数多の宝具はその赤い壁のいたるところの突き刺さり、一部、壁にひびを入れていた武器もあった。
「あ、アサシン。あなたがやったの?」
ヒルデ自身、このような数々の宝具を防げる防壁など魔術で張れるわけはないのだ。ならばそれを行っていたアサシンしかいない。
「………あまり使いたくはなかったが。やむを得ないからな」
彼は口をゆっくりと開いてそう答えていた。
そしてマスターであるヒルデの身の安全と武器をすべて防ぎ切ったことを確認すると、途端に赤い鎧の壁は瞬く間に消え去っていき、突き刺さっていた宝具の数々が金属音を鳴らして次々と地面に落ちた。
「あ、あなた……。その目変わってる……」
これがアサシンの術か何かなのか、考えながらふと気が付く点があった。それはアサシンの独特な瞳の文様が先ほどと大きく変わっていたことだった。
初めに見ていた瞳の文様は赤い中に黒く浮かぶ三つ巴のだった。だが、それとはそれらが大きくなり重なり、また違う文様を作り出していた。
そんな変化に戸惑うヒルデを特に気にすることもせず、アサシンは別の方向を睨んでいた。
彼が見据えていたその先にあるのはそれはヒルデ達を攻撃した目の前に見える黄金とエメラルドの舟の台座に座る英雄王だった。
しかし基本、自分以外の者を格下と考えるギルガメッシュにとってはそのアサシン眼光は癇に障る。
「その瞳、魔眼の類か? だがそれよりも貴様は我(オレ)に礼儀を欠きすぎたな」
英雄王は静かに語る。
「まず王、自らの極刑を拒んだこと。そして、誰に許しを請いて我(オレ)を見る」
その言葉を言った瞬間、英雄王の顔は強張り、再び英雄王の後ろに異空間が出現した。その異空間にはすでに数多の武器の先端が見えている。
そしてすぐさまそれらの武器は発射された。
しかしアサシンも馬鹿ではない。今度は先ほどとは違い、距離もそこまで遠くなく、しかも確実に攻撃が来ることが分かっているのだ。
「行くぞ!」
「え!?」
刹那、アサシンは驚くヒルデを気にせずにすばやく抱きかかえ、素早く後ろの方に跳ねた。上方に飛ばないのは軌道が読まれやすく、なおかつ身動きが取れなくなってしまうためだ。狙い撃ちをされてしまう。
飛んだ瞬間に、響き渡る宝具が地面へと突き刺さる轟音が響き渡り、再び砂芥が舞い散る。
あまりにも多すぎる武器の数々は地面だけではなく、的確にアサシンたちに目がけて向かうもの達もある。だがそれに対してのガードも欠かしていない。アサシンは先ほどの出していた赤い鎧の壁をもしっかりと展開していた。
ただし、武器の威力はすさまじく壁に当たった衝撃でアサシンたちは後ろに若干引吹き飛ばされてる様にも見える。
「無様だな……」
その様子に英雄王はほくそ笑む。その顔を傍から見れば冷静に感じ取れるアサシンなのだが、ちょっとした顔色の変化は英雄王にはお見通しである。何よりも自身から全力で逃げている様を見れば、その動じていない顔つきも逆に笑いをそそる。
「ふん。下がったところで我(オレ)の攻撃圏内から逃れられるとでも?」
「距離を稼げば、ある程度の追撃は防げる。武器をまき散らすだけの攻撃ではな……」
相手の気を逆撫でするようにアサシンは英雄王にすぐさま言葉を返す。
「お、おい、アサシン。相手を挑発するのは止めろ」
「そういうつもりではないのだがな」
抱きかかえられながら、ヒルデはアサシンの言動を注意していた。しかしアサシンはただ冷静に言葉を返すだけだ。だがその顔は大きく疲労しているのは一番近くで見ているヒルデにはすぐにわかった。
アサシンは英雄王からかなり距離を稼ぎ、木々が生えている森の中まで下がると赤い鎧の盾を解く。と同時に抱えていたヒルデを地面に降ろした。
「確かに無様ではある。だが、貴様はいままでに会った脆弱なアサシンとは少し違うようだ。盾を持つアサシンとは珍しい」
攻撃を二撃も放ち、すべてではないものの防ぎ、アサシンは生きながらえている。英雄王からすればこれ以上腹立たしいことではないのだが、アサシンのその瞳は一向に変わらないのだ。怒りよりもむしろ興味を抱きつつあった。
「はぁはぁはぁ……」
「ア、アサシン……。くそなんて相手だ。奴はいくつ宝具を持っているんだ? 一人の英雄があれほどの武器を……」
ヒルデが英雄王の無茶苦茶な攻撃に困惑を隠せず、そして彼女の横目にはアサシンが頬から汗を流し、息が荒らげている。
