ⅩⅩⅥ
少年はまたあやしい笑顔になって言った。
「昨夜先生に送ったメッセージ、最初は“竹林で
「……?……」
「ね、わからなくなっちゃうでしょ? だから……」
「どういうこと……?……祠を待つって、これから何かここに来るの?」
少年はまた大人びた笑顔を向けると、操祈の手をとって竹林の中へと入っていく。
「どこへ行くの――?」
「すぐそこですから……」
少年に連れて来られたのは竹林の中にある巨樹の朽ち木跡だった。
少なくとも樹齢数百年は経ていたものか、往時は幹周りが十メートルはあったであろう大木が、だいぶ以前に何らかの理由で枯死したのだろう、今は高さ数メートルほど岩のかたまりのようになって取り残されていた。
旺盛な繁殖力をみせる孟宗竹も遠慮するかのように巨木跡のまわりだけは空間ができていて、足下には雑草の類いも寄り付かない。
どことなく神聖な雰囲気のある場所だった。
祠、のイメージとは少し違うが、
「ここがそうなの……?」
「先生はここに立って……」
少年は操祈を朽ち木の壁の前に立たせた。
「ここまで来れば大丈夫かな……?」
少年は周りを見回してあたりの様子を窺っている。
「でもやっぱり声は立てない方がいいか……」
言いながら、いきなり操祈のニットシャツの裾をつかむとスカートの中から引っぱりだそうとする。驚いた操祈が声を出そうとして、少年からはしーっと、
突然のことにどうしていいか判らずに、操祈は悩ましげに長い睫をぱちくりさせて、されるままになっていた。
やさしい目をして自分を見つめる少年と視線が重なると大きな瞳を泳がせてしまう。
そうしている間にも少年の手はブラのホックを外してしまい、解き放たれた乳房にじかに触れてきたのだ。
「イヤならイヤだって言ってくださいね」
乾いた掌が操祈の乳房のひとつを下から上へ、外側から内側へとやさしく撫でていて、くすぐったくも甘い刺戟に操祈は息を乱しながらうったえた。
「……ずるいわ……そういうのって……」
大好きな人から可愛がられて、イヤって言えるはずが無いのをわかっていながら、こういう時ばかり女に選ばせようとする。
巧みな指に乳先をなぞられて、一瞬で全身の肌が粟立ってくるのがわかるのだ。
操祈は目を閉じて心地よい感覚に堪えた。
その耳許で少年はささやく。
「ボクの言った祠っていうのは先生のことだったんですよ……正確に言えば、先生のだいじなところ、ボクにとってもとても大切なところのこと……」
「――?――」
「とても美しい女性の性器を、神聖なものとして祠に喩えることもあるそうなので……」
操祈の戸惑いをよそに、背後にまわりこんだ少年は両手をシャツの中に入れてきて、彼らしいやり方で乳房を丹念に愛しはじめた。
操祈の体に官能の火をつけるときの本気のタッチになっている。次にどのようなことをされるか知っている体が色めき立って今にも奔り出そうとしていた。
「昨日の続きをしますか――?」
そんな中で少年は誘惑してくるのだ。
もしも拒まなければ操祈はこのまま丸裸にされて、また恥ずかしい愛撫に我を忘れて乱れてしまうことなるにちがいない。
いつ、誰かに目撃されてしまうかもわからない野外で――。
そんなことができるはずもなかった。
けれども――。
でも誰にも見つからないかもしれない……こんなところまで人が来るはずが無い……。
そんなふうに考えてしまう自分が居るのだった。
この上なく甘美な果実の味を知ってしまった今、それを知る以前の自分には戻れないことを操祈はあらためて思い知らされていた。
教師としての義務感も、女の虚飾もなにもかもかなぐり捨てて、のめり込みたい、官能の淵をどこまでも深く沈んでしまいたい、そのためなら何を失ってしまってもかまわない。
操祈の一部は、確かにそれを望んでいるのだった。それが判って彼女は恐ろしくなった。
少年の手がスカートの中にまで忍び入ってきて、内腿をじっくり撫でながらさらに奥へと進んでいる。
女の欲望の源を目指していた指が、ついに肌着の中にまで分け入ろうとした時、操祈は自身の中にある勇気をかき集めて拒んだ。
「だめっ……あんなこと、ここでなんて……」
スカートの上から少年の手を抑えて、すっかり朱らめた顔で乱れた息づかいになって必死にうったえる。
両脚の間をかたく閉ざして。
すると少年は意外にも操祈の願いを聞き届け、あっさりと退散してくれたのだ。
少年にしてみれば、美しい年上の女性の葛藤をしっかりと見届けられただけで、自分の力を確認することができて満足だったのだが、そんな事情を知る由もない操祈は自分の思いが通じたことに安堵していた。
さもなければ自分が本当にどうにかなってしまいそうなくらい、追いつめられた気持ちで居たのだ。
体が心のコントロールを振り切ろうとしていて、心が体に引き摺られてしまいそうになる。
今の操祈は、そんなアンバランスな状態に簡単に陥ってしまうのだった。
「じゃあ、においを分けてくれませんか……?」
少年はやや掠れた声になって、また別の提案をしてきた。
「……?……」
「先生のこんなに可愛い顔をみせつけられちゃったら、どうしてもにおいが恋しくてたまらなくなっちゃった。それだけならいいでしょ?」
何を求められているかはすぐに分った。少年の好色な性向を体験を通してもうよく知っているからだ。
ちっちゃい悪魔、女の天敵、そんな少年を操祈は誰よりも愛してしまっている。
「ボクが先生のにおいが大好きだってこと、いやなニオイがするなんてこれっぽちも思っていないってことを信じて欲しくて」
応える代わりに操祈は長い睫に女の哀しみを宿して、愁いに翳る瞳を伏せた。
「それ以上のことはしないって約束しますから……」
言い残すと少年は、操祈のふんわりとしたフレアースカートの中に潜り込んでくるのだった。