―――――――――何日も見続けた夢。





―――――――――その続きは俺の人生ということなのか。

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ワルキューレ

「ゴホッ!」

腹の底から何かが上がって来て手で口を押さえながら咳きこむと手に何かが付着した感覚がし、

恐る恐る手を見てみるとそれは今、俺の腹に開いている大きな穴から、

出ているものと同じ真っ赤な色をしていた。

空は普段ではみないような赤黒い色をして――――――いや、俺の目に映る景色、

全てがまるで赤いシート越しに周りを見ているかのような色をしている。

 

 

―――――――何が悪かったってんだよ。

 

 

今までちゃんと正しく生きてきたつもりだった。

 

 

―――――――なんで俺がこんな目に会わなきゃいけないんだよ。

 

 

 

今まで正しく生きてきた褒美がこれなのかよ。

 

 

―――――――なんでこんな……こんな――――――

 

 

 

“美しい翼羽ばたかせ、今日も我らは勇士(エインヘリャル)の魂を集める”

俺にも死期が訪れたのか美しい女性の声のような幻聴まで聞こえてきた。

“ねえ、助けて欲しい?”

その美しい声の幻聴の質問に俺は答える。

「あぁ、助けて欲しいよ」

答えの後にその美しい声の幻聴は聞こえなくなってしまった。

やはり、あれは死期が訪れている俺が聞いた幻聴なのかと頭の中で理解すると、

さっきまでの痛みが突然消えて今度は眠気が襲ってきた。

あぁ……やっとこの痛みから解放される……おやす

「私が助けてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

ふと、目を開けると俺が一人暮らししているアパートの小汚い天井が見えた。

ここ一週間、毎日毎日俺が腹に穴を開けて血を流しているという内容の夢を何度も何度も、

深い眠りに入るたびに俺―――――天城裕也はその夢を見る。

そして結末は毎回毎回、綺麗な女性の声の”助けてあげる”というセリフを聞いて、

目を覚ますということを一週間連続で体験している。

手をデコに当てて考えてみるが一週間前から今この瞬間まで、

夢の内容を経験した記憶など一切ない。

……最初はただの夢って思ってたんだけど流石に一週間連続はおかしいよな。

「そう言えば今日、数学のテストだ……行くか」

俺は壁に掛けられているカレンダーを見て、テストがあることを思い出すとベッドから起き上がり、

昨日の残り物を大学へと行く準備を行いながら口に運び、それを食べ終わると同時に準備がすみ、

そのまま歯も磨かずに家を出て学校へと向かった。

普通の……というか大部分の大学生は今日一日、どんな服を着ようなどと考え、

その日の気分に合う服装をして学校へ向かうと思うが俺はそんなことしない。

そもそも服なんか興味ないしな。お洒落なんかしたってそれが報われる結果になるのは、

ごく一部の人間しかない。

大体は中の良い友人から冷やかしを受けて笑いのネタにして会話を進めていくだけ。

それに俺が今、持っている荷物は消しゴムつきのシャープペンシル一本のみ。

教科書だって全く買ってない。

全部、教員の授業で理解できるし大学の図書館には過去問が置かれているから、

それを残っている分すべてやって俺の勉強はお終い。

復習も予習もしたことがない。

そんなことを思っていると大学に到着し、そのまま教室へと向かっていると、

ふと視界の端に銀色の何かが見え、そっちの方を向くと綺麗な銀色の髪をした女性が、

俺と同じ方向を向いて歩いていた。

綺麗だな……見たことないから上級生か……綺麗に染まってんな~。

「アバッ!」

銀髪の女性を見過ぎたせいか目の前のドデカイ柱に、

気づかずに顔の側面をぶつけてしまった。

一目見た女性に心を奪われ、柱にぶつける……初体験だ。

「大丈夫かな?」

ふと、声をかけられ、顔を上げてみるとさっきの銀髪の女性が俺の前に立っていた。

……やっぱり、近くで見ても綺麗だな。

「あ、はい大丈夫です」

「そう……見つめすぎても困るぞ☆」

「……ばれてまし……あれ?」

恥ずかしさのあまり少し視線を下に向け、もう一度視線を上げると既に女性は消えていた。

「……」

目の前でいま起きている事態をうまく理解できないまま俺は試験が行われる教室へと向かうが、

その道でもその女性と再会することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、俺は小腹がすいたので近くのコンビニへお菓子を買いに行っていた。

