Fate/天照   作:yuto/ギルガメッシュ

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目覚めと狐のサーヴァント②

「えええええぇぇぇぇぇ~~~~~~、そんなそんな……。ご主人様と私が体を温め合い、求め合った、あの夜の記憶まですべて忘れてしまったのですかぁぁぁ~~~~~。玉藻ちゃん、超絶ショッキングじゃないですかっ!!」

 

「勝手に話を作るな!!!」

 

 

 

 青年の横には相も変わらず、恐怖の愛嫁『玉藻ちゃん』、否、狐娘は青年の横にべったりとくっついていた。

 

「まさか、青年君が前の記憶が全く無いなんてね。驚きだわ」

 

「そ、そんなこと言ってもしかたないだろ。俺だって不安なんだよ。記憶が全くないなんて。自分が何者だがわからなくなる」

 

 三人で会話をしているうちに青年は記憶喪失になっていることが分かったのだ。自分の年齢、家族、出身地、名前すらわからない状況であった。

 

 青年は頭を必死に頭の中を探ったのだがもやもやと頭の中がぼやけてしまい、何もわからなかった。一時的な記憶の混乱ではなさそうだ。

 

「わたくしだって精神的に不安定です。愛する旦那様に、私のすべてを忘れられたなんて、ショックの度合いが120%超ですよ!! いつも元気な私の尻尾や耳ちゃんも垂れ下がちゃってます~~~」

 

「と言いつつ、俺の体をなぜ舐めとるように触ってくるんだ!!」

 

 悲しんでいるのか喜んでいるのか、記憶を失っても愛は変わらないのだろうか。変態じみた行為で不意をついて青年を触っていた。

 

「マスター、愛情が激しすぎます。グリグリは勘弁勘弁です!!」

 

 当然、その嘘泣きをしつつ、顔がにやけている狐娘の頭を思い切りぐりぐりしていた。

 

 そんな一連の流れを見て女性はくすくすと笑っている。

 

「そういえばあんたは、医者かなんかなのか? 俺を重傷から治療してくれたんだろ。なにか医療の知識でも……?」

 

「そんなことまで忘れちゃったのかしら。私は魔術師と言われるもの。治癒はもちろん魔術を使って直したわ」

 

「魔術師……。魔術だと!?」

 

「ええ、そうよ。簡単に言うと魔術を研究する人。一から語るのはめんどくさいから、大まかに想像する不思議な力という認識でいいわよ。もともと私はこの風水がいい、京都の地が気に入って研究しているの」

 

「な、なるほど」

 

「あぁ、そういえばまだ自己紹介がまだだった気がするわ。改めて、京都の地を拠点とする魔術師『遠坂桜』といいます。よろしくね」

 

 女性はそう言って軽く青年に会釈した。

 

「そ、そうか。よろしく。だがそんなものが本当にあるのか……」

 

「まるで他人事のようね。すでに当事者になっているのに……」

 

「なに……?」

 

「隣にいる娘が何よりの証拠。あなたは大規模な儀式『聖杯戦争』に関わっている」

 

「聖杯戦争……?」

 

 その単語自体は青年の記憶にはなかった。だがその言葉を聞いた瞬間、少し頭が痛くなった。

 

「そう『聖杯戦争』も記憶にないのね。君は魔術師、いやマスターとして資格がすでに与えられて言うというのに……」

 

「一体なんの話をしてるんだよ、えーと、遠坂桜……」

 

「ふふ、『遠坂』でいいわよ。その話については、もう一人の当事者である君の腕を頬にすりすりしている娘に聞いてくれ……」

 

 青年はそう言われ、視線だけを横に逸らした。

 

「はぅ、どことなく前のご主人と違いますけど、この匂い! この顔! そして何よりこのイケ魂! こちらも全くもって悪くないはございませぬ。このままずっとご主人様とのすりすりタイムを満喫してたい今日この頃! ってはっ!!」

