海軍は陸軍の外局ですか?   作:かがたにつよし

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対フランソワ共和国戦
第14話:フィステーラ岬沖海戦(1)


 

 

 

 統一歴1923年、帝国陸軍は対フランソワ戦争以来の大陸軍の動員を宣言した。

 新聞やラジオは「今日帝国が抱える外交・領土問題に対して、遂に陸軍がその拳を振るう時が来た。帝国臣民の鬱憤を晴らす時が来た」と無垢な大衆を煽り立てることに余念がない。

 ここキィエール軍港からも、その喧噪が良く見える。

 ノルデン半島の付け根に位置するキィエール一帯は、レガドニア協商連合本土への逆侵攻にあたって重要な根拠地となっている。陸路では長い鉄道貨車が、海路では輸送船の船団がただひたすらに北を目指していた。

 

 そんな喧噪から外れた軍港の一角。

 大陸軍の動員と時同じくして編成を完了し、陸地の騒がしさとは対照的にひっそりと出撃した艦隊があった。

 

 我らが帝国海軍北洋艦隊第二偵察艦隊である。

 

 大西洋での長期間の任務を想定して大量の燃料と物資を積みこんだ彼女らは、幾ばくか喫水線を深くし、ゆっくりと母港を後にした。

 そんな海の女王達に付き従うのは、巡洋艦隊と開戦当初に大量に拿捕した船舶の中から優秀なものを選りすぐった仮装巡洋艦と艦隊輸送船団。北海(近場)の任務であれば連れていく駆逐艦隊は、今回は留守番だ。

 

「ここでしたか、ブランデンベルガー中尉」

 

 艦隊旗艦ヒンデンブルクのマストで黄昏れていたところ、コンラッド軍曹が登ってきた。

 ひょっとして探させてしまったのだろうか。

 

「キィエール軍港では執務室にいらっしゃることが多かったと記憶しており、その辺りから探しておりました。ヒッパー提督がお呼びです」

 

「急ぎか?」

 

「いえ、時間のある時に司令室へ来るようにと」

 

 なら構わないかと、軍曹から目線を外して水平線に向ける。

 全く動く気を見せない私に思うところがあるのか、軍曹は言葉を続けた。

 

「五月蠅いのは嫌いですか?」

 

「いや、ただその先にあるものが予想できるだけに、私がどう付き合ったとしても空虚な演技にならざるを得ないのが嫌なだけだ」

 

 こうならないため、それなりに努力したつもりだった。人生を賭すほどの努力ではなかったとはいえ、報われないとなると誰しも少しは凹むものだ。

 

 しかし、全く無駄であったわけではない。

 少なくとも、現時点で連合王国が参戦する可能性は低い。帝国が建艦競争から降りたことで欧州を見る目に余裕が出来た彼らは、漁夫の利を狙うべく暗躍している。

 

 大陸軍が北進する隙を突かれるせいで帝国が劣勢になるであろうライン戦線を見て、彼らは共和国への梃入れを躊躇するはずだ。

 連合王国は帝国が欧州を制するのを許さないのと同様に、共和国が欧州を制するのも許さないのだから。

 

 故に、帝国海軍北洋艦隊は史実と異なり事実上のフリーハンドを得たまま対共和国戦を迎えることが出来た。

 

 帝国より近代化に先んじた共和国は強敵だが、弱点もある。

 共和国本国の国力は帝国本国よりも一回りか二回り小さい。それでも帝国と競り合えるのは、広大な植民地があってこそだ。その力の源泉から切り離すことが出来れば、陸軍はライン戦線を押し切ることが出来るだろう。

 

 しかし、その次は?

 

 帝国の勝利を連合王国が放置するわけがない。

 連合王国は誰であれ欧州の覇者を欲しない。

 

 ありとあらゆる手段を用いて、帝国の勝利を妨害しに来るだろう。

 例えば、大陸で共和国が劣勢になった途端に大陸派遣軍を送り込んできたり、連邦を唆して第二戦線を構築したり、対ルーシー戦役の借金のカタとして秋津洲を引き摺り込んだり。

 そして最悪の場合は、合州国の参戦を引き出すだろう。

 

「それをどうにかするのが、中尉の、そして我々の任務ではありませんか」

 

「私達は全知全能を司っているわけでも、森羅万象に通じているわけでもない。そしてなにより、敵国どころか母国たる帝国すらままならないのだから」

 

 負けない可能性があるとすれば、ライン戦線で押し返した辺りで白紙講和することくらいだが、そんな提案には他ならぬ帝国自身が絶対に首を縦に振らない。

 そして気付いた時には、もう引き返せないところまで転がり落ちているのだろう。

 

「あるいは、私が“死ね”と言ったら死んでくれるか?」

 

 ライン戦線を押し返した時点で、クーデターを起こして陸軍参謀本部や帝国議会等を襲撃してみようか。

 例え優勢であっても、頭脳を吹き飛ばされて動き続けられる近代軍は居ないだろう。あとは皇帝の額に銃を突き付けて白紙講和を強いるだけだ。

 もっとも、成功確率が低い上、仮に成功したとしてもその後の我が身がどうなるか想像に難くないが。

 

「中尉がそう言う状況であれば、それ以外にないのでしょう。お付き合いしますよ」

 

 そんな危険思想は、何時になく殊勝な軍曹の発言によって冷や水を浴びせられた。

 思わず軍曹の方に向き直ってその表情を確認するが、彼は普段の真面目さ半分苦み半分といった顔であった。

 

「冗談だ」

 

 そんないつもと変わらない部下に毒気を抜かれてしまったので、マストを降りる際に先程の発言を誤魔化してから、大人しく提督の下へと向かうことにした。

 