お気に入りのお菓子を買って、ブラブラと歩いているときにふと……本当に何気なく、

一週間連続で見ている夢の内容が頭の中で再生された。

今みたいに俺は袋を片手に持ちながら歩いていて、そこで何か意味が分からないものに腹に、

大きな穴をあけられてそれで女の人の声が……。

―――――――――突然、腹部にドン! と衝撃が走った。

何かがぶつかったのかと思い、下を向いてみると最初は何もなかったのだが、

数秒経つと俺の腹を貫通している刀が徐々に先端からその姿を見せはじめ、

それが完全にその姿を現すと今度はそれを持つ手が現れ、肘が現れ、

草履をはいている足が見え、肩が見え、そして顔が現れた。

俺の目の前に戦国時代の武士が纏っていた鎧を身に纏い、ひどく顔色が悪い武士が出現した。

『これを貴殿に』

武士がそう言って刀を抜いた瞬間、腹に開いた穴からボシュッ! と勢いが良い噴水のように、

血液が噴出し、ドバドバと流れ始めると急に激痛と立ちくらみが同時に襲いかかって来て、

そのまま地面に背中から倒れると今まで真っ暗だった空が赤黒い色に変っていた。

こ、これが……夢の内容っ!

「ゴボッ!」

腹の底から何かが上がって来て手で口を押さえながら咳きこむと手に何かが付着した感覚がし、

恐る恐る手を見てみるとそれは今、俺の腹に開いている大きな穴から、

出ているものと同じ真っ赤な色をしていた。

「ぐそっ! …………な、なんでっっっ!」

ここで夢の中の俺は女性の声を聞いて死ぬ……し、死ねない!

俺は血で真っ赤になっている手をゆっくりと空に浮かんでいる何かを掴むように、

腕を限界まで上げ、そのままの状態を保った。

「俺はっ! ごんなどごろでっっっっっ!」

――――――――死ねない!

