたんですがオリジナルISが思いつかないとか、それ以外にも色々ありますので……続きはあまり期待しないでいただきたいです。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。