Fate/天照   作:yuto/ギルガメッシュ

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アンドロメダ

 キャスターの言った通り、数分後には二人で映画館に入っていた。もちろん隣同士の席である。

 

 そして席には定番のポップコーンとジュースをある。ただ愛を育むためとかの理由で特大サイズを二人で共有して食べていた。

 

 神無木せつは内心げんなりしていたが予算も浮くし、いつもどおりなので特には気にしないことにした。ちなみに金は遠坂桜が出しているようだ。

 

 彼が気になるのはむしろ映画館でこんなのんびりとしていることである。

 

 まだ自身は一回も戦っていないので実感が湧きにくいのは確かだが、それでも昨日の夜にはキャスターの鏡でその様子は見ていたのである。不安が収まるわけがない。

 

 

「まぁ、この映画内容にも驚かされたけど……」

 

 

『殿、なぜ私を裏切ったのですか!! なぜなぜ……なぜ!!!』

 

 

『お主には失望した。お主を愛は常軌を逸している。私のみならず私に近づく、すべての女を調べ上げ、そして……手をあげた。もはや貴様は呪いの域だ』

 

 

「うう、なぜこのお方は乙女の愛に気づかないのか……」

 

 

「これが『乙女』のやることかな……」

 

 

 今、二人が見ていたのは『時代劇』だ。ちょうどやっていたので二人で観ることにした。

 

 記憶ない神無木せつなだがこの時代劇のポスターを映画館で見たときに見ていると妙に懐かしく感じたのだ。キャスターもなにか魅力を感じたらしく、二人で見ることにした。

 

 ただ、内容があまりにもドロドロしている。昼ドラ並みに暗く重い。特に泣いている女の愛があまりにも激しすぎて重すぎるのだ。

 

 神無木せつはキャスターのいつもの能天気さから、選ぶ映画ももっとラブラブなコメディ要素が強いものを好むと思っていたので意外だった。

 

 そう思ったのもつかの間、今までのキャスター言動を考えたら、ありえると納得する。

 

 内容としてはある地方の大名とそこに使える下女中が恋に落ちるというものというB級映画だ。時代は江戸時代の初期だろうか。

 

 その女は身分が低い上で、その大名と恋に落ちたために、多くの者たちから嫉妬を受けることになる。

 

 しかし女もめげることはなく、相手を裏から次々と殺していく。それは精神的なことや、肉体的にと様々な手段を使っていた。後半になる頃にはおよそ人の心を持っているのを疑うほどに変貌していく。

 

 毒殺はお手の物、賊を金で雇い、陵辱したあげく首を掻っ切って川へと捨てる、女の目の前で両親を殺させたり、呪術を学んだりと精神異常としか思えない事もしていた。

 

「これ、時代劇の皮をかぶったホラー映画じゃないか?」

 

 内容を観てきた神無木せつなはビクビクさせながら鑑賞している。

 

 そして今見ているシーンがクライマックス。すべての所業がバレ、愛した大名自身に処罰を受けようとしていた。

 

 場所は牢獄の前。大名の部下によって、体を押さえつけられ、拘束させられている。服も純白なものに着替えさせられている。そして大名自身は刀を携えていた。

 

 神無木せつは当たり前の結末と思っているのだが、どうやったらそう感情移入できるのか女に同情したキャスターは号泣していた。

 

 

『私の前から消え失せてくれ』

 

 

 そして大名は大きく刀を振りかざした。

 

 

『いやあああああああ』

 

 

 致命傷ではないほどに、女の体は切り裂かれた。白い服が引き裂かれて場所から赤く染まる。

 

 

『がぁ、私の愛をなぜなぜ、うけとらないのですかぁぁああぁああ〜〜〜〜〜〜!!!!』

 

 

「ほら、あの女の人かなしんでいるではありませぬか。乙女の愛は、海より深い……。そんなこともわからないとはこの男、許すまじ!!」

 

 

「キャスター、目が怖い」

 

 

 女は大名自らの手で文字通り罰せられていた。その後手下の男達に引きずられ、目の前の牢へ投げ込まれていた。

 

 

『そこでゆっくりと死ぬがいい、暗い地下牢でその傷の痛みをかかえながらで今までの他の者たちの受けた報いを……』

 

 

『ああぁあぁぁあぁ、殿のぉぉぉ……』

 

 

 そして結局、下女中は負わされた傷をそのまま衰弱して死ぬというエンディングを迎えた。 途中、女は牢屋の檻にしがみついて目を血眼にして何度も何度も殴ったり噛んだりして檻を壊そうとしていた。手と口は血で染まり、女はもはや人間とは思えないものになっていった。

 

そんなものを見せられて神無木せつなは完全に気分がダダ下がりであった。しかしながらキャスターは終始ずっと映画に熱中していた。

 

「キャスター、お前すごいな……」

 

「きゃん、なんのことかは存じませんが素直に褒められると嬉しいものですねぇ」

 

 

 

 

 映画のエンドロールが終わると薄暗かった映画館に照明がつき始めた。そして映画が完全に終わると、続々と人が立ち上がり始めた。

 