その時、突然俺の手の先に光の塊が現れたかと思うとそこから綺麗な手がつき出てきて、

血だらけの俺の手を掴むと視界をまばゆい光で塗り潰していく。

その光は温かく感じ、意識が落ちる瞬間、あの声が聞こえてきた。

「私が助けてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

ふと、目を開けると俺が一人暮らししているアパートの小汚い天井……ではなく、

きらびやかな装飾が施された天井が見えた。

天井からは住人の趣味なのかは分からないが色々な物が吊り下げられており、

それは星だったりただの球だったり、動物だったりと様々な物がある。

「目が覚めた?」

隣から声が聞こえ、首を動かして声が聞こえてきた方向を向くとそこにいたのは、

学校で出会った銀髪の綺麗な女性だった。

その女性は髪をポニテールにしてまとめ、鎧を身に纏っていた。

その鎧は主に青色で彩られているがところどころ、白色のラインが走っている。

驚きのあまり、起き上がろうとすると腹部に痛みが走り、

その部分を抑えながらまたベッドに横になった。

「まだ、急に起き上がらない方がいいわ。完全に貫通していたから。はい、お水」

女性の手を借りてなんとかベッドの上で起き上がり、

持ってきてくれた水が入れられたコップを貰ってそのまま飲み干した。

「あ、あの俺は」

「貴方は穢魂(ダール)によって死にかけたのよ」

初めて聞く単語に俺の頭は理解することをやめてフリーズしてしまった。

ダーティソウルなんて聞いたら何かのゲームの単語なのかとも考えてしまうが、

今俺がいる部屋の様子、そして彼女が身に纏っている鎧を見ているからか、

そういう風には思えなかった。

「そもそもの話をするとここは神の国・ヴァルハラ。今貴方がいる部屋は生屋。

生きた者がヴァルハラへ来たときに案内される部屋よ」

「ちょ、ちょっと待って下さい! そ、そもそもヴァルハラってなんなんですか!」

「私の言葉が信じられなければ窓の外を見てみなさい」

そう言われ、彼女に肩を貸してもらいながら窓へと近づき、カーテンを勢い良く、

開けると一目で地球ではないと分かった。

巨大な樹木を中心としてその周りにいくつもの建物が建てられており、

どのような仕方で分けられているのかは分からないが円形に高い石の壁が立っており、

中心に近いほど建物は豪勢なつくりだが外へ行くほど建物は古くなっていく。

そして俺が住む世界と最も違うこと――――――それは彼女と同じように鎧を身に纏った女性たちが、

その背に純白の翼をいくつも生やして空を飛行していること。

「ここは神の国であり、勇士(エインヘリャル)の魂を、

この国へと運ぶヴァルキリーが住む国よ」

「……お、俺は死んだんですか?」

「……微妙な状態よ。簡単にいえば最新鋭の医療器具ですら死んだと判断するけど、

実はまだほんのちょっと息があるっていう状態ね」

「……元の世界には」

「戻れない。貴方の魂はすでにあちらの世界にはないもの」

つまり、俺はあちらの世界では既に死んだ存在ということになっているということだ。

今、俺が手と認識しているものが実は何か別のものなのかもしれない、

足だと思っているものが実は全く違うものなのかもしれない。

「貴方はここで生きていかなければならない。

この私――――スルーズ・レイズの乙女子として」

「……教えてくれませんか。この世界の全てを」

俺はまだ若干、戸惑いが残っているものの今ここで止まっているよりかは、

進んだ方が幾分か楽だと考え、この世界の全てを彼女――――スルーズ・レイズから話を聞いた。

非科学的な物の代表とされていた魂は実際に存在し、それは二つに分けられる。

一つは歴史に名を刻んだ英雄や革命家など誰かのために名を刻んだ者の魂、

そしてもう一つは悪しきことで歴史に名を刻んでしまった者の魂。

前者を善の魂とかいて善魂(ナイル)、後者を穢れた魂とかいて穢魂(ダール)。

そして最後に彼女が言っていた乙女子―――――それはワルキューレと一種の契約を結ぶことで、

種族の理から抜け、寿命がほぼないといっていいほどの長い年月を生きながら、

契約主の傍に居続け、主をサポートする存在。

「まだ色々とあるけど今のところはこれを知っておけばいいわ。どう?」

「…………」

「まあ、まだ答えを出さなくていいわ。難しいことだものね……ただ、覚えておいて。

貴方がすんでいた世界には多くの魂が安寧を求めて、漂い続けていることを。

じゃ、早速行きましょうか」

「行くってどこへ」

そう言うとレイズさんはニコッと小さく笑みを浮かべると俺の腕をつかむと突然、

部屋の中で走り始め、今にも壁にぶつかるかと思った瞬間、レイズさんの身体が壁をすり抜け、

次に俺の身体もすり抜けると顔を叩くように強い風が吹きつけた。

数秒間、顔に風を叩きつけられていると突然、目の前の空間に大きな穴が開き、

そこを通過するとほんの数時間前まで俺が住んでいた世界の上空へとたどり着き、

