傭兵たちの後日談(アフターストーリー)   作:踊り虫

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長くなりすぎたので分割します。

おかしい、今回でダンジョンがどんな状態か説明まで終わらせるつもりだったのに……グヌヌヌヌ


傭兵たちの始まり、その4

 翌日、アインはカインズたちに誘われて、トラヴィスの先導の下、ルビーとカインズと共に山登りをしていた。

 

 クルースとアズサは留守番である。

 そして本当なら昨晩話を聞いていたキイチにも着いて来て欲しかったのだが、彼は辞退した上でアインを指名したのだと、トラヴィスは言った。

 

 ――儂は余所者だからな。ことと次第によってはお前の証言の方が信用を得られるだろう。

 

 そう言っていたが、村人達に彼を迫害するつもりは一切無く。むしろ自警団の若い衆はアインも含め頼りにしているのだが、あの人はそこらへんをもっとよく理解してほしい。

 

閑話休題。

 

 アインたちは山林を登っている。トラヴィスを先頭に、ルビー、カインズ、最後尾にアインという順番だった。

 アインにとって山は庭のような物。魔物の姿すら目にしていなかった小さい頃は、この辺りで歳の近い奴らと駆け回ったものである。

 そして自分の前を行くカインズは昨日とは違い鎧を着けず、軽装で背に皮のベルトで留めた大剣を負ぶっての登山だった。鎧姿だと鎧同士が擦れ合ってうるさくなるのを嫌ったらしいがそれなら大剣も置いてくるべきじゃないかな、と思いつつ黙っておくことにした。

 少なくとも、この人は自分よりも遥かに強い。道案内をするために先頭を行くトラヴィスも止めていなかったのでそれに倣った形だった。

 

 そして、ハウンドの群れから助けることとなった少女、ルビー。

 彼女もまた同行すると聞いて、アインはドキマギすることになった。

 

(ああもう、なんであんな話をするんすかね!)

 

 自警団の面々を思い出しつつ、アインは毒づいたのだった。

 ――時は前日、魔物の解体作業が終わった後まで遡る。

 

◇◇◇

 

「あ、えっと、ルビーちゃんだったね。うちに泊まっていかないかい?ごちそうするよ?」

 

 その誘いが、全ての始まりだった。

 声を掛けたのは村の中でアインに最も年齢の近い二つ年上の青年アジス。

 自警団の中でもキイチに次ぐ弓の使い手として活躍する青年であった。

 アインとしては自宅に傭兵さん共々泊めることも考えたのだが、流石に人数が多すぎて寝る場所が足りないのを思い出し断念していたので渡りに船であった。

 

 ――実は青年が両親から「嫁の姿が見てェなぁ」と圧力を掛けられていたことなどアインは露ほども知らなかったのである。

 

 で、肝心のルビーが答えようとして、しかし待ったを掛けた者がいた。

 

「あいや待たれィ!ルビーちゃんは我が家に招待しようじゃないか!」

 

 それはアインより10年上の少し小柄な青年ドゥルヴァだった。

 自警団ではアインと共に盾と棍棒を手に突撃していく前衛組に所属し、アインの父が不在な今、一番に突撃していく勇士であった。

 ――実はキイチの一人娘であるクズハに片思いをしていたのだが四年前に玉砕、子供まで生まれると聞いて傷心に浸っていたところで現れたのがルビーだったのである。これはもう猛アピールするしかねぇ!という暴走をしているのであった。

 

 そんなことを知らないアインは、なんで彼が名乗り出たのか分からず「ん?」と首を傾げた。

 

「いや待てよ、抜け駆けすんな!」

 

 続けてそう怒鳴ったのはアインの三つ下の少年トルリースだ。

 今年成人を迎えて自警団に入った新入りでアイン同様前衛組であり短気で喧嘩っ早いのが玉に瑕だが、アインを兄のように慕ってくれていた。

 ――なお、ルビーに一目惚れしてしまっているのだがそんなことアインが知る由もなし。

 

 アインとこの三人、そして今は村を出ている村長の息子というのが、キイチの手伝いをしている村の若い衆という奴であった。

 

「ちょっと、みんな何を揉めてるんすか!?ル――」

「アインはすっこんでるがよろしい!」

「そうだそうだ色男!」

「兄貴のバーカバーカ!」

「なんで俺罵倒されてるんス!?いや、ホントにどうしちゃったんスか!?」

 