 

 

***

 

 

 

「喜べ、今日から“ブランデンベルガー大尉”だ」

 

 ヒッパー提督の司令室に入った直後に響いた言葉は出世祝いだった。

 

「アルテンブルク中尉が正式に海軍に転任となった今、この偵察艦隊付海兵魔導師隊に中尉は2人も要らんからな。“協商連合海上封鎖の功”として申請したら安々と通ったわ」

 

 手放しでは喜べない。

 あの変態が名実ともに海軍に押し付けられた上、書類上もキッチリ私の部下に組み込まれてしまったのだから。

 

「これでずっとお姉様と一緒に居られますわ!」

 

「今度は長い任務になると聞きましたからな。海軍の広告塔をカメラに収めることが出来る時間は1秒でも惜しい」

 

 司令室の壁際に控えていたのは、件のアルテンブルク中尉といつぞやのケットナー氏。

 なんでお前らも居るんだよ。

 

「アルテンブルク中尉は転任の、ケットナー伍長は現役復帰の辞令のためだ」

 

 なるほど、アルテンブルク中尉はもちろんの事、ケットナー氏まで偵察艦隊付海兵魔導師用の軍服に袖を通している。

 いや、頭がヤベー奴に加えて、足がヤベー奴まで兵隊に引っ張るなよ。海軍の魔導師不足にも限度というものがあるだろう。

 

「提督、伍長の足はよろしいのでしょうか?」

 

 彼は気丈に生きているとはいえ、普通であれば戦傷章とそれに伴う年金を貰って過ごしていても良い身分のはずだが。

 そう追い返す理由を探していると、当の本人から横やりが入る。

 

「私は記録役として志願しました。海兵魔導師隊はその長距離作戦行動能力により高い偵察能力を有していると聞いておりますが、魔導師隊が見たものがそのまま絵として艦隊幕僚達に伝わることはありません。私の撮影能力があれば、艦隊幕僚の方々にもより情報が伝わりやすくなるでしょう。

 それに、帝国臣民に海兵魔導師ひいては海軍の重要性を訴えるには、我々が戦っている姿を見せることが重要です。そのためには、現地にカメラを担いだ人間がいなければなりません」

 

 よくもまぁ口が回る。

 全くの無駄とは言わないが、行って帰って写真を現像する時間を勘案すれば、絵が無くとも無線で必要な情報を得る方が、時間と言う代えがたい資源を失わずに済む。

 どうせ本音は後ろ半分、特に私の前でカメラを回したいだけだろうに。

 

「それに大尉殿、世紀の逸材である貴方の姿は後世に残すべきだ。軍務で無為に時間を失っている場合ではありません」

 

 まぁ、いいけど。

 

 

 

***

 

 

 

 帝国軍が主力を協商連合への逆侵攻へ振り向けて間もなく、「協商連合との同盟関係に基づき」共和国が対帝国宣戦布告。係争地である低地地方へと侵攻した。

 

 当時の共和国首脳の思惑では、大陸軍が協商連合から戻ってくる前に低地地方は奪還できる見込みであったという。しかし、その望みは共和国軍兵士と同様に、帝国軍陣地からの銃砲弾に切り刻まれた。

 

 かつて、「イエローはアルチュール要塞を攻略するのに6万人もの死傷者が必要であった」と有色人種を蔑んでいた共和国軍は、その何倍もの自軍の兵士を溶かしながら、重コンクリートの永久要塞どころか、平原の塹壕陣地すら突破できていないことに驚愕した。

 

 もっとも、共和国軍が無策だったわけではない。

 連邦=皇国間戦争を分析し、陣地突破用の兵器――戦車――を造り上げていた。係争地紛争程度では投入が憚られていたため実戦経験こそなかったものの、事態を打開する能力があるとみられていた。

 

 事実、共和国が「突破戦車」と謳う全長10〜20mの鉄の怪物が帝国軍陣地を穿つことに成功した。とはいえ、突破できた面積は幅・深さ共に10kmにも満たないものであり、何ら戦局に影響を与えるものではなかった。

 

 むしろ共和国軍にとっては、前線での火力、特に魔導師戦力に劣っている方が致命的であった。

 魔導技術では一歩先を行く帝国軍の方が個人火力と機動力に優れており、魔導師でも致命傷となり得る野砲弾が雨霰と降り注ぐ前線での火力支援に適していた。

 共和国軍魔導師隊は集団による統制射撃こそ強力であったものの、野砲弾の雨の中を潜り塹壕に潜める程の機動力は有しておらず、どうしても後方に常駐せざるを得ないため、一刻一刻と状況が変わる戦闘に対して出遅れることが多くなりがちであった。

 

 

 

 もっとも、地獄を見ているのは相対する帝国軍も同様であった。

 

 連邦=皇国間戦争の分析により「野砲と機関銃の発展により防御側有利」と考え、主力を協商連合に向けてライン戦線では防衛に徹し、消耗を抑えつつ共和国軍に出血を強いる手筈であった。

 ところが、蓋を開けてみれば両軍とも積極的な攻勢を仕掛けていない時でさえ、1週間で1個連隊が消えてなくなるというのは想定外であった。参謀本部では書類の間違いだと断ずる将校もいたという。

 

 なんとか防衛線を維持できているのも、共和国軍に対して優越する魔導師戦力のお陰であり、全く気が抜けない状態であった。

 特に、航空戦力と機甲戦力は共和国が優越しており、帝国軍に損害を与え続けた。

 

 帝国が追い上げてはいるものの、開戦当時世界有数の自動車製造国家であった共和国は、その技術力を存分に発揮して、優れた航空機や戦車を戦場に投入した。

 

