2011年9月初頭
「ここか……」
昼時。外国から関西空港に向かっていた飛行機が到着していた。空港には飛行機に乗っていた大勢の人々が雪崩のように外へ流れていく。
ロビーにもそれ以上の人々が大勢いるので、辺りはゴッタ返している。
そんな人ごみの中に威圧的な雰囲気の女性がいた。白く薄い手袋を着け、青暗いスーツを纏い、肩に届くほどの綺麗なストレート茶髪の青い瞳の女性だ。
「はぁ、武器が直接持ってこれないのは面倒だな」
女はため息をついて何やら物騒なことを言いながら、預けていた自分の荷物を取りに行こうとしていた。
この女性は日本のある場所である目的がある。そのためには多くの準備と物が必要であった。
女性はこれから数日その場所で生活する。ただ目的がなんにせよ、生活するのであれば多くの日用品も余分に必要になる。そんな大荷物は客席には持ち込めないので預けていたわけだ。
しかしこんなことは誰しもが利用することなので別段不思議なことではない。
「護身用の木刀はちゃんとある、分解した部品もあるか。でかいのは流石に直接拠点送りにしなければならんが 。しかし手元に馴染みの物がないと落ち着かない」
ただこの女性は特別であった。女性の荷物の中には武器のパーツが含まれていた。人殺しの道具だ。取りに行った荷物の中には木刀とぬいぐるみや機器の中に隠してあった銃の部品があったのだ。
どの国も違いはあれど武器の持ち込みは厳しい。日本では完全にアウトだ。
模造品など武器になりそうな一部の物でさえ客席には持ち込めない。荷物を預けるにせよ、マシンガン等を堂々持ち込むのは出来ない。
ただそれには盲点がある。要は武器と判定されなければその限りではない。
女性は様々な武器をバラして、それを人形や機器の中に隠していたのだ。
「さて急ぐか」
女性は荷物の中身を確認した後、木刀だけを手に構える。そして空港を出た後に拠点に向けて歩き始めた。
そうやって女性はクールに去っていくつもりだったが、
「君、木刀なんてどうするの?」
「へ?」
なんと警備員に呼び止められたのだ。
「なんでこんなものを振り回しているの?」
「いや、あのその……」
「少し来なさい!」
「ちょっただ私は……」
「僕は海外の人だからって手加減はしませんよ!!」
「違いますよ。警備員さ~~ん」
なんとも締まらない幕開けであった。
「ふう、幸先が悪いぞ全く。まさかいきなり不審者扱いされるなんて」
くたびれた様子で先ほどの女性は目的の地へなんとか到着していた。
女性がたどり着いたこの地、周りには古ゆかしい日本の伝統的な家並みが並んでいた。まるでこの辺りだけ時代がタイムスリップしてしまったようだ。
団子屋があったり、老舗の料理店もたくさんある。傘をさした舞妓さんも歩いている。道も広く、木々が風に揺れてなんとも心地よい雰囲気を出してくれている。
しかしただ古めかしいだけではなく、遠くを見ると大きなデパートや建物も見ることができた。
この町は京都、古い歴史の面影を残しながらも近代の発達を続ける主要な都市である。日本でも特に有名な都市であり、近代と古代が織り交ざる町並みだけでなく、町の構造がかなり特殊になっている。
囲碁などで用いられる碁盤の目というものがある。京都の中央の町の形はまさにそれを元に作られており、いくつもの大きな道路が街全体をほぼ直角に交わり合っているのである。これは中国の長安(西安)を元にしたといわれている。
「さてどの辺だったか? 少し尋ねるか」
女性はこの町に借りた拠点の場所を探していた。女性は住所を書いたメモは持っているのだが、やはり日本語は難しいらしい。加えてこの女性は方向音痴の気があるらしくここに来るまでもかなり時間がかかってしまった。
朝に日本に来て、今は夕方ぐらいだろうか。時間がかかりすぎてはだめだ。道に迷ったら人に聞くのが一番である。女性は通りかかって来た老輩の女性に道を聞いた。
「す、すいません」
「は、はい?」
声をかけられた老輩の女性は声が裏返ってしまった。とても驚いてしまったようだ。背が高く、美しい外国の女性にまさか日本語で声をかけられたら無理もないだろう。
「え、わたしのことかい?」
「そうです。ちょっと道を尋ねたくて。この住所なんですけど」
ましてやその見た目に合わない日本語のうまさである。そのギャップに 老女は声が出なくなってしまっていた。
「………」
「どうかされましたか?」
「あんた日本語うまいねぇ。外国の人だろう。発音もいいし驚いたわぁ」
「ありがとうございます。勉強しましたから」
「たいしたもんやなぁ。孫にもあんたの爪の垢を煎じて飲ましてやりたいわ」
「は、はぁ」
「おっとすまなかった、道やね。この住所なら今いるこの東山というの大通りからからもっと上(かみ)に上がったらええんよ」
「ええと『上』に上がるとは?」
「おぉそうか。すまないね、外国の人なのにこんなこと言ってもわからんわなぁ。京都ではな、北の方から南に向かって大きな通りがたくさんある。北から一条、二条って感じで十条まであるねん」
「は、はい」
「町の北の方を上(かみ)、南の方を下(しも)と言う。北に行くときに上(かみ)に上がる、南に行くときは下(しも)に下がるというんや」
「な、なるほど。この町独特の言い回しなんですね。わかりました。ではこのまま北に行けばようのですね、ありがとうございました」
「どういたしまして」