アサシンのこの疲れ様は、今の使っている技の反動というよりは雨あられのように降り注ぐ宝具の数々を防いでいるためとわかる。ヒルデは相手の力量を見てそう感じるしかなかった。
(どうやって勝つんだこんな相手に……)
絶望しかない。こんな相手に一体どうすれば勝利できるのだ。ヒルデがそう考えていることは彼女が浮かべている悲痛と恐怖、闘争心が混じり込んだ表情からアサシンは察したのだろう。彼はヒルデにくぎを刺す。
「……ヒルデ、言っておくが奴とは力量が圧倒的に違う。この戦いで勝つことには何も得られない。今は戦うのではなく、逃げることを考えるのが重要だ」
「わ、わ、わ、……わかってる。そ、それくらい」
ありのままに心を読まれてしまったことにヒルデはとても驚き焦ってしまう。返す言葉がちぐはぐだ。
「ふっ」
そのあまりに単純な性格に危機的な状況にもかかわらず、思わずアサシンは笑ってしまった。
「な、こんな時に。お、お前こそさっきわかりやすい挑発してただろ」
「相手は慢心屋に見えたからな、俺は奴の冷静さを欠かせようとしただけだ。……だが」
アサシンは遠く離れる英雄王を再び、睨みつける。
「だが……?」
「先までと違い、感情的には攻撃してこない。どうやら今は様子をうかがっているな。あの威力の攻撃なら構わず、何度も仕掛けてくると思ったんだがな」
「あんなもの、何度も喰らったらたまったものじゃないぞ。攻撃をしてこない分、まだましだ」
「いや、逆だ。確かにあの威力の攻撃を連撃されては敵わないのは確かだ。だがある程度の間隔で攻撃を行ってくれた方が、逃げやすくてよかった。後ろは逃げ込みやすい視界が悪い森だからな」
「な、なるほど……」
「全くやりずらい。怠慢以上に奴はすぐれた観察眼を持っているようだ」
アサシンはヒルデにそう語り聞かせながら、何やら両手を動かし特別な印を結んでいた。その行動にヒルデは疑問を抱く。
「アサシン、何をするつもりだ?」
「突破口を開く」
「突破口?」
「時間がない。仕掛けてこないとはいえ、それも時間の問題だ。今度こそ、全力で仕留めに来るはずだ。すまないが説明は後だ。俺の手順に合わせてくれ」
「あ、ああ」
「いいか。まずは俺が得物を投げた後、技を出す。そのあとお前の『変化』の魔術で雷と炎を作り、それぞれ俺が言った所に、順にぶつけてくれ」
「それでどうやってあいつを……」
「理由は後だといっただろ。とにかく切り抜けるにはこれしかない」
「わ、わかった、それでいいんだな」
何を考えているか読めないアサシンだが、赤く光るその瞳からは気迫が伝わってくる。ヒルデはそれに気押されて承諾していた。自分には何も考えが浮かばない以上、ここはその言葉を信じるしかない。
「ギル。攻撃はしないの? 相手はもうくたばるのに……」
「ちと興が乗ってきたところだ。あのアサシンはなかなかに良い。早々にケリをつけては芸がなかろう」
「さっきまではすぐにでも殺そうとしたのに……」
「まぁそういうな。貴様も娯楽は覚えるべきだ。それにああいう輩には少し慢心を抑えねばならんかもしれん」
「でも睨み合ってても、終わらないよ……」
「全く王を急かすとはなとんだ雑種を。まぁいい次の一撃を最後にしてやる。少しばかり本気を出すか」
英雄王は隣にいた少女の催促に答えると口元を大きく歪める。そして片方の手を上に掲げると、再び特殊な空間を展開した。
「う、うそ。さっきよりあの空間の数が多いぞ!! アサシン、本当に大丈夫なのか」
先ほどまではその異空間は一つのみであったが、今回は違った。その異空間の数は一気に数を増し、それに伴い空間から出てきていた多数の宝具を影は異常な量を見せている。
ヒルデに悪寒が走る。
「怯むな。恐怖を感じているのは俺も同じだ、だが集中しろ。死にたくなければな」
「ああ」
震え始めていたヒルデをアサシンは叱咤する。そして服の中から得物を複数個取り出し、手に力を込めた。
次の瞬間、英雄王からの大量の武器が発射された。
発射のタイミングと同時に、すさまじいスピードでアサシンは持っていた得物を投げる。
放ったものは小さな鉄のクナイだ。別段、特殊なものではなく丸いリンク状持ち手と先がとがった形状をしたただのクナイであった。
(そんなもので、どうするっていうんだ!?)