 

 すると、ちょうど視線が合った。

 

「…………」

 

「そ、そんなご主人様、ずっと見つめられると、私、その……」

 

「………」

 

「こ、恋する乙女という生き物はイケ魂に見つめられるのが非常に弱いのですよ。それなのにそんなに過激に見つめてくるなんて。ま、まさか、ご主人様は巷で言う、『ドS』というやつなのですか? いやがる乙女の顔を見るのが至福というあれなのですか。お、おそろしい。流石は我がマスター、なかなかdeepを感性をお持ちになっておられる。だけどそんな強気に攻められているのに、なぜ私の心はときめいているのか?」

 

 隣の娘が言葉を言い切ってから青年は、再び視線を遠坂桜に戻した。

 

「なぁ、遠坂。この娘気持ち悪いんだけど」

 

「はぉぉ!! けっこうグサッと来る言葉! しかし今玉藻ちゃん、何故か妙に心地いい。いやいや、私は目覚めていませんよ~~~!!!」

 

「大丈夫、私も気持ち悪いとは思うから……」

 

 二人とも同意見だった。

 

「ちょっ~~と。ご主人様に言われるのはいいけど、あんたみたいなあからさまに真の黒幕的な胡散臭さを持っている奴になんかに言われたくねーです!! あんたみたいな独り身の暗い女等、日々満たされない欲求不満を試験管でもぶっさして自己発電で…」

 

 流石に許容できない発言をしようとしたので、青年は思い切り頭を殴った。

 

「痛ったーーーーーい!! ご主人様、痛いのです! 女の子の体はdelicateなのですよ。しかももふもふの狐っ娘の頭がぼこぼこになったらマスコットとして、いえ、ましまし良妻ロマンがなくなってしまいます」

 

「お前にはすでにロマンの欠片もねぇ、マスコットでもないし、夫になった覚えもない! メタ的なうえに下ネタまでかぶせようとしていたろ」

 

「くぅぅぅぅ、ご主人様がなかなかこちらに乗ってきません。場を盛り上げるのも良妻の必須事項であるのに、それが全くできていませぬ! いったいどうすればいいのか!?」

 

 しぶれを切らした青年は次は狐っ娘の頭に両手をグーにして突き出した。そして回転させる。

 

「とりあえずお前は余計な話をするな!! ちゃんとした話をしろ!! お前は俺とどういう関係なんだ! 聖杯戦争ってやつとどういう関係があるんだ!!」

 

「いたたたたたた!!! ぐりぐりはノープリーズですよぉぉ!!  ご主人さまぁぁぁ~~~!! シ、シリアス展開は嫌だから引き延ばしをかけていましたのにぃぃぃ~~~!!! わ、分かりましたぁぁぁぁぁ~~~!! いいますから、真面目モードになりますからぁぁ~~~~」

 

 ぐりぐりをヒートアップするとさすがに参ったようだ。泣き顔になりながら彼女は降参した。そしてその言葉を聞いて、青年は手を緩めた。

 

「はぁはぁはぁ、激しい過ぎるのはNGですよ全く」

 

「お前が変な事ばかり言うからだ。早く話してくれ」

 

「はい、わかりました、マスター」

 

 ようやくちゃんとした話題をするみたいだ。狐娘は今までの態度とは打って変わって真面目な顔でこちらの瞳を見つめてくる。

 

 少し据わった目に青年はかすかに息を吞む。

 

「マスターはそもそも私の事自体を忘れているようなので、あまりにもあまりにもあまりにも悲しいことではありますが、まずはわたくしのことよりも『聖杯戦争』について話した方が混乱しないかと思います。ほんとは愛ある良妻玉藻ちゃんをアピールしたいですけど……、うぅぅ耐えろ私~~~、これが終われば出来るぞぉぉファイト!!」

 

「お、おう」

 