女性はそう言うと、老輩の女性に深くお辞儀をした。そして女性は手を振って別れ、再び歩き始めた。
どこにでも心の優しい人はいるものだ。親切にしてもらうのは気分がいい。人の優しさに触れ合うのは心安らぐものだ。女性はそう思った。
「やはりつらいな」
ただ女性の中にはそれに対して罪悪感を抱かずには負えない事情があった。女性の準備物からわかる通り、この町へは戦いに来たのだ。そして今から自分たちの勝手な都合でこの地が戦場に変り果てるの。運が悪ければ、あのような人も戦いに巻き込まれて命を落とす羽目になるのだ。
そう考えていると足取りが重くなる。だがこの戦いは自分で決めたことが後戻りはできない。女性は心の葛藤にめげず、前へと歩き始めた。
「もう振り返ることはしない」
そう口ずさみ、自分の戒めとした。
「ああ、外国のお嬢さん。そっちは南や。北は反対側!!」
「…………」
しかしその場で落胆。今誓った戒めが無残にも破られた。
「あんた、賢いみたいだけど方向音痴なのかねえ。その住所は家に近いから送っといてあげるさかい」
「あ、ありがとうございます」
女性はそう言ってもらい、しっかりとおばあさんの方を『振り返り』自分の情けなさに涙を流しながらお礼を述べていた。
「なんとかたどり着いたな」
周りはすっかり真っ暗。女性は近くまで案内をしてもらい、自分の拠点の場所に到着していた。拠点は洋館のようだ。見かけ木造りの二階建てで童話の魔女が住んでいそうな外観である。
辺りには木々が生い茂っており、建物そのものが見えにくくなっている。夜も更けているのでいっそう不気味である。
その洋館の二階に自分が持ってきた荷物を降ろし、そこに置かれていたベットに女性は座っていた。
すでに送っていた荷物はすべてここに届いていたらしく、玄関付近に置かれていたので女性は中に運んだのだ。
二階の部屋は荷物だらけだ。部屋の区切りがなく、とにかくかなり広いスペースなのだが、その大荷物のせいですでに窮屈になっていた。
一階は台所やトイレなどがあり、部屋も区切られているのだが同じ、逆にここには荷物が一切置かれていないので広すぎるように感じる。
しかし、このようにスペースを広くとることはわけがあるのだ。
拠点にに着いてしばらくたったとき女性は荷物の整理と小休憩を済ますと、ちょっとした小道具を持って下へと降りてきた。
持っていたものは、何かの動物の大量の血が入った瓶と水銀が入った数本の試験管だった。
「さてと、本当にこの地に聖杯が現れてるのなら今からつくる陣だけで十分らしいが、さてどうなるものか」
女性はそう言うと血と水銀を使って部屋の床に何かを描き始めた。女性が描いているのは魔方陣、召喚の陣のようだ。
消去の中に退去、退去の陣を四つ刻み、そこに核となる召喚の陣を描いている。かなり複雑な形ではあるが、女性は器用に描いていく。そしてものの数分で完成させてしまった。
「あとは触媒だが、あいにく都合よく手に入るものでもない。しかし聞いたところによるとその場合は自分との相性で決まるらしい。強さは選べないが制御できるならまだましか。さてと始めるか」
女性は描いた陣から少し離れる。そして着けていた手袋を右手だけはだけさせた。その右手の甲にはなんと独特の形をした紋章があった。これは令呪だ。そして令呪とその魔方陣は呼応し、共鳴するように光り始めた。
そして女性は告げる。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
我は復讐者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
言葉を告げるたびに、血で描いた魔方陣は強く反応する。そして詠唱をすべて言い切った瞬間、辺りをまぶしい大きな光が包み込んだ。
「くっ!?」
同時に衝撃が魔方陣を中心に起こり、思わず腕で顔を隠してしまう。だがそれも一瞬、すぐに光と衝撃は消えた。
「……、くっ。成功したのか!?」
女性は光と衝撃が消えたのを確認するとおそるおそる手をどかす。
「!!?」
そして気が付くと目の前には人の影が現れていた。いや、人というべきではないだろう。
聖杯によって導かれるのは、人ではない。そうサーヴァントという存在だ。
「せ、成功した。サーヴァントが召喚された……」
召喚が成功したことで呆気が取られてしまった。しかしサーヴァントとはあくまで利害一致の関係と聞いていた。女性はそれを思い出し、すぐさま気を引き締めた。女性はすぐにサーヴァントの観察に入る。
(黒いローブに、何だ、何かの戦闘用の装束をまとってる。そして何より暗闇に光るあの赤い瞳は……?)
「…………」
だが逆に召喚されたサーヴァントはあまり動揺が見られない。こちらをじっと見つめてくるだけだ。
(ここで、睨み合ってもなにも始まらないか)
女性は少し考えた後、そのサーヴァントに質問をした。
「始めに尋ねる。お前は何のサーヴァントだ?」
「ふっ」
質問をすることでようやくそのサーヴァントはこちらに反応を示した。ただ女性を鼻で笑い、軽くあしらうような態度をとっていた。
「アサシンだ……」
「えっ?」
「お前の召喚に応じて参上した『アサシン』のサーヴァントだ」
ストーリーや世界観の評価
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