「ギル、よけるの?」
ただその電撃を帯びた水流が向かって来ようとも少女は動揺することなく、冷静に英雄王に問う。
「ここまで多芸なのは正直驚かされた。しかしこの程度は避ける必要もあるまいて」
英雄王はそう返すと特殊な空間を今度は目の前に展開した。
ただ今度は武器ではない。そこからは光で出来た七枚の花弁が出現した。
「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)」
英雄王がそう言うと花弁は大きく開き、光り輝く。直後、アサシンたちが放った電撃を帯びた水流がぶつかる。
花弁にぶつかる水流は依然威力を損なわず、猛烈に突撃をする。しかしながら光るその花弁の効果で後ろまで控えるギルガメッシュ達には全く届いていなかった。
そして数十秒もすると水流も次第に威力を弱めていき、最後には離散してしまった。
電撃を帯びた水流の攻撃をギルなら簡単に防げると思っていた少女であったが、やはり多少は驚いた様だ。ギルガメッシュが出したその美しい宝具に興味が出ていた。
「ギル、この花弁は?」
「これはギリシャ神話にて語られるトロイア戦争の最中、アイオスがヘクトールの攻撃を幾度も防ぎ切った代物だ。元はただの青銅の盾に牛皮を敷き詰めた物らしいがな。どうやら時代超え、我(オレ)の貯蔵庫にも収納されていたらしいな」
「なるほど。なかなかの代物」
「だがこれを使ってみると妙に憤りを感じるな。これはオリジナルに蓄積された記憶か何かなのか?」
「ギ、ギル?」
「ふん、まぁよい。これはもう使うまい」
英雄王は攻撃を完全に防ぎ切ったことを確認すると、そのまま異空間にその花弁の宝具を収納し、異空間は消え失せた。そして目の前のアサシンに声をかける。
「フハハハハハ。浅知恵だな、暗殺者。この程度では我(オレ)を倒せぬとわかるだろう?」
英雄王は嘲笑った。
「おい、防がれたぞ。どうするんだ!?」
「問題ない。次準備をしろ」
攻撃が完全に無効化されたことにヒルデは取り乱してしまう。ただそれはアサシン想定内の事であった。アサシンは間髪入れず、次の行動に移る。
「水牙弾!」
アサシンは先ほどと同じ言葉を叫び、数流が発生する。
もはや打ちひしがれて場合でもない。ここまで来たのなら最後までと、ヒルデもやむ負えず攻撃に合わせた。
(こうなったらやけだ。竹刀の先もあと一発ほどならいけるはずだ)
先ほどまで持っていた竹刀は先が半分ほどまで減っていたが、ヒルデは構わずに力を籠める。今度は剣先が炎に変わった。そして同じように発生させた炎をアサシンの水流にぶつける。
シュゥゥゥーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
すると蒸発音とともに大量の水蒸気が辺り一面に発生した。そのため一気に視界が遮断した。
「ヒルデ、俺の瞳は魔力を色で見る。この視界なら問題ない。行くぞ!!」
「ああ」
アサシンの本当の狙いはこれである。さっきの攻撃はあくまで陽動的なもの。本当は視界を断つことが目的であった。
二人はその作り出したチャンスの利用して一気に駆けた。
「ふん。この隙に逃げるか。二段構えではあるが、考えが浅い」
しかし英雄王は動じない。満身創痍の者が圧倒的強者ならば逃げだすのは当たり前。だが多少興味を持ち始めたアサシンがこうも単純ではと英雄王は落胆してしまった。
「興が冷めた。追うぞ、美麗(メイ・リー)」
英雄王は逃げだしたそのまま追撃をするべく『ヴィマーナ』を動かそうとした。
「待って、ギル。奴ら来る」
だがその矢先だ。美麗(メイ・リー)は王の行動を制止した。
どうやら少女はギルガメッシュでは感じ取れない二人の気配を感じ取ったようだ。そして今まさにすぐそばまで近づいていることがわかったのだ。
刹那、視界を遮る水蒸気の中からアサシンが空中を飛びあがるように出現した。なんとギルガメッシュ達が乗っていた舟のそばに飛び込んできたのだ。
「フハハハハハ!!! 愚かすぎるぞ、雑種ぅぅ!! これでは浅知恵を通り越して阿呆だな!!」
アサシンのそのあまりにも無謀な特攻に英雄王は呆れを超えて大笑いしてしまった。
空中に跳びあがり、防御もままならない状況では先ほどの鎧をしてもこの至近距離からの攻撃は防ぎきれないだろう。
先ほどまでの自身の大量の宝具での攻撃を知っているはずなのに突っ込んでくるとはと英雄王は笑いが止まらない。
そうして英雄王は無慈悲にも特殊な空間を再度複数個展開する。そして瞬く間に武器の数々が発射された。
これでは絶対に防げるはずもない。ものの数秒後にはその宝具の数々は、アサシンの身をすべて切り刻んだ。