 大戦初期の傑作戦闘機に数えられるニューポールやスパッドは、同時期の帝国軍戦闘機よりも馬力に優れたエンジンを装備し、火力・機動力・耐久力といったすべての面で上回っているものであった。

 そのため、帝国陸軍航空隊内では「数と高度の有利が無い限り、共和国軍戦闘機と戦闘を行ってはならない」という指令まで出たという。

 

 戦車について、先ず両軍が投入したのは鉄の怪物達であった。衝撃力こそあったものの鈍重で機動力が極めて低く、野砲や歩兵の集束爆薬の的になったり泥濘や砲弾穴にはまって動かなくなったりと、擱座しやすいものであった。

 そのため、専ら守勢に立つ帝国軍の戦線が戦車により押し込まれることは少なかった。

 

 しかし、共和国は直ちに戦訓を反映した戦車を投入した。

 軽量小型で優れた機動力を持ち、数多の砲弾で耕された荒れ地と泥濘を走破可能。その代償に削られた火力は、全周旋回砲塔を装備することで解決した。大戦初期の傑作戦車、FT-23である。

 もっとも、大戦中盤から後半に出てきたような化け物達とは異なり、時代相応の防御力しか持たなかったため、帝国軍陣地を蹂躙するとまではいかなかったものの、相対する戦車に欠く帝国軍の前線を、じりじりと押し下げ続けることに貢献した。

 

 共和国は膨大な出血を続けていたものの、このまま戦争が続けば1~2年で低地地方を奪還できる。そう外野が考え始めた頃、徐々に共和国の戦争遂行能力に影が差し始めた。

 帝国海軍の通商破壊により、植民地から共和国本国への資源・人員供給が滞り始めたのである。

 

 

 

 その艦隊は、動員に沸く大陸軍とは対照的にひっそりと出撃した。

 母港のキィエール周辺は協商連合本土への逆侵攻のためごった返していたため、仮装巡洋艦や支援艦艇を伴って出撃した帝国海軍第二偵察艦隊は、当の帝国記者にも“協商連合への上陸部隊”と勘違いされていた。

 なんなら陸軍にすら艦隊の出港が伝わっておらず、協商連合へ向かう船団の一部は突如出現した戦闘艦艇を敵艦と誤認してパニックになる一幕もあったという。

 

 そんな影の薄い彼女らに熱い視線を向けていたのは、連合王国海軍であった。

 

 現地諜報員により第二偵察艦隊の出撃を把握すると、これをマークすべく直ちにスカパ・フローから偵察用の巡洋艦が出港。ノース・アルビオンギャップを過ぎるまで第二偵察艦隊の尾行を続け、その編成等を詳細に本国に打電した。

 

 中立を謳いつつも帝国の弱体化を模索していた連合王国は、外交筋を通じてその情報を共和国に横流しした。しかし、共和国から返ってきたのは感謝の言葉ではなく、失望の溜息と怒りの罵倒であった。

 

 

 

 共和国は、連合王国が帝国の完全勝利を望まないのと同様に自分達の完全勝利も望まないことを理解していた。そのため、対帝国で協調していたとはいえ陸戦に参加せずに漁夫の利を狙う姿も、何とか我慢することが出来た。

 

 しかし、帝国海軍が大西洋に進出するとなると全く話は別である。

 

 帝国が未だ建艦競争を行っていた頃、増強著しい帝国海軍に対抗するため、共和国=連合王国海軍協定が結ばれた。

 その内容は、連合王国が大西洋に注力して帝国海軍北洋艦隊と対峙するとともに、共和国が地中海に注力して(若干の連合王国海軍地中海艦隊と共に)帝国海軍地中海艦隊及びイルドア海軍と対峙するという、役割分担を定めたものであった。

 

 そのため、約束通り主力艦隊を地中海に展開していた共和国にとって、連合王国がノース・アルビオンギャップを帝国艦隊に素通りさせたというのは、裏切りにも等しい行為だと捉えられた。

 加えて、ノース・アルビオンギャップ通過後に帝国艦隊を見失い、現在地が分からないというのは、「連合王国は協定における最低限の義務すら履行する気がない」と失望する声に繋がった。

 

 広大な大西洋において何の装備も持たない巡洋艦が、非常識な距離を飛んでくる魔導師を艦載している第二偵察艦隊とかくれんぼをすることは余りにも分が悪いため、後者について連合王国を責めるのは誤っているのだろうが、当時の共和国にそんな心の余裕はなかった。

 第二偵察艦隊とそれが解き放った数多の仮装巡洋艦が、共和国の海上交通路を締め上げ始めたからだ。

 

 

 

***

 

 

 

 淑女の一行を尾行する不届き者を撒いてしばらく。

 海兵魔導師隊は隊を4つに割り、それぞれ哨戒・戦闘訓練・長距離作戦行動訓練・休息のローテーションを組んで艦上の日々を過ごしていた。

 

 本当であれば、哨戒と休息のローテーションとしたいのであるが、部下達の能力が今なお覚束ないので、艦上でも訓練を継続せざるを得ない。

 なお、アルテンブルク中尉とケットナー伍長はいつの間にかそれなりの長距離作戦行動能力を会得していた。やっぱり陸軍の魔導師は基礎ステータスが高いのだろうか。頭の方は少し残念だが。

 

 ノース・アルビオンギャップ通過後しばらくして艦隊は進路を変更し南下。肌に感じる潮風が温かくなってきた辺りで、ヒッパー提督は仮装巡洋艦達を分離した。無警戒の独航船が多いであろう新大陸航路や南大西洋の南方大陸航路の襲撃のためだ。

 そして、第二偵察艦隊本隊は、迎撃に出てくるであろう共和国艦隊を抑えつつ、共和国の海上交通路の終点を抑えるため、ビスケー湾沖で哨戒を行うこととなった。

 

