宛のない旅は行く先に迷う。しかし狸が言うには相模国の山中には変わった猫又(ねこまた)が居るらしい。
取り敢えず武蔵国から相模国に向かってみる事にした。
道中の集落で聞いた話では、最近夜の山中での行方不明者の続出と手拭いの盗難が頻発しているらしい。
手拭いが何か関係があるのか分からないが恐らく猫又は夜の山中に現れるのだろう。
夜を待って山へと向かうと次第に霧が深くなってゆき、暗がりに提灯を持った若い女性が見えた。
女性に話掛けようとした瞬間、女性は鋭い爪を立てて襲いかかってきた。
「アンタら人間じゃぁないね!切り刻まれたくないなら去りな!」
あっさり出てきた猫又は尻尾を立てて威嚇している。木蓮が居るとは言え戦いは避けたい。私は戦闘は苦手だ。
「まぁ、待て。退治に来た訳でもない。人を襲う理由は何だ?」
猫又は問答無用と言わんばかりに木蓮に飛び掛かり、爪で辺りの木々を切り裂いていく。
対話が出来ない奴だったか...
ひとまず逃げようと振り向くと猫がもう一匹居た。
「挟み撃ちか...!流石に不味いな...」
もう一匹の方の猫はみるみるうちに巨大化し、大きな咆哮をあげると辺りに強風が吹き抜ける。
「グォォォォォォン!!」
物凄い妖気を含んだ咆哮だ。ニャーなんて可愛げのある鳴き方じゃない!
下っ腹に力を込めて踏ん張らばないと吹き飛ばされそうだ。
風が止むと女性に化けていた猫又は元の猫の姿に戻り気を失っていた。
どうやらこっちの巨大な化け猫は猫又仲間ではなかったようだ。
「誰だか分からないが、ありがとう。助かった」
化け猫は少し体を縮めると猫又を咥えて走り去ってしまった。
化け猫の後を追うと麓の寺の方へと向かって行った。
「おやおや、こんな夜更けに...」
寺には住職が居たが私たちを助けてくれた化け猫はこの住職の飼い猫らしく尻尾は切られていた。
「この猫はここに住んでいるのですか?」
「えぇ、可哀想に尻尾を切られてここに迷い込んだのです。仏に頭(こうべ)を垂れる徳の高い猫でしてね...」
この住職は嬉しそうに猫の話をしているが、この猫が化け猫である事は知らないのだろうか。特に告げ口するつもりはないが、確か人間達の間では猫の尻尾を切るのは化け猫になるのを防ぐ意味があったはずだ。
私たちが人間じゃないことも気付かないのか全て知らぬフリをしてるのか...
「もう夜も遅い、もてなしはできませんが今日は泊まっていきなされ」
住職の言葉に甘えて夜明けまで寺で待つことにした。
夜も更けた頃、気になって化け猫を探したが寺に姿はなかった。
化け猫の気配,,,もとい、肉球型の足跡を追ってみると足跡は山へと続き、山頂の廃寺に向かったようだった。
「廃寺なんかに何の用が...?」
廃寺に近づくとそこには手拭いを頭巾のように被った沢山の猫達が踊っていた。
どうやら集落で聞いた手拭いの盗難はこの猫たちの仕業だったらしい。
「何故こんなところで踊ってるんだ?」
猫たちを率いているのは寺の化け猫だった。
「通りすがりの狸に教わったんだ。踊りは楽しいぞ。ほれ、お前さんらも踊らんか?」
ふむ、狸が言ってた変わった猫又はこいつの事だったのか。
聞けばかつては悪しき猫又だったが尻尾を切られて改心したらしい。
あの狸が退治して踊りを教えたのだろうか?
まぁ、踊りはともかく退治は違うだろうな...
人間を襲っていたであろう先ほどの猫又もぎこちない足取りで踊っている。
化け猫に説得され、もう人間を襲う事はもうやめるそうだ。
それは良いとして、手拭いの盗難はやめないのだろうか...?
楽しく踊る猫達に野暮な事は言わないでおくとしよう。