艦娘恋物語   作:青色3号

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白雪の場合

この想いが届くとは思えない。

 

 

この想いが、伝わるとは、信じられない。

 

 

だから、この想いは封じ込める。あの人の前では、なんでもないようなふりをする。

 

 

「以上で、演習報告を終わります」

 

「ご苦労」

 

 

提督のその一言に特型駆逐艦・白雪は手にしていたバインダーから目を上げる。その白雪の瞳見つめ、提督は短く問いかける。

 

 

「疲れたか?」

 

「いえ、今日の演習は軽めのメニューでしたので」

 

 

白雪の言葉通り今日の演習メニューは軽度なものに抑えられていた。なぜなら―――

 

 

「明日だな」

 

「はい」

 

 

―――大規模作戦の発動を、明日に控えていたから。艦娘たちの身体つくり程度に抑えられた演習をこなし、明日、白雪も出撃する。

 

 

「無事に帰ってこい」

 

 

短い、しかし万感の思いのこもった言葉。その言葉に白露は敬礼返す。

 

 

 

その言葉だけで十分、その言葉以上は望まない。この想いは、ひた隠す。あまりに、身分不相応な想いだから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

艦隊が母港に帰投する。あるものは傷つき、あるものは血を流して。

 

 

「白雪、大破状態確認!」

 

「衛生兵、担架こちらへ!」

 

 

自力で歩けぬ白雪は、担架で岸壁を運ばれる。艦隊を迎える提督が運ばれる白雪に目を止める。

 

 

「司令官……」

 

 

虚ろな瞳を提督に向け、白雪は呟く。朦朧とする意識に、心の防壁が崩れる。決して伝えるつもりのなかった想い、知らず白雪の唇から漏れる。

 

 

「よかった……もう一度、司令官に会えた……」

 

 

弱弱しい微笑み浮かべ白雪は呟く。心の奥に、ひた隠しにしていた想い。

 

 

「もう一度だけ、もう一度だけでも司令官に会いたかったんです……私、もう一度だけ……」

 

「大丈夫だ、それ以上無理して喋るな」

 

 

白雪の言葉を制して提督はその大きな手のひら白雪に伸ばす。白雪を運ぶ担架に並走しながら提督は白雪の髪を撫ぜる。

 

 

提督の手のひらの温かさ、それを感じながら白雪は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、入渠を終え医務室のベッドの上だった。ぼんやりと天井を見上げ、帰ってきた実感が次第に湧き上がってくるのに身を任せる。

 

 

思い出す。先ほど、提督に何を言ったのかを。がばりと身を起こし、途端身体を襲う痛みに顔をしかめて、白雪は改めて先ほど自分が言ったことを反芻する。

 

 

「私……」

 

 

伝えるつもりはなかった。あんなこと、言うつもりはなかった。ずっと、ずっと心の奥に秘めておくつもりの想いだった。しかし、先ほど自分は―――

 

 

「わた、し……」

 

 

自分の身体を抱きしめる。踏み出してしまった、小さく大きな一歩。その歩幅に慄きながら白雪は軽く唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

入渠を終え、修復が完了すればその旨提督に報告せねばならない。どんな顔をして提督に会えばいいのかわからぬまま、それでも逃げ出す先もなく白露は提督執務室の扉を開ける。

 

 

「失礼します……特型駆逐艦・白雪参りました」

 

 

心臓が飛び出しそうなほど高鳴っている。鼓動の激しさに身体が揺れるような気すらしながら白雪は平静を保とうとする。

 

 

「白雪、修復を終えました。体調は、万全です」

 

「ご苦労」

 

 

簡潔な、そっけないくらいの提督の言葉。そのそっけなさに肩から力が抜ける。思わず白雪は提督に問いかけようとする。

 

 

「あの……」

 

「どうした?」

 

「いえ……なんでもありません」

 

 

いつもと変わらぬ風景。いつもと変わらぬ提督の態度。その変わらなさに動揺しながら白雪は執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、どうしても抑えきれない思いを胸に白雪は提督執務室を訪れる。扉の前で逡巡し、それでも確かめずにはいられないと白雪は部屋に足を踏み入れる。

 

 

「白雪か。作戦後の、休暇では?」

 

 

穏やかな微笑みを向けてくる提督の姿。いつもと変わらない提督の姿。その提督に、ためらったのちに白雪は声を向ける。

 

 

「司令官……私、帰投したときに担架の上で……」

 

「ああ、気にしなくていい」

 

 

言葉の意味が一瞬わからず白雪は口を閉ざす。不安げな表情見せる白雪に、提督は静かな微笑みのまま続ける。

 

 

「大けがをすれば、気弱になることもあるだろう……気の迷いを、口にすることもあるだろう。なに、意識もはっきりしない中での言葉だ。何を言ったか、気にすることはない」

 

 

カッと頭に血が上る。顔が、紅潮するのがわかる。白雪の変化気づくこともないまま、提督は言葉を続けようとする。

 

 

「だから白雪も……」

 

「気の迷いなんかじゃありません!」

 

 

滅多に言葉荒げない白雪、その白雪の大声に面食らったように提督は口を閉ざす。軽く身を引く提督に向け、白雪は激しい言葉ぶつける。

 

 

「誰にも言わないつもりでした……司令官にも、伝えないつもりでした。でも、口にしてしまった以上なかったことにされるのは耐えられません!」

 

 

涙、白雪の瞳から溢れる。必死の表情で白露は提督を視線で貫く。しゃくりあげながら白雪は、伝えられずにいた言葉伝えようと唇をわななかせる。

 

 

「私は……司令官が……」

 

 

驚いたように目を見開いていた提督の表情が変わる。ゆっくりと、提督が椅子から身を起こす。机を回り込み白雪の前に立ち、提督は白雪に言葉向ける。

 

 

「その想いを……受け止めても、いいのかな?」

 

 

提督の言葉に目を見開く。涙に濡れた瞳で提督を見上げる。言葉の意味を、その優しい微笑みに悟り、白雪は新たな涙溢れさせる。

 

 

 

 

 

提督の腕が白雪に伸ばされる。白雪の小さく華奢な身体を、提督は自らの胸の中に誘う。

 

 

 

 

伝えるつもりのない想いだった。封じ込めるはずの、想いだった。それでも、伝えることができたなら―――

 

 

 

 

―――伝わることも、きっとある。

 

 

 

 

 

 

 

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