傭兵たちの後日談(アフターストーリー)   作:踊り虫

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傭兵たちの始まり、その6

 ――ダンジョンに謎は多いが、この三年の間に研究が為されなかった訳では無い。多大な犠牲こそ生まれているが、ダンジョンを解明しようとする動きは各所で行われてきた。そうでなければ只人である僕たちにダンジョンの攻略なんて出来るものか。

 アイン、何か言いたげだが貴様は黙っていろ。

 

 ――ダンジョン内で魔物が増えるのには周期が存在することが確認されている。

 周期が短いほど数は多いが魔物が弱く、ダンジョンの成長は早い。逆に周期が長いほど数は少ないが魔物が強く、ダンジョンの成長も遅くなるようだ。

 理由は不明。そもそもダンジョン内の魔物がどのようにして増えているのか自体が未だに分かっていないのが現状だ。

 

 ――だが、周期があるのなら、その間に魔物を減らしてしまえばダンジョン内の魔物の総数も減るということになる。大人数でダンジョンに入り、魔物を殲滅する手法はダンジョン攻略法の一つだ。

 

 ――しかし、今回のように人数が少ない場合や、より安全にダンジョンの攻略を行う場合はダンジョン内の魔物を外に引きずり出して誘導し、罠に引きずり込んで迎撃、殲滅するのが一般的だ。

 

 ――自警団の皆には、この罠の設営と迎撃、即ち『間引き』の作業に協力してもらう。

 

 

 自警団が協力を申し出た翌日、彼らは作業を始めた。

 村から少し離れた地点の山林を切り開き、そこを迎撃地点とする。

 

 自警団から「村の柵の前に作らないのか?」という疑問を投げかけたが、トラヴィス曰く「囮役が戦わずに済むならそうしていたが、今回は余りにも人数が足りないのでな、戦闘にもしっかりと参加することを考えると少しでもダンジョンに近い方が良い。ああ、安心しろ、何もダンジョンのすぐ傍に設営する訳では無い」とのこと。

 

 途中で魔物の襲撃を受けながらも協力して迎え撃ちながら作業を進めること二日。

 彼らは村から少し離れた位置に、迎撃するための戦場を作り上げたのである。

 

◇◇◇

 

 木々の切れ間から飛び出してきたカインズとトラヴィスを見て、アズサは身構えた。

 その後ろから獣の臭いがする。狼の魔物たちだ。

 

 こちらに走り込んでくる二人の後ろから木々の間を縫って飛び出して来る二つ首(オルトロス)を筆頭とする狼たち。その数、20頭弱――普段が10頭居るかなので単純に二倍の数だ。

 

 そんな数を一度に戦ったことの無い自警団からどよめきが上がる――が、アズサはむしろ、少ない、と考えていた。

 おそらく『間引き』の経験の無い自警団のためにここに来るまでに削るなり、誘き出す数自体を少なくしたのだろう。普段なら30~40は引き摺りだしている筈だった。

 

「うろたえたらアカン(ダメ)よ!そのために準備したんやさかい(だから)!シャキッとしい(して)!――返事は!?」

『『『お、応ッ!』』』

 

 手元の筒から声が返って来たので、良し、と鼻を鳴らした。

 

「……肝っ玉」

「これぐらいせな着いて行けまへんもん。あの人らばっかり無理するんは嫌や」

 

 ルビーの言葉にアズサはそう返しつつ、近づいてくる三人と魔物の群れを見比べる。

 

(群れを引き付け過ぎたんやね……あのままやと()()()()()()()()()()()()()()()

 

 はぁー、とため息を一つ漏らし、腰に佩いた二刀の柄に手を掛けて立ち上がる。

 目測にしておよそ30m。大体4歩か。

 

「ルビー、自警団への号令頼んます」

「……え?待――」

 

 時間が無いので返事は聞かなかった。

 塹壕から飛び出す。息を吐いてそのまま止め、気を練りこみ、一歩踏み込む――

 

 ――縮地

 ヤマトの伝承において『地を縮めるかのようだ』と謳われたある英雄の活躍を由来とし、再現しようとして生み出された古武術の歩法が一つ。

 流派によって様々な解釈が為されるために「これこそが縮地である」という固定概念が存在しないが、それらを総じて縮地、もしくは縮地法と呼ばれるようになった技術の総称。

 