「コホン、まずあえて強調しますが、”今”我々が行っている聖杯戦争というのは魔術師同士が特別な力を持った『聖杯』奪い合う戦いです」

 

「今と言ったな。しかも聖杯だと……? その特別な力ってのはなんなんだ?」

 

「はい、この戦いで『聖杯』と呼ばれているのは簡単に言うと強大な魔力を取り込んだ願望器です」

 

「願望器……?」

 

「そう、何でも願えば何でもかなえられるという代物です。その過程で魔術師達はあることをします」

 

「あること……?」

 

 狐娘は一呼吸置いた後に、後に強く言った。

 

「それは過去の英霊達を召喚し、契約するのです」

 

「過去の英霊だと……? バカな、そんなことが……」

 

 青年は突拍子もない事を言われ、頭を抱えて唖然としてしまった。そんな様子に呆れたのだろう、遠坂桜はため息を吐いて青年に話しかけた。

 

「何をいまさら。そもそもこの世界に魔術という素人から見ればある種の奇跡が存在して以上、そういうのがあってもおかしくないじゃない? そういった考えを当てはまることもできるんじゃない?」

 

「いや、遠坂。はっきりいって『魔術』ってのも俺の頭の許容限界なんだからな……」

 

「そんなこと言ったって現にその英霊ってのが目の前にいるんだからしょうがないじゃない」

 

「えっ!?」

 

 青年は驚き、狐女の方をすぐに見直した。

 

「ふっふっふっ。そうなのですよ。実は私は『英霊』、あっいや少し違いますが、まぁとにかくその部類に私は入るのです」

 

「まさか………」

 

「青年君、彼女が言ってることは本当よ。それこそが彼女に言ってもらった『聖杯』というものの力なのよ。英霊をこの地に呼び寄せてしまうほどの奇跡、それを実現する『聖杯』は無限の力を持っている。それが願望器と呼ばれる由縁よ」

 

「そうなのです、マスター。そして召喚した魔術師は、その英霊と契約します。それぞれ魔術師と英霊をマスター、サーヴァントと呼びます」

 

「………っつ!」

 

記憶を失っている影響もあるのだろうか、自分の中の常識を飛び越える言葉の数々に青年は混乱してしまっていた。

 

 そして今初めて聞いたはずなのに『聖杯』『英霊』『マスター』『サーヴァント』などという単語が頭響き、そのたびの大きく頭痛がした。

 

 「マスター、だ、大丈夫ですか。まさかわたくしの溢れ出すのけも耳オーラにやられてしまい、そんなことに……っ!?」

 

 青年の様子に狐娘は心配そうに両手を青年の片手に乗せてきた。若干ふざけているようには聞こえるが、本気で心配しているようだ。かすかに握られた手は震えていた。

 

「い、いやちょっとめまいがしただけだよ。話は大体理解したし、ありがとう」

 

 本当はそんなどころではないのだが、青年は心配させまいと気を張って立て直した。

 

「青年君、やはりもう一眠りする? いっぺんにこんな話もされても理解が追いつかないだし、じっくり頭を整理する時間も必要だろうし、まだまだサーヴァントのクラスのことや聖杯戦争の概要を話し切れていない。まぁここが100%安心とは言えないが、一晩くらいの保証は出来るわ」

 

 言葉でごまかしても流石にその様子では隠し通せるものではない。現に狐娘は心配で震えていたし、遠坂桜は自然と青年の休息を促していた。

 

「そ、その手がありました。さっ、今日はもう寝ましょう。ここは閉めきっているのでわかりにくいですが、実は今は夜なのですよ。つまりこのあと大人の時間、night timeです。二人の身を絡ませば精力は文字通りパワーアップ!! 来た来た来たぁぁぁぁ~~~~!! さぁ、今まさに女と男の一線を超えに行きましょう!!!!」

 

(…………)

 

 本当にこの狐娘は心配しているのだろうか。先の憐れむ姿はどこへやらしっぽをぴんと直立させて、べっとりとこちらにすり寄ってくる。

 

