ライダーとセイバーの対決と同時刻。ある男と女の二人組はその戦いの様子を一つ山の向こうで見物していた。
「終わったようだ……」
戦いの終結を見届け、男はそう漏らした。
男は黒いローブで顔を隠し、戦闘用の装束を着ている。この男『アサシン』と呼ばれるクラスのサーヴァントだ。その瞳は紅く光り、そこに独特な紋章が浮かんでいる。
「『ヒルデ・ラインハルト』と言ったか? どうやら勝負は引き分けたようだ」
男は断崖に立っって振り向かないまま一緒にいた女性に声をかけていた。
「すごいな。ここから戦いの様子が見れるなんて」
女性は手袋をつけ青黒いスーツを着た、青い瞳に肩に届く茶色い髪をしている。そして手には竹刀が握られていた。
彼女の名は『ヒルデ・ラインハルト』と言う。
女性はアサシンの後ろの岩場に座っている。彼女はアサシンのその視力にとても感心していた。
「ヒルデ・ラインハルト……」
「あぁ、ヒルデだけでいい」
「では、ヒルデと呼ぼう。さっきの問いの答えはそう難しくはない。俺がこの瞳を持っているからだ。この瞳はあらゆる特殊な力の流れを色で写すことが出来る。遠くの戦闘であれ、その色の流れははっきりとしている。それが理由だ」
「そ、そんなことが出来るのか…………」
「そしてサーヴァントであるからか、それとも召喚の影響なのか、どうやらそこまで視力は衰えていない様だ」
「その能力は視力云々の話なのか?」
ヒルデはどうもアサシンの言うことがいまいちピンとこなかった。第一、瞳に特殊な能力を持つアサシンなど聞いたことがない上にその瞳の正体が全く分からないのだ。しかも最後の深みがある言葉も真意もつかめなかった。
「目に力を持っている英霊や悪魔、怪物はたくさんいる。しかし魔力を色で見通す目を持った人物など知らんぞ。ましてや暗殺者としてならなおさらだ。真名がまるで分からない」
ヒルデはアサシンに少し強張った口調で言葉を返す。するとアサシンはその紅い瞳のままヒルデの方を向いた。
「俺はこの時代においては、他の語り継がれる英雄などより遥かに歴史が浅い。今のお前に言ったところでわかりはしないさ」
「せめて名は言ってくれないのか? どうしてそこまで隠す?」
「隠しているわけではない。どうせわからないと言っている。この日本の地にいればいずれわかるさ」
だがアサシンはヒルデの問いには答えようとはしなかった。この感じだとどういっても無意味だろう。
(くっ。令呪で言わせるか、いやしかし……)
手の甲の令呪を見てそう考えかけるが、すぐさま取りやめる。こんなことで無駄遣いしてはあまりにもお粗末である。感情をぐっとこらえて、再びアサシンに話しかける。
「はぁ、わかった。真名は弱点を晒すこともありうる。お前がいずれ分かるというなら待とう」
「今は情報収集が先だ。7人のサーヴァントが召喚されているなら他6人の情報を徹底的に集める。そしてこれは生き残りの戦いだ。無理に戦い事もないことも頭に入れて置け。極端に言えば、戦いの表舞台には上がらなくてもよいということだ」
アサシンは冷静にそう言った。しかし真名については引き下がっていたヒルデだが、最後の言葉には納得が出来なかった。
「アサシン。戦わないのは認めないぞ。私にはやることがある。この聖杯戦争に参戦しているであろう、ある男を殺さなくてはいけないのでな」
ヒルデは先ほどと打って変わり、怒りで顔を引きつらせていた。その瞳には恐れおののくほどの殺意が走っていた。
「復讐か。ただ殺したいだけなら、この戦いの末を待っていればいい。戦いの最中命を勝手に落とすかもしれん、そして生き残っているのなら我らとも当たるだろう。」
「誰かに殺されるまで待てるか!!!!」
ヒルデがそう言った瞬間、彼女が持っていた竹刀の先を地面に叩きつけていた。大きな爆音と共にそこを中心に周りの地面が穴を空けてえぐれた。煙も舞い、土の焦げるにおいが立ち込める。
しばらくするとその煙も払いのけられ、竹刀の形が見えてくる。だがどうも様子がおかしい。その爆発音を起こした竹刀の刃に当たる部分が、真っ赤に揺れる炎に変わっていたのだ。燃えてしまったというよりかは、まるで木という物質から火という物質に切り替わっていたというのが正しい。
「はぁはぁはぁはぁ……」
ヒルデは息を荒立て、顔を引き攣らせていた。力を使った反動というよりかはどうも激情にかられたためと思われる。
「落ち着け、そう提案しただけだ。俺はサーヴァント、ある程度マスターの方針には従うさ」
「はぁはぁはぁ、……す、すまない……」
「ねぐらがある以上、いくら隠れていても襲撃を受ける可能性もある。情報収集のためにはこちらから打って出ることもあるだろうさ」
「そ、そうだな」
ヒルデはアサシンになだめられ、呼吸を落ち着ける。それと同時に持っていた竹刀の剣先も元の形状に戻っていた。
「感情に支配されるのが人間の常だが、お前はそれに流され過ぎだ。自身の持つ『変化』の力を他の陣営に知られたくはないだろう?」
「わ、わかってる。自分の戦法を解析されるのはごめんだ」
「ならできるだけ抑えることだ」
アサシンはそう返事するとヒルデの後ろに歩き始めた。
「拠点に戻るのか? せっかく出てきたのに、まだ他にも調べて言った方がいいんじゃないか?」
「この周辺にセイバーとライダー以外の霊体化はしているサーヴァントが数人は確認できた。微弱だがこの瞳から魔力の影が見える。しかもだ、今戦っていたその者たちにもこちらはばれているだろう。すぐにでも移動した方がいい」
「お、おい。貴様が仕切るな。私はお前のマスターなんだぞ!!」
アサシンが歩き出した後にヒルデは急いで、後を追いかけていた。
「気づいているのなら何故、我(オレ)に許しを請ずに去る? 雑種……」
(!!??)