「出てきますかね」

 

 ここまでたどり着いた共和国商船を片端から拿捕・撃沈して目撃者を消しているとはいえ、本国に届いているであろう彼らの救難信号が間接的に私達の存在を表している。

 

「国家には面子というものがある、それは国民に対してもだ。自国の沖合で航路を絞められてなお、引き籠る海軍など居らんよ」

 

 ライン演習時の英国海軍や、見方を変えればレイテの大日本帝国海軍もその一例だろう。

 一方で、史実フランス海軍は運に恵まれず活躍の機会を逸しており、そのようなエピソードには乏しい。しかし、ノルウェーの戦いやシュペー追撃戦ではしっかりと役割を果たしている。出るべき時には出てくるタイプだと思われる。

 

 一応、現時点では第二偵察艦隊の方がブレストの共和国大西洋艦隊より数的有利ではある。共和国海軍全て合わせると逆転するが、流石に全部出てくることはないだろう。

 しかし、第二偵察艦隊の主力艦群が12inch砲艦のみであるのに対して、共和国艦艇の多くは13.5inch砲艦。個艦戦闘力ではこちらが劣っているので油断はできない。

 

「お姉様、哨戒線から“地中海方面より船団と共に北上する艦隊あり”との入電がございました。主力艦数は4とのことです」

 

 マストでコンラッド軍曹と雑談していると、次席指揮官に収まってしまったアルテンブルク中尉が飛んできた。口調がダメな方になっている。初の海戦なので少しは緊張しているのだろうか。

 そういえば、下の艦橋からも若干落ち着きのない雰囲気が漂ってきている。これだから艦隊決戦主義者共は。

 

「艦橋へ降りる。アルテンブルク中尉、コンラッド軍曹と共に哨戒シフトに入っていない隊員を戦闘配置で甲板に整列させておけ、いつでも出撃できるようにな」

 

「了解ですわお姉様」

 

 やっぱりコイツわざとだな。

 

 

 

 司令塔の上の露天艦橋は心なしかいつもよりむさ苦しい。

 艦隊決戦という漢の浪漫を前にした幕僚達の荒い鼻息で、幾分か温度と湿度が上がっている気がした。

 

「艦隊を発見した魔導師からの報告では、特徴的な4連装砲塔を装備した艦が2隻見られるとのこと。恐らくノルマンディー級だと思われます。残り2隻は報告のサイズ比からしてクルーベ級かと」

 

「現時点ですら敵艦隊の方が火力は上。しかし、ブレストのブルターニュ級2隻と合流されれば更に苦しい状況になります。ここで叩くべきです」

 

「ダ・カールに配備されていたと記録にあるクルーベ級はともかく、ノルマンディー級は開戦まで南フランソワに居りました。大西洋には不慣れなはず。我が艦隊の練度なら火力でも上回ることは可能だと考えます」

 

 ヒッパー提督を囲む艦隊参謀の口からは次々と勇ましい意見が飛びだす。

 艦隊決戦、しかも主力艦数だけで言えば()()ツシマ沖海戦と同規模だ。気持ちは分からなくもない。

 

「しかしだ諸君。我々は母港キィエールを遥か離れた遠征艦隊。対して、敵の根拠地たるブレストは目と鼻の先だ。同じ1発の被弾であっても、我らと彼らでは事情が異なる」

 

 そう慎重論を語るのはあろうことかヒッパー提督。

 参謀達が茹で上がっているから、冷静にさせるために言わざるを得ないのだろう。きっと提督の階級がもう少し低かったら、この参謀達とは比較にならないイケイケドンドンな意見を主張していたに違いない。

 

「我々に必要なのは1発の被弾もなく敵艦隊を無力化する、アドミラル・トーゴー以上のパーフェクトゲームだ」

 

 提督の無茶振りに、先程までにぎやかだった参謀達がシンと静まる。

 奇しくもツシマと同じ6対4、逃げ込まれるわけにいかない近隣の根拠地。違うのはこちらが6隻であることと遠征艦隊であることだろうか。

 

「魔導参謀、何か意見はあるか」

 

 何というキラーパス。

 大戦中軍港に引き籠っているはずが、なぜかはるばる大西洋まで連れてこられた私としては、このヒンデンブルクも2〜3発被弾してもらって「共和国の通商破壊をしたいのは山々ですが、帰港せざるを得ませんな。残念で仕方ありません」と言いたいところなのだが。

 

 いや待て、帰港しても私が引き続き引き籠れるだろうか。

 艦はドック入りかも知れないが、魔導師隊が無事なら乗せ換えて出撃させられる可能性が高い。本国にはこの第二偵察艦隊より艦齢の若い大巡洋艦を揃えた、第一偵察艦隊も残っている。

 艦を乗り換えるだけならまだマシで、ライン戦線に放り込まれようものなら目も当てられない。

 

 ならば、奇跡と言われたパーフェクトゲームを越えるパーフェクトゲームを実現するしかない。彼のトーゴー提督ですら神に祈ったところで叶いやしないだろうそれは、我々魔導師が手助けすることで、非現実的なものではなくなるのだから。

 

「……我々のみで敵艦を沈めるのは困難ですが、まともに撃たせないだけであれば可能です」

 

 “魔導師で戦艦を沈めることは不可能”、これはこの時代の常識である。そのうち破られるだろうが、少なくとも今の私には難しい。

 どんなに頑張ったところで、貫通術式で舷側主装甲帯はおろか、相対的に薄いとされている甲板装甲すら抜けないだろう。

 しかし、戦艦の全てが分厚い装甲で出来ているわけではない。それはこの時代の全体防御方式であっても同様だ。

 