 理不尽な罵倒に何がなんだか、という様子でうろたえるアイン。なおその場にはなんで「揉めてるの?」と首を傾げているルビーに「何騒いでんだろな~」と野次馬根性を発揮してニマニマと眺めているカインズ(先ほどまで解体作業をしていたため鎧は脱いでいる)と「何やってんですかね」とカインズを含めて呆れの表情で推移を見守っているクルース、そして我関せずとばかりに片付けを進めているキイチも居るのだが直接止めてくれる人は誰一人としていない。

 

 いや助けて欲しいんですけども。

 結局誰も止めないので三人はヒートアップ。

 

「そもそもアインとこは既に可愛い子を泊めてるじゃないか!それに飽き足らずルビーちゃんまで独占するつもりか!」

「「そうだそうだ!」」

「何言ってんすかマジで」

 

 呆れたように言うアインにむしろ三人は驚きの表情を浮かべ、ひそひそと話し始めた。

 

「待て、あの反応はまさか、アインの野郎、自覚なしか?」

「あの丸っこい耳の女の子、結構可愛かったよな。見慣れない恰好だったけど」

「ああ、そしてあの活発でありながら物腰柔らかさも併せ持つあり方は実に素晴らしい……あと4~5年もすればそれはそれは――」

「お前さんわかってるなぁ、ウチの娘、絶対その頃すっごい美人になってるよな?」

「全く以って将来有望――お父さん!娘さんを下さい!」

「娘から紹介されるほどの男になってから出直して来やがれ」

 

 ドゥルヴァが膝から崩れ落ちた。

 

「ドゥルヴァの奴、無茶しやがって……それよりもアインの奴、それほど魅力的な女の子を一晩泊めて置いて何も感じなかったってのか?」

「ま、まさか兄貴は女に興味が無いのか!?」

「な、なんてこった……アインの奴オレたちのケツを狙って――」

 

「全部聞こえてるッスよ~。あと傭兵さんは自然に混ざってんじゃないッス」

 

 アインはジト目で三(バカ)カインズ(親バカ)を見た。カインズがとぼけた様子で口笛を吹く。この野郎……。

 それはそれとして、そもそもなんでそんな話になるのかがわからない。

 アインもそういうのがわからない訳ではないけどやはり相手の意思を尊重したいと思うのだ。

 

 とりあえず「そんながっついたら女の子が怖がって逃げるんじゃ無いッスかね?」と言ってみたのだが。

 

「けど兄貴、この村じゃ女の子との出会いなんて全く望めないじゃんか」

「俺なんてもう20も過ぎちまってるからよぉ、『孫の顔が見たい』ってお袋からの催促がやべぇんだよぉ」

「……私など、もう二年もしたら30だ……う、うぅぅぅっ」

 

 そんなことを言って崩れ落ちる三(バカ)。自分より年下のトルリースは別として、アジスとドゥルヴァさんは切実だった。

 やれやれ、母さんに今度聞いてみるか、と首を振っているとカインズがアインの肩に手を置いてこんなことを言い出した。

 

「そういやぁルビー、お前さんコイツのことどう思ったよ?」

「……?」

「いや、傭兵さん何を言い出すッスか」

 

 アインが抗議するのも無視して、カインズは続けた。

 

「ほれ、今朝の戦いだ。あん時のコイツの働きはお前さんも見てただろ?あれを見て、なんか無ェか?」

 

 あれ、と聞いて思い浮かぶのは自警団への指示出しのことだったが、アインは特にすごいことしているとは思っていなかった。

 

「いや、あんなのどうってこと……」

「そんなこと、ない」

 

 だから、ルビーがはっきりとそう言ったことに目を丸くすることになった。

 

「すごかった。指揮の才能、ある」

「だよなぁ?少なくとも自警団の中で一番冷静に状況を見極めてたのはコイツだった。キイチのおっさんなんて二つ首(オルトロス)を見てうろたえてたし」

「うっさいわい!」

「えっ、あっ、えっと……」

 

 照れつつも、しかしどこか納得がいかない。

 魔物の群れを撃退したのは傭兵さんたちと自分を含む自警団の皆だ。称賛は皆が受けるべきものであって自分だけ褒められるのは何かが違う。

 それに自分は臆病者だ。臆病だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが――

 

「自信、持って良いよ?」

 