「それにしても、ずっと座りっぱなしってのは疲れるな、さてキャスター俺たちも行こ……」

 

 神無木せつなは席から立ち上がろうとした瞬間、つながっていた手に重みを感じた。その原因は、その場から立とうとしなかったキャスターの手につながっていたものだった。

 

「どうした、キャスター?」

 

「じ、実は……」

 

 キャスターは顔を伏せたまま、神無木せつなの方向を見ない。顔色もとても悪そうであった。

 

「お、おい具合が悪いのか? まさか何らかの敵サーヴァントからの攻撃を受けてるんじゃ?」

 

「……女の子の日なのです。てへ♪」

 

「~~~~~~~!!!!」

 

 そのあまりのふざっけっぷりに神無木せつなの拳がさえわたる。キャスターの頭を両手をグーにしてねじ回したのだった。

 

ぐりぐりぐりぐりぐり

 

「イタタタタ、じょ、冗談です、冗談。イッツジョークですよ。ぐりぐりはやめてくださいまし」

 

「お前が変なこと言うからだ!!」

 

「い、いえ。ちょっと外であまりにもヤバそうな気配を感じたので、本当に気負いしてただけです。しかしこのままいくとシリアスな展開になるのは明白なので、ユーモアは空気作りを心がけたまでです」

 

「え……」

 

 いつもながらただふざけているだけと思ったキャスターから驚く言葉が発せられた。

 

「お、おいどういうことだよ!?……『あまりにもヤバそう』ってなんだ」

 

 神無木せつなが聞くと、いつになく真剣な表情になるキャスター。その表情が感知したであろう事の深刻さを表していた。

 

「実は、今この地域にいる大部分の人の反応が消えているんです」

 

「はっ!?」

 

 キャスターが言ったことに神無木せつは言葉を失う。

 

「もうマスターにはお伝えしましたが、ここでは私はかなり知名度が高い。なので感知の力も随分と上がっています。人が殺されてる。これはサーヴァントです、マスター」

 

 人が死んでいる。本当にそうなのかと疑うほどに、先ほどまで映画を見ていた人たちのにぎやかで騒がしい声は絶え間無い。だがいつもふざけているキャスターでもそんな冗談は言わないはずだ。

 

「ほ、本当にそんなことが……」

 

「ええ。ですが、これとは別件でもっとやばいことも起きそうです……」

 

『ほう、流石。九尾の狐、いや玉藻前だな』

 

「!!?」

 

 キャスターの言葉が終わった瞬間、上映場所の出入り口付近で見知らぬ声が響いた。しかも突然、キャスターの真名を叫ばれたのだ。

 

「だ、誰だ!?」

 

 神無木せつなとキャスターは一斉に声がした方を向いた。そこには赤い髪の青年が立っていた。

 

「さ、さっきの声はお前だな。なんだ、なぜこいつの真名を知っている!?」

 

「さてね……」

 

「………っ」

 

 神無木せつなは彼を睨みつける。赤い髪の青年のその妙な雰囲気に加えて、男はキャスターの真名を知っている。

 

 右のキャスターを玉藻の前と呼ぶこと自体、聖杯戦争の参加者である事は間違いない。しかも真名が割られていると言うことはさらにこの男への危険度が上がる。

 

 初めての他の参加者との対峙と言うのもあったのだろう。神無木せつなは多少震えてしまっている。

 

「まさかこいつがもっとやばいことなのかキャスター?」

 

「いえ違います。確かにこの男も危険だとは思いますが、そこまで構えなくても大丈夫なようです」

 

しかしキャスターは冷静だった。この男がキャスターの言う最大の危険ではないらしい。

 

「でもな……」

 

「その娘さんの言うとおりだ。俺は別にお前らに危害を加えようとしてここにきたわけじゃねえよ。興味本位だ興味本位。しかも俺はお前が危惧してる『聖杯戦争』の参加者じゃねぇよ」

 

「…………」

 

 赤い髪の青年は自身が敵ではないと言った。がそれはそれで気になる点はさらに増えた。

 

「聖杯戦争の参加者じゃないなら、なぜサーヴァントのことと、キャスターの事がわかった?なぜそこまで詳しい。キャスターと違って俺はお前の不信感が拭えない……」

 

 何故か気に食わない。赤い髪の青年の態度が神無木せつの癪に障っていた。

 

「おいおい、俺ばっかりにかまけてないでそろそろだぞ、気をつけろ」

 

「???」

 

 青年の言葉に頭に疑問符が浮かんでしまう。

 

「来ます……」

 

 青年の言葉に続き、キャスターが声を発した。

 

 すると

 

ずうん!!!!!!!!!!!!