 アズサが今から行うのもその一種。息を止めて意図的に火事場の馬鹿力を引き出しながら気を練り上げ一歩目に全て注ぎ込むことで行う直線軌道の()()

 

 

 ――師匠に教わったけど、オレじゃ良くて3mの距離を一息で詰めるぐらいが精々だ。しかも一回でスゲェ疲れる。だからアズサは才能があるんだな。

 

 

 そう言って頭を撫でる無骨な掌を覚えている。

 あの人の傍にいて、そして自分にしか出来ないことがあると分かって、どれほど嬉しかったかも覚えている。

 

 当然この跳躍、魔法抜きで人外染みた速度を叩き出す代わりに弱点も多い。

 跳躍である以上、軌道はほぼ直線。その間の回避は不可能。もはや跳躍ではなく長距離の突進と言い換えても良い。

 

 また気を練り上げるのもかなりの集中力を要する。

 そも気とは広義では魔力と呼称される物。それを詠唱という道筋を立てずに練り上げること自体が非常に集中力の要る作業であり、達人でもないアズサにとって非常に神経を使う。

 

 それでも愚直に鍛え上げて来たのはなんのためか?

 そんなもの決まっている。

 

 

 大好きな人達(家族)を助ける。

 

 

 一歩目――ドン、と細足の踏み込みで大きく地面を踏み鳴らし、アズサの体は一瞬にして7m強の距離を飛び越える。

 

 二歩目――更に踏み込む。凄まじい踏み込みにより足の裏から頭の頂点へと伸びてくる衝撃を全て前へと進むためだけに重心を下げ、滑るように使う。

 

 三歩目――耳は突っ切る風で役に立たず、目は開けるだけの余裕も無し。役に立つのは風の中でも役に立つ獣人の嗅覚だけ。

 

 四歩目――二人を追い抜いた。

 

「――ッ!」

 

 そのままの速度で二刀を抜刀、

 

「やぁぁぁぁッ!」

 

 すれ違い様に彼らの背後に迫っていた二頭の首を掻っ捌く。

 

「アズサありがとよ!」

「助かった」

 

 通り過ぎる二人からの言葉はアズサには届いていないし、息を止めているので言葉を返す余裕は無い。再度跳躍。群れの霍乱を図る。

 跳躍しては斬り付け、跳躍しては斬り付ける。

 

 小太刀に塗っておく毒薬を切らしているため獣人(ライカン)とはいえ女の細腕で倒すには急所を狙わなければならないがそこまでの余裕も無く、逃げる分の跳躍は温存しなければならない。

 しかし群れの意識をこちらに向けさせるには十分。意識をこちらに向けさせることが出来たなら、猶予が出来る。

 

 その猶予をクルース、そして塹壕の中から様子を窺っていたルビーが見逃さない。

 

 

『刑罰執行!茨は咎人阻む城壁と成り、転じて檻と化す!【茨の監獄】!』

 

 瞬間、黒い茨がアズサと狼を分断し()()()()()を囲うように繁茂、茨の壁を形成して群れの進軍を阻む。

 更に――

 

『祖よ、地を焼く紅き龍よ。御身の爪を以ってここに楔を打ち立てる――』

 

 ルビーの掲げた二つの杖の先、空中に紅色の結晶体が生み出された。その数、六。

 彼女の名と同じ宝石(ルビー)を思わせるその結晶体は、しかし膨大な熱を放っていることがわかるほどに空気を揺らす。

 

 狙うは()()()()()、ルビーの杖が振り下ろされる。

 

『――穿て【紅龍の爪撃】!』

 

 撃ち出されるは灼熱の結晶。竜の爪が如き一撃は最後尾の狼を叩き潰した上で()()()退()()()()()()

 

 後方に燃え盛る結晶の壁。前方には茨の壁。そして茨の向こうにはヒト(獲物)の気配。

 群れがまだ多い現状、狼たちに逃げるという選択肢は無い。

 

 狼たちは左右に分かれ、壁の無い()()()()()()()()()

 