「魔導師隊から合図があるまで、艦隊は距離1万5千から2万を維持して遠距離砲戦を行ってください。ただし、その間各艦は断続的に進路変更を行う回避運動を取り続けて下さい」

 

「馬鹿な、回避運動中にまともな測距を行って敵艦に砲弾を当てるなど不可能だ!」

 

 参謀の1人が吠えるが、別にそれでいいのだ。

 この時代、こちらの弾が当たらないということは敵の弾も滅多に当たらないのだから。

 

 さて、海戦において我が戦艦の弾を敵艦に当てるためにはどうすれば良いのだろうか。

 彼我共に40km/h近い高速で運動しており、相対距離は短くても5~6千m、長いと2万m近くにもなる。これは、砲撃から弾着まで短くて数十秒、長いときは1分以上要することを意味する。

 そのため、火器管制においては、敵艦の進路と速度、敵艦と自艦の距離、自艦の進路と速度を正確に把握し、敵艦の数十秒から1~2分先の未来位置へ向けて砲撃を行うことになる。

 

 したがって、艦隊決戦においては敵味方共に()()()()()()()()()()()砲戦を続けることが大前提となる。

 進路を変更したりすれば、その度に射撃諸元を一から作り直さねばならないからだ。

 

「その間に、魔導師隊が敵艦隊の光学機器を全て破壊します。後は煮るなり焼くなり好きにどうぞ。ただ、ブレストに逃れられられないよう敵艦隊の北東を抑え続けることと、砲側直接照準を行える5千m以下、可能であれば1万m以下への接近は避けていただければ」

 

「それはありがたいが、敵艦の対空砲や敵魔導師の迎撃はどうする?」

 

 参謀達に全く海兵魔導師隊の戦闘能力が信頼されていない。

 全く酷い話である。原因は私なのだが。

 

 とはいえ、ここ最近の我が第二偵察艦隊付海兵魔導師隊は、陸軍からゴリラの血を輸血することで虚弱体質に多少の改善を見た。フランソワの海兵魔導師がどの程度かは分からないが、本国の陸戦でヒーヒー言っている以上、こちらの変態以上のエースを艦載していることはないだろう。

 それに、この時代の艦載対空砲は剥き出しの砲架や銃架がほとんどであり、爆風により対空砲要員が吹き飛ばされるため主砲砲戦中は対空戦闘ができない。故に、第二偵察艦隊には敵艦隊を主砲砲戦に引きずり出す囮になってもらう必要があるのだ。

 

「なるほど、理解できた」

 

 そう説明したところ、まだ信じ切っていないのか黙ったままの参謀達に代わって提督が答えた。

 

「試してみる価値はある。ブランデンベルガー大尉、海兵魔導師隊を率いて砲戦中の敵主力艦隊を襲撃、味方の主力艦隊の砲撃戦を支援せよ」

 

 ヒッパー提督は海戦を決意すると、巡洋艦群を分離。想定戦場を迂回して船団を襲撃するよう命じた。

 そして自身は本体を率いて南下。イスパニア共同体西端のフィステーラ岬沖で、共和国艦隊の頭を押さえる位置へとコマを進めた。

 

 

 

「諸君、海戦だ。協商連合では終ぞ相まみえることのなかった敵戦艦が、我々の大西洋進出を記念して歓迎会を開催してくれるという。プレゼントは物資と兵員がたっぷり詰まった輸送船団だ」

 

 旗艦ヒンデンブルクの甲板に整列した海兵魔導師隊を前に、適当な訓示を垂れる。部下達の反応を見る限り、妙に緊張しているようだ。

 まぁ、無理もない。まともな艦隊とぶつかるのは初めてだ。もっとも、帝国海軍の誰もがそうなのだが。

 

「とはいえ、主賓は我らが大巡洋艦6隻。彼女らの晴れ舞台を彩るため、我々は裏方に徹する必要がある」

 

 そう、背後にそびえる三脚檣を見上げる。

 ユトランド沖の後に就役した史実の同名艦は、活躍の場を得ることなくスカパ・フローで自沈するという悲劇の艦であった。今世の彼女には史上初の弩級・超弩級戦艦同士の海戦の勝利者という栄誉を与えたいところだ。

 

「アルテンブルク中尉は対魔導師戦闘に秀でた3名を選抜して1個小隊を編成。これを率いて迎撃に上がって来るであろう共和国艦隊の海兵魔導師隊を排除せよ」

 

 十中八九現れるであろう敵魔導師の排除は陸軍出身のゴリラもとい変態に任せる。

 一応部下を選んでいいよと甘やかしたところ、フリーだったヒッパー提督の三羽烏の2羽を持って行った。そいつらこの海兵魔導師隊の最古参だぞ、遠慮というものが無いのか。

 

「残りの9名は指揮分隊と共に敵艦への攻撃を行う。間違っても装甲は狙うな、傷一つ付かないだろう。我らが狙うのは主砲塔及び艦橋上部に設置してある測距儀だ。

 敵艦隊が砲撃戦に入り次第行動に移る。間違っても味方の弾に当たるなよ」

 

 砲戦中の敵艦に近づくということは、その敵艦を撃っている味方の砲弾が近くに落着するということだ。流石のHk211型演算宝珠の防殻も、30.5cm(12inch)砲弾に耐えられる強度は有していない。

 まぁ、味方艦隊は回避運動を取りながらの砲戦になるので、よほどのことが無い限り敵艦の近くに弾は落ちないだろうが。

 

「私はどちらでカメラを回せば?」

 

