(忘れてたなんて口が裂けても言えません・・・ハッ!?)
・・・ゴホン。
それはともかく・・・・・どうぞ!
あの人の妹・・・・ね。
思い出すのは、五年前の出来事。
そう、あの人と初めて出会った日の事。
「俺は春澄(はると)。空戸春澄だ。君の名前は?」
「そんなの・・・知らない。どうしても名前で呼びたいならあなたの好きなようにようにしていいわよ」
その問いに、少女は首を横に振る。
「・・・・なんだ名前ないのか」
「うん」
「とはいえなぁ、呼び名がないのは不便だしなぁ」
「・・・・」
「・・・・・・うーん、那澄とか?」
「はぁ」
「あれ、気に入らなかった?『美しい程に澄んでる』って意味なんだけど」
「・・・・単なる呼び方に何を求めて、そんな大層な意味込めてるのよ」
「戸籍とかは面倒だから、俺の養子でいいか。必然的に名字も一緒になるしな」
「・・・いい加減ねぇ」
「ったく、素直じゃないのな」
「・・・・はいはい」
口頭では冷たくしつつも、少女の、那澄の表情は喜んでいた。
恐らくはバレていたのだろう。
彼は、たった今父となった青年は呆れながらも、笑って那澄の頭を撫でていた。
「・・・・・・手、大きいのね」
「何だ、迷惑だったか?悪いな、つい癖でやっちゃって」
「別に、あなたがやりたいなら満足するまでやっても構わないわ」
「そうかそうか嬉しいか」
「・・・・ふん」
頭が少し強めに左右に揺さぶられる。
髪がくしゃくしゃになる程、乱暴なはずなのに何処か心地いい。
「なんだか、アイツ・・・・妹みたいだなぁ」
「妹?」
「ああ、年は十一も離れてるから、今は十歳か」
「なんだ、私と一緒じゃない」
「へぇ、そうなのか。・・・・・・って事は俺は妹におじさん呼ばわりされたも同然なのか!?」
青年は突然、驚いて落ち込んだ。
「いやいや、二十一で十歳の養子を取るのもなかなかいないと思うけど」
「・・・・じゃあ、兄として接した方がいいか?」
「それは、同一視されてるみたいでなんか嫌」
「じゃあ娘でオッケー・・・・だな」
さっきまで落ち込んでたと思ったら、今度は再び笑い出した。
当時の那澄には“変な人”位の認識しか出来なかった。
「・・・・いつまでぼけーっとしてのよ」
五年前の思い出していると、そんな声が聞こえてきた。
「んぇ?」
声のする方を向くと、叔母さ・・・・紗奈お姉様がジトーっと私の顔を見つめていた。
「その様子だと、先生の話も聞いてないんでしょうね」
「まぁ、その点は?お優しいお姉様が?教えてくれるでしょうから?」
「・・・・本っ当にいい性格してるわね」
「あらホントにやってくれるの。流石お姉ちゃん、愛してるー。・・・・お休みー」
そして那澄は睡眠をとるという行動に出た。
横で何か言っている紗奈を無視して、目を閉じる。
次に目を覚ました時には、ホームルームは終わっている事だろう。
「・・・・って訳で、『能力値選抜制度』は廃止になって、新たに『全校生徒参加の実戦選抜制度』に変わったらしいわ。あと、参加は自由なんだって」
廊下を歩きながら、那澄は先程の説明を、紗奈からされていた。
「自由ねぇ。なら別に・・・・」
「・・・・まさか『別に出なくてもいいわよね』とか言い出さないわよね」
「・・・・ん、んぅ」
「そこんとこ、後できっちり話し合いましょうねぇ」
「・・・自由参加ならいいじゃない」
「ふぅ~ん」
「あっ、ねぇねぇほらあそこ‼昨日、模擬戦してた人じゃないかしら!?」
「・・・・今誤魔化しても後々追い詰めるだけなんだから、結果は変わらないわよ?」
図星をつかれて、急いで話題を変える事にした那澄。
だが、それでも切り抜けられる相手ではなかった。
突然、周囲がざわついた。
正確には、周りの生徒が、絶叫していた。
「・・・・うっわぁ」