「――今!」

『ツタを斬れ!』

 

 ルビーがすかさず号令を掛け、アインが大声で指示を飛ばすと、隠れていた自警団員達が斧で周囲の木々に巻き付いていたツタを叩き切る。

 

 

 瞬間、地面が崩れ、大穴が狼の群れを呑み込んだ。

 

 

 落とし穴だ。

 それなりの広さと深さで掘られた穴を広場に隠していた。切り株のように偽装されていたのは、落とし穴の底に立てられた柱である

 狼たちは全て穴の中へと落ちていく。それを見て自警団の面々が飛び出した。

 

「前衛組!手筈通りに這い上がってくる狼を叩き落とすッス!弓組は確実に当てて弱らせるッスよ!一匹も逃がすなッ!」

「おめぇら気合入れろ!二つ首は傭兵さん方がやっから、儂らは狼に二人一組できっちり当たれ、いけいけいけ!」

 

 応ッという威勢の良い声と共に彼らは飛び出し、穴から這い出ようと足掻く狼を一匹一匹確実に穴へと叩き落とし、矢で射抜いていく。手が足りなくなったらすぐにそっちに駆けつけ、叩き落とす。

 

 そんな中、アズサは一足先に塹壕に入っていたカインズとトラヴィスも飛び出して加勢しにいくのとすれ違うように跳躍、塹壕内に転がり込んだ。

 

「――っはぁ!はぁっ、はぁ、げほっげほっ!」

 

 瞬間、アズサは息を吸い、そして盛大に咽た。

 

 アズサの縮地の最大の欠点、それは所謂『火事場の馬鹿力』を引き出すために『息を止める』こと。

 そのため一度使うとこのように息を整える必要が出てくる。歩数を増やせば当然無呼吸の時間が伸びるのだ。

 更に足に本来出せない力を無理矢理引き出した所為でズキズキとした痛みを訴える。

 

――だから使い所はきちんと見極めて使ってくれ。

 

 そう言って頭を撫でる手を、アズサは覚えていた。

 

「今回、は、文句、あらへん、やろ?」

「助かったよアズサ。おかげで逃げ切れた」

 

 クルースは疲れたと言って土壁に凭れ掛かっていた。

 魔力を使いすぎたのだろう、少々顔色が悪い。

 

「クルース、あんさん、無理しはったなぁ」

「数が思ったより多くて、道中で中級魔法を5回も使わなくちゃいけなくてさ……あと一回でも使ったら完全に動けなくなるかも」

「……ほなら、今は休んどき。ふぅ……」

 

 軽く息を整えるとアズサも加勢しようと塹壕から這い上がろうとして

 

「休憩」

 

 ルビーに手を掴まれた。

 

「あ、ちょっとルビーはん!?」

「休憩、護衛」

 

 ルビーからはたったの二言。しかも単語である。

 一応クルースのことを指差しているのでなんとなく「休憩ついでにクルースの護衛もして」と言われている……ような気がする。

 

「そうだね……今回は足手まといになるだろうしもう少し休もう。カインズたちが行ったならすぐに押し込まれることは無いよ」

 

 ぐったりしているクルースもそう言って休憩を促す、がダメだ。

 クルースの言は要するに「今は抑えていられるがいつか押し込まれる」と言っているのと同義だ。

 

「クルース、ダメや。人が少ないさかい、休憩する暇はあらしまへん」

「アズサ、休憩」

「でも苦戦――「休、憩……!」ふぎゅ!」

「ぎょえっ!?」

 

 ルビーに塹壕へと引きずり込まれそのまま塹壕の中に放り込まれた。

 ――なお、クルースが尻に敷かれて呻き声を上げたが無視である。

 

「ちょっ、アンタ乱暴」

「アズサ、休む。残りは、まとめて、やる」

 

 抗議も聞かずに出て行ったルビーを、しかしアズサは追いかけられなかった。

 実のところ、ルビーに引きずり込まれた時点で足が震えてもつれてしまい踏ん張ることができなかったのだ。

 

 鍛錬不足やわぁ……とぐったりとするアズサに、クルースは声を上げた。

 

「アズサ、重ぃ……どいてぇ……しぬぅ」

「……女子(おなご)に重いは禁句やアホォ」

 