 ルビーがまっすぐこっちを見た。金色の瞳に吸い込まれそうな、そんな感覚をアインは覚えた。

 こんな綺麗な女の子にそう言ってもらえるのなら、少しはうぬぼれても――

 

「「「アイン(兄貴)、羨ましいぞコラァ!」」」

「うわわわわわっ!?」

 

 その後アインを現実に引き戻した三(バカ)に追い掛け回される羽目になり、戻ってきた頃にはルビーはキイチの家で傭兵さんご一行共々お世話になることで決まっていたのだった。

 

 ――三バカがまた文句を付けようとしたが、キイチさんが一睨みしたらすごすごと帰っていった。さすがキイチのおっちゃんである。

 

◇◇◇

 

 と、こんなことがあったのだ。

 綺麗な女の子に邪気の無い称賛を受けて平静でいられない程度にはアインも男だったのである。

 それで柄にも無くカッコイイところ見せてやる!ついでにルビーに手を貸してあげたり……なんてことを思っていたのだが。

 

『祖竜よ、我らに翼無く、しかして我らに足ありて、我が足に汝が翼の軽やかさを授け給え――紅龍の翼』

 

 魔法による補助でルビーは二人以上に軽々と山を登っていたのだった。

 魔法、ずるい。でもかっこいい。

 

「……良いなぁ、俺も魔法を使ってみたい」

「それに関しちゃ同意するが、お前さんそもそも文字の読み書きできんのか?」

 

 カインズの言葉に、アインは首を振った。

 サンパ村は山に囲まれた僻地にある村で、物品も基本的に物々交換で賄うような村だ。結果、文字を学ぶ機会自体が無かったのである。

 

「出来無いッスね。傭兵さんは?」

「オレは一応文字の読み書きは出来ッけど古文書とにらめっこするのは性に合わなくてな」

「あ、なるほど。でも傭兵さんは魔法を使えなくても歴戦の猛者、みたいなかっこよさがあったっすよ」

「はっはっは!歴戦の猛者を名乗るにゃオレはまだまだだ。オレより強い奴なんざ探せば幾らでも見つかるだろうよ。上には上がいるもんだ。ほれ、前を行ってるトラヴィスを見てみろよ」

 

 そう言われて、アインは黒を基調とした装束に身を包むエルフの青年、トラヴィスに目を向けた。

 人間業とは思えない身のこなしだった。

 そこそこ傾斜のある山肌を、木々の枝や石などを足場として駆使し、跳ぶ様にして音も無く登っていく。

 あれで魔法も無しだと言うのだから末恐ろしい物があった。

 

「……トラヴィスさんって何者なんスか?魔法なしでルビーさんより早いとか」

 

 カインズはあっけらかんとした様で言った。

 

「ま、人間血反吐吐いてガンバりゃアレくらい出来るようになるってこったな」

 

 あっはっは、と笑いながらカインズは先に進んでいく。

 その後姿を見て、アインは独り言ちた。

 

「……そういえば傭兵さん、魔法なしで鎧着て大剣背負ったまま、あの柵を飛び越えてたッスね」

 

 あんな重い物を身に付けながらそんなことをしてる時点で人間業じゃない。

 傭兵ってあんな化け物揃いなのだろうか、とアインは苦笑いを零しつつ、今回呼ばれた理由に思いを馳せて、カインズに問いかけた。

 

「あの、傭兵さん」

「あ?どうした?ばてたか?」

「いや、そうじゃなくて……その、()()()()()()()()()()()()なんて良くあるもんなんスか?ちょっと今でも信じられてないんスけど」

「魔剣聖剣がこの世に存在しないわけじゃあねぇが、まずお目に掛かれる代物じゃねぇよ。しかもダンジョンが世界各地に見られるようになったのはたった三年前の話だってのにダンジョンに関わる魔剣なんて代物があるなんて信じられるもんじゃあねぇな」

「あぁ、やっぱり……でも、それならなんで信じて着いて行ってるんすか?」

 

 カインズはアインの問いに笑って答えた。

 

「あいつらが仕事においてそんな馬鹿げた嘘を言う奴らじゃあねぇからさ。嘘を吐くなら吐くなりの裏があるか、真実をそのまま告げているかのどちらかってことになるだろ?――まぁ道草食って変なモン食べた可能性も捨て切れねェけど

「聞こえてるぞたわけ!」

「聞こえてるんすか今の!?」

 

