Fate/天照   作:yuto/ギルガメッシュ

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黄金のサーヴァント

~聖杯戦争開始一年前(2010年)~

 

「はっはっはっ」

 

 ある少女が息を切らせながら山道を駆けていた。ぼさぼさの真っ黒な黒髪の少女だ。だが口から血を流し、体は傷だらけである。

 

 服装もどこかおかしい。薄汚れた表現するにはあまりにもお粗末な格好である。シャツといえるかわからないボロボロの灰色の上着。丈は長くももまで伸びている。

 

 この少女誰かから逃げているのだ。しかし疲れ果てているのか、足に限界が来ているのか、何にもない道で何度もこけている。そのたびにすぐ立ち上がり、走るが、また足がもつれ、こけてしまった。

 

「くそ、…」

 

 転びすぎて少女の足は血まみれになっていた。砂がまじり、微妙に乾いた個所もあり、足は赤黒く染まっている。そんな状態でも少女は立ち上がろうとするのだ。

 

「うぐっ」

 

 しかし今度は立ち上がることができなかった。足が滑り、うまく立ち上がろうにも立ち上がれない。それでも少女は立ち止まっていられない。必死に足を動かすのだが全くもって足が機能しなくなっていた。

 

 

 

 

この少女は違法的に人身売買された子供である。今はその転売人から逃げているのだ。顔つきは日本人ではない。彼女は元々ある国の農村地帯に住んでいた少女なのだ。

 

 貧困に喘いでいた少女の家族はこの子を『人身売買』へとかけたのだ。少女の顔はなかなかに端正なもので、とてもきれいな顔をしている。業者にとっては目ぼしい商品になったのだ。

 

 その後、様々な所に違法的に連れ出された。奉仕、売春行為、などなど奴隷のように扱われ、飽きられると再び売られた。このように人身売買などの末路など語らなくても悲惨になることは目に見えている。一緒に連れてこられた者たちはその過程で廃人と化していった。少女自身もすでに心身ともに限界を迎えていた。

 

 そして今回は連れてこられた所は日本の京都の地であった。ただ今回は身柄の輸送班の荷台が山道で事故を起こしたのだ。生きたいという気力がまだあったのが分かる。

 

 少女はそれをきっかけに今まさに、生きるために逃げ出していたのだ。

 

 

  ただ少女は足元が悪い森の中を走り続けている。

 

 道路を走らないのは別の車で追いつかれないように、町へ逃れようとしないのは目立つのを防ぐためだ。だからといってずっと山道を少女が走り続けられるわけがないのだ。もういくら踏ん張っても起き上がれない。

 

(こん……なところで、あいつらに……)

 

 体が動いてくれない。

 

 それでもまだ死ねない。

 

 弱者を家畜のようにここまで追い詰めたあいつらを、自分を捨てたあいつらを……いやそもそもの自分に悲劇をもたらしたこの世界を……。もっと力を……。

 

 少女は口から血が出るほど舌を噛み、ふるえる右手を前に伸ばしていた。

 

 そのときだった。

 

「ぐっ」

 

 

 右手に痛みが走り、その右の甲が光り始めたのだ。そしてそれに呼応するように、少女の目の前も光り始めた。

 

 なんという因果なのか、少女からあふれる血、枯れ木や落ち葉の配置がある程度の陣をかたどっていた。それはまさにサーヴァントの召喚陣、右手に現れたものは令呪そのものであった。

 

『まさか、魔術師でもない、ただの小娘が我(オレ)呼び出すとはな』

 

 姿はまだ見えない、どこからか体全体に響く、声が聞こえた。少女は何が起こったかわからず、声が出ない。

 

 だがしばらくするとその光も収まってきた。そしてその先には、少女の目の前には『黄金のサーヴァント』が立っていた。全身に黄金の鎧を着けた金髪の男がそこに立っていたのだ。

 

「だ、誰……だ?」

 

 少女の第一声は疑問であった。

 

「我(オレ)に許可なく話しかけるな、雑種」

 