 クルース、魔力の使いすぎによる疲労により離脱。

 アズサ、縮地による足の酷使により離脱。

 

◇◇◇

 

 アズサが這い上がるのを辞めてぐったりしているのを見下ろし、ルビーはそっと胸を撫で下ろした。

 あんな超高速移動を魔法無しで行う技術があることには素直に驚いたが、それでも魔法無しでの技術だ、肉体に掛かる負荷は想像するも容易い。

 

 故に止めた。

 確かにこちらの手勢は少ない。自警団は20人ぽっちで自分たち傭兵含めても25名。

 今回引きずりこんだ狼の群れを目視した限りではほぼ同数。

 しかし自警団は連携こそ目を見張る物はあれど個々人の能力は低いと言わざるを得ない。事実、自警団だけで抑え切れずに飛び出した狼をトラヴィスとカインズがきっちりしとめて尻拭いをしているが、あれだけの運動量だ。こちらが劣勢と言って間違いは無く、彼女が無茶をする理由もわかる。

 

 だったら、簡単な話だ。こっちを優勢にしてしまえば良い。

 幸い今日使った魔法はカインズへの身体強化の付与魔法が一回と、先ほど用いた『紅龍の爪』だけだ。一回であれば規模の大きい魔法を使える。

 

 ルビーは背に背負っていた布に包まれた棒状の何かに手を伸ばし、両手で持って天に掲げた。

 

『我らが祖たる紅き龍。かの御方の怒りを恐れよ――』

 

 それは詠唱。彼女達竜人の祖とされる紅き龍を畏れ、崇める一説。

 共に、掲げていた物の布が解け、その姿を晒していく。

 

 それは表面は綺麗に磨きぬかれ、なんらかの加工で光沢すら見える白亜の大杖。

 

 カインズたちは与り知らぬことだが、それは竜人たちの祖たる龍の遺骨より切り出され、加工され作り出された大杖。国は滅ぶも血脈を今も繋ぐウェルシュ王家のみが持つことを許される祖龍の杖。最高峰の魔法触媒である。

 

 

『――かの御方は一吠えで地を焼き天を焦がす――』

 

 彼女が紡ぐは祖龍の力の再現。

 伝承にのみ伝わる怨敵の軍勢を焼き尽くすに留まらなかったという灼熱地獄――その模倣。

 ルビーでは使えても中級魔法(ミドルスペル)相当が限度。軍勢を全て焼き払うなんて逆立ちをしようと無理だ。走り回るこの狼の群れ相手には逃げられる可能性の方が高い。

 

 しかし、こうして大穴の中に囚われたのであれば、話は別だ。

 

『――生者、天地に残ることなく尽くを滅するモノなり――』

 

 大穴ゆえに動き回りはするだろうが、袋のネズミであることは以前変わり無く、そも、炎とは燃え広がる物。余波を大穴全体に波及させることは今の魔力量でも不可能では無い。

 

 大杖の先端部に赤い結晶体が纏わりつき、魔力が収束、紅く光を放つ。

 それにいち早く気付いたトラヴィス(黒い衣を身に纏ったエルフ)が声を上げた。

 

「全員!穴から離れろぉぉぉぉっ!」

『――須らく焼き払え!【紅龍の咆哮】!』

 

 大杖を振り下ろすと同時に、穴の中を劫火が埋め尽くし、複数の狼を纏めて消し飛ばし、余波で狼たちを燃やす。

 その光景は自警団の度肝を抜くには十分だ。

 

「わぁっ!?」

「あちちちちちち!?」

「なんだあれ!?なんだあれ!?」

「う、うぇっ!うげぇっ!」

 

 ついでに生きたまま動物が丸焦げになる様子を見せられ、その臭いを知って気分が悪くなる者も出る始末――

 

「い、今だァァァァァァッ!数が減った今が好機ッス!」

 

 どうにか声を張り上げたアインに続いてカインズとトラヴィスが穴の中に飛び込み、どうにか気を取り直した自警団も続くことで、今回の戦いは犠牲者を出すことなく終わったのであった。

 

 

◇◇◇

 