 哨戒に出ており海戦参加できない者以外の役割を伝え終わったところ、手持ち無沙汰であったケットナー伍長が訪ねてきた。

 「戦闘配置で甲板に整列」と言ったはずなのだが、手にしているのが小銃ではなくカメラな辺り本音を隠す気がない。

 

「好きにしろ。だが、来るというなら戦力に数える」

 

「では指揮分隊の方に」

 

 どうせ断っても勝手に付いて来るだろう。だったら肉壁にでもなってくれた方がありがたい。

 

 

 

***

 

 

 

「消息を絶った商船が発していた報告では、敵は巡洋戦艦6隻を含む艦隊だということだ」

 

 役立たずの連合王国が帝国海軍の大西洋進出を許してしばらく、植民地から本国へ向かう船舶が立て続けに帝国海軍の襲撃を受けるようになった。

 主な損害理由は仮装巡洋艦によるものであるが、それらを連れてきた主力艦隊がビスケー湾沖に居座っていることのほうが、シーレーン防衛上遥かに問題である。

 

 そのため、可能な限り独航船を止めて船団を組むようにし、航路も味方の援護を受けやすい南方大陸に沿ったものに変更した。

 そして、ダ・カールに集合させた船団を共和国艦隊で護衛しつつ本国へ向けて北上。ビスケー湾沖で航路封鎖を行っている帝国艦隊を突破して、ブレストへと入港する。

 一見、まともな海上護衛任務だ。

 

「我が方は4隻とは言え、ノルマンディー級を始め全艦が34cm(13.5inch)砲を有する戦艦です。火力・装甲共に勝っている我々に仕掛けてくるでしょうか」

 

「速力は帝国側が勝っている。仕掛けるか仕掛けないか、その選択権は彼らにある。油断するな、警戒を厳となせ」

 

 楽観的な意見を呈する艦隊参謀を嗜める。

 帝国海軍地中海艦隊やイルドア海軍とのパワーバランスの関係から、南フランソワの主力艦隊から大西洋に引き抜けたのは、ノルマンディー級がたった2隻でしかなかった。ダ・カールに配備されていたクルーベ級2隻と合わせてもまだ4隻でしかない。

 こちらの方が個艦戦闘力で勝っているとはいえ、船団を守りながら戦うのは困難な任務であった。可能ならばブレストに船団を送り届けたうえ、ブルターニュ級2隻と合流してから戦いたいというのが正直なところだ。

 

 しかし、それを敵艦隊も理解しているのだろう。

 個艦戦闘力の不利を承知で仕掛けてきた。

 

「提督! 北東の水平線上に複数の煤煙を確認、敵艦隊です!」

 

 我々のブレストへの航路を遮るように現れた敵艦隊。

 頭を押さえつつ同航戦を強要する、お手本のような艦隊行動だ。回避しようにも右舷に進めばイスパニア共同体の領海。彼らの手の内で戦わざるを得ない。

 

「左3点回頭、右舷砲戦用意! 魔導中隊発艦、敵観測魔導師の排除と味方艦の弾着観測に備えよ」

 

 

 

「海兵魔導師より敵艦影視認の報告! 敵艦隊は単縦陣、先頭よりデアフリンガー級3、モルトケ級3!」

 

 先行する海兵魔導師から、より詳細な敵艦隊の陣容の報告があった。

 予想通りとは言え、こちらの嫌がることを的確に実行してくる帝国艦隊提督は侮り難い男だ。

 

「距離2万5千!」

 

「距離2万で砲戦開始、諸元の用意を!」

 

 飛んでいる海兵魔導師やマストの先端でなくとも、この艦橋から敵艦の艦影が見える距離に近づいた。

 既に主砲は敵艦隊へその砲口を定めており、発砲の指示を待っている。

 

「艦橋人員は司令塔へ入れ。間もなく砲戦だ」

 

 主砲の爆風や直撃・至近弾の破片に晒される艦橋から装甲化された司令塔へ入ろうとしたとき、魔導参謀から急報があった。

 

「敵艦隊方面より魔導反応! 敵海兵魔導師隊です!」

 

「弾着観測か? 数は? ネームドが居るか知りたい」

 

 帝国軍魔導師と言えば、共和国にとっての厄災の代名詞だ。

 我が共和国陸軍は、奴らによってライン戦線で帝国軍を押し切ることができずに苦戦しているという。それと同じものが敵艦隊にも居るとなると、我々の海兵魔導師には荷が重いだろう。

 

「数は16、ライブラリ照合は……できません、魔力反応に特異な干渉があり、個体魔力素の同定が困難です」

 

 ライブラリ照合ができないとはどういうことだ。

 いや、しかし敵艦隊は共和国が宣戦布告し、ライン戦線が構築された頃にはとうに本国を出航していなければ辻褄が合わない。ライン戦線で経験を積んだエースが乗っているとは考えにくいだろう。

 であれば、同数であろうとも十分以上に戦えるはずだ。

 

「排除しろ。我が共和国海軍海兵魔導師隊の力を見せつけるのだ」

 

 

***

 

 

 

<<隊長、正面に帝国軍魔導師を視認しました。数15強>>

 

『こちらも視認した……あれは本当に帝国軍魔導師か?』

 

 帝国軍の演算宝珠は機動性を重視した携帯型だったはず。

 だとすると、シルエットはほとんど人間のものと変わらないはずだ。だが、遠方に見える彼らのシルエットは明らかに演算宝珠を含んだ大きなものであった。

 

『連合王国軍ではないのか?』

 

<<連合王国のライブラリにもヒットしません! 敵艦隊の方向から飛来したことからも、帝国軍のアンノウンとみてよいかと>>

 

 一見すると、連合王国式の演算宝珠程度の大きさに見える。しかし、連合王国軍でないのだとすれば、帝国軍の新型演算宝珠だろうか。

 流石は魔導先進国、海軍用の演算宝珠を開発する余裕があると見える。

 