瞬間、声と同時に空気を切る凄まじい轟音が響いた。
(馬鹿な、ここまで届くのか!!?)
その声、音にアサシンは即座に反応した。いや、反応したというよりその攻撃が来る可能性を彼はわかっていた素振りであった。ただその攻撃がここまで届くのは予想外であったようだ。
アサシンに続き、ヒルデも遅れてその攻撃に気づき反応した。その攻撃はどこからともなく飛んできた槍であった。
ただ、それが普通の槍ではない。それはもう直感で分かった。それも一本ではない。数十本もの槍が前方に放射状で二人をめがけて飛んできたのであった。
離れてはいるが、距離とスピード、その数。到底対処できるわけがない。
「しまっ……」
凄まじい速さで飛ぶ何十本の槍。突然の攻撃にヒルデは声を出す時間もない。そうしてヒルデの思考が固まる暇もなく、それぞれの槍は二人のもとに激突した。
ヒルデ、アサシン。その二人の周辺に辺り一面に衝撃波が走り、砂埃が舞い散る。その光景が攻撃のすさまじさを物語っている。
「ふんっ」
その攻撃の中、辺りの上空にどこからともなく緑色に光るエメラルドの羽を持つ金色のそれを飛行する舟が突如として現れた。
この乗り物は、二大叙事詩『ラーマーヤナ』『マハーバーラタ』に登場する黄金とエメラルドで出来た、空飛ぶ舟『ヴィマーナ』と呼ばれる代物である。
そしてアサシンとヒルデがいた位置をちょうど見える場所でそれは空中で停止した。すると、その舟に付いていた王座のあたりが輝き始め、空間から突如として黄金のサーヴァントが出現した。
そう彼は『英雄王ギルガメッシュ』であった。
英雄王は自身の出現と同時に自らの謎の異空間の壁を自分とは垂直方向で真上に展開していた。しばらくするとその異空間の壁からは黒髪の少女が突如降り立ってきた。そして英雄王の横に降り立ち、話しかける。
「どう、ギル? 死んだの?」
少女は普段の彼を知る者ならとても考えないような言動で英雄王に話しかけているのだ。
「ふん、防がれたようだな。たかだが雑種風情になぁ」
話しかけられた英雄王に手に力を込め、歯ぎしりを立てていた。
これは英雄王に対して無礼を働いた少女への怒りではない。この怒りは英雄王からして小物と思っていたまさしく目の前にいる『雑種』に対する反応であった。
その二人がやり取りを交わしている間、舞っていた辺りの粉塵は引いてくる。そしてようやく見えなくなっていたその場所が明らかになってきた。
ただ見えてきた光景は当然、凄惨なものだった。辺りの岩や土はことごとく破壊され、大きなクレーンを作ってしまっており、遠くにあった大木でさえ、その衝撃で大きくねじ曲がっていた。
ただ、一点だけ奇妙な物がギルガメッシュと少女の目に映る。その攻撃された場所の中央には、なんと自身を囲むように半透明で骨格のような形の赤いドーム状の鎧を出現させていたアサシンがいたのだ。
「大丈夫か?」
「ア、アサシン!?」
ヒルデは気が付くと、その横には苦汁の顔に歪ませたアサシンの姿があった。
「ア、アサシン。一体どうなって……?」
そしてすぐに自分たちの周りを囲う半透明の赤い壁が出現していたことに気が付いた。
今まさに絶対絶命の躊躇のない攻撃をもろに受けていたのに、よく周りを凝らすと、その出現した赤い壁に宝具は阻まれていた。
ストーリーや世界観の評価
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