妖怪にとって妖力とは重要なものだ。
種族や個体によって限界はあれど、永く生きれば強く大きくなっていく。
私は生まれた種族と生きてる時間の割にはあまり妖力が強くない。
世の中には力なく人知れず消えてゆく妖(あやかし)の者が多く居る。
生まれた種族、特性、環境によって持てる力も寿命も異なる。
過ぎた力は自壊に繋がる。それでも多くの者達は力を求め、明日を生きる事に必死だ。
多くの怪異を知り、見聞を広めれば、か弱き者達も力を得る方法も見つかるかも知れない。
たとえ見つからなくても私は彼らが生きていた事を覚えている。
いつかそれが後世の妖怪達の生きる糧になればと思う。
宛てもなく彷徨う事を人は旅と呼ぶのだろうか。
弱き者は居場所を追われて彷徨うものだ。それを旅と言えば聞こえが良い。
考え事をしていると不意に話しかけられる事がある。
悪い気はしないからうっかり返事をするが、そういう手口で襲い掛かってくる妖怪もいる。
気を付けるべきだが反射的に声は出てしまうものだ。
「ちょいとそこ行く辛気臭い顔のお前さん!あんた迷子かい?」
話しかけてきたのは狸だった。化け狸の一種だろう。そうでもなければ話しかけては来ない。
「迷子ではない。食い物もないから去るといい」
「そうかい?オイラは佐渡国から来たんだが、武蔵国には疎い。この辺りで変な木を見なかったか?」
佐渡国の狸というと、団三郎狸(だんざぶろうだぬき)の配下か何かだろうか。
北陸道の佐渡国から東海道まで来たとは随分な旅路だな。
「変な木?知らないな」
「そうかい。木蓮の木なんだがね、誰かが植えて"付喪神化"してるらしい。あんた弱そうだから気をつけな」
そう言って狸は去っていった。失礼な狸だな...
しかし、木蓮の木の"付喪神"か。興味はある。
この辺りに木蓮は自生していない筈だ。探せばすぐに見つかるだろう。
歩き回る事暫く、それらしい木を見つけた。一本だけ形の違う白い花を咲かせていて分かりやすい。
木蓮らしき木に誰かが寄り掛かっているのが見える。木刀を持った青年のような姿だ。
付喪神化した姿なのだろうか。
「危害を加えるつもりはない。お前が付喪神か?」
こちらの質問に答える様子はなく、激しくこちらを睨んでくる。
すると草をかき分けて先ほどの狸が出てきた。
「おぉ、ここに植えられてたのか。お前さんの居場所はここじゃない。佐渡に帰るぞ」
どうやら先ほどの狸とこの木は知り合いのようだ。
「俺の居場所は俺が決める。佐渡だって勝手に運ばれただけだ。もうほっといてくれ」
「そうはいかない。誰がここまで待ち出したか知らないが、付喪神化したお前を野放しに出来ないからな」
何やら面倒な事に首を突っ込んだ気がするが、面白いからまぁ良いだろう。
二人の口論を聞いたところ、この木蓮の木は何処かの山に自生していたが、何者かに掘り起こされて庭に植えらた挙句に飽きて捨てられ燃やされる寸前で狸達に拾われて佐渡に運ばれたらしい。
ひとしきりの口論の末、どちらも譲らない様子だ。傍から見れば私は木と口論する狸を見てる変な奴だろうな。
「ところで、そこの弱そうな男は知り合いか?」
「ただの迷子だ。オイラとは関係ない」
相変わらずこの狸は失礼だな。
「私は旅をしてるただの妖怪だよ。付喪神に興味があっただけさ。すぐに立ち去るから気にしなくて良い」
あまり深く介入すると厄介事に巻き込まれる。
私は立ち去ろうとしたが、木蓮の付喪神に行く手を塞がれて引き留められた。
「待ってくれ。あんた、旅のお供が必要だろ?俺を連れて行ってくれよ。良いだろう?」
突然の申し出に私は少し驚いた。
「唐突だな。何が目的だ?」
「折角付喪神になって自由に動けるようになったんだ。世界を見て回りたい。あと、あんた弱そうだし護衛が必要だろ?腕に自信はある。式神になればついて行けるしな」
勝手な上にこいつも失礼だな。
狸は呆れたような顔をしてるが、木蓮の木自体が回収出来れば特に反対しないらしい。
まぁ良いか。どうせ付いてくる気だろう。
「そこの狸が良いのならついて来ると良い。今日からお前は私の式神。名は『木蓮』だ」
「安直だな...」
不服そうだが名前を授ける事は重要だ。
「あんたの...じゃなくて、主の名は?」
「私の名は駄烙(だらく)。名前で呼んで構わない」
「名前からしても弱そうだな...」
こうして木蓮は私の式神として旅を共にする事になった。
何者かに襲われた時は木蓮を盾にしよう。