 青年はとりあえず、そのぴんと立つしっぽを思い切り掴んだ。そして思い切り、こする。

 

「ま、マスター!! 強すぎますぅぅ!!! しっぽなでなでは好きですが、ちょ、いたいたい!! もっと柔らかく、スマートを要求しますぅぅぅ!!!!!」

 

 狐娘の反応を無視して青年は遠桜の方を向いた。

 

「本当にこいつは英霊なの?」

 

 それを聞くと、遠坂も気まずそうに視線を逸らした。

 

「ま、まぁ、『英霊』かはともかくサーヴァントであることは事実よ。明らかにその娘は規格外の魔力を持ってるし」

 

青年は再び、狐娘の方を向いた。

 

「さっきこいつは自分の事を『玉藻』って言ってたな。確か、日本に伝わる九尾の狐の名前の一つだったような。だけどこの娘がサーヴァントだとして一体誰がマスターなんだ?」

 

 青年にとっては素朴な疑問だった。

 

 サーヴァントには契約する魔術師、『マスター』がいる。ここにいる魔術師は遠坂桜だけだ。ではこの娘のマスターはどこにいるのだろう。

 

 しかしその疑問を言うと二人は呆れていた。

 

「青年君。なぜそこまで鈍感なの? この娘もたびたびあなたの事を『マスター』って言ってたし、聖杯戦争の当事者になっているとも言ったはずよ。それともその現実を見たくなかったの?」

 

「ま、まさか……」

 

「青年君、あなたの左手を見なさい」

 

 青年は言われて通りに左手の甲に目をやった。

 

「なんだ、この紋章………!?」

 

 青年の左の甲にはなにやら不思議な形をした紅い紋章が刻まれていた。ただ紋章の一部は上の方が少し欠けており、消失した跡が残っていた。

 

「全然、気が付かなかった……。なんなんだ?」

 

「それこそがサーヴァントとの契約の証、絶対命令権を持つ、『令呪』と呼ばれるものよ」

 

「『令呪』?」

 

「説明は長くなるから後でするけど、それがあるという事は、あなたはその娘はマスターの証なのよ」

 

「本当にこの娘のマスターなのか。でもやはり俺にはわからない。そもそも自分の名前でさえ覚えていないんだからな」

 

 青年は令呪を見ながらそう呟いた。いくら証拠を見せられたとしてもやはり『記憶』というのは重要なもので、青年はあまり納得がいかなかった。

 

 俯き、複雑な顔をする青年。そんな様子の青年に狐娘は再び彼の手を握って語り掛けた。

 

「『神無木せつ(かんなぎせつな)』、それがあなたの名前です」

 

「えっ!?」

 

「ご主人様は記憶が無くて不安でたまらないはずです。いくら我々が言ったとしても信じられないでしょう。ですがそれでも私は覚えています。あの衝撃的な運命の出会いを!!」

 

「………っ」

 

「その時にご主人様の名前を聞きました。『神無木せつ』と」

 

「そ、それが俺の名前……」

 

「す、少しでも不安を取り除こうと思いまして」

 

「お前……」

 

「こ、こんな私ですが、本当に私はあなたのサーヴァントなのです。信じてくださいマスター!!」

 

 狐娘の必死の懇願だった。青年はその勢いに圧倒されて驚いてしまったが、次の瞬間に青年は笑っていた。

 

「わ、わかったよ。俺はお前のマスターなんだな。そんな必死に言われたら記憶が無くてももう認めるしかないじゃないか」

 

 そうして青年はそのまま自分の左手を狐娘の頭に置き、頭を撫でた。

 

「ありがとな……」

 

「はい、マスター!!」

 

 なんとも微笑ましい光景だった。傍にいた遠坂も少し笑いながらその様子を見つめていた。

 

ストーリーや世界観の評価

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