 本当の小声でカインズは言っていたのだが先で待っているトラヴィスが耳ざとく反論したことにアインは本当に驚いた。

 やっぱり長い耳だから耳も良いのか?なんてアインは思ったが、残念ながらエルフの聴力は人間の聴力と大差ない。

 

 しかめっ面でこちらを見るトラヴィスにカインズは笑って返した。

 

「信じるために着いて行ってるんじゃねェか、そう怒るなよ」

「……僕も何も知らずにお前からそんな話を聞いたらそれを真っ先に疑っただろうよ。なんせ碌に知識が無い癖に山菜に手を出して腹を壊していたからな。あれが致死性の毒草だったらどうなっていたことか」

「ゲッ!トラヴィスその話は良いだろうがよ!それより魔剣だ魔剣!」

 

 真っ赤にして怒鳴るカインズにトラヴィスはやれやれと首を振った。

 しかし、彼らがそこまで言う以上、相当珍しい物なのだろうがアインには物珍しさよりもソレと関わることへの不安がある。

 『未知との遭遇』は恐怖を覚えさせる物。アインも例に漏れずそうした不安を抱いたのである。

 

 だが『未知との遭遇』は何も、恐怖だけをもたらす訳ではないようだ。

 

「早く、早く」

 

 足を止めたトラヴィスをルビーが急かした。

 思えば村を出発する時から表情こそあまり変わらないが楽しげにしていた気がする。

 だが、トラヴィスは淡々と告げた。

 

「ここから先は少ないとはいえ魔物が出てくる。警戒はしておけ」

「わかった」

 

 ルビーは素直に頷いて、しかしどこかそわそわとしていた。

 まるで待てをされた子犬のようだった。よほど楽しみなのだろう、とアインは思った。

 

「んじゃ、トラヴィス、頼む」

「ああ」

 

 短く答えて、トラヴィスはまた前に進んでいく。先ほどよりその進みは遅いが音が全くしていない。

 それに倣ってルビーは魔法を解いてゆっくりと歩き、カインズも着いて行くが、周囲に視線を向けている。

 アインも緊張を滲ませながら一歩を踏み出した。

 

◇◇◇

 

 道中、魔物を見かけこそしたが、戦闘は一度だけだった。

 

 それはアインも見たことのある人食い熊――より少し小柄な個体が二頭。

 カインズ曰く『篭手熊(アムドベア)』と呼ばれる魔物らしい。足が鉱物で覆われていて、これが篭手に見えることからそう名付けられたらしい。

 これが成長すると体が大きくなり、同時に頭や腹部にも鉱物が広がって鎧を纏っているかのような姿から『甲冑熊(キュイラスベア)』と呼ばれるようになる。

 おそらく二年前に現れたのは出会ったのはこの個体だろう。

 

 また更に成長する個体もいるらしい。

 体が更に大きくなる上、体を覆う鉱物が鋭利な形状へと変化、名前も『暴爪熊(ベルセベア)』と呼ばれ、上級モンスターに分類されるようになる。

 「オレ一人じゃ相打ち覚悟だな」とカインズに言わしめさせるほどの怪物になるそうだ。

 

 そんな解説を受けている間に二頭はトラヴィスが迅速に処理した。

 

 二頭を見かけるや否や腰に帯びていた短剣を引き抜いて投げると、短剣は吸い込まれるように篭手熊(アムドベア)一頭の片目を抉り、音も無く駆け抜けてその速度のまま刺さった短剣を押し込むように蹴りを入れると断末魔の声を上げながら崩れ落ちる。

 もう一頭が反撃しようとトラヴィスに襲い掛かるも、その鉱物に覆われた自慢の巨体をかわして背に飛び乗り首元に手を回して引き抜かれた短剣(スティレット)で一突き、そのまま中をかき回して離脱。

 ダメ押しで短弓に弓を番えて放つと脳天に矢が綺麗に突き立ち、篭手熊(アムドベア)を絶命させていたのだった。

 

 もはや戦闘ですらない。狩り、だとか処理、だとか、そういう言葉が似合う情け容赦の無い洗練された技術。

 

「……本当に人間辞めてません?」

「この手の仕事をするようになって30年は経つ。この程度、嫌でも覚えなければ五体満足で生き残ってはいない」

「……オレに同じことは出来ねェからこっち見ンなアイン」

「瞬殺……!」

 

 

 

 その後は、村の近辺で出没していた小型の魔物なんかを見かけこそしたが、小石を全くの別方向に投げて誘導したりしてうまくかわして進んでいく。

 自警団が捜索していた範囲の外、鬱蒼と葉の茂る山林には日の光が薄く射すのみ。

 