<<敵魔導師隊上昇!!>>

 

 定石通り上を抑えに来たか。だが、我々の統制射撃の前ではその行為は悪手だ。

 

『全員統制射撃隊形へ! 奴らのエネルギーが無くなった時点で撃つぞ!』

 

 前進しつつ統制射撃隊形への移行を指示。

 上昇によって運動エネルギーを失い、機動が緩慢になったその瞬間を捉えるよう、演算宝珠の銃口を向ける。

 

『今だ!!』

 

 上昇軌道の頂点に達する瞬間、中隊規模の統制射撃が帝国軍魔導師隊目掛けて放たれた。

 

 しかし、回避しようのない攻撃だったはずのそれは、着弾したであろう瞬間に帝国軍魔導師の姿が()()、陽炎となって掻き消える。

 

<<(デコイ)か!?>>

 

 統制射撃を躱した帝国軍魔導師は反転降下に移った。エネルギーの優位を生かしてこちらに突貫、近接白兵戦を強要する帝国軍魔導師の十八番だろう。

 

『小隊ごとに散開! 足を止めるな、帝国軍の思う壺だ!』

 

 立ち止まっての巴戦は不利。小回りに劣る分、火力と速度に優れた共和国方式の演算宝珠の強みを生かさなければ。

 そう考えて速度を保ったまま離脱を試みたが、予想に反して帝国軍魔導師は高速で追いすがり、余裕をもってこちらに光学術式を叩きこんだ。

 

<<02、04被弾!!>>

 

<<クソッ、奴ら速いぞ!!>>

 

<<宝珠に翼みたいなのを付けてやがる!>>

 

 想定外に強いられた回避軌道と、被弾した味方の救出のために速度を失ってしまった。こちらも反撃するが、速度を保ったまま離脱する帝国軍魔導師に有効打は得られない。

 

 やはり、あの新型宝珠は従来の帝国式ではなく、連合王国や共和国式に近いものだということか。宝珠核がどこにあるかは分からないが、あの巨大な2枚の翼がそうだとすると、帝国で研究中と噂の複核式演算宝珠である可能性が高い。

 そんな新型演算宝珠相手に我々の従来の戦法が通じないとなると危険だ、この情報は何としても艦隊に、そして本国に持ち帰らなければならない。

 

 そう考え、自分の演算宝珠の記録を確認する。攻撃を受けた際には、帝国軍魔導師にかなり近づいていた。あの距離なら、より詳細な情報が得られているに違いない。

 

「……馬鹿な」

 

 接敵直前の検索では、ライブラリにヒットしなかったはずだ。

 しかし、近距離で得た個体魔力素の反応は、奴らが用いている複核式の演算宝珠の宝珠核が起こす干渉を受ける前のものだった。故に、ライブラリは正しくその答えを返す。

 

 なぜ、ノルデンのエースがこんなところに居るのだ。

 

「“金色(こんじき)の螺旋”!!」

 

 

 

 不味い状況になった。

 共和国海軍はライン戦線に有力な魔導師を引き抜かれてしまっている。帝国のように海軍にエースを回す余裕など皆無だ。

 部下達にコイツの相手は荷が重いだろう。ここは私が引き受けざるを得ない。

 

 金色の螺旋の注意を引くために、離脱中の敵小隊に光学術式を連射。ヤツの小隊との分断を図る。

 

 金色の螺旋は最低限の回避軌道と囮で避けたが、ヤツの小隊は必要以上に大きな回避軌道を取った。

 しめた、エースはヤツ1人。それ以外は大したことが無い。

 仕掛けてきた1個小隊がこれなら、後続はそれ以下だろう。

 

『中隊各員、敵エースとその小隊はこちらで引き付ける!! 第2~第4小隊は後続の敵に掛かれ!! 03、私と共に死んでくれるか?』

 

<<お供します!!>>

 

 03の力強い言葉と共に敵小隊に突撃。離脱を許さないよう、多少の不利を承知で白兵戦を強いる。

 

「ノルデンで格下相手に苦戦したからと言って、大西洋で商船相手に弱い者いじめなど、帝国軍魔導師も落ちたものだな!!」

 

「背中から帝国を刺した蛙野郎に言われたくありませんわ!!」

 

 

 

***

 

 

 

 対魔導師戦闘を命じたアルテンブルク中尉の小隊が先行し、共和国魔導師中隊の指揮官が居ると思わしき小隊へ逆落としに突っ込んでいった。

 指揮官を落とすことはできなかったものの、一降下で数人を落伍させられたのは大きい。流石は元陸軍のエース、頭はアレだが実力は確かだ。

 このまま変態に敵魔導師隊を任せておけば大丈夫だろう。敵は中隊規模であったが、エースは実質1個中隊に匹敵するとも言う。部下の撃墜スコアを伸ばしてやるのも上司の務めだ。

 

 そう、残りの部隊を率いて戦闘空域を離脱し、さっさと敵艦隊の料理に入ろうかと思案したところ、アルテンブルク中尉と戦闘中の敵魔導師中隊から、一部の敵が分かれてこちらにやってきた。

 いや、一部どころではない、ほとんど大部分と言っていいだろう。

 アルテンブルク中尉とその小隊は敵指揮官分隊に掛かりっきりになっており、とてもこちらを援護できるとは思えない。

 

『各員、状況が変わった。対魔導師戦闘用意!!』

 

 産廃だらけの帝国海軍海兵魔導師とは異なり、共和国の海兵魔導師にはエースを回す余裕があるのだろう。

 対するこちらはアルテンブルク中尉の助力を得て訓練に勤めたとはいえ、帝国陸軍魔導師基準では下の下から下の中。まともにぶつかっては勝ち目はない。

 