 土や煤に汚れたトラヴィスとカインズが自警団の前に立つ。

 同じように落とし穴の中に乗り込んで戦っていた自警団たちの多くもまた土や煤にまみれていて、その疲れも一目瞭然であり、中には顔を青くしながらもどうにか立っている者もいた。

 だが、誰一人として欠けていない。

 

「これをもう何回か行う訳だが。今日は全員しっかりと休むように」

「いや本当にお疲れさん。初めてでこれは大戦果だぜ?あー…悪ィけどキイチのおっさんはアズサとクルースを連れてってくれ」

 

 自警団はキイチを先頭に村へと戻り、その後ろをキイチが塹壕の中でぐったりしていた二人を背負って歩いていくのを見送った。

 

 

 自警団にとっては初めての間引きであるにも関わらず犠牲者は無し。何人か爪で引っ搔かれたりして軽傷を負う者はいたが、明日も戦えない、という程の物では無い。

 まぁ、アズサとクルースに初日から無理をさせてしまったのは失敗だったが、でも、誰も死なず、脱落もしなかったなら上々の結果と言って差し支えないだろう。

 

 ただし一つ、今後に響く失敗もあった訳だが。

 

「……ごめん、なさい」

 

 しょんぼりとするルビーにカインズは声を掛けた。

 

「いや、あの魔法で助けられたのはこっちだぜ嬢ちゃん。あのままじゃ劣勢だったしな。何人か肉が食えなくなる奴も出てくるだろうが……」

「……それで明日の策に悩む羽目になってしまっては本末転倒だ」

「「うっ」」

 

 カインズとルビーは二人して顔を反らした。

 カインズまで顔を反らすあたり、色々と心当たりがあるようで何よりだ。やれやれ、と首を振り、トラヴィスは穴を覗いた。

 酷い有様だった。地の底の大半が焼けて真っ黒に煤けており、魔物の燃えカスがあちこちに散らかっている。

 ――そして致命的だったのが、柱が一つ残らず焼けてしまったことだった。

 

 ダンジョンから生まれた動物系の魔物のほとんどは野生の獣よりも狂暴であり、劣勢にならなければ獲物を前に敗走はない。誘導自体は非常に容易い相手で、ヤマトでは一週間続けて対応した実績もある。

 しかし大きな落とし穴を作る以上、表面を覆い偽装する必要があるわけだが、穴を覆う蓋と、狼たちが足場に違和感を覚えない程度にきちんと蓋を支える物が必要だったのだ。

 そのための切り株に偽装した柱だった。

 柱を基点にツタを結び付け穴の上を覆い、周囲の森の木々に括りつけて固定、その上を薄い木の板で覆い、土を盛ってから押し固め、草や葉を乗せて上手に隠す。

 人の目から見れば一目瞭然だが、大抵のダンジョンの魔物相手にはとても効果のある手法。明日以降もこの柱を利用して穴を覆い、使いまわすつもりだったのだ。

 

 だが、ルビーの魔法が柱を跡形も残らず焼いてしまった。直すのも時間を要するのを考えれば明日は修復に宛てなければなるまい。

 

 ――とはいえ助かったのも事実だった。

 

 あの時点でクルースとアズサが戦えず、穴の上という有利を取っていたとはいえ魔物は魔物。その生命力は通常の獣とは桁が違う。彼女が早々に魔法で焼き払っていなければ、少なくとも自警団に犠牲者がでていたかもしれない。

 ゆえにカインズの言うとおり、ルビーの魔法が群れの半数をまとめて蹴散らしたことは間違いではなかった。

 

「で、どうするよトラヴィス」

「今日は撤収だ……夜に作業をするのは自殺行為だ。今夜はしっかり休み、明日の早朝、直す以外あるまい」

 

 トラヴィスが諦めたように溜め息混じりにそう言うと、カインズは途端に明るい顔になった。

 

「よっし、そんじゃあ帰るかぁ。今日の夕飯はなんだと思うよトラヴィス?」

「現金な奴だ……少なくとも狼鍋ではあるまい。キイチも今日ばかりは狼の肉は見たくはあるまい」

「いやいや、狩りを生業にしてたってんなら普通にあるんじゃねぇか?貴族の道楽じゃあるまいし、命を粗末にしないのが狩人としての最低限の礼儀ってもんさ」

「お前は狩人ではないだろうに」

「魔物のお肉、おいしい、よ?」

「それともオレが食ってやろうか?」

「私、もらう」

「いつ食わないと言った」

 