そう切り刻んだ筈だった。
だが
「カー、カー、カー、カー」
「なに!?」
アサシンのその体は攻撃が体に当たった瞬間にまるで溶けるように離散したのだ。直後その離散した体は無数のカラスに変化した。
「まさか、そんな身代わり……!? いやでも確かに魔力は感じたのに……。あれは正真正銘のアサシンだったのに」
感情が希薄であった少女もこのアサシンの技には驚きを隠せないでいた。今、英雄王を襲った相手はアサシンの技による身代わりだったのである。
少女の感知能力のことはアサシンは分かってわけではない。しかし結果的に自らの魔力の探知力を逆手に取られてしまうことになったことで感情が高ぶってしまった。
そしてその身代わりを攻撃している間にさっきまで視界を覆っていた水蒸気は完全に無くなった。
当然のことながら英雄王が見るその先にはアサシンとヒルデの姿はもうどこにもなかった。
「浅知恵なのは我(オレ)の方であったか。美麗(メイ・リー)よ。どうやら一杯喰わされたようだ」
「…………」
「そう機嫌を損ねるな。まぁ我(オレ)が言えたものではないのかもしれんが貴様も冷静さを保ち、観察眼を養うことだ」
してやられたというのに英雄王はむしろ嬉しそうな顔を浮かべている。やはりあのアサシンは楽しませてくれると。ただ傍らにいる少女の美麗(メイ・リー)は納得ができていないようである。先ほどから黙り込んで、うつ向いている。
「………………」
「我(オレ)自らが自嘲してやったのにな。ふふ、今回のマスターは扱いづらい。それこそサーヴァントの身になってほしいものだ」
「…………、くぅ」
「いつまでふてくされている。余興には十分すぎるものだ。また我(オレ)の財奪い合う下らぬ雑種共の戯れと思ってはいたが、ああいうのはまぎれていただけでも十二分の価値はある。行くぞ」
英雄王は少女をなだめると、『ヴィマーナ』は光り輝いて動き出した。そして轟音を出し、その場から飛び去ったのであった。
★★★★★★★★★★
アサシンと英雄王の戦いを見ていたのは、他の組も同じであった。
アサシンはこの周辺に霊体化はしているサーヴァントが数人は確認できた。』と言っていたのは事実であった。
こんな大規模な戦いを他の者たちが無視するはずがない。そもそもアサシン達も『ライダー』と『セイバー』の戦いを見ていたのだから。
ライダーとセイバーの戦いの場所を中心として、アサシンと英雄王との戦いの場所を考えたとき、その制反対側に位置するある山の頂。場所には一組のマスターとサーヴァントがいた。
戦いが終わっていたこともあり、隠れる必要がなくなったサーヴァントは霊体化を解いていた。
マスターは黒入りのスーツを身に着ける30代程の強面の男であった。そしてその横にいるのは彼のサーヴァント。背がかなり高い女性で。聖娼のような簡素な白い衣服を着けた恰好をしている。ただし、聖娼特有の女の色気というのはあまり感じられない。
戦いを見届けたその二人はそれぞれの思惑を巡らせていた。少しの沈黙を終えて先に話しだしたのは女性の方であった。
「すごい戦いだったわね。あの二組。特にあの金ピカの奴には勝てる気がしないわ……」
「ああ、そうだな」
「なによ、そっけない返事ね。そんなに私が嫌い?」
「お前を信用したわけではない。自分の意思のなく、ただ守り手を担い続けた者など特にな」
「ふーん、そんな理由で大事な大事な令呪を使ってまで私を縛ってるわけね……」
自分の現状を憂い、皮肉気味に女は男に話す。
この女はサーヴァントである。サーヴァントは魔術師でマスターと契約を結ぶが、その力は人間などとは比べ物にならない。故に抑止力の令呪があり、マスターである男はそれを存分使っていた。
彼は自らのサーヴァントに『自らのマスターを殺すな』とかけていた。その証拠に、彼の右の甲には少し欠けた特殊な紋章があった。
このような命令をするということは、サーヴァントである自身を一切信用していない証である。動きも制限されているため、不服があるのは当然であった。
「まぁ、聖杯を取ってくれさえなんでもいいけどね、『マスター』」
「敬愛されてない者に言われると、腹立たしいものだな。まぁいい、情報は取れた。帰るぞ『ランサー』……」
「はいはい」
男の言葉に素っ気なく女は答え、二人はその場を去っていった。
「来たか、ヒルデ……」
同行しているおんなに聞こえないように男は小さくそうつぶやいた。
ストーリーや世界観の評価
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