どう考えてもこんなもので撃ち落とすことは不可能である。それを見ていたアサシン以外のその場にいた三人はそう思った。
しかし、アサシンの狙いは違ったのだ。
キン!!!
アサシンの投げたクナイ同士はその宝具と交わる際、また別のクナイとぶつかった。すると投げたクナイ達は、全く別の方へ飛ぶ。
そのクナイの先端が向かっているのはそれぞれの宝具。正確にはそれら武器の刃の部分ではなく、取っ手の部分であった。
そしてクナイはぶつかる。
当然、ただのクナイでは宝具の力に遠く及ぶはずがない。武器の力関係により撃墜は不可能であったが、しかしながら宝具の軌道が『多少』変わったのだ。
その『多少』こそが重要。
一つ、また一つと、飛ばされる宝具たちの変わった軌道はまた別の宝具に影響を及ぼした。
ガガガガガガガガガガガッ!!!!
アサシンが放ったクナイによって初めに軌道が変えられた宝は3つ程。しかしそれは平行に直進してくる全体の宝具の軌道をさらに大きく狂わすのには十分な数であった。
ただのクナイでは宝具相手にわずかに軌道を逸らす程度だが、宝具同士の干渉なら話は変わってくる。飛ぶ方向を狂わされた宝具、別の宝具にぶつかり合い、そして空中で大きくはじけ飛んだのだ。
結果、アサシンたちにはその宝具はほとんどが届かなかった。届いたものに関しても二人の横に大きく外れて地面に突き刺さるのみであった。
「なんだと!?」
英雄王も流石に呆気にとられてしまった。
理論的に実現できる可能性はあれどはっきり言ってこのような芸当などは普通は出来るものではないのだ。わずかでも投げる位置や相手が放ってくる武器の威力などを誤ると確実に失敗するものである。
「す、すごい……」
「ヒルデ、気を取られるな! 次だ!」
だがアサシンの作戦はまだ続いている。アサシンは驚くヒルデに声をかけて次の行動を開始する。目には見えないほどの速さで特殊な印をアサシンは結んでいた。そしてアサシンは叫ぶ。
「水牙弾!!!」
その言葉を叫ぶと、アサシンを頬は大きく広がり、そして口から途轍もない大きな水流が発射した。
「こ、これは……。」
アサシンが繰り出す、技にヒルデは次々と呆気を取られてしまう。だがアサシンの目線がこちらを見つめることでヒルデは作戦の言葉を思い出した。
(そうか、だから電流なのか!!)
ヒルデは持っていた竹刀に力を込める。すると竹刀の剣先がまるで溶けるように変化し、そこには電流が発生する。そしてそのままヒルデはアサシンの意図をつかみ取るとその電流を帯びた竹刀を思い切り振るった。
振るった先はアサシンは起こした水流である。電流が水にぶつかると轟音を荒立てて混ざりこむ。
そしてうねりをあげながらそのまま電気を帯びた水流は英雄王の乗っている舟に向かった。
ストーリーや世界観の評価
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