 

「ぐぅぃううう……!!!!???」

 

 突然、重い空気に包まれた。

 

「な、なんだこれは……。き、気分が悪い……」

 

 気分がとてつもなく悪くなった。

 

 だがそれだけではない。先程まで賑わっていた映画館内の声が一斉に止まっていた。そして気づくと上映室に残っていた他の客たちが、神無木せつなと同じように気分を悪くしてぐったりと倒れ込んでいた。

 

「こ、これは一体……?」

 

「もうだからシリアス展開は嫌なんですよ!! せっかくのデートが台無しに。くぅぅ、ショック!!」

 

 そしてこの状況に完全に嫌気がさしたキャスターは思い切り吠えた。

 

「お、おい。どうなってんだ、キャスターこれは……」

 

「一種の結界のようです。強力な。さっきから結界を張る準備をしている魔術師たちを感知出来ていたので、やっぱりって感じですが……」

 

「おいおい、わかってんなら言え……よ。……てかさっきからすごく意識が……。なんの結界なんだ……」

 

 うまく頭が働かない。気分が悪いことに加え、意識が朦朧としてきた。そして体を動かそうにも、思った通りに動いてくれない。

 

 その様子を見かねたのか、赤い髪の青年は神無木せつなに助言をした。

 

「おい、キャスターのマスター。魔力を放出しろ。突っ立てると本当に意識を失うぞ。それが出来んならその馬鹿程の魔力を持ったキャスター本人にくっついておけ。魔力供給が効率的に行われて、なんとかなるかもな」

 

「ムキー!! なんであんたなんかに馬鹿なんて言われなくてはならないんですか!! まぁ、ご主人様に合法的にくっつける理由を言ってくれてナイスですが」

 

「おいおいおい……」

 

 キャスターは言われてすぐに神無木せつの手を握りに行った。

 

「これで大丈夫らしいですよ、マスター……」

 

 そしていやらしいように両手をスリスリとこすりつけてきた。

 

「やめろ!!」

 

ゴン!!

 

「あて」

 

 たまらず、頭を叩いてしまった。

 

「こんな時にセクハラをするんじゃねえ!! ってあれ? 体が……」

 

 つい手が動いてしまった神無木せつなだったが、何故か体をうまく動けていることに気づいた。意識もさっきよりはっきりとしている。

 

 その様子を確認すると赤い髪の青年は再び二人に語りかけた。

 

「この結界はどうやら中にいる対象者の生命力を吸い取るようだ。そして衰弱させる。根本は全く違うがかつてメドゥーサが使用した『アンドロメダ』に似ているな」

 

「メ、メドゥーサ?」

 

「あぁ、そうさ。まぁどちらも魔術を通して吸い取るって事は対魔力で対抗できるだろう思ったまでよ。尤もサーヴァント規模ではないから殺すほどのレベルではなさそうだが」

 

 青年はそう言って、軽く口を緩めた。

 

「本当に何なんだお前は、なぜ俺たちに助言を!?」

 

「そうさねぇ。俺は気ままに面白くなるように生きてるだけだよ。そして今まさに最高のエンターテイメントを発見した。そんな中、爺さんが起こしたしょうもないことでリタイアされたら面白くねぇだろ……」

 

「面白さだと…………、こんな状況なのにか……?」

 

 人が重体になっている。そんな中なのに赤髪の青年はヘラヘラと笑っている。その様子に神無木せつなは怒りを覚えてしまう。

 

「だから睨むなって。この規模じゃ周りの奴は死なねぇよ。俺はこの周りの連中を見て愉悦を感じる歪んだ性格じゃない。お前たちだよ、お前たちが俺の楽しみだ。しかもなこの術はすぐ終わる」

 

「それでも、俺はあんたを気に食わん」

 

「ふん、だがな俺が何も言わなかったらお前は本当にリタイアの可能性だってあったんだぜ。この術で死なないにしろ、他のサーヴァントは常に命を狙ってる。むしろ感謝して欲しいもんだがね」

 

「………っく」

 

「それにな倫理的にいかすかねぇと思うのなら、俺よりむしろ外の奴に怒れ。誰でもお構いなしに人を殺しているぞ、そいつ。そっちを叩く方が先じゃねえのか?」

 

「てめぇ……」

 

「まぁ、どうするかはお前の正義感次第だが……」

 

 赤髪の青年の言葉に腹が立ち、拳に力が入る。

「マスター、抑えて下さい。あんな奴を相手にするより、むしろわたくしの相手を……。あ、いえいえ、今は外の様子を見に行きましょう。ここにいても時間の無駄です」

 

「……。わかった。行こう」

 

 だがキャスターの説得で、神無木せつなは手を下ろした。だが完全には納得言っていないようで、もう一度青年を睨みつけたあとに、映画館の出口に向かった。

 

「ふふ、なかなか面白い奴だったな」

 

 二人が出て行った後。青年は口を開いた。

 

「しかしまさか例のサーヴァントを探すためだけにここまでするとは末恐ろしいなあの爺さん。完成が近いからか? しかもおそらくキャスターが言っていた外での生命反応の消失ってのはその例のサーヴァントっぽいな……」

 

 赤い髪の青年はそう言い終わると、青年も出口に歩き始めた。

 

「いやぁ。面白くなりそうだな」

ストーリーや世界観の評価

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