 ――そこでアインは、()()()()()()()()()()()()()()()を理解することになる。

 

「なんすか……これ」

 

 熊に鳥、兎、小鬼、新鮮な物から腐敗している中途の物、中には白骨化した物に加え、今息絶えようと浅く呼吸を繰り返す物まで、そんな濃密な死が、森の木々の間に隠しきれないほどに広がっている。

 

 

 村に魔物が押し寄せてこなかったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それを理解すると同時に胃からこみ上げてきた物をどうにか出さないように口元を抑えて努める。

 

 

 アインは二年間、村の自警団員として魔物と戦ってきた。確かに出現頻度はあの狼が出てくるまでは週に一度あるかどうかだったが自警団で協力すれば村は守れるのだと信じていた。

 

 ――それが違うのだと思い知らされたのだ。

 

 ここにいる魔物すべてが村を目指していた訳では無い、などと楽観的にはなれない。むしろこの亡骸の群れが生きて動いていたとしたら間違いなく村は滅んでいた。

 

 

「……思ってたのと、違う」 

 

 

 ルビーを見た。

 自分がこの有様なのだから、小柄な少女には更に酷な光景だろうと思ってのことだ。

 

 彼女は顔を顰めこそしていたが、だがそこに恐怖は無く、あったのは――落胆の色。

 唖然として目を見開くアインを余所に、トラヴィスが言う。

 

「間違ってなどいない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。そもそも夢のある話ではない、と昨日言った筈だが?」

「……面白くない」

「面白いっつってもこれはどちらかといえば怪奇譚の類か、森の中に謎の魔物の変死体!その正体は魔剣の呪い、ってとこか」

 

 

「こりゃ参考にならねぇな、出てきた奴を片っ端から殺すとか出来るかっての」

 

 カインズは「くせぇくせぇ」と顔の前で手を振ると、布を取り出して口元を覆うように結び付けた。

 トラヴィスも同様のことをして、更にルビーとアインに布を差し出してカインズを顎で示す。

 

 同じようにしろ、ということなのだろうか?ルビーは素直に受け取ってそのまま結び、アインも遅れてマネをすると、トラヴィスは再び先導を始めた。

 

 カインズは油断無く――しかし先ほどよりはリラックスした風に登って行き、ルビーも表情を変えることなく登っていく。

 アインはこの光景を見ても大きな動揺を見せない三人が怖かった。

 トラヴィスとルビーは死体を避けつつ、カインズは死体を蹴飛ばしてまでして進んでいく。

 これが、傭兵。これが自分たちなんかよりも魔物を倒してきた人の姿。

 

 

 普通じゃな――

 

 

 アインは両手で勢いよく頬を張った。

 

(しっかりしろッ!この人達は村を助ける手助けをしてくれてるんだ。そんな人達を怖がるなんて以ての外!むしろ今は頼もしいじゃないっすか!)

 

 ギリッと奥歯を噛み締めて弱気な心を蹴り飛ばす。

 なぜ自分がここに居るのかを思い出せ。

 

(自分はこの先で起きていることの証人にならなきゃいけない)

 

「ど、どうしたんだアイン?いきなり頬を張ったりして」

「大丈夫ッス!早く行きましょう!」

「お、おう……どうしたんだアイツ?

 

 トラヴィスに置いていかれないように、とアインはズンズンと突き進んで行く。

 

 ――間違って腐敗した魔物の死体を踏み潰して悲鳴を挙げることになったのだが、それは余談だろう。

 

 

 しばらく森の中を歩いていくと一つの洞の前に辿り着いた。

 文字通りの死屍累々。先ほどまであちこちに魔物の亡骸が散らばっていたが、ここではそれが積み重なっていた。

 

 その中央に座すは覗き込むことを戸惑わせる一寸先すら見通せない暗闇を覗かせる(うろ)

 周囲の惨状も相俟ってまるで御伽噺に出てくる死の国への入り口を想起させる。

 

 

 怖気がアインを襲った。

 ()()が死の中心。()()()()()()()()こそが死を森の中に撒き散らしていた元凶だと悟ったからだ。

 

 

 ――アインの視線の先には()()()()()()()()()()()()があった。

 

(なんだ、あれ)

 

 絶対に触れるな、と警鐘が鳴る。

 生存本能がこれ以上近づくなと教えてくる。

 