「ったく、今度は何よ。うるさいわ・・・・ね!?」
視線の先では、彼の『Fランク騎士』が短い銀髪と淡い翡翠色の瞳を備えた小柄な少女と、キスしていた。
「ち、ちょっとイッキ!あ、あああ、アンタなにやってんのよッ!?」
Aランクの皇女様が叫んだ『イッキ』というのは、たった今キスしていた彼の事だろう。
「ぼ、ぼぼぼ僕だってわからないよッ!?」
彼は慌てて少女の腕を首から引き離して叫んだ。
客観的に見ている分には“面白い”で済むが、当人たちからすれば堪ったものではないだろう。
しかも、
「同じ血と肉を分かつ、鉄よりも固い絆で結ばれた兄妹が口づけするのはごくごく自然ですよ。いえ、それでも足りない位です。ホントに感動の再開なら、それ以上の事をしても良い。ですよね、お兄様」
「そんなわけないからね、珠雫!?」
とかなんとか、付け加えている。
“お兄様”という単語から、彼女は『イッキ』の妹なのだろう。
そして、キスの時点で既に紅潮していた紗奈は、彼女の言葉を聞いて見事に茹だっていた。
この手の事に対しては初心なのだろう。
この反応が面白かった那澄は、彼女の耳元に近づいて
「兄妹なら当然だって。なら私たちもしてみようかしらね、お・ね・え・さ・ま」
からかう事にした。
「ほらお姉様、早・・・・くぅッ!?」
ゴンッ、という鈍い音と共に、那澄の後頭部に激痛が走った。
「・・・・・・そろそろ静かにしなさいよ?」
「うぅ、いった~い」
あまりの痛みから那澄は蹲った。
激痛の正体は、紗奈の口封じ(物理)だった。
紗奈の手が動いてから那澄が後頭部を押さえるまで、3秒にも満たなかっただろう。
「・・・・ったく、もう」
「ねぇ~、ちょっと~。引っ張らないでってば~」
未だ顔を赤くしながら、那澄の制服の襟首を掴んで歩く紗奈と、頭を押さえたまま引きずられていく那澄。
彼女ら二人の光景を見て、周囲の生徒たちが呆然としたのは、言うまでもないだろう。
「・・・・ねぇ、それ何よ」
後ろから覗き込んだ紗奈は、思わずそんな声を出してしまった。
視線の先は、皿に盛られた得体の知れないナニカ。
色は緑でコポコポと泡立っている。
「何って・・・・なんだっけ?確かシチューだったような」
製作担当は・・・・那澄。
使った鍋は原型を留めておらず、皿からは涙を誘う刺激臭が漂っている。
「・・・・・・嗚呼、神よ」
「何よ何よ、普通に美味しいじゃない。変に構えないでよ、ただのシチューに」
因みに紗奈の目の前では、涼しい顔で食べていた。
“食べなければ”そう思いつつもの、紗奈の持つスプーンは動かない。
「・・・・いやぁ」
「ったく、しょうがないわねぇ」
突然、那澄がそんな事を言い出した。
「・・・・ごめん」
口では謝罪しつつも、紗奈の表情は明るい。
助かったという気持ちが全身から溢れている。
「安心しなさい、食べさせてあげるわ」
この一言を聞くまでは。
「・・・・oh、really?」
「あらあら、思わず英語が出てくる位嬉しいのね。答えは勿論、YES」
「・・・・ちょ、ちょっと」
「さぁほら、アーン」
「・・・う、うぅ」
「怖がらないで、ほ・ら」
「うむぅ・・・・・・あれ、美味し・・い?」
驚いたことに、不味くなかった。
さっきまで拒否していたのが、勿体ないと思う位には。
「でしょう?」
紗奈の手は動いた。
ソレを、凡そシチューとは思えない代物を身体は欲していた。
しかし、何事にも代償は存在するという事を忘れてはならない。
そう、紗奈の身体には・・・少しずつ変調が訪れていた。
おかしい、さっきから汗が止まらない。
今の季節は春で、今日の気温もそれほど高くないのは確認済み。
にもかかわらず、拭いても拭いても、汗が溢れ出てくる。
この皿の臭いからは、別に変な物は感じ取れなかった。
味は、特に異常もな・・・・く?