 瞬間、轟音が飛んだ。その黄金の鎧の男はどこからともなくうち出した、大きな槍で少女の横の地面をえぐっていたのだ。もし、当たっていたらどうなるのか想像するのも恐ろしい。

 

 得体のしれない男、そして振るわれた強大な力。意味が分からない。だがおよそどんな者であれ、この状況は絶望である。光景を誰が見ても終わりだと思うだろう。

 

 しかしだ。もはや肉体的にも精神的にも追い詰められた少女にとってはこの状況などもはやどうでもよくなっていた。

 

 それどころかそういう心身の状態だからこそ、妙に冷静さを保つことが出来た。抱いていた復讐心は変わらない。自分の行く手を阻む、目の前の障害、少女は敵意だけが高まっていた。

 

「ほう。我(オレ)を眼前にし、瀕死の身でありながら、なおも気迫は損なわぬか」

 

 とはいえ少女に恐怖が全くないわけではない。黄金の男を睨みつけながらも軽く体を震わせている。

 

「ふん、ただの小娘……というわけではなさそうだ……」

 

 しかし、その態度は黄金の鎧の男の興味を誘ったようだ。思わず口元がにやけてしまっている。

 

 だがそれも一瞬、黄金の鎧の男は再び顔をこわばらせた。どうやら彼は何かを感知したようで、その顔は少女の後ろにある茂みの方を向いた。

 

 間近で黄金の鎧の男を対峙していた少女はその顔色の変化にすぐに気が付き、少女もまた後ろを振り向いた。

 

 すると黄金の鎧の男の察知通り、草むらから数人の男たちが現れた。

 

「手間取らせやがって」

 

「逃げてもらってはこまるわ。こちとら商売かかってるしな」

 

 草木をかき分け、続々といかつい顔の男たちが後ろから出てくる。

 

(お、追いつかれた…、なんで場所が……)

 

 まともな風貌ではないことは恰好や顔つきから一目でわかる。どうやら少女を追ってきていた者たちのようだ。

 

 しかし、少女はこの男たちが追いついたことに疑問を抱いていた。

 

 少女はなるべく目立たないように、わざわざ移動が不便な森の道を選んで逃げていたのだ。

 

 しかも少女が逃げてから今の状況までたった1時間ほどしか経っていない。なのになぜこうあっさりと追いつかれ、見つかってしまうのか。体力の問題か、いやそれでもやはりおかしい。

 

「なんでお前を見つけられたのか、疑問そうやな。お前ら飼い犬が逃げ出すなんてことは想定に入れとる。GPSって知らんか。発信機ぐらい家畜どもにはつけとる」

 

 男たちの中のリーダーのような者が小ばかにしたように少女に語りかける。言語が異なる少女のためにわざわざジェスチャーをしてまで首の後ろをとんとんと叩いていた。

 

(…………?)

 

 少女は不思議に思いながら首の後ろを触ってみる。するとちょっとした痛みが走った後、針のようなものがそこから抜けた。

 

 それに驚き、抜けた物をすぐに目の前に持ってきた。手にあったのは先端が針でその持ち手にはチカチカ点滅を繰り返すLEDが付いた小型の機械であった。

 

(なに……これ? いつの間に……?)

 

「いやぁ、おかげで見つかりやすかったで」

 

 男は余裕があるのか陽気そうに少女に次々と話しかけてくる。目は全くと言っていいほど笑っていないが。

 

「ふははは。動物の不始末でここまで迷惑かかされるとは。全く……」

 

 そして男は軽く笑った後に、急に態度を変えた。

 

「てめえら家畜共は、ただ人間様に従ってたらいいんじゃボケ!!! お前の存在価値は俺たちへの金以外ないじゃカスが!!!」

 

 男は激しく怒り狂い、理不尽な罵声を浴びせていた。異国の言葉はわからない少女であるがその怒りとあまりにも狂気だけは伝わってくる。

 

 その言葉と同時に合図を送り、男は仲間に少女の捕獲を命じた。そして一斉にほかの男たちが後ろから走り出した。

 

 瀕死で動けない身だ。少女のささやかな逃亡劇は終わってしまった。黄金の鎧を纏う男がいなければ。

 