 あれは、ダメな物だ。

 

「う……あ……」

 

 あの剣こそが死の坩堝を産んでいるのだと本能で理解できた。

 大声を挙げて逃げ出してしまえと本能が訴えかけてくるが、実際に口から漏れ出たのは掠れた声だけ、逃げようにも足が震えて言うことを利かない。

 正直、ちびりそうだ。

 

 たかが剣一本に情けないなどと言わないで欲しい。目の前にあるのは自分の生殺与奪を握る()()()()()()()()()()()だ。

 

 だから、誰かに助けを求めようとして――小さく震える紅髪を見た。

 

 ルビーの姿を見たのは偶然だった。

 先ほどの普通じゃないと考えそうになった少女までもが震えている。とすればこれはよほどの事態なのだと理性が告げていて、本能はすぐに逃げろと叫び続けていた。

 

 ――そんなことは関係なかった

 

 アインの頭から雑念が全て消し飛んだ。

 恐怖で震えている少女の手を握るのに、そもそも理性も本能も不要だった。

 

「ルビーちゃん、しっかり!」

「――え……あ……」

 

 手を握られた上で声を掛けられたことでルビーはアインを見上げた。

 瞳が震えている。危うく魅入られるところだったのかもしれない。

 

「ルビーちゃん、()()を見たらダメだ。俺も危うく呑まれかけたッス」

「……うん」

 

 ルビーは相変わらず感情を感じさせない声で応じてアインの背中に隠れた

 

「傭兵さん、トラヴィスさん。俺とルビーちゃんはこれ以上()()を見れないんで、背中に隠れさせてほしいっす」

「上出来だぜ、アイン」

 

 カインズはそう言うとアインの前に仁王立ちして二人を自分の背に隠す。

 その時――

 

『よくぞ参られたお客人。この身では出迎えの用意すら儘ならんが、何、安全だけならば保証しよう』

 

 ――美しい女の声が、頭に響いた。




・キイチの立場。
 娘さんと共に10年前のヤマト滅亡寸前に亡命してきた。
 心優しい村人たちに支えられて今の家で暮らすことになり、また娘も今の村長の息子と恋愛の末に結婚をしていて、余所者だなんて考える人は居ないのですが――


・アジス、ドゥルヴァ、トルリース。
 サンパ村の若い衆三人組。この場に居ない村長の息子およびアインと一緒にキイチの手伝いを度々していた。
 年齢はそれぞれ

・アイン:18
・アジス:20
・ドゥルヴァ:28
・トルリース:15
・村長の息子:25

となっている。
 ちなみに名前の由来はロシア数字の1(アジン)、2(ドゥヴァ)、3(トゥリィ)をもじったつもり。


・『篭手熊』『甲冑熊』『暴爪熊』
 モンハン基準で

 『篭手熊』:下位の小型モンスター
 『甲冑熊』:下位最序盤の大型モンスター
 『暴爪熊』:下位中盤の大型モンスター

 みたいなイメージで書いてます。

 この世界の人々もある程度は盛ってるけど、某怪物狩りの皆様に比べて劣っているので必然的に難易度は上がっています。
 モンスターの巨体で突進なんぞされてもひき肉にならずに吹っ飛ばされるだけで済んだり、雷落とされても消し炭にならない怪物狩りの皆さんマジ人外。

 この魔物が纏う鉱物は鉄に性質が近いため、良質な武器や鎧の素材に出来ますが、一体から取れる量は成長するほど増えると同時に討伐難易度も上がる仕様。


・余談:
 当初の予定では『暴爪熊』三頭に追いかけられるけど、妖刀ちゃんの領域に足を踏み込んだことで三頭ともぶっ倒れてより異常をより強調する展開も考えてたんですけど余分に長くなるだけだなと思い辞めました。

……そもそも道中のやり取りって必要?とか言ってはいけない。
後になってから「これ、道中のやり取り省略して妖刀ちゃんと出会ったとこから書いたほうが良かったんじゃね?」なんて思って発狂したのが前話の投稿日だったけど、書き直すとトラヴィスの容赦ない対魔物処理技能とかアインの主人公ムーヴとか色々とおいしい場面が削れて個人的に勿体無い感あって書き直さなかったという裏話があります。

 ……話進まないけどキャラ動かすの楽しいからこうなっちゃうんですよね。なので序章の話数が確実に伸びます()
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