その瞬間、紗奈の視界が段々とボヤけていく。
「ちょ・・・と、お・・様」
自分を呼ぶ、那澄の声が遠くなっていく。
そんな状況で、思考がまともに働くはずもない。
限界は目に見えていた。
結論、紗奈の意識は・・・・落ちた。
「な~んだ、気絶する程気に入ってくれたのね。良かったわぁ」
那澄は倒れた義姉を心配する事もなく、食事を続けた。
「・・・・うぅ」
うなされる声が、食事に夢中な那澄の耳に届くことはない。
気がつけば、もう朝だった。
あのまま机に突っ伏していたから身体が固くなっている。
目覚めにシャワーを浴びて、一人ベッドに寝ている同居人を起こす。
「・・・・んぅ?」
「早速だけど、出かけるわよ」
「はいはい、いってら~」
「何言ってんの、あなたも行くのよ」
「はいはい・・・・後でね」
もぞもぞと動きながら、そんな答えが帰ってきた。
そんな態度に、少しイラっとしながらも再び呼びかける。
「あなたもって言ってるでしょ!」
「・・・・じゃあ、おぶってー」
その言葉に、あまりの衝撃に・・・・言葉が出なかった。
「・・・・は?」
「できないんだー?」
「いやいや。できないとかそういう問題じゃないから」
「ふーん、そう」
「・・・・あのねぇ」
「・・・・・・」
「ちょっと!」
「・・・」
もはや返事すらしないその態度に、紗奈の思考は停止した。
「いいわ、やってあげる」
「・・・・え?」
「だから、やってあげるって言ってるの!その代わり、早く支度済ませてよね」
「ちょっ、マジでやんの!?」
那澄は思い切り起き上がる。
了承されるとは思っていなかったのだろう。
その顔には、いつもの気だるげな表情ではなく、困惑が浮かんでいた。
「・・・・なんで、ホントにやるのよ」
「アンタがやれって言ったんでしょ」
「そうなんだけどさぁ」
会話から解るように、那澄は“おんぶ”されていた。
幸い、周囲に人はいないから、この状況を見られて戸惑う事もない。
「・・・・こっち見ないでよ」
今にも消えそうな声が聞こえてきた。
こっそり見ると、那澄の顔は真っ赤になっていた。
「アンタでも照れるのね」
「・・・・見ないでって言ったじゃない」
「あと、少し重・・・・」
「うっさい、重くない。つか言わせない」
行き先は、学園の近くにある大型のショッピングモール。
目的は日用品の買い出しだ。
そのまま、歩いていると到着した。
すぐに済ませてしまうのもあまり面白くないので、少し散策することに。
しかし、完全に無人というのはそうそうない。
ましてや、ショッピングモールともなれば尚更である。
ある程度、店の把握を終えたそんな時だった。
昨日の、兄妹と皇女様と爽やかそうな男と、偶々顔を向けた那澄の目が合ってしまった。
ガラス一枚隔てているから、声が聞こえる事はないが、視線は消えない。
「・・・・降ろして」
那澄は恥ずかしさから、その一言しか伝えられなかった。
「え、もういいの?でもまだ・・・・」
「首をゆっくり左に向けて。それで理解できるはずよ」
説明するよりも、状況を理解してもらう方が早い。
そう思っての事だろう。
「全く、なんなの・・・・よ」
「OK?解ったらすぐ降ろして・・・・って何してんの!?」
那澄が思わず叫んだのには、理由があった。
状況を把握したはずの紗奈が、四人に対して手を振っているのだ。
四人の中で手を振り返したのは、爽やかそうな男だけ。
あとの三人は呆然としていた。
「・・・・」
「あれ、もういいの?」
「・・・・・・帰るわ。必要なのは勝手に買っといて」