「貴様ら、誰に許しを請いてその雑種に手を出す?」

 

 途端に少女に悪寒が走り、直後、目を疑う光景が映し出された。黄金の鎧の男の後ろから次々と矢や刀、槍など数えきれないほどの武器が出現したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと辺りが血で染まった。

 

 ものの数秒。リーダーの男を残してほかの仲間たちは肉塊へと変り果てていた。森の緑が赤黒い景色へと変わったのだ。

 

「は、はひ。な、なん……?」

 

 男は今起こったことに全く理解できなかった。何が起こったかわからない。体を震わし、心は恐怖に染まり、涙目になっていた。

 

「外したか、運がいいな……。いやぁ、ただ一人とはやはり運が悪いか……」

 

 黄金の鎧の男は口をつりあがらせる。そしてすぐさま新たな槍が後ろから出現し、発射された。

 

「え、?っぐ……」

 

 槍は男の腹を貫いた。また辺りに血が飛び散った。大きな風穴が腹に空いていることを認識すると男はそのまま後ろに倒れて絶命した。

 

 少女は今起こったことに呆気を取られてしてしまう。これは夢なのか、現実味がまるでない。

 

「流石に許容は出来んか。だがこの時代の幼子にしてみれば、直視出来ているのはまだましな方か」

 

 呆然とした少女は話しかけてきた黄金の鎧の男によって我に返った。

 

「こ、これはお前が……」

 

「夢物語ではないぞ。まぎれもなく現実だ……」

 

「うっ……」

 

 心が見透かされたように話す黄金の鎧の男に狼狽してしまう。

 

「そう威嚇するな。我(オレ)は貴様に興味が湧いた。話しかけるくらいの無礼は許してやろう」

 

 黄金の鎧の男は、そう言ってゆっくりと再び少女の目の前に立った。

 

「!!!!」

 

 この男を前にするとやはり威圧感が凄まじい。これだけで体が悲鳴をあげているのがわかる。

 

 だが死ねない。こんなところで。

 

 少女は最後に残っていたであろう力を必死に絞り出し、顔をきしめ、血しぶきをあげながらもその黄金の男の前で立ち上がった。瞳は消えかかり、もはや正気はない。

 

 だがそんな少女の様子を見ての黄金の男の反応は意外なものだった。

 

「フハハハハハハハ」

 

 黄金の鎧の男は突然大声で笑い始めたのだ。

 

(!!!!???)

 

 予想外すぎて一体どう反応すればいいのかわからなかった。

 

「面白い、面白いぞ雑種の小娘。まさに風前の灯火。だがその敵意、殺意、生への執念でよくぞ立ち上がったな。これは幼子が見せるものではないな。そしてこの我(オレ)を召喚できたという凶運といい。やはり興味深い」

 

(…………)

 

「ただの雑種ならば早々に消したが、これは面白いものが見つかった。脆弱なものが溢れすぎたこの時代でもこういう輩が謳歌しているのだから人の世はなかなかよ」

 

 黄金の鎧の男は先ほどと打って変わり、楽しげに語り続ける。

 

 どうやら私への敵意など無くなっている。少女はそう感じた。

 

「よいぞ、貴様をマスターとして認めてやろう。ではまず貴様の名を名乗るがいい」

 

(…………)

 

「小娘に理解できるように、我(オレ)は貴様の母国の言葉で話してやっているのだぞ?」

 

 少女は言葉の意味は理解はしている。しかしそれでも警戒心はまだある。うかつに名乗りたくはない。だが状況が状況だ、従うほかない。

 

「……美麗(メイ・リー)」

 

「なるほど。では我(オレ)も名乗ってやるとするか。心して拝聴するがよい」

 

(…………)

 

「アーチャーのクラスとして貴様の召喚に応じて降臨した。英雄の中の英雄王、名は『ギルガメッシュ』」

 

「ギ、ギルガメッシュ……?」

 

「我(オレ)が直々に名乗ることなぞ、滅多にないぞ。故にこの名乗り、貴様の終生にまでしかと記憶に焼き付けておけ。小娘の雑種!!」

 

ストーリーや世界観の評価

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