レイズさんの背中から純白の翼が二枚ほど作り出され、徐々に減速していきながら落ちていき、

速度がゼロになったと同時に地面に足が着いた。

「はぁ……はぁ」

「死ぬかと思った? 私も初めての時はそう思ったわ。さ、仕事仕事」

「し、仕事って何を」

「さっき、言ったでしょ。私はワルキューレ。その役目は勇士の魂をヴァルハラへと持っていくこと。

その他にも穢魂を地獄へと歓送するのも私たちの仕事よ。今、

この街にはいくつか穢魂が確認されているからそれを歓送するわ」

そう言いながら歩くレイズさんに俺も付いていくがさっき、高所から飛び降りたせいか、

傷口がある腹の痛みがまた、ぶり返してきた。

突然、レイズさんが立ち止まり、掌を空に向けたかと思えばそこに青い光が集まっていき、

その形を長方形にするとそこにスマホに似たデバイスが現れた。

彼女はそれを手慣れた様子で片手で操作しながら周囲を見渡していた。

「あっち……みたいね」

彼女が向いている方向を見ると空の大部分は青い空なんだがそこの部分だけ、

赤黒い色をしている。

……俺が死んだ時もあんな色をしていた。

「行くわよ」

そう言い、彼女が背中から純白の翼を二枚、生やすと俺の手を掴んで、

ゆっくりと上空へと上がっていき、赤黒い空が広がっている部分へと向かった。

赤黒い空へと向かっている道中、レイズさんが話しかけてきた。

「言っておくけど穢魂はそう簡単に歓送されないわ。反抗してくるし、

中には強力な力を持った存在だっている……だから貴方は物陰に隠れてて頂戴」

「了解」

俺がそう言ったと同時に赤黒い空のエリアへと入ると全身に寒気が走り、

誰かに近くで見られているような感覚を覚えた。

「来る!」

そう言い、レイズさんが体勢を大きく崩したかと思えばスレスレのところを、

赤黒い矢が飛んでいき、青空の下へと出ると切りになって霧散した。

慌てて飛んできた方向を向いてみると弓を持った髪が重力を無視して、

逆立っている人物が前方に浮いていた。

「じゃ、隠れてて頂戴」

「ちょ!」

レイズさんは俺を空高く出手を話すと弓を持っている人物のもとへとツッコン行くが、

俺は支えを失ったことでそのまままっすぐ落ちていく。

「うわぁぁぁぁ……お?」

落下していく速度のまま足から地面に落ちた俺だが確かに衝撃が全身に走ったが、

特に痛みも感じなかった。

……俺、もうこの世の存在じゃなくなったから生きれたのか?

「っっ!」

その時、上空からすさまじい衝撃音が響き、慌てて上を向くと翼を羽ばたかせて、

凄まじい速度で移動しながら赤黒い矢の攻撃を避けているレイズさんが見えた。

レイズさんの速度も凄いけど、あいつもよくあんな速度で矢を放てるな。

物陰に隠れながら二人の戦いの様子を見続ける。

彼女は掌上にして手を横に伸ばすとそこに光の粒子が集まっていき、

その粒子が長く伸びると光が霧散し、青と白が混ざったような色をしている槍が現れ、

それを握り締めて相手が放ってくる赤黒い矢を叩き落としながらレイズさんが相手に突っ込んでいく。

「うわっ!」

俺の頬の薄皮を切りながら赤黒い矢が俺の頬のスレスレのところを通過していき、

地面に着弾すると道路に大きめの穴を開けた。

……生身に直撃したらまたどっかに大きな穴があくな。

相手の攻撃を避けながらすれ違いざまに槍で切り裂くと、

相手の脇腹からは血液ではなく赤黒い霧のようなものが噴き出し、弓も矢も消え去った。

それを確認した彼女は立ち止まって相手の方を向くと槍を器用にクルクルと回し始めた。

すると回転していく毎に槍の全体が光輝き始め、その光が最大にまでなった瞬間、

レイズさんは光輝く槍を相手めがけて投げると相手の腹を貫通した。

「浄……化なのか?」

槍が突き刺さった部分から徐々に相手が光の粒子に変化していき、

天に向かって消えていき、数秒も経てば一瞬にしてその場から消え去り、

天に向かって高速で移動し始めた。

……見えなくなっちまった。

「あれが歓送よ」

俺の隣に降り立ったレイズさんがそう言った。

「あいつの魂は地獄に」

「そう。彼は悪しきことで歴史に名を刻んでしまったからね……ところで、

私の乙女子になる覚悟はできた?」

「……まだ、悩んでいます。だからまずは貴方のお手伝いさんとして、

経験を積ませてから考えさせて下さい」

「まあ、それもありね。さ、帰りましょう」

そう言い、彼女は俺の手を握って翼を羽ばたかせて再びヴァルハラへと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――何日も見続けた夢。

 

 

 

 

 

―――――――――その続きは俺の人生ということなのか。




そう言えばヴァルキリーのお話の小説って見たことないな~って、
D×Dの十七巻を見て気づいたので書きました。

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