見られた恥ずかしさから、那澄は自分から降りた。
そして、寮に向かって歩こうとした時。
身体が動かなかった、いや動けなかった。
当然、犯人は紗奈。
いつの間に振り返ったのか、右手で肩を掴まれていた。
「・・・・離してよ」
「まぁまぁ」
「何よ」
「あの四人に混ざりましょうよ」
「・・・はぁ!?」
「上手く説明すれば、他に話されずに済むと思わない?」
「・・・・・・」
その提案に一瞬でも考えたのが失敗だった。
「んじゃ、決定」
「あ、ちょっと引っ張んないでよ!?」
那澄は腕を掴まれて、四人の下へと連行されてしまった。
困惑顔の那澄とは反対に笑顔の紗奈。
その表情に、遠慮とか那澄への配慮などは、微塵も感じられなかった。
「あら、いらっしゃい。今度は歩いて来たのね」
二人を歓迎したのは、例の青年だった。
そして俗に“イケメン”と呼ばれる顔をした青年の口調は、意外にもオネエだった。
「・・・・え、ええ」
「何言ってるのか知らないけど、私は最初から歩いてたわよ」
その対応に戸惑う紗奈と、気にしない那澄。
「え、でもさっきまで・・・・」
「見てないわよね、見なかったわよね、見てないって言いなさい」
『イッキ』が何か言いかけたが、那澄は彼の言葉を遮って有無を言わさぬ雰囲気を出した。
「アッハイ」
「うんうん、素直なのは良い事よ」
「ち、ちょっとイッキ‼」
「・・・・あ、頭痛い」
『イッキ』に問い詰める皇女様と、その様子を見て溜め息をつく紗奈。
そんな中で、
「それで、ついさっきまで往来で“あんな事を”していたお二人は何処の誰なんですか?自己紹介もしないなんて、失礼だとは思わないんですか?」
『イッキ』の妹だけは、那澄の圧力に屈しなかった。
いや、気にしてすらいなかった。
「私は、空戸紗奈です。えと、よろしくです」
「・・・・空戸那澄」
紗奈の自己紹介に、那澄は渋々続くことに。
結論として二人は、目の前の四人の名前を知れた。
『イッキ』と呼ばれていた彼は黒鉄一輝。
ただ妹とキスする変態ではなく、意外にもしっかりした魔導騎士だった。
彼に問題があるのではなく、単に不幸なだけのようだ。
皇女様の名前は、ステラ・ヴァーミリオン。
世界でも数少ないAランク騎士で、ヴァーミリオン皇国の第2皇女様だとか。
少しおてんばっぽい。
あと、黒鉄さんと同部屋だとか。
そして、イケメンのオネエ。
彼(彼女?)は有栖院凪。
倫理や常識については、四人の中で一輝と同じ位、しっかりしてそうなイメージ。
最後に、黒鉄さんの妹は黒鉄珠雫。
ゴスロリ服に包まれた彼女は、意外にもBランク。
一輝の事になると誰にも止められない程に、まぁ良く喋る。
有栖院のルームメートだとか。
ただ、正直なところ那澄は彼女の事が、好きになれない。
「面倒ねぇ」
「・・・・ねぇ、誰に解説してんの?」
聞いた事をまとめていたら、紗奈が質問してきた。
だが、那澄はそんな彼女を無視する。
空戸 紗奈(SANA SORATO)
所属:破軍学園一年三組
伐刀者ランク:C
二つ名:NO DATE
人物概要:常に損する苦労人
攻撃力:A-
防御力:E
魔力量:C+
魔力制御:D-
身体能力:B
運:C
那澄とは対極な性格をしている。
常に那澄に振り回される苦労人。
髪は淡い茶色でセミロング。
那澄と違い、家事はできる。
戸籍上、同年の那澄とは叔母と姪の関係。
性格や考えが違う為、いつも何かしら衝突している。
次はいつになるかわりませんが、(遠い目)待っていてもらえたら幸いです。