 三者三様に好き勝手に話ながら村に戻っていく。

 ――夕飯は狼鍋だった。傭兵達で肉の取り合いになったのは余談でしかないだろう。




Tips
・「気」について
 突然出てきて困惑されたかと思います。
 以前に活動報告の世界観でも変更しましたが、要するに魔力(いわゆるMP)の別称の一つです。

・縮地などの「気(魔力)」を併用する技術。
 正直、上記含めて入れるかどうか割りと本気で悩んだモノ。
 キャラの性能的な差別化をするために導入、作者個人の偏見により一部のキャラに適用する予定(本来は挌闘家に使わせたかった……)

 ざっくり言えば様々な創作物(主にライトノベル)に出てくる「魔力放出」や「気」の劣化版。
 ……結果的にマジカル八極拳化してるのは許して……許して(土下座)

 魔法による強化との差異としては
・通常は無意識に魔力で自分を守っているのでこれを使う=魔力を消耗して守りを弱めてしまうことに繋がる。
・魔法は魔力の消耗による疲労が発生するが、こちらは更に肉体への負荷が掛かるのが基本。負荷は強化幅が大きければ大きいほど大きくなる。
・魔法による強化と比べると瞬間的な身体強化による動作の補強に特化しており即効性で勝るが持続性と安全性では逆立ちしても敵わない。
・秘伝書を読み解くための難解な知識が不要だが精神的、肉体的な苦行と呼べる鍛錬が不可欠。
・また、詠唱という「魔力に形を与える行為」が無くなっているためその制御は達人であっても苦労する。
・ビームとか光弾とか飛ぶ斬撃とか物質の強化とか物質の形成などなどは魔法の専売特許。魔法よりも下と思ってください。


個人的には「持ってて損は無いが習熟できるかは別問題」「正直素養があるなら魔法を覚えた方が良い」ぐらいの感覚。

今回の場合は俊敏性を武器とするトラヴィスとアズサの差別化が狙い
・小回りは利かないが短距離を最短最速で跳ぶ短期戦を得意とするアズサ
・無駄が無く、地形に合わせて音も無く素早く移動し死角から強襲するトラヴィス。

 短距離走が得意か障害物競走が得意かみたいな感覚ですが、やりすぎじゃないかと言われればちょっと考え直さないとなぁ。
 ちなみに『誰にどのような技術を使わせるか』は完全にこちらの独断と偏見で行いますのでそこは

・mの表記
 長さの単位を別途用意するだけの余力は無かったでござる(無念)

・落とし穴
 幅30m深さ2mから3m程の大きな穴を掘り、カインズ達誘導組が歩く足場と支柱代わりに切り株に偽装した丸太をしっかりと作ってからハリボテの板を重ね合わせて複数の縄で繋ぎ合わせて固定した上に土や雑草で覆って隠した物。
 後ろと前を塞がれ、左右にしか道が無い状況を作り出し、巧く分散したところで縄を切って足場を崩しつつ、自警団は左右から囲んで穴の中に押し返しながら一頭ずつ仕留めるのが今回の作戦。

 作業の容易さだけでいえば小さな落とし穴を複数作るほうが労力は少なく、落ちた狼たちが這い上がってくるまでの間に落ちなかった狼を殲滅できるのであればそちらの方が上策であることに疑いの余地は無い。

 だが、今回の間引きでは撃ち漏らしを絶対に出してはならない。魔物とて生き物。知能が低いからと言って学習しない訳では無い。
 ゆえに群れを全て穴の中に陥れ、確実に殲滅しなければならなかったのだ。

・ルビーの魔法。
 大元はキャラ設定の投稿の際に記載されていた台詞の中にある魔法に合わせて『紅龍の○○』としています。
 ……滅竜魔法を連想させるけどワイは好き。詠唱の内容は祖たる龍を崇め恐れ敬うといった面を自分なりに意識していますが如何でしょう?
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