『敵魔導師隊に突入後、小隊毎に離脱。決して足を止めるな、エネルギー戦を意識せよ!!』

 

 対艦戦闘予定の2個小隊を率いて旋回、敵魔導師隊にヘッドオンを強いる。

 一応照準は付けるものの、僚機には強要しない。私が撃ったら撃てばいいのだ。下手くその射撃も視界を埋め尽くせば敵は怖気づく。

 

 Hk211型演算宝珠の自動砲と共和国軍の小銃の火線が交差。

 単純に口径で上回る我々が押し切り、敵から数人の落伍者が出る。こちらにも被弾は出たようだが、防殻を抜かれた者はいなかったようだ。統制射撃でなかったらこの程度か。

 

『コンラッド! 1個小隊を任せる。私の小隊と交互に降下、攻撃しろ』

 

<<自分は士官ではありません>>

 

『ガタガタ言うな、人手不足だ!』

 

 戦闘中に上官に歯向かう不良を黙らせて1個小隊を指揮させる。

 コンラッドの小隊が水平方向に離脱するのを見届けてから、こちらが上昇。敵魔導師隊の釣り上げを試みた。

 

 こんな分かりやすい罠に引っかかるかな、と若干不安ではあったが、しっかりと1個小隊が食いついてくれた。

 あんな重たい演算宝珠で戦闘中の上昇機動など取ろうものなら、たちまちエネルギーを失い、空中で静止するだけの的になる。事実、反転してきたコンラッドの小隊によって一方的に撃破された。

 

『よくやった!』

 

<<今度は我々のケツに食いついたヤツを頼みます!!>>

 

 頭に血が上ったのだろうか。味方の敵討ちだといわんばかりに、敵魔導師隊から1個小隊がコンラッドの小隊を追いかけだした。

 

 Hk211の放熱板を最大限に開いて減速、反転降下。コンラッドの小隊の背後に着く敵小隊向けて加速する。

 こちらが射撃位置に着くタイミングで、コンラッドが上昇機動を取り、敵小隊をうまく釣り上げてくれた。これは良いな、射的の的だ。

 

 Hk211の強みを最大限に押し付けることで、何とか被害を出さずに共和国軍魔導師隊を撃破することが出来た。指揮官を欠いた共和国軍魔導師の戦術がポンコツだったのにも助けられただろう。

 敵の残存魔導師は彼らの艦隊の方向へ離脱中だ。対空砲を頼りに戦う気なのかもしれないが、残念ながら君達の母艦は既に主砲砲戦中だ。

 

 

 

「お姉様!! ご無事ですか!」

 

 ようやく敵指揮官を片付けたのだろう、アルテンブルク中尉とその中隊が合流してきた。こちらも被害が無くてなによりである。

 

「敵指揮官が思いの外手練れでしたわ、負けるような相手ではありませんでしたが。敵も小隊でしたし、またこちらの小隊に被害を出さないためには、少し時間がかかってしまい、お姉様を危険に晒してしまいましたわ」

 

 念のため1個小隊を付けたのだが、寧ろ足手まといだっただろうか。

 

「アルテンブルク中尉もご苦労。やはり、我々は対魔導師戦闘について多くの課題を抱えていることが再確認できた」

 

 人外と人間が集団行動など無理だといわれてしまえばそれまでだ。とは言え、大戦を生き延びるため、部下達には強くなってもらわなければならない。

 ……変態になれとは言わないが。

 

「ブランデンベルガー大尉、ヒッパー提督より無線が届いております。艦隊は既に主砲砲戦中であり、直ちに作戦を実行しろと」

 

 海兵魔導師隊の今後を悲観していると、空気を読まないコンラッド軍曹に横槍を入れられた。

 無理矢理1個小隊を指揮させたことを根に持っているのだろうか。

 

 とはいえ、提督の命令であれば無視するわけにもいかないので、当初の予定通り敵戦艦への攻撃を行うこととする。敵魔導師を排除したばかりだというのに、提督も人使いが荒い。

 

「敵海兵魔導師隊の排除には成功した。若干が敵艦隊の方に離脱したが、大勢に影響は乏しいだろう。

 よって、これより作戦通り敵主力艦隊への攻撃を行う。既に主砲砲戦中の敵艦隊が対空砲を撃ってくることはないと思われるが、離脱した敵魔導師による反撃が予想される。油断するな、心してかかれ」

 

 各員に自動砲と小銃の残弾を確認させた後、部隊を再編制。敵主力艦隊襲撃用の陣容を整える。

 

 さて、人類史上初の、魔導師の存在する艦隊決戦と行こう。

 

 

 




前話みたいにだらだらやるのも違う気がするので、バンバンスキップして書きたいとこだけ書くぞーってやったけど辿り着かなかったでごわす(n敗

未だ世界大戦じゃないからかーるい海戦をば、と思ったけど、戦艦数だけだと日本海海戦と同じでビビる。
これがGreat Warというインフレか......
日露戦争での全消費弾薬を1週間で使い切ったというインフレもあるし、戦艦がバンバン登場しても問題ないと思う(知らんけど

ちな開戦時の帝国海軍艦隊構成概要
北洋艦隊:シェーア提督
∟戦艦部隊(シェーア提督直卒)
∟第一偵察艦隊
∟第二偵察艦隊:ヒッパー提督
 ∟第三偵察群
   ヒンデンブルク(旗艦)、リュッツオウ、デアフリンガー
 ∟第四偵察群
   ザイドリッツ、モルトケ、ゲーベン

フォン・デア・タンは地中海に出荷されました。
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