ボーイ8メンタルアウトアウト   作:真夜中のミネルヴァ

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大露天風呂で4

         ⅩⅩⅡ

 

 

 まだお下げ髪の似合うキュートな少女は葦簀の前に仁王立ちになると、今度は自分の方から男子生徒たちを挑発し始め、それにのってしまった男子との間で壁を挟んでの罵りの応酬となった。

「テメー、田野倉だろっ、万年幼児体型のっ、俺らの会話を盗み聞きするとはいい度胸じゃネェかっ!」

「聞いてたんじゃなくて聞こえてたんだよっ、あんな大声で喋ってりゃあ聞きたくなくても聞こえるにきまってんだろ、バーカ」

 田野倉美麗(ミレイ)、十四歳、常盤台中学の女子新体操部副部長で、二組女子の切り込み隊長を任じている。小柄だが自他ともに認める武闘派だった。怒気には怒気で、罵声には罵声で返しながらも、少女の表情からは明らかに余裕が感じられる。

 自分の方が優位にあると確信するものの顔をしていた。

「フッフッフ、愚かな男子諸君に告げる――」

 少女はついに切り札を使うタイミングだと判断したようだった。

「今、こちらには御座(おわ)すお方をどなたと心得るかっ……誰あろう、学園都市の女神、食蜂操祈先生にあらせられるぞっ! 一同、頭が高いっ! 控え、控えおろう!」

 時代劇を模したセリフまわしには、誰もが知るあの歴史的長寿番組のテーマ曲が操祈の耳にも聴こえてくるようだった。

 明らかに動揺したのか、とたんに男湯がしーんと静かになった。

 ちょっとした間があって――。

「ホントに操祈先生、そこに居るの?」

 少年たちからはさっきまでの威勢は見る影もなく、声をひそませ不安をにじませた調子になっていた。

「先生、居られるんですかぁ?」

 今度は葦簀越しに操祈に直接、尋ねてくるが、少女たちは自分の口に人指し指をあて、操祈には何も言わぬようにとサインを送っている。

「タワけっ! 分をわきまえよっ、操祈先生はお前たちのような下賎な輩と直接お言葉を交わされることなどないと心得るがよい」

 してやったりの少女はますます芝居がかって言った。

 その合間に操祈は黙って湯から上がることにした。

 水音が立って少女たちが音のする方を振り返ると、肩口から下、白い肌が見事にピンク色になった操祈の背中が目に映った。豊満な胸が体の動きにやや遅れてついてくる、その揺れ具合が細身の体に痛々しく見えるほど重たげな量感をあらわにしていて、居合わせた少女たちの心を奪っていた。

「先生……お美しい……」

 前線で男子とやりあっていた少女も思わずため息をつくように言って、

「オイ、ホントに先生、居んのかよ……」

 葦簀の向う側でも少年たちが当惑したように囁き合っているのが聞こえてくる。

「だから言っておるであろう、私は嘘などついてはおらん。先生は私たちの前で、一糸もまとわぬ見事にお美しい裸身を御示しになられたのじゃ、ああ、ありがたや、ありがたや……どうだ、オマエたち、うらやましいかっ! うらやましいだろう? だがうぬらのような下衆どもは、たとえどんなに長生きしたところで、あのようにお美しい方の隅々まで目にすることはけっしてないのじゃ、ザマーミロぉっ!」

 

 操祈はひと足先に内湯の洗い場へ移動したつもりだったが、すぐに後に従った少女たちによってあっという間に周りの洗い場も埋まってしまい、あぶれた少女の数名が彼女の背後に屯するかっこうになっていた。

 いかな大浴場とはいえ、さすがに十数名分の水栓はなかったのだから仕方がないが、何を思ったかその中の一人が、

「じゃあ私、今日は先生の湯女(ゆな)やらせていただきまーす」

 などと、余計なことを言ったものだから、他の少女たちも「あたしもっ!」とばかりに寄せてきて、また操祈のまわりは穏やかならざることになってしまった。

「湯女って、そんなっ、いーのよ、もうそういうのはっ」

 操祈は固辞したが、

「いーんです、いーんですから、まかせて下さいってば、ウチらやりたくてやってるだけなんで」

 そう言いながら既にボディソープを含ませたスポンジで操祈の背中を擦りだす。

「じゃあ、あたしっ、先生の御髪(おぐし)、洗いますね……わーキレイな髪ー……いーなー……」

 是非もなく別の誰かは操祈の髪にシャンプーを注ぎはじめた。

「お肌、もっちもちのすべすべぇ……」

 同性の気安さで体にまで触れられて、すぐに操祈の声は哀調を含んだものになってしまっていた。

「ホントにいいの、ねっ、わたし、自分でできるから……」

 操祈の腕を取って撫でていた誰かが、とうとう胸にまで手を伸ばしてきて、操祈は「きゃっ」と悲鳴をあげてしまった。

 レイの手にも似たやわらかなタッチで操祈の乳房を下から支えるように包むと、指先が乳先をくすぐるようにやさしくあやしていた。

 たちまち肉の蕾が目覚めて固さを増してしまい、操祈は慌てて少女たちの腕からのがれると、胸を庇ってキッとなった顔を向けるのだった。

「もうダメっ!」

「えー、もうちょっと先生の体に触っていたいのにぃ」

 少女たちはぐずったが、操祈は今度ばかりは譲らなかった。放っておくと何をされるかわからなかったからだ。

「華ちゃんたち、ダメだよ、操祈先生を虐めたら。先生だって女の子なんだよ、大切な人のために操立てしてるんだから、女だからって体に勝手に触ったりしちゃイケナイの」

 隣の少女がシャンプーの泡だった頭を洗いながら助け舟をだしてくれた。クラスの女子の中でいちばん発育が良く、すでに大人びた雰囲気を放っている美少女の舘野唯香だった。

「ですよね、先生?」

「え? ええ……」

「ほらね、先生にはやっぱり好きな人が居るんだよ」

 とたんに「やっぱりそうなんですか!」と、居合わせた少女たちが一斉に操祈の方を興味深げに見つめていた。

「わたし、そんなこと言ってないわ……」

「でもわかりますよ、だって私にだって好きな人ぐらい居ますから……私だけじゃないです、遥果ちゃんもそうだし芳迺ちゃんもそう……ね?」

 唯香に名を呼ばれた二人の美少女が頷いていた。

「女だったら気がつきますよ。去年の春と今とでは、先生の表情がぜんぜん違うってことに……ずっと女らしくなって、さらに綺麗になって……男の子にはわからないことでも女子なら気がつくことっていっぱいあるんです……操祈先生がもう大人の女の人になってるってことも……」

 操祈がドキっとさせられることを少女がさらりと口にしていた。

「きっと男の子たちにとっては凄いショックなことかもしれないけど、でもわたしは嬉しかったな……先生も女の人なんだって分